59 / 69
学園へ
しおりを挟む
「今までお世話になりました。長期休みになったら絶対に遊びに来ますね!」
「あぁ、気をつけるんだぞ」
「連絡楽しみに待ってるわね」
贈り物をした数日後、私は子爵家を発った。子爵家の人が見えなくなるまで、馬車から身を乗り出して手を振っていた。子爵家が見えなくなってしまえばここを離れるんだと、痛いほど思い知らされてしまった。
「王都に戻るのかぁ」
この馬車の中にはルリしかいない。だからそう呟いてしまった。ルリは困ったような表情をした。
「そうですね、でもこのまま寮まで直行するんですよね」
「うん、あの家には帰りたくないしそれに契約はまだ続いているから」
私が一度公爵家に呼び出された時に交わした契約。15になるまで、一才公爵家に関わらない。破れば自らの命を絶つ。私はまだ14で入学してから15歳を迎えるのだ。だから、契約は続いているし寮に入るといった連絡すらしていない。もう長いことあっていなくてあの人たちの顔すら忘れてしまった。でもそれでよかったと思う。あの人たちの顔を思い出せばそれと同時にいろんなことも思い出してしまうから。
「ルリはさ、王都に戻ったら何がしたい?」
少しの沈黙の後ルリは答えた。
「そうですねぇ、特にないです。リュシエンヌ様とともにいられればそれで満足です」
ルリは曇りのない顔で笑った。
「ありがとう。そんなこと言ってもお給料はあげないよ?」
「そういうつもりで言ったんじゃないので大丈夫です!それに公爵家に仕えていた時よりももらっていますし、私にとっては十分です。もうリュシエンヌ様のおかげでだいぶ貯金が溜まってきているんです。こんな額私に使い切れるのでしょうか」
そう言いながら窓の外をルリは見つめた。ルリは公爵家ではなく私に仕えている。それはもう子爵家に来た時からのことだ。ちゃんとルリにも了承をとったし、契約の前だったか閣下にもちゃんとルリを私が雇うことを伝えてある。雇い始めた当初はあまり額を渡せていなかったのだが、今では冒険者としての報酬と、カフェの収入の数割が私の手元に入ってきているからかなりの額をルリに渡すことができている。
「不満があっ――」
「いえ。不満なんて全く持ってありませんよ!」
不満があったらすぐに言ってほしい。改善するからと言おうと思ったのだけれど、すごい勢いのルリに遮られてしまった。給料は普通の侍女より遥かに上回っているが、それが全てではないだろう。そもそも成人すらしてない私に雇われること自体不平不満の元だろうし。そう心配はしていたのだが、不満はないというルリの言葉をひとまずは信じよう。
「そもそももう少しご自分のためにお金を使っていただきたいです」
「え?十分自分のためにお金は使っているよ?だってお店を買ったのも自分のためだし」
「そういうことじゃないんですが……」
ルリはそう言いながら困った顔を浮かべた。
たわいもない会話を馬車に揺られながら続けること数日。
「リュシエンヌ様、見えてきましたよ」
ルリのその声で閉ざしかけていた重たい瞼をゆっくりと開けた。ぼやけた視界もほんの一瞬で正常な視界に戻る。そこに見えてきたのは王城に劣らない大きさを持ったハプラス学園。これから私がお世話になる学園。そして、学園に在籍中私はあの事件を起こすのだ。
「今度は卒業までよろしくね」
そう小さい声で呟けば、ガタガタと揺れる馬車にかき消されていった。
「あぁ、気をつけるんだぞ」
「連絡楽しみに待ってるわね」
贈り物をした数日後、私は子爵家を発った。子爵家の人が見えなくなるまで、馬車から身を乗り出して手を振っていた。子爵家が見えなくなってしまえばここを離れるんだと、痛いほど思い知らされてしまった。
「王都に戻るのかぁ」
この馬車の中にはルリしかいない。だからそう呟いてしまった。ルリは困ったような表情をした。
「そうですね、でもこのまま寮まで直行するんですよね」
「うん、あの家には帰りたくないしそれに契約はまだ続いているから」
私が一度公爵家に呼び出された時に交わした契約。15になるまで、一才公爵家に関わらない。破れば自らの命を絶つ。私はまだ14で入学してから15歳を迎えるのだ。だから、契約は続いているし寮に入るといった連絡すらしていない。もう長いことあっていなくてあの人たちの顔すら忘れてしまった。でもそれでよかったと思う。あの人たちの顔を思い出せばそれと同時にいろんなことも思い出してしまうから。
「ルリはさ、王都に戻ったら何がしたい?」
少しの沈黙の後ルリは答えた。
「そうですねぇ、特にないです。リュシエンヌ様とともにいられればそれで満足です」
ルリは曇りのない顔で笑った。
「ありがとう。そんなこと言ってもお給料はあげないよ?」
「そういうつもりで言ったんじゃないので大丈夫です!それに公爵家に仕えていた時よりももらっていますし、私にとっては十分です。もうリュシエンヌ様のおかげでだいぶ貯金が溜まってきているんです。こんな額私に使い切れるのでしょうか」
そう言いながら窓の外をルリは見つめた。ルリは公爵家ではなく私に仕えている。それはもう子爵家に来た時からのことだ。ちゃんとルリにも了承をとったし、契約の前だったか閣下にもちゃんとルリを私が雇うことを伝えてある。雇い始めた当初はあまり額を渡せていなかったのだが、今では冒険者としての報酬と、カフェの収入の数割が私の手元に入ってきているからかなりの額をルリに渡すことができている。
「不満があっ――」
「いえ。不満なんて全く持ってありませんよ!」
不満があったらすぐに言ってほしい。改善するからと言おうと思ったのだけれど、すごい勢いのルリに遮られてしまった。給料は普通の侍女より遥かに上回っているが、それが全てではないだろう。そもそも成人すらしてない私に雇われること自体不平不満の元だろうし。そう心配はしていたのだが、不満はないというルリの言葉をひとまずは信じよう。
「そもそももう少しご自分のためにお金を使っていただきたいです」
「え?十分自分のためにお金は使っているよ?だってお店を買ったのも自分のためだし」
「そういうことじゃないんですが……」
ルリはそう言いながら困った顔を浮かべた。
たわいもない会話を馬車に揺られながら続けること数日。
「リュシエンヌ様、見えてきましたよ」
ルリのその声で閉ざしかけていた重たい瞼をゆっくりと開けた。ぼやけた視界もほんの一瞬で正常な視界に戻る。そこに見えてきたのは王城に劣らない大きさを持ったハプラス学園。これから私がお世話になる学園。そして、学園に在籍中私はあの事件を起こすのだ。
「今度は卒業までよろしくね」
そう小さい声で呟けば、ガタガタと揺れる馬車にかき消されていった。
13
お気に入りに追加
4,589
あなたにおすすめの小説
生まれたときから今日まで無かったことにしてください。
はゆりか
恋愛
産まれた時からこの国の王太子の婚約者でした。
物心がついた頃から毎日自宅での王妃教育。
週に一回王城にいき社交を学び人脈作り。
当たり前のように生活してしていき気づいた時には私は1人だった。
家族からも婚約者である王太子からも愛されていないわけではない。
でも、わたしがいなくてもなんら変わりのない。
家族の中心は姉だから。
決して虐げられているわけではないけどパーティーに着て行くドレスがなくても誰も気づかれないそんな境遇のわたしが本当の愛を知り溺愛されて行くストーリー。
…………
処女作品の為、色々問題があるかとおもいますが、温かく見守っていただけたらとおもいます。
本編完結。
番外編数話続きます。
続編(2章)
『婚約破棄されましたが、婚約解消された隣国王太子に恋しました』連載スタートしました。
そちらもよろしくお願いします。
【完結】断罪後の悪役令嬢は、精霊たちと生きていきます!
らんか
恋愛
あれ?
何で私が悪役令嬢に転生してるの?
えっ!
しかも、断罪後に思い出したって、私の人生、すでに終わってるじゃん!
国外追放かぁ。
娼館送りや、公開処刑とかじゃなくて良かったけど、これからどうしよう……。
そう思ってた私の前に精霊達が現れて……。
愛し子って、私が!?
普通はヒロインの役目じゃないの!?
敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります!
桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。
※※※※※※※※※※※※※
魔族 vs 人間。
冷戦を経ながらくすぶり続けた長い戦いは、人間側の敗戦に近い状況で、ついに終止符が打たれた。
名ばかりの王族リュシェラは、和平の証として、魔王イヴァシグスに第7王妃として嫁ぐ事になる。だけど、嫁いだ夫には魔人の妻との間に、すでに皇子も皇女も何人も居るのだ。
人間のリュシェラが、ここで王妃として求められる事は何もない。和平とは名ばかりの、敗戦国の隷妃として、リュシェラはただ静かに命が潰えていくのを待つばかり……なんて、殊勝な性格でもなく、与えられた宮でのんびり自給自足の生活を楽しんでいく。
そんなリュシェラには、実は誰にも言えない秘密があった。
※※※※※※※※※※※※※
短編は難しいな…と痛感したので、慣れた文字数、文体で書いてみました。
お付き合い頂けたら嬉しいです!
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる