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赤髪

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「ねぇルリ。これってもしかしてさ」
「はい。おそらくそういうことだと思いますよ」
「だよねぇ」

 学園に入学してから一ヶ月。だいぶ私の魔力騒動もおちついてきたころだ。だけれどその事実が消えることはなくて。

「ねぇ、私一人ぼっちなんだけど……どうしたらいい……」

 時戻り前もこうやって一人だったけれど、それは目標のために友人に費やす暇がなかったからだ。逆に友人なんて欲しいとこれっぽっちも思ったことがなかった。だから今回は友人をたくさん作って遊びまくろうと、晴れやかな青春を謳歌するんだと意気込んでいたはずなんだけれど。最初から出鼻をくじいてしまった。賢者であるレオン様と親しくてしかも第三王子の婚約者。そして当の本人は貴族社会であるこの世界の御三家とも呼ばれる公爵家の令嬢。下手に近づいたら何されるかわかったものではない。そんな人間が近くにいれば遠くから様子を見るか、無視するしかできないのが世の摂理。だから私はとても悲しいのだ。

「ルリぃぃ。いつも一緒にいてくれてありがとうねぇ」

 私は半泣きの状態でルリに抱きついた。こんな面倒くさい立場にいる私の隣にいてくれるルリには本当頭が上がらない。

「あ、あの」

 私がルリとの絆を確かめ合っていればいつの間にか席の目の前に人影があることに気がついた。

「いきなりで、申し訳ないのですが私に魔法を、教えてくださいませんか?」

 その言葉を震えながら言う彼女の顔を見てみればフロライン家と同じく御三家のアンネ・レオナード様だった。レオナード家を象徴とする赤い髪を見れば一目瞭然だった。

「フロライン様?」

 あぁ。アンネ様のその美しく整った顔に少し見惚れてしまった。それにこの状況で私に話しかけてくださるとは。

「レオナード様、こんな私でよかったら、勿論です」

 そう笑顔で微笑みかければレオナード様は驚いたような表情を見せた。

「あのフロライン様、どうして私の名前を?」

 レオナード様は私がレオナード様のことをなぜ知っているのか不思議だったようだ。

「私が関わらなくてはいけない方のお名前とお顔は全て覚えているからです。アンネ・レオナード様の2つ上のミシェル・レオナード様もお顔は存じています」

 なんだか自慢話のようになってしまったが、全て事実だ。私がいずれ関わらなければならない御三家の当主やそのご子息、ご令嬢まで全て暗記している。これは時戻り前にも共通することだ。私は大体のことは1回見ることができれば覚えることができる。学業に至っては覚えたとして活用できなければ意味がないのだけれど。

「それにレオナード公爵家の皆様はとても美しい赤髪をお持ちですので」
「――見ないでください」

 私がレオナード様の髪色について触れれば、レオナード様の穏やかな表情は一変した。そして両手を頭に置きまるで髪を隠しているかのようだった。

「どうして隠すのですか?」
「……皆言うんです。私の髪色は少し濁っている、と。レオナード家の髪色に相応しくない、と」

 あ、私は間違えてしまった。私がさっき言った「レオナード公爵家の皆様はとても美しい赤髪をお持ちですので」はきっとレオナード様からしてみればとても嫌味のように聞こえるだろう。その上「どうして隠すのですか」と。追い討ちをかけるように。あぁ私も公爵夫人からそんなことを言われて育ってきたのに。どうして言う側になってしまったのだろう。

――パン!

 乾いた音が鳴った。その音の出どころは私の手と頬だ。自分がしてしまったことを戒めるために。

「――フロライン様?」

 目の前で奇行に走る私に驚くレオナード様。そのレオナード様を置き去りにするように私は椅子から立ち上がり勢いよく頭を下げた。

「ごめんなさい。レオナード様の気持ちを考えずに発言してしまいました。私レオナード様がそんな状況に立っているなんて全く知らなくて。いや知らなかったからで許されるはずないよね。とにかく私の言動でレオナード様を傷つけてしまった。それは紛れもない事実。ここに深くお詫びいたします。それと」

 自分の考えをまとめながら謝罪した。頭を下げると言っても少し下げる程度にしかできないのが心苦しい。だけれど私が伝えたいことはちゃんと伝えなきゃ。私は顔を上げてレオナード様をまっすぐ見る。

「アンネ・レオナード様の髪色は間違いなくレオナード公爵家のものです。その美しい髪色は他のどこにもいません。胸を張って大丈夫です。この私リュシエンヌ・フロラインが認めます」

 私の名前が何になるんだって思うけれどね。

「ありがとう、ございます」

 レオナード様はまだ驚いた表情で固まっていた。動き出したと思えば視線は泳ぎ、挙動不審になっていた。ここからどうするのだろうかと思えば私に一礼し歩き始めた。恐らく家に帰宅するのだろう。

「今日は話しかけてくださりありがとうございます。明日は私から話しかけさせていただきますね!」

 そう声かけをしたのだけれど、返事はなかった。

「ねぇルリ。私嫌われたかな」
「さぁ、どうでしょうねぇ」

 私の不安を煽るようにルリはそういった。私はそんなルリに少しムカつき、指でルリを突き始めた。

「リュシエンヌ様!?何を!?」

 そう抵抗するルリを私は無で突き続ける。その攻防はアルが私を教室に迎えに来るまで続いた。
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