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学園へ

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「今までお世話になりました。長期休みになったら絶対に遊びに来ますね!」
「あぁ、気をつけるんだぞ」
「連絡楽しみに待ってるわね」

 贈り物をした数日後、私は子爵家を発った。子爵家の人が見えなくなるまで、馬車から身を乗り出して手を振っていた。子爵家が見えなくなってしまえばここを離れるんだと、痛いほど思い知らされてしまった。

「王都に戻るのかぁ」

 この馬車の中にはルリしかいない。だからそう呟いてしまった。ルリは困ったような表情をした。

「そうですね、でもこのまま寮まで直行するんですよね」
「うん、あの家には帰りたくないしそれに契約はまだ続いているから」

 私が一度公爵家に呼び出された時に交わした契約。15になるまで、一才公爵家に関わらない。破れば自らの命を絶つ。私はまだ14で入学してから15歳を迎えるのだ。だから、契約は続いているし寮に入るといった連絡すらしていない。もう長いことあっていなくてあの人たちの顔すら忘れてしまった。でもそれでよかったと思う。あの人たちの顔を思い出せばそれと同時にいろんなことも思い出してしまうから。

「ルリはさ、王都に戻ったら何がしたい?」

 少しの沈黙の後ルリは答えた。

「そうですねぇ、特にないです。リュシエンヌ様とともにいられればそれで満足です」

 ルリは曇りのない顔で笑った。

「ありがとう。そんなこと言ってもお給料はあげないよ?」
「そういうつもりで言ったんじゃないので大丈夫です!それに公爵家に仕えていた時よりももらっていますし、私にとっては十分です。もうリュシエンヌ様のおかげでだいぶ貯金が溜まってきているんです。こんな額私に使い切れるのでしょうか」

 そう言いながら窓の外をルリは見つめた。ルリは公爵家ではなく私に仕えている。それはもう子爵家に来た時からのことだ。ちゃんとルリにも了承をとったし、契約の前だったか閣下にもちゃんとルリを私が雇うことを伝えてある。雇い始めた当初はあまり額を渡せていなかったのだが、今では冒険者としての報酬と、カフェの収入の数割が私の手元に入ってきているからかなりの額をルリに渡すことができている。

「不満があっ――」
「いえ。不満なんて全く持ってありませんよ!」

 不満があったらすぐに言ってほしい。改善するからと言おうと思ったのだけれど、すごい勢いのルリに遮られてしまった。給料は普通の侍女より遥かに上回っているが、それが全てではないだろう。そもそも成人すらしてない私に雇われること自体不平不満の元だろうし。そう心配はしていたのだが、不満はないというルリの言葉をひとまずは信じよう。

「そもそももう少しご自分のためにお金を使っていただきたいです」
「え?十分自分のためにお金は使っているよ?だってお店を買ったのも自分のためだし」
「そういうことじゃないんですが……」
 
 ルリはそう言いながら困った顔を浮かべた。







 たわいもない会話を馬車に揺られながら続けること数日。

「リュシエンヌ様、見えてきましたよ」

 ルリのその声で閉ざしかけていた重たい瞼をゆっくりと開けた。ぼやけた視界もほんの一瞬で正常な視界に戻る。そこに見えてきたのは王城に劣らない大きさを持ったハプラス学園。これから私がお世話になる学園。そして、学園に在籍中私はあの事件を起こすのだ。

「今度は卒業までよろしくね」
 
 そう小さい声で呟けば、ガタガタと揺れる馬車にかき消されていった。
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