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最終章 この愛が全て
おまけ1 散歩
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2人は結婚することに決めたとはいえ、はいそうですか、と直ぐに結婚出来るわけではない。
「形式的とはいえ、貴族である以上陛下に許可を頂かねばならん。それに少なくとも君のお父上にも」
「陛下はともかく、お父様の許可なんて別に頂かなくても結構ですわ」
手を繋いでカールとアデレードが山から降りてくる途中、アデレードは口を尖らせる。そんな彼女の様子にカールは苦笑すした。
「そうはいくまい。だが、そうなると春まで待たねばならないな」
「どうして、春まで待たないといけませんの?」
「手紙で、という訳にはいかないからな。今から王都まで行くか?」
「うっ……」
「そうなったら、冬の間は向こうに居なければならん。雪で道が閉ざされるからな」
「……」
今すぐ結婚したいのに。
アデレードはそう不満に思いながら、ふとキノコ狩りに行ったときの、ゲアハルトとラシッドの言葉を思い出す。
“既成事実さえ作っちまえばこっちのもんよ”
”寝所で白い足をちらりと見せたら、伯爵もイチコロ”
……持ち込んでしまおうかしら。
と思いかけて、アデレード首をぶんぶんと振った。
駄目よ、駄目。それは伯爵の名誉に関わるもの。
「アデレード?」
カールは彼女の様子に首を傾げる。
「こうなったら、せめて婚約中は婚約中として楽しまないとっ」
アデレードは愛しい人の顔を見上げる。
「伯爵、それならせめて毎日お会いしたいですわ。朝ディマの散歩を一緒にしませんか?」
「あぁ、良いとも」
「あ、でも吹雪の日とか雪がたくさん積もった日はいいですからね」
アデレードは去年の冬を思い出し付け足した。吹雪になれば一寸先も真っ白になって見えないし、人間の腰ほども積もった雪を掻き分けて進むのは大変過ぎるからだ。
「毎日会いに行くよ。なるべく」
そう言ってカールは、繋いだ手に力を込めた。
アデレードの頬をざらざらした何かがベロンと舐める。さらに誰かに体を揺すられている。
「んっ……寒い」
彼女は呻いて寝返りを打つ。すると耳元でワン、とディマが鳴いて、さらに口でシーツを剥がすという芸当を見せた。
「分かったわ、ディマ……はっ!」
アデレードはがばっと起き上がり、ベッドから降りると急いで身支度を整える。そして急いで1階へ降りていく。
「おはよう、アデレード」
カールはいつものように談話室で、メグに淹れてもらった紅茶を優雅に飲みながらアデレードが起きてくるのを待っていた。ディマが嬉しそうにカールに尻尾を振り走り寄っていく。
アデレードとの約束通り、彼は毎日彼女の許に通ってきていた。
「お、お待たせしましたわ」
アデレードは寝坊したことに少し顔を赤くしながらカールの前までやってきた。
「行けるか?」
「はい」
ディマを撫でていたカールが立ち上がり、アデレードの前に肘を曲げて腕を差し出す。アデレードがその腕に自らの腕を絡める。そして2人はドアを開けて散歩に出ていく。これが、2人の日常になっていた。
昨夜、雪が降ったので外は一面銀世界であった。真新しい雪の上に2人と1頭の足跡が続いていく。ディマは楽しそうに雪の上を転げたり、飛び跳ねたり、鼻を突っ込んだりしている。
それを見てアデレードも雪を少し拾い、空へ投げた。冬の陽射しの中で、粉雪がキラキラと輝く。
「綺麗ですわね」
「あぁ」
アデレードはカールの肩に頭を寄せ、2人は美しい冬の景色をしばし楽しむ。そしてどちらともなく顔を近づけて、そっと口づけを交わした。
「形式的とはいえ、貴族である以上陛下に許可を頂かねばならん。それに少なくとも君のお父上にも」
「陛下はともかく、お父様の許可なんて別に頂かなくても結構ですわ」
手を繋いでカールとアデレードが山から降りてくる途中、アデレードは口を尖らせる。そんな彼女の様子にカールは苦笑すした。
「そうはいくまい。だが、そうなると春まで待たねばならないな」
「どうして、春まで待たないといけませんの?」
「手紙で、という訳にはいかないからな。今から王都まで行くか?」
「うっ……」
「そうなったら、冬の間は向こうに居なければならん。雪で道が閉ざされるからな」
「……」
今すぐ結婚したいのに。
アデレードはそう不満に思いながら、ふとキノコ狩りに行ったときの、ゲアハルトとラシッドの言葉を思い出す。
“既成事実さえ作っちまえばこっちのもんよ”
”寝所で白い足をちらりと見せたら、伯爵もイチコロ”
……持ち込んでしまおうかしら。
と思いかけて、アデレード首をぶんぶんと振った。
駄目よ、駄目。それは伯爵の名誉に関わるもの。
「アデレード?」
カールは彼女の様子に首を傾げる。
「こうなったら、せめて婚約中は婚約中として楽しまないとっ」
アデレードは愛しい人の顔を見上げる。
「伯爵、それならせめて毎日お会いしたいですわ。朝ディマの散歩を一緒にしませんか?」
「あぁ、良いとも」
「あ、でも吹雪の日とか雪がたくさん積もった日はいいですからね」
アデレードは去年の冬を思い出し付け足した。吹雪になれば一寸先も真っ白になって見えないし、人間の腰ほども積もった雪を掻き分けて進むのは大変過ぎるからだ。
「毎日会いに行くよ。なるべく」
そう言ってカールは、繋いだ手に力を込めた。
アデレードの頬をざらざらした何かがベロンと舐める。さらに誰かに体を揺すられている。
「んっ……寒い」
彼女は呻いて寝返りを打つ。すると耳元でワン、とディマが鳴いて、さらに口でシーツを剥がすという芸当を見せた。
「分かったわ、ディマ……はっ!」
アデレードはがばっと起き上がり、ベッドから降りると急いで身支度を整える。そして急いで1階へ降りていく。
「おはよう、アデレード」
カールはいつものように談話室で、メグに淹れてもらった紅茶を優雅に飲みながらアデレードが起きてくるのを待っていた。ディマが嬉しそうにカールに尻尾を振り走り寄っていく。
アデレードとの約束通り、彼は毎日彼女の許に通ってきていた。
「お、お待たせしましたわ」
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「行けるか?」
「はい」
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それを見てアデレードも雪を少し拾い、空へ投げた。冬の陽射しの中で、粉雪がキラキラと輝く。
「綺麗ですわね」
「あぁ」
アデレードはカールの肩に頭を寄せ、2人は美しい冬の景色をしばし楽しむ。そしてどちらともなく顔を近づけて、そっと口づけを交わした。
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