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1章 冒険の始まり
11話 ナビさんによる、解説コーナー
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俺は借りた部屋のドアを閉めると、ベッドに腰かけた。
ようやくお腹が満たされたので一息ついていると、頭に響くようなナビさんの声が聞こえてきた。
《りょうさん、お疲れ様でした》
「ナビさん、お待たせ」
《よく、あの食事を食べきりましたね……完全に残り物で、あまり美味しそうには見えませんでしたが……》
「……出された食事を無駄にするなって、子供の頃に教わってるからね。とは言え……胃が受け付けないほど酷くなくてよかったよ」
ゲテモノ料理を出され、おまけに匂いも味も強烈で……食べることが不可能だった事もあるから……
それに比べたら、ちょっと野性味があるくらいの食事なら大したことはないからな。
《リョウさんは、苦労してきたんですね……》
「……俺、なにも言ってないですよね?」
また心を読まれた? いや、顔に出ていたかな……?
《ハッキリ顔に出てましたよ? 苦痛なほどに苦手なものを思い出してるように見えました》
そこまで、表情でわかるものなのかな……?
《……さて、ではそろそろ本題に入りますよ?》
「……はい」
微妙に急かしてるような気はするけど……まあ、この際どちらでもいいかな。
《ではまず『???』スキルの件ですね。待ち時間で調べてみましたが、残念ながらほぼ原因不明でした》
「原因不明……」
《はい。ですが、イレギュラーとは言え相当に格上で複数の狼との戦闘に勝てたこと。それにスキル習得までの早さ。そして中級万能薬の調合時の魔力消耗に関しては、全て『???』が関わっていた可能性が高いです》
「全てですか!? と言うか、わざわざ調べてくれたんですね」
《わざわざ、などということはありませんよ。ここはもうチュートリアルの枠組みからは外れていますから。他のナビゲーションとの情報交換が可能でしたし、待ち時間を利用したまでです》
「ナビさん、重ね重ねありがとう。今日だけで何回助けられたことか……」
一人だったらタンジーさんを助けるどころか
、逃げて村に辿り着くことも出来なかっただろう。
《ふふ、リョウさん。私はナビゲーションですから、当然のことをしたまでですよ?》
「それでもだよ。ナビさんは無茶をする俺に何回も忠告してくれたのに、俺は言うことを聞かなかったろ? ……見放される可能性だってあったはずだ」
《そんなことは──》
「それに、ナビさんはなんと言うか……他人のような気がしなくてさ。うまく言えないが、何年も身近にいたような気がしてならないんだよ」
《……》
そう、最初からずっと気になってたんだよな。
俺の知ってる誰かに似てる──その人は、こんなに優しい態度ではないれど……
《それはきっとリョウさんの中で、その人なら注意してくれる。信用できるって思っているからではないでしょうか?》
「えっ? それはいったいどういう……」
《リョウさん、今から話すことは機密事項です。誰にも話さないと約束……してくれますか?》
ナビさんの声は、今までにない真剣な声だ。なら俺の答えは──
「当然だよ。ナビさんは、俺を信用して話してくれるんだろう? なら、俺は絶対に約束を守るよ」
《──ありがとう、ございます……》
……ナビさん、泣いてる……?
……ここは、落ち着くまで待とう。
三分ほど待つと、ナビさんから声がかかった。
《……すみません、少し取り乱しました》
「大丈夫です。お腹も一杯ですから、待つのは問題ないです!」
《……っ、ふふ……リョウさんらしいですね! では改めまして……ご説明させていただきます》
「よろしくお願いします」
俺は深く頭を下げる。初めて会った時のように。
《では、リョウさんが疑問に思った私についての事ですね。これは機密事項ですから、どなたにも話さないようにお願いします》
「はい」
……思わず食い気味に返事してしまった……
若干呆れ気味な雰囲気を感じるな……
《……こほん、まずリョウさんはVRコネクトを使ってますね。これは脳波を読み込んで、こちらから信号を送り……仮想世界に居ると感じるように出来ています》
……え……まさかのすごい専門的な話……?
《まあ早い話、リョウさんの表層部の思考を解析して作られたのが私なんです》
「ずいぶん端折りましたね……」
《気にするのはそこですか!?》
「あはは……申し訳ない。つい気になってね……
まあ理解はしましたよ。俺の中にある、最近気にしていた人の情報と、その人に対する俺の気持ちから、ナビさんと言う人格が出来たんですね?」
《……驚かないんですか?》
「うーん……今さらって感じではありますからね。むしろ納得できましたし」
そもそも仮想世界で普段通りに動き回れる時点で、脳波を読み取ってる事くらいは想像がつくし。
俺の表層部の意識を読み取るくらいわけないだろう。
……と言うことはだ、今のこの思考──
念話とも言えないものもナビさんには聞こえてると言うわけだ。
だよね? ナビさん?
《……やはり、ばれてしまいますか……?》
「最初っから怪しかったですからね。これも今さらですよ」
苦笑しながらそう返す。
《リョウさんは、お怒りにならないんですね……嬉しい……な……》
「ん? 今なんて?」
《なんでもないです! さて、時間も押してるのでこの後はさくさく説明していきますよ!》
また強引な……まあ、それも含めてナビさんだからな。
《大分話がそれましたが、スキルに関しては運営に問い合わせを必ずお願いします。私からも報告はしますが、本人からの意見も大事なので》
「分かりました」
《次にチュートリアル中のアイテムの種類や数、チュートリアルモンスターが出なかった事についてです》
そこも調べてあるのか……ありがたいな。
《これは、早くログインできた事と話が繋がるようです。聞いた所によると、チュートリアルの空間ではない場所に誘導されたプレイヤーが一定数いたそうです》
「えっ!? 一定数って……俺だけじゃなかったってことか……」
《そうです。そしてどのケースにも共通したのが、解決が困難な出来事があったそうです……》
「……つまり、運営が意図的に何らかの基準を満たしたプレイヤーを誘導したか、純粋にプログラムのミス……ってことかな……?」
《正直、わかりません……そのような話はナビゲーションの誰も知らず、運営からの告知もありませんでしたから……》
ふむ……チュートリアル専用空間でなかったなら、出るモンスターやアイテムの種類が限定されないのは理解できる。
だけど、共通して難しい出来事が発生っていうのを、バグとは思えないよな……
《ここまでの話で、聞いておきたいことはありますか?》
「いや、大丈夫。解明してることは一つもないわけだから、運営からの告知を待つよ」
《……お役に立てず、申し訳──》
「ナビさんが謝る必要はないよ」
《……はい。では、最後になりますが……お別れについて……ですよね?》
「……お願いします」
俺にとってはある意味これが一番知りたかったことだ。
ようやくお腹が満たされたので一息ついていると、頭に響くようなナビさんの声が聞こえてきた。
《りょうさん、お疲れ様でした》
「ナビさん、お待たせ」
《よく、あの食事を食べきりましたね……完全に残り物で、あまり美味しそうには見えませんでしたが……》
「……出された食事を無駄にするなって、子供の頃に教わってるからね。とは言え……胃が受け付けないほど酷くなくてよかったよ」
ゲテモノ料理を出され、おまけに匂いも味も強烈で……食べることが不可能だった事もあるから……
それに比べたら、ちょっと野性味があるくらいの食事なら大したことはないからな。
《リョウさんは、苦労してきたんですね……》
「……俺、なにも言ってないですよね?」
また心を読まれた? いや、顔に出ていたかな……?
《ハッキリ顔に出てましたよ? 苦痛なほどに苦手なものを思い出してるように見えました》
そこまで、表情でわかるものなのかな……?
《……さて、ではそろそろ本題に入りますよ?》
「……はい」
微妙に急かしてるような気はするけど……まあ、この際どちらでもいいかな。
《ではまず『???』スキルの件ですね。待ち時間で調べてみましたが、残念ながらほぼ原因不明でした》
「原因不明……」
《はい。ですが、イレギュラーとは言え相当に格上で複数の狼との戦闘に勝てたこと。それにスキル習得までの早さ。そして中級万能薬の調合時の魔力消耗に関しては、全て『???』が関わっていた可能性が高いです》
「全てですか!? と言うか、わざわざ調べてくれたんですね」
《わざわざ、などということはありませんよ。ここはもうチュートリアルの枠組みからは外れていますから。他のナビゲーションとの情報交換が可能でしたし、待ち時間を利用したまでです》
「ナビさん、重ね重ねありがとう。今日だけで何回助けられたことか……」
一人だったらタンジーさんを助けるどころか
、逃げて村に辿り着くことも出来なかっただろう。
《ふふ、リョウさん。私はナビゲーションですから、当然のことをしたまでですよ?》
「それでもだよ。ナビさんは無茶をする俺に何回も忠告してくれたのに、俺は言うことを聞かなかったろ? ……見放される可能性だってあったはずだ」
《そんなことは──》
「それに、ナビさんはなんと言うか……他人のような気がしなくてさ。うまく言えないが、何年も身近にいたような気がしてならないんだよ」
《……》
そう、最初からずっと気になってたんだよな。
俺の知ってる誰かに似てる──その人は、こんなに優しい態度ではないれど……
《それはきっとリョウさんの中で、その人なら注意してくれる。信用できるって思っているからではないでしょうか?》
「えっ? それはいったいどういう……」
《リョウさん、今から話すことは機密事項です。誰にも話さないと約束……してくれますか?》
ナビさんの声は、今までにない真剣な声だ。なら俺の答えは──
「当然だよ。ナビさんは、俺を信用して話してくれるんだろう? なら、俺は絶対に約束を守るよ」
《──ありがとう、ございます……》
……ナビさん、泣いてる……?
……ここは、落ち着くまで待とう。
三分ほど待つと、ナビさんから声がかかった。
《……すみません、少し取り乱しました》
「大丈夫です。お腹も一杯ですから、待つのは問題ないです!」
《……っ、ふふ……リョウさんらしいですね! では改めまして……ご説明させていただきます》
「よろしくお願いします」
俺は深く頭を下げる。初めて会った時のように。
《では、リョウさんが疑問に思った私についての事ですね。これは機密事項ですから、どなたにも話さないようにお願いします》
「はい」
……思わず食い気味に返事してしまった……
若干呆れ気味な雰囲気を感じるな……
《……こほん、まずリョウさんはVRコネクトを使ってますね。これは脳波を読み込んで、こちらから信号を送り……仮想世界に居ると感じるように出来ています》
……え……まさかのすごい専門的な話……?
《まあ早い話、リョウさんの表層部の思考を解析して作られたのが私なんです》
「ずいぶん端折りましたね……」
《気にするのはそこですか!?》
「あはは……申し訳ない。つい気になってね……
まあ理解はしましたよ。俺の中にある、最近気にしていた人の情報と、その人に対する俺の気持ちから、ナビさんと言う人格が出来たんですね?」
《……驚かないんですか?》
「うーん……今さらって感じではありますからね。むしろ納得できましたし」
そもそも仮想世界で普段通りに動き回れる時点で、脳波を読み取ってる事くらいは想像がつくし。
俺の表層部の意識を読み取るくらいわけないだろう。
……と言うことはだ、今のこの思考──
念話とも言えないものもナビさんには聞こえてると言うわけだ。
だよね? ナビさん?
《……やはり、ばれてしまいますか……?》
「最初っから怪しかったですからね。これも今さらですよ」
苦笑しながらそう返す。
《リョウさんは、お怒りにならないんですね……嬉しい……な……》
「ん? 今なんて?」
《なんでもないです! さて、時間も押してるのでこの後はさくさく説明していきますよ!》
また強引な……まあ、それも含めてナビさんだからな。
《大分話がそれましたが、スキルに関しては運営に問い合わせを必ずお願いします。私からも報告はしますが、本人からの意見も大事なので》
「分かりました」
《次にチュートリアル中のアイテムの種類や数、チュートリアルモンスターが出なかった事についてです》
そこも調べてあるのか……ありがたいな。
《これは、早くログインできた事と話が繋がるようです。聞いた所によると、チュートリアルの空間ではない場所に誘導されたプレイヤーが一定数いたそうです》
「えっ!? 一定数って……俺だけじゃなかったってことか……」
《そうです。そしてどのケースにも共通したのが、解決が困難な出来事があったそうです……》
「……つまり、運営が意図的に何らかの基準を満たしたプレイヤーを誘導したか、純粋にプログラムのミス……ってことかな……?」
《正直、わかりません……そのような話はナビゲーションの誰も知らず、運営からの告知もありませんでしたから……》
ふむ……チュートリアル専用空間でなかったなら、出るモンスターやアイテムの種類が限定されないのは理解できる。
だけど、共通して難しい出来事が発生っていうのを、バグとは思えないよな……
《ここまでの話で、聞いておきたいことはありますか?》
「いや、大丈夫。解明してることは一つもないわけだから、運営からの告知を待つよ」
《……お役に立てず、申し訳──》
「ナビさんが謝る必要はないよ」
《……はい。では、最後になりますが……お別れについて……ですよね?》
「……お願いします」
俺にとってはある意味これが一番知りたかったことだ。
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