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神谷さん
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去年の体育祭で、サッカーをやることになって、僕は全然ダメだった。クラスで中心的な存在の龍ちゃんが「下手くそ、ちゃんとやれよ!」とかなんとか言ってきたんだけど、元々強く言葉を言えないのもあって、より一層モタモタしてしまった。その頃からだったような気がする。龍ちゃんとその友達たちに、トロいとか、空気が読めないとか、そんなことを言われ始めて、それがインフルエンザみたいに少しずつ広がって、とうとうみんなからこぼれ落ちた。友達と呼べるように仲良くしていた人もいなかったから、すぐにひとりになった。先生に相談するとか、そう言うことができるなら、そもそもこんな風にはなっていないので、つらいけどあきらめている。
また嘘をついた。本当はあきらめたのではなくって、自分で自分に、「こんな自分だから、しょうがない」とレッテルを貼り付けて、諦めたフリをしている。マキちゃんとは、この頃から話さなくなった。高校生になったマキちゃんは、ものすごく大人びて見えて、いじめられている僕との違いを、ひし、と感じるから、僕は声をかけなくなった。マキちゃんもそんな僕をみて、声をかけてくれなくなった。話したいけれど、これにもまた、諦めたフリをしている。しょうがない。いつものように、誰にも構われないように、ひっそりと過ごしながら、憂鬱な気分と鬼ごっこをしていると、「よう、健太。いま学校?」と携帯が振動した。祭りのときマキちゃんといた人だ。
「はい、そうです」
「学校たのしい?つまらん?」
「楽しくはないです」
「なら、今から遊ぼうよ。マキちゃんとボーリング行くんだ」
「学校、午後もあるので、行けないですよ」
「サボれば?」
「学校は、いかないと」
「えらいね。なら、終わったら行こう!連絡して」
返信に困った。行きたい気持ちと、行きたくない気持ちと、それだけではない諸々が心で絡まっている。それでも、そんなモヤモヤを換気してくれるような何かがある気がして、お祭りみたいだな、と思って「わかりました」と送信した。送信して、やっぱり行きたくない、と思ったり、行ってみたい、と思ったり、とにかく頭が忙しくとらわれている間に、午後の授業は終わってしまった。
ボーリング場に来るのは久しぶりだった。マキちゃんと一緒に行ったこともある。そのときも、マキちゃんは強気な性格だった。「そんなのじゃダメ、もっとしっかり投げれるでしょ!」と言われたりした。このあいだ祭りで言われたことも、こんな風だったっけ。大人びて見えていたけど、あんまり変わってないのかもしれない。運動が得意じゃないのは、僕も変わってない。マキちゃんの方を見ると、嫌そうな顔をしている気がする。
「来てくれてありがと!そういえばあれやね、ちゃんと名乗ってないね。神谷拓海、28歳、よろしく!」
「あ、僕は、三宅です。よろしくお願いします」
「モゴモゴ喋るのやめなって。自信なさそうに見えるよ?」
マキちゃんはやっぱりイライラしてる。神谷さんはマキちゃんのカレシとかなんだろうか。女の子のことはよく分からないし、付き合う、とかした事もないから、よくわからないけど、神谷さんとマキちゃんはそういう感じがする。ゲームが始まると、神谷さんの激しさが増した。
「いいね!いいよ!キタキタ、よっしゃ!」
「いちいちうるさい」
「でもマキちゃんみて、ストライク。俺、4連続ストライク。どうよ、健太!」
「す、すごいです」
「だろう。これが大人。圧倒的な大人」
神谷さんはやっぱり子どもっぽいと思った。だけど、僕は神谷さんが好きだった。スコアはまるでダメだったけど、ボーリングは楽しかった。心にこべりついていた油汚れみたいなものが、少しずつ取れていくような気がした。
「よし、健太。このまま朝まで遊ぼうか」
「明日も学校だし、それはちょっと」
「学校楽しくないっしょ?1日くらい休んでも、人生は長い。へいきへいき」
「どうせ帰ってもお父さん、仕事でいないんでしょ。今日くらい遊んじゃえば」
マキちゃんもそう言ってくれているし、こんなに楽しいこと、もう無いかもしれない。少し迷ったけど、朝まで遊ぶことにした。お酒は飲まなかったけど、初めて居酒屋に行って、そしてカラオケにいって朝を迎えた。神谷さんは酔っ払っていた。
「俺が言いたいのはだ、健太。学校だけが全部じゃねえってことだ。楽しいことはいっぱいある。ひねくれたら損だよってこと」
「偉そ。ちゃんとしなよ、ばか」
マキちゃんは笑っていた。僕は神谷さんのことは好きだし、マキちゃんも神谷さんが好きなのかもしれない。
「また遊ぼうな。いつでも連絡くれよお」
神谷さんと、それを介抱しているマキちゃんと別れて帰った。鍵を閉め忘れていたけど、まあいいや、と思って布団に入った。夕方起きると、お父さんからメールがきていた。
「学校から留守電あった。休んだのか?」
「風邪っぽくて寝てた。ごめんなさい」
「メールはしなさい。学校には電話しとく。明日も休むか?」
「明日は行くよ。大丈夫そうだから」
「わかった。無理するなよ」
学校は嫌だけど、神谷さんとマキちゃんと過ごして、僕の世界は少しだけ広がった気がした。明日は少し、いつもより楽に過ごせる気がした。
また嘘をついた。本当はあきらめたのではなくって、自分で自分に、「こんな自分だから、しょうがない」とレッテルを貼り付けて、諦めたフリをしている。マキちゃんとは、この頃から話さなくなった。高校生になったマキちゃんは、ものすごく大人びて見えて、いじめられている僕との違いを、ひし、と感じるから、僕は声をかけなくなった。マキちゃんもそんな僕をみて、声をかけてくれなくなった。話したいけれど、これにもまた、諦めたフリをしている。しょうがない。いつものように、誰にも構われないように、ひっそりと過ごしながら、憂鬱な気分と鬼ごっこをしていると、「よう、健太。いま学校?」と携帯が振動した。祭りのときマキちゃんといた人だ。
「はい、そうです」
「学校たのしい?つまらん?」
「楽しくはないです」
「なら、今から遊ぼうよ。マキちゃんとボーリング行くんだ」
「学校、午後もあるので、行けないですよ」
「サボれば?」
「学校は、いかないと」
「えらいね。なら、終わったら行こう!連絡して」
返信に困った。行きたい気持ちと、行きたくない気持ちと、それだけではない諸々が心で絡まっている。それでも、そんなモヤモヤを換気してくれるような何かがある気がして、お祭りみたいだな、と思って「わかりました」と送信した。送信して、やっぱり行きたくない、と思ったり、行ってみたい、と思ったり、とにかく頭が忙しくとらわれている間に、午後の授業は終わってしまった。
ボーリング場に来るのは久しぶりだった。マキちゃんと一緒に行ったこともある。そのときも、マキちゃんは強気な性格だった。「そんなのじゃダメ、もっとしっかり投げれるでしょ!」と言われたりした。このあいだ祭りで言われたことも、こんな風だったっけ。大人びて見えていたけど、あんまり変わってないのかもしれない。運動が得意じゃないのは、僕も変わってない。マキちゃんの方を見ると、嫌そうな顔をしている気がする。
「来てくれてありがと!そういえばあれやね、ちゃんと名乗ってないね。神谷拓海、28歳、よろしく!」
「あ、僕は、三宅です。よろしくお願いします」
「モゴモゴ喋るのやめなって。自信なさそうに見えるよ?」
マキちゃんはやっぱりイライラしてる。神谷さんはマキちゃんのカレシとかなんだろうか。女の子のことはよく分からないし、付き合う、とかした事もないから、よくわからないけど、神谷さんとマキちゃんはそういう感じがする。ゲームが始まると、神谷さんの激しさが増した。
「いいね!いいよ!キタキタ、よっしゃ!」
「いちいちうるさい」
「でもマキちゃんみて、ストライク。俺、4連続ストライク。どうよ、健太!」
「す、すごいです」
「だろう。これが大人。圧倒的な大人」
神谷さんはやっぱり子どもっぽいと思った。だけど、僕は神谷さんが好きだった。スコアはまるでダメだったけど、ボーリングは楽しかった。心にこべりついていた油汚れみたいなものが、少しずつ取れていくような気がした。
「よし、健太。このまま朝まで遊ぼうか」
「明日も学校だし、それはちょっと」
「学校楽しくないっしょ?1日くらい休んでも、人生は長い。へいきへいき」
「どうせ帰ってもお父さん、仕事でいないんでしょ。今日くらい遊んじゃえば」
マキちゃんもそう言ってくれているし、こんなに楽しいこと、もう無いかもしれない。少し迷ったけど、朝まで遊ぶことにした。お酒は飲まなかったけど、初めて居酒屋に行って、そしてカラオケにいって朝を迎えた。神谷さんは酔っ払っていた。
「俺が言いたいのはだ、健太。学校だけが全部じゃねえってことだ。楽しいことはいっぱいある。ひねくれたら損だよってこと」
「偉そ。ちゃんとしなよ、ばか」
マキちゃんは笑っていた。僕は神谷さんのことは好きだし、マキちゃんも神谷さんが好きなのかもしれない。
「また遊ぼうな。いつでも連絡くれよお」
神谷さんと、それを介抱しているマキちゃんと別れて帰った。鍵を閉め忘れていたけど、まあいいや、と思って布団に入った。夕方起きると、お父さんからメールがきていた。
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「メールはしなさい。学校には電話しとく。明日も休むか?」
「明日は行くよ。大丈夫そうだから」
「わかった。無理するなよ」
学校は嫌だけど、神谷さんとマキちゃんと過ごして、僕の世界は少しだけ広がった気がした。明日は少し、いつもより楽に過ごせる気がした。
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