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約束
しおりを挟む頭が痛い。体が思うように動かない。なんでだっけ。手紙を書いて、公爵夫人に会いに行って、そうだ。ガラスが足に刺さったんだ。それでルリに手当してもらって。多分貧血でそのまま眠っちゃったんだ。足はまだ痛む。これじゃしばらくは上手く歩けなさそうだ。
はっきりしてくる体を私は起こした。
「ルリ?」
ボケーっとしたままあたりを見渡せばベッドのすぐ横にある椅子で寝ているルリの姿があった。一声かければ顔をしかめながら瞳を開いた。
「りゅしえんぬさま?……!起きられたのですね!」
ルリは私に気づくとすぐ椅子から飛び上がり抱きついてきた。寝ていただけなのになぜここまで心配されているのだろう。
「どうしたの?そんなに慌てて」
「リュシエンヌ様はあの後丸一日寝ていらっしゃいました。もうそれは死んでしまったようにぐっすり寝ていて驚いたのですよ!」
頭が痛いのは、寝過ぎたといったところだろうか。そこまで寝てしまうとは思っていなかった。ルリの目の下にクマができている。相当心配させてしまったのだろう。
「ありがとう、ごめんね。心配させちゃって」
「いいえ、悪いのは奥様ですから」
プンプンと音が出そうな仕草でルリは怒っている。その様子がとても可愛らしくて笑ってしまった。その様子をルリはじっと見ていたが、急にあっと声を出した。
「どうしたの?」
「そうです、リュシエンヌ様。公爵様から命令が下りました。しばらくの間、奥様と顔を合わせぬようにとのご命令です」
なるほど。私と公爵夫人があった時、前もそうだけど私が怪我をする事態となっている。まぁ私の怪我など閣下は気にもしていないだろう。きっと公爵夫人の精神状態について心配したことだろう。妊娠中はイライラしやすく、過度なストレスがかかりすぎると子供が流れてしまうとも聞いたことがある。だから、過度なストレスの要因である私との接触を減らすための命令だろう。それはわかるけれど、こっちだって大量の血を流す怪我をしているのだから見舞いに来てくれても良くない?来るわけがないことはわかっているけど。
「ありがとう、おしえてくれて」
「いえ、これが仕事ですから。それと、私と約束していただいていいでしょうか」
ルリはベッドで起き上がっている私と目線を合わせるように膝を曲げた。
「うん、どうしたの?」
「自らを犠牲にするような行動はおやめください」
そういった。ただ一言。私のことを一番に心配する言葉。とても真剣な空気だけれど、私は少し笑ってしまった。ルリはそんな私を疑問に思ったようだ。
「違うの。ルリの言葉を笑ったわけじゃないのよ。ただ。わたしすごくあなたに大切にされているんだなって」
「当たり前です。私の最初で最後の主人ですから。私、リュシエンヌ様の後を追う準備はできていますから」
「縁起でもないこと言わないで。あなたはちゃんと寿命で逝きなさい?これは命令よ」
時戻り前とは同じではないけれど、万が一私が処刑されてしまった時ルリがちゃんと幸せに生きてくれたら私は一番嬉しいから。だから、その言葉を言った。ルリは少し不服そうな顔をしたけれど、頷いてくれた。
「今日はいつもより手伝ってもらってもいいかしら?」
「もちろんです!」
なんだか頼られて嬉しそうなルリに手伝ってもらいながら、私は朝の準備を終えたのだった。
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