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第4章 ホテルの個性的な客達

第79話 山男、三度現る

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 芸術家達が去った後、入れ替わるようにマックスが友人を連れてやって来た。

「マックスさん」

 馬車が前庭に入ってくるのを見て取り、アデレードがディマと出迎える。

「いやー、フロイライン・アデレード、お久しぶりです。また来ちゃいました」

 馬車から降りてきたマックスが朗らかに笑う。

「あれ? 君また大きくなった?」

 マックスがディマに視線を向ける。ディマは行儀よくお座りし、尻尾を軽く左右に振った。

「やっぱり、秋も風情があって良いですね。馬車から赤く色づいた山の上の方が見えましたよ」
「えぇ、あと一ヶ月もしたらここも落ち葉でいっぱいになりますわ。お連れの方は、マックスさんのお友達?」

 アデレードが馬車から降りてきた3人の若い男性に目を向ける。

「はい。紹介しますね。赤毛の方がセバスチャン、茶髪の方がフリードリヒ」

 この2人は雰囲気がマックスと似ていて、日に焼けた肌に爽やかな笑顔を浮かべ、愛想よくアデレードに軽く手を振っている。

「で、こちらが、クラウス」
「よろしく」

 クラウスは小さく頭を下げた。色素の薄い金髪に青い目、年齢は他の3人よりやや若めに見える。それに雰囲気も他の人とは違い、怜悧な印象を受ける。

 何だか、この方見かけたことがある気がするわ。クラウスさんが貴族なら、それも有り得るけれど。

 ただ、それをアデレードは確かめたいとは思わなかった。ここでは誰であれ、1人のお客様なのだ。

「さぁ、どうぞ」

 アデレードは微笑んで、中へ招く。

「マックスさん、また山に登りに?」
「えぇ。でも流石に山頂まで、とは言いませんけどね」

 マックスは一瞬、クラウスに視線を向けた。アデレードはそれには気付かず、部屋割りをどうするか尋ねる。

「4名だと、2階の部屋なら一室で入れますし、それとも2名ずつ分かれます? 部屋は空いてますから、どういう風に使ってもらっても構いませんけれど」
「えーと、そうですね。いや、3と1の方が良いかな……」

 マックスは再びクラウスに視線を向けると、彼は事務的に答える。

「2名ずつ分かれる形で良いでしょう」
「じゃぁ、それで。2階の2部屋使っても良いですか?」
「畏まりました」

 アデレードはカウンターでメグから鍵を受け取り、4人を部屋まで案内しながら内心、首を捻る。

 何だか、マックスさんはクラウスさんに気を使ってるみたいだわ。もしかすると、相当位の高い貴族の方なのかしら? リーフェンシュタール伯にすら遠慮しないのに、マックスさん。それとも、大学の先輩? 見た目にはクラウスさんの方が若そうですけれど……。

 次の日、長旅の疲れを癒すためかマックス以外の3人は部屋でゆっくり休んでいる。マックスはカールへ挨拶に行こうと、リーフェンシュタール家の屋敷に向かって歩いて行った。
 朝食の片付けが済んだ後、アデレードは庭に出て雑草を引っこ抜き始め、ディマはその横で穴を掘ったり、走り回ったりと自由に過ごしている。
 その様子を、冷ややかな視線で2階の窓から見ている者がいた。クラウスだ。アデレードはそれには気が付かず、時折ディマと戯れながら草むしりの作業を続けた。



 一方、伯爵の屋敷を訪ねたマックスは早速カールと面会していた。

「また来たのか、マックス」

 カールが開口一番、やって来たマックスを見て、呆れた口調で言った。

「ちゃんと大学に通っているのか?」
「ははは、大丈夫ですよ。心配性だなぁ、伯爵も」

 伯爵も、ということは家族からもせっつかれているのだろう。

「それで、またシュピアー岳の山頂まで行くのか?」
「いいえ。今回はその手前の高原の辺りまでにしておきますよ。別の目的もありますから」
「別の目的?」

 マックスは目を輝かせて、高らかに宣言する。

「僕もフロイライン・アデレードみたいにここに移住しようと思うんです」
「……は?」

 カールは思わず間抜けな声を出してしまった。

「いやー、やっぱり僕の生活に山は欠かせないと思うんですよ。空き家とかないですか?」
「ご両親は了解しているのか?」
「いえ、まだ話してません」

 頭痛がしてきた……。何でこう、計画性が無いんだ。

「一体どうやって生活していくつもりだ?」
「そりゃぁ、もう僕も弓を練習して猟師になりますよ!」

 マックスが弓を引く仕草をし、ウィンクした。
「……やめておけ」
「体力には自信ありますよ?」

 カールは、心底マックスの両親に同情した。

 折角、大学までやったというのに、末が猟師になるなど、あんまりではないか。馬鹿馬鹿しいにも程がある。

「マックス、ところで大学では何を専攻しているんだ?」
「法律です」
「そうか……まぁ、良いだろう」

 観念したように、カールはため息を吐いた。

「お前には、もっと別の仕事をしてもらう」
「え?」
「リーフェンスタール家及び領内の歴史書の編纂だ。専門外かもしれないが、猟師になるよりはずっとマシだろう。それと測量と記録だ」
「測量?」
「あぁ。山間部の奥深い場所や山頂付近は詳細な地図が存在しない。そろそろ記録を作っても良い頃合いだろうと思っている」
「はくしゃく~」

 感極まってマックスは、瞳を潤ませながら抱きつかんばかりにカールへ近づく。

「やめろっ」

 カールは険しい表情を作り、手でマックスが近づいてくるのを防ぐ。

「ただし、今すぐにではない。必要な学問を収め、親御さんの為にも大学は卒業しろ。それが条件だ。それが出来なければ、この仕事は他の誰かに任せる、良いな」
「はい!」

 マックスが大きく首を上下に動かす。

「それと、マックス。王都に戻ったら、少し調べてもらいたい事がある」
「何でしょう。何でも調べますよ」
「残念ながら、楽しい仕事ではないがな」

 真剣な表情でカールは、マックスに調査の内容を説明し始めた。
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