66 / 69
赤髪
しおりを挟む
「ねぇルリ。これってもしかしてさ」
「はい。おそらくそういうことだと思いますよ」
「だよねぇ」
学園に入学してから一ヶ月。だいぶ私の魔力騒動もおちついてきたころだ。だけれどその事実が消えることはなくて。
「ねぇ、私一人ぼっちなんだけど……どうしたらいい……」
時戻り前もこうやって一人だったけれど、それは目標のために友人に費やす暇がなかったからだ。逆に友人なんて欲しいとこれっぽっちも思ったことがなかった。だから今回は友人をたくさん作って遊びまくろうと、晴れやかな青春を謳歌するんだと意気込んでいたはずなんだけれど。最初から出鼻をくじいてしまった。賢者であるレオン様と親しくてしかも第三王子の婚約者。そして当の本人は貴族社会であるこの世界の御三家とも呼ばれる公爵家の令嬢。下手に近づいたら何されるかわかったものではない。そんな人間が近くにいれば遠くから様子を見るか、無視するしかできないのが世の摂理。だから私はとても悲しいのだ。
「ルリぃぃ。いつも一緒にいてくれてありがとうねぇ」
私は半泣きの状態でルリに抱きついた。こんな面倒くさい立場にいる私の隣にいてくれるルリには本当頭が上がらない。
「あ、あの」
私がルリとの絆を確かめ合っていればいつの間にか席の目の前に人影があることに気がついた。
「いきなりで、申し訳ないのですが私に魔法を、教えてくださいませんか?」
その言葉を震えながら言う彼女の顔を見てみればフロライン家と同じく御三家のアンネ・レオナード様だった。レオナード家を象徴とする赤い髪を見れば一目瞭然だった。
「フロライン様?」
あぁ。アンネ様のその美しく整った顔に少し見惚れてしまった。それにこの状況で私に話しかけてくださるとは。
「レオナード様、こんな私でよかったら、勿論です」
そう笑顔で微笑みかければレオナード様は驚いたような表情を見せた。
「あのフロライン様、どうして私の名前を?」
レオナード様は私がレオナード様のことをなぜ知っているのか不思議だったようだ。
「私が関わらなくてはいけない方のお名前とお顔は全て覚えているからです。アンネ・レオナード様の2つ上のミシェル・レオナード様もお顔は存じています」
なんだか自慢話のようになってしまったが、全て事実だ。私がいずれ関わらなければならない御三家の当主やそのご子息、ご令嬢まで全て暗記している。これは時戻り前にも共通することだ。私は大体のことは1回見ることができれば覚えることができる。学業に至っては覚えたとして活用できなければ意味がないのだけれど。
「それにレオナード公爵家の皆様はとても美しい赤髪をお持ちですので」
「――見ないでください」
私がレオナード様の髪色について触れれば、レオナード様の穏やかな表情は一変した。そして両手を頭に置きまるで髪を隠しているかのようだった。
「どうして隠すのですか?」
「……皆言うんです。私の髪色は少し濁っている、と。レオナード家の髪色に相応しくない、と」
あ、私は間違えてしまった。私がさっき言った「レオナード公爵家の皆様はとても美しい赤髪をお持ちですので」はきっとレオナード様からしてみればとても嫌味のように聞こえるだろう。その上「どうして隠すのですか」と。追い討ちをかけるように。あぁ私も公爵夫人からそんなことを言われて育ってきたのに。どうして言う側になってしまったのだろう。
――パン!
乾いた音が鳴った。その音の出どころは私の手と頬だ。自分がしてしまったことを戒めるために。
「――フロライン様?」
目の前で奇行に走る私に驚くレオナード様。そのレオナード様を置き去りにするように私は椅子から立ち上がり勢いよく頭を下げた。
「ごめんなさい。レオナード様の気持ちを考えずに発言してしまいました。私レオナード様がそんな状況に立っているなんて全く知らなくて。いや知らなかったからで許されるはずないよね。とにかく私の言動でレオナード様を傷つけてしまった。それは紛れもない事実。ここに深くお詫びいたします。それと」
自分の考えをまとめながら謝罪した。頭を下げると言っても少し下げる程度にしかできないのが心苦しい。だけれど私が伝えたいことはちゃんと伝えなきゃ。私は顔を上げてレオナード様をまっすぐ見る。
「アンネ・レオナード様の髪色は間違いなくレオナード公爵家のものです。その美しい髪色は他のどこにもいません。胸を張って大丈夫です。この私リュシエンヌ・フロラインが認めます」
私の名前が何になるんだって思うけれどね。
「ありがとう、ございます」
レオナード様はまだ驚いた表情で固まっていた。動き出したと思えば視線は泳ぎ、挙動不審になっていた。ここからどうするのだろうかと思えば私に一礼し歩き始めた。恐らく家に帰宅するのだろう。
「今日は話しかけてくださりありがとうございます。明日は私から話しかけさせていただきますね!」
そう声かけをしたのだけれど、返事はなかった。
「ねぇルリ。私嫌われたかな」
「さぁ、どうでしょうねぇ」
私の不安を煽るようにルリはそういった。私はそんなルリに少しムカつき、指でルリを突き始めた。
「リュシエンヌ様!?何を!?」
そう抵抗するルリを私は無で突き続ける。その攻防はアルが私を教室に迎えに来るまで続いた。
「はい。おそらくそういうことだと思いますよ」
「だよねぇ」
学園に入学してから一ヶ月。だいぶ私の魔力騒動もおちついてきたころだ。だけれどその事実が消えることはなくて。
「ねぇ、私一人ぼっちなんだけど……どうしたらいい……」
時戻り前もこうやって一人だったけれど、それは目標のために友人に費やす暇がなかったからだ。逆に友人なんて欲しいとこれっぽっちも思ったことがなかった。だから今回は友人をたくさん作って遊びまくろうと、晴れやかな青春を謳歌するんだと意気込んでいたはずなんだけれど。最初から出鼻をくじいてしまった。賢者であるレオン様と親しくてしかも第三王子の婚約者。そして当の本人は貴族社会であるこの世界の御三家とも呼ばれる公爵家の令嬢。下手に近づいたら何されるかわかったものではない。そんな人間が近くにいれば遠くから様子を見るか、無視するしかできないのが世の摂理。だから私はとても悲しいのだ。
「ルリぃぃ。いつも一緒にいてくれてありがとうねぇ」
私は半泣きの状態でルリに抱きついた。こんな面倒くさい立場にいる私の隣にいてくれるルリには本当頭が上がらない。
「あ、あの」
私がルリとの絆を確かめ合っていればいつの間にか席の目の前に人影があることに気がついた。
「いきなりで、申し訳ないのですが私に魔法を、教えてくださいませんか?」
その言葉を震えながら言う彼女の顔を見てみればフロライン家と同じく御三家のアンネ・レオナード様だった。レオナード家を象徴とする赤い髪を見れば一目瞭然だった。
「フロライン様?」
あぁ。アンネ様のその美しく整った顔に少し見惚れてしまった。それにこの状況で私に話しかけてくださるとは。
「レオナード様、こんな私でよかったら、勿論です」
そう笑顔で微笑みかければレオナード様は驚いたような表情を見せた。
「あのフロライン様、どうして私の名前を?」
レオナード様は私がレオナード様のことをなぜ知っているのか不思議だったようだ。
「私が関わらなくてはいけない方のお名前とお顔は全て覚えているからです。アンネ・レオナード様の2つ上のミシェル・レオナード様もお顔は存じています」
なんだか自慢話のようになってしまったが、全て事実だ。私がいずれ関わらなければならない御三家の当主やそのご子息、ご令嬢まで全て暗記している。これは時戻り前にも共通することだ。私は大体のことは1回見ることができれば覚えることができる。学業に至っては覚えたとして活用できなければ意味がないのだけれど。
「それにレオナード公爵家の皆様はとても美しい赤髪をお持ちですので」
「――見ないでください」
私がレオナード様の髪色について触れれば、レオナード様の穏やかな表情は一変した。そして両手を頭に置きまるで髪を隠しているかのようだった。
「どうして隠すのですか?」
「……皆言うんです。私の髪色は少し濁っている、と。レオナード家の髪色に相応しくない、と」
あ、私は間違えてしまった。私がさっき言った「レオナード公爵家の皆様はとても美しい赤髪をお持ちですので」はきっとレオナード様からしてみればとても嫌味のように聞こえるだろう。その上「どうして隠すのですか」と。追い討ちをかけるように。あぁ私も公爵夫人からそんなことを言われて育ってきたのに。どうして言う側になってしまったのだろう。
――パン!
乾いた音が鳴った。その音の出どころは私の手と頬だ。自分がしてしまったことを戒めるために。
「――フロライン様?」
目の前で奇行に走る私に驚くレオナード様。そのレオナード様を置き去りにするように私は椅子から立ち上がり勢いよく頭を下げた。
「ごめんなさい。レオナード様の気持ちを考えずに発言してしまいました。私レオナード様がそんな状況に立っているなんて全く知らなくて。いや知らなかったからで許されるはずないよね。とにかく私の言動でレオナード様を傷つけてしまった。それは紛れもない事実。ここに深くお詫びいたします。それと」
自分の考えをまとめながら謝罪した。頭を下げると言っても少し下げる程度にしかできないのが心苦しい。だけれど私が伝えたいことはちゃんと伝えなきゃ。私は顔を上げてレオナード様をまっすぐ見る。
「アンネ・レオナード様の髪色は間違いなくレオナード公爵家のものです。その美しい髪色は他のどこにもいません。胸を張って大丈夫です。この私リュシエンヌ・フロラインが認めます」
私の名前が何になるんだって思うけれどね。
「ありがとう、ございます」
レオナード様はまだ驚いた表情で固まっていた。動き出したと思えば視線は泳ぎ、挙動不審になっていた。ここからどうするのだろうかと思えば私に一礼し歩き始めた。恐らく家に帰宅するのだろう。
「今日は話しかけてくださりありがとうございます。明日は私から話しかけさせていただきますね!」
そう声かけをしたのだけれど、返事はなかった。
「ねぇルリ。私嫌われたかな」
「さぁ、どうでしょうねぇ」
私の不安を煽るようにルリはそういった。私はそんなルリに少しムカつき、指でルリを突き始めた。
「リュシエンヌ様!?何を!?」
そう抵抗するルリを私は無で突き続ける。その攻防はアルが私を教室に迎えに来るまで続いた。
12
お気に入りに追加
4,628
あなたにおすすめの小説
【完結】時を戻った私は別の人生を歩みたい
まるねこ
恋愛
震えながら殿下の腕にしがみついている赤髪の女。
怯えているように見せながら私を見てニヤニヤと笑っている。
あぁ、私は彼女に完全に嵌められたのだと。その瞬間理解した。
口には布を噛まされているため声も出せない。
ただランドルフ殿下を睨みつける。
瞬きもせずに。
そして、私はこの世を去った。
目覚めたら小さな手。
私は一体どうしてしまったの……?
暴行、流血場面が何度かありますのでR15にしております。
Copyright©︎2024-まるねこ
【完結】8私だけ本当の家族じゃないと、妹の身代わりで、辺境伯に嫁ぐことになった
華蓮
恋愛
次期辺境伯は、妹アリーサに求婚した。
でも、アリーサは、辺境伯に嫁ぎたいと父に頼み込んで、代わりに姉サマリーを、嫁がせた。
辺境伯に行くと、、、、、
ポチは今日から社長秘書です
ムーン
BL
御曹司に性的なペットとして飼われポチと名付けられた男は、その御曹司が会社を継ぐと同時に社長秘書の役目を任された。
十代でペットになった彼には学歴も知識も経験も何一つとしてない。彼は何年も犬として過ごしており、人間の社会生活から切り離されていた。
これはそんなポチという名の男が凄腕社長秘書になるまでの物語──などではなく、性的にもてあそばれる場所が豪邸からオフィスへと変わったペットの日常を綴ったものである。
サディスト若社長の椅子となりマットとなり昼夜を問わず性的なご奉仕!
仕事の合間を縫って一途な先代社長との甘い恋人生活を堪能!
先々代様からの無茶振り、知り合いからの恋愛相談、従弟の問題もサラッと解決!
社長のスケジュール・体調・機嫌・性欲などの管理、全てポチのお仕事です!
※「俺の名前は今日からポチです」の続編ですが、前作を知らなくても楽しめる作りになっています。
※前作にはほぼ皆無のオカルト要素が加わっています、ホラー演出はありませんのでご安心ください。
※主人公は社長に対しては受け、先代社長に対しては攻めになります。
※一話目だけ三人称、それ以降は主人公の一人称となります。
※ぷろろーぐの後は過去回想が始まり、ゆっくりとぷろろーぐの時間に戻っていきます。
※タイトルがひらがな以外の話は主人公以外のキャラの視点です。
※拙作「俺の名前は今日からポチです」「ストーカー気質な青年の恋は実るのか」「とある大学生の遅過ぎた初恋」「いわくつきの首塚を壊したら霊姦体質になりまして、周囲の男共の性奴隷に堕ちました」の世界の未来となっており、その作品のキャラも一部出ますが、もちろんこれ単体でお楽しみいただけます。
含まれる要素
※主人公以外のカプ描写
※攻めの女装、コスプレ。
※義弟、義父との円満二股。3Pも稀に。
※鞭、蝋燭、尿道ブジー、その他諸々の玩具を使ったSMプレイ。
※野外、人前、見せつけ諸々の恥辱プレイ。
※暴力的なプレイを口でしか嫌がらない真性ドM。
婚約破棄された公爵令嬢は、真実の愛を証明したい
香月文香
恋愛
「リリィ、僕は真実の愛を見つけたんだ!」
王太子エリックの婚約者であるリリアーナ・ミュラーは、舞踏会で婚約破棄される。エリックは男爵令嬢を愛してしまい、彼女以外考えられないというのだ。
リリアーナの脳裏をよぎったのは、十年前、借金のかたに商人に嫁いだ姉の言葉。
『リリィ、私は真実の愛を見つけたわ。どんなことがあったって大丈夫よ』
そう笑って消えた姉は、五年前、首なし死体となって娼館で見つかった。
真実の愛に浮かれる王太子と男爵令嬢を前に、リリアーナは決意する。
——私はこの二人を利用する。
ありとあらゆる苦難を与え、そして、二人が愛によって結ばれるハッピーエンドを見届けてやる。
——それこそが真実の愛の証明になるから。
これは、婚約破棄された公爵令嬢が真実の愛を見つけるお話。
※6/15 20:37に一部改稿しました。
冷徹女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女に呪われ国を奪われた私ですが、復讐とか面倒なのでのんびりセカンドライフを目指します~
日之影ソラ
ファンタジー
タイトル統一しました!
小説家になろうにて先行公開中
https://ncode.syosetu.com/n5925iz/
残虐非道の鬼女王。若くして女王になったアリエルは、自国を導き反映させるため、あらゆる手段を尽くした。時に非道とも言える手段を使ったことから、一部の人間からは情の通じない王として恐れられている。しかし彼女のおかげで王国は繁栄し、王国の人々に支持されていた。
だが、そんな彼女の内心は、女王になんてなりたくなかったと嘆いている。前世では一般人だった彼女は、ぐーたらと自由に生きることが夢だった。そんな夢は叶わず、人々に求められるまま女王として振る舞う。
そんなある日、目が覚めると彼女は少女になっていた。
実の姉が魔女と結託し、アリエルを陥れようとしたのだ。女王の地位を奪われたアリエルは復讐を決意……なーんてするわけもなく!
ちょうどいい機会だし、このままセカンドライフを送ろう!
彼女はむしろ喜んだ。
虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~
日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。
十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。
さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。
異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。
引退したオジサン勇者に子供ができました。いきなり「パパ」と言われても!?
リオール
ファンタジー
俺は魔王を倒し世界を救った最強の勇者。
誰もが俺に憧れ崇拝し、金はもちろん女にも困らない。これぞ最高の余生!
まだまだ30代、人生これから。謳歌しなくて何が人生か!
──なんて思っていたのも今は昔。
40代とスッカリ年食ってオッサンになった俺は、すっかり田舎の農民になっていた。
このまま平穏に田畑を耕して生きていこうと思っていたのに……そんな俺の目論見を崩すかのように、いきなりやって来た女の子。
その子が俺のことを「パパ」と呼んで!?
ちょっと待ってくれ、俺はまだ父親になるつもりはない。
頼むから付きまとうな、パパと呼ぶな、俺の人生を邪魔するな!
これは魔王を倒した後、悠々自適にお気楽ライフを送っている勇者の人生が一変するお話。
その子供は、はたして勇者にとって救世主となるのか?
そして本当に勇者の子供なのだろうか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる