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第3章 アデレードの挑戦
第50話 返ってきた手紙
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雪が融けて、山に白以外の地肌の黒や植物の緑の色が見え始めた頃、アデレードはカールがそろそろ王都に向けて出発することを聞いた。テッドに絵を依頼してから数日が経っていた。
「王都に行かれる前に、伯爵にお会いしたらどうですか?」
「でも、準備で何かとお忙しいでしょう……」
主人の気持ちを察してメグはそう提案したが、アデレードは首を振った。カールに会いたい気持ちは有ったが、会いに行く口実が見当たらない。
「まぁまぁ、何か王都で買ってきてもらいたいものを頼むとか」
「そんな……厚かましいわ。伯爵にお使いの真似事なんて……」
「じゃぁ、ご家族やご友人に伝言をお願いするなんてどうです?」
「たぶん、それ誰も喜ばないと思うわ」
トントンと誰かが玄関のドアを叩く。
「私が出ます」
メグがパタパタと小走りに玄関へ行って、そして手に封筒を持って戻ってきた。どうやら雪で閉ざされていた道も、通れるようになったようだ。
「お嬢さんにお手紙だ、そうです。何だか重いものが入ってるみたいですけど」
メグがアデレードにその分厚い封筒を渡す。受け取ったその封筒の重みと音にアデレードは嫌な予感がした。送り主を確認すると、やはりマイヤール家からだった。
「少し自室に戻るわ」
アデレードはそれだけ言って、階段を上がる。部屋の椅子に座り、机に手紙の中身を広げると、やはり大量の金貨が入っていた。思わず彼女は失笑してしまう。
「あら……」
封筒の中に一枚紙が残っていた。微かな期待を胸に、それを取り出してみる。それは便箋ではなく、アデレードの名が書かれた、この家と周囲の土地の権利書だった。
「これは……どういうことかしら?」
マイヤール公爵家の管轄では無くなったからもう関わるな、ということ? それともすごく遠回りに一人でも頑張れよと励ましてくれているの?
……後者と受け取っておきましょう。
「送った手紙は読まれていないのかしら……それとも読んだ上でこれを送ってきたの? どちらにしろ、まだ謝罪は受け取ってもらえないのね」
アデレードは自嘲的に笑う。
和解の道は遠いわね……それでも、望みだけはは捨てないでおきましょう。
「それにもう一人、いえ二人、謝らなければいけない方がいますわね」
机の引き出しを開けて、中に仕舞ってあった手紙を取り出す。おいそれとは渡せない相手への手紙。
「どうしようかしら……」
アデレードが逡巡していると、伯爵に頼んでみたら、というメグの言葉を思い出す。そこでまた少し悩んだが、意を決して立ち上がる。
「よしっ」
アデレードは手紙を持って、部屋を出る。階段を下りて、食堂の掃除をしていたメグに話し掛ける。
「メグ、少し出かけてくるわね」
「どちらに?」
メグが手を止めて尋ねる。
「伯爵のところよ。おいでディマ」
メグの近くで寝転んでいたディマが起き上がり、アデレードの側にやってくる。
「それじゃ、行ってくるわ」
「はい。いってらっしゃいませ」
アデレードはディマを連れて歩き出す。ディマはカールに会えるのが分かっているのか、嬉しそうにどんどん進んでいく。北へ向かって歩いていくと、リーフェンシュタール伯爵家の邸宅群が見えてきた。その中の一番大きな屋敷の近くまで来て、アデレードは立ち止まった。
「やっぱり、お忙しいわよね。それに、こんなこと伯爵に頼むのもおかしいですし……」
決意を固めてやってきたつもりだったが、いざ目の前にすると迷いが出る。だが、ディマは元気よくワンと吠えたので、衛士に気付かれてしまった。
そして、そのまま中に通され、アデレードとディマは応接室で待つようにと、留め置かれることになった。
「何だか緊張するわ……」
「王都に行かれる前に、伯爵にお会いしたらどうですか?」
「でも、準備で何かとお忙しいでしょう……」
主人の気持ちを察してメグはそう提案したが、アデレードは首を振った。カールに会いたい気持ちは有ったが、会いに行く口実が見当たらない。
「まぁまぁ、何か王都で買ってきてもらいたいものを頼むとか」
「そんな……厚かましいわ。伯爵にお使いの真似事なんて……」
「じゃぁ、ご家族やご友人に伝言をお願いするなんてどうです?」
「たぶん、それ誰も喜ばないと思うわ」
トントンと誰かが玄関のドアを叩く。
「私が出ます」
メグがパタパタと小走りに玄関へ行って、そして手に封筒を持って戻ってきた。どうやら雪で閉ざされていた道も、通れるようになったようだ。
「お嬢さんにお手紙だ、そうです。何だか重いものが入ってるみたいですけど」
メグがアデレードにその分厚い封筒を渡す。受け取ったその封筒の重みと音にアデレードは嫌な予感がした。送り主を確認すると、やはりマイヤール家からだった。
「少し自室に戻るわ」
アデレードはそれだけ言って、階段を上がる。部屋の椅子に座り、机に手紙の中身を広げると、やはり大量の金貨が入っていた。思わず彼女は失笑してしまう。
「あら……」
封筒の中に一枚紙が残っていた。微かな期待を胸に、それを取り出してみる。それは便箋ではなく、アデレードの名が書かれた、この家と周囲の土地の権利書だった。
「これは……どういうことかしら?」
マイヤール公爵家の管轄では無くなったからもう関わるな、ということ? それともすごく遠回りに一人でも頑張れよと励ましてくれているの?
……後者と受け取っておきましょう。
「送った手紙は読まれていないのかしら……それとも読んだ上でこれを送ってきたの? どちらにしろ、まだ謝罪は受け取ってもらえないのね」
アデレードは自嘲的に笑う。
和解の道は遠いわね……それでも、望みだけはは捨てないでおきましょう。
「それにもう一人、いえ二人、謝らなければいけない方がいますわね」
机の引き出しを開けて、中に仕舞ってあった手紙を取り出す。おいそれとは渡せない相手への手紙。
「どうしようかしら……」
アデレードが逡巡していると、伯爵に頼んでみたら、というメグの言葉を思い出す。そこでまた少し悩んだが、意を決して立ち上がる。
「よしっ」
アデレードは手紙を持って、部屋を出る。階段を下りて、食堂の掃除をしていたメグに話し掛ける。
「メグ、少し出かけてくるわね」
「どちらに?」
メグが手を止めて尋ねる。
「伯爵のところよ。おいでディマ」
メグの近くで寝転んでいたディマが起き上がり、アデレードの側にやってくる。
「それじゃ、行ってくるわ」
「はい。いってらっしゃいませ」
アデレードはディマを連れて歩き出す。ディマはカールに会えるのが分かっているのか、嬉しそうにどんどん進んでいく。北へ向かって歩いていくと、リーフェンシュタール伯爵家の邸宅群が見えてきた。その中の一番大きな屋敷の近くまで来て、アデレードは立ち止まった。
「やっぱり、お忙しいわよね。それに、こんなこと伯爵に頼むのもおかしいですし……」
決意を固めてやってきたつもりだったが、いざ目の前にすると迷いが出る。だが、ディマは元気よくワンと吠えたので、衛士に気付かれてしまった。
そして、そのまま中に通され、アデレードとディマは応接室で待つようにと、留め置かれることになった。
「何だか緊張するわ……」
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