18 / 109
第2章 新しい人生
第19話 市へ行こう
しおりを挟む
「そう言えば、もうすぐ市が立つんですよ」
「市?」
昼食を食べながらメグは嬉しそうに話す。
「はい。季節ごとに、あ、冬を除いてですけど、この村の広場で出店がいっぱい出るんです。近隣の他の村からも人が来て賑やかなんですよ」
「まぁ、それでこの家まで品物を届けて下さるの?」
「えっ」
「え?」
アデレードとメグはお互いに驚いた顔を見せ合うことになった。アデレードは根本的に市のことを理解していなかったのだ。
そして市の日、村の広場に賑やかしく出店が並ぶ。呼び込みの声や買い物に来た人々の声が飛び交う。普段は静かな村に喧騒が広がる。
「まぁ、随分と賑わっているわね」
アデレードが出店の様子に目を輝かせて楽しそうに言う。
「はい。市が立つときはいつもこうなんです。普段手に入りにくい物が手に入りますから」
2人は冬支度に必要な物を揃えるべく市へとくり出した。
「うーん、冬に備えて小麦と燻製した肉と魚と、あとチーズも要りますよね。それから…」
メグがぶつぶつと呟きながら指を折る。
「そんなに2人で持って帰れるかしら?」
「大丈夫ですよ。何往復かしますし。それに何だったら弟妹(きょうだい)達に手伝ってもらいますから」
「まぁ。頼りにしてるわね」
「私は色々必要な物見繕ってくるので、お嬢さんは出店見て回ったらどうですか?」
「良いの?」
「はい! 私の方は大丈夫なんで、楽しんで来て下さい。練習した通りにやればちゃんと買えますから」
アデレードは自分で買い物をしたことがない。この日の為に、メグと市での買い物の仕方、といっても商品を見て代金を払うだけだが、を練習していたのだ。
「じゃぁ、お言葉に甘えて」
メイドと別れ、アデレードは出店を冷やかしながら歩く。パンを売る店、木で作られたおもちゃや雑貨を売る店、布や糸を売る店など、彼女の目には見たこともないものばかりが並んでいた。見ているだけでも楽しくなってくる。
そこでアデレードの目を惹くものがあった。革製品を扱っている店だ。
ディマに首輪買ってあげようかしら。
愛犬のディマは今、家で留守番している。買い物には連れていけないから仕方ないが、出かけるとき悲しそうにくーんと鳴いていた。
アデレードが興味深げに店を覗いていると、店主が愛想よく声を掛けてきた。
「おや、この辺では見ない別嬪さんだ。何をお探しで?」
「あら、お上手ね。犬の首輪になりそうなものを探しているんだけど」
「それなら良いのがあるよ」
店主が店の奥から小さな木箱を持ってきて、彼女の前で開けてくれた。中には首輪に丁度良さそうな長さの革の端切れが何本も入っていた。ディマの首を熱心に選んでいると後ろから声を掛けられた。
「フロイライン・アデレード?」
そう呼ばれて振り返ると、いつものように黒いフロックコートを着たカールが立っていた。
「伯爵!」
「買い物か?」
彼女の驚いた顔を見て、カールは少し相好を崩す。
「はい。ディマに首輪を買ってあげようと思って」
「なるほど」
カールが横に来て、同じく木箱の中を覗き込む。不意に近くに来られたのでアデレードは思わずどきっとした。
これは初めて買い物する高揚感からだわ。たぶん、きっと……そう。
「それで、どれにするのか決めたのか?」
「この黒い革のものにしようと思いますわ」
「艶があって良いな」
彼に褒められて何となくアデレードは嬉しくなった。
「えぇっと。ここでお金を払えば良いのよね。お幾らかしら?」
無事代金を支払い、アデレードはディマの首輪を手に入れた。
思えば誰かの為に何かを買ってあげたこと無かったわ。何だかくすぐったい気持ちですわ。
アデレードは買ったばかりの革の首輪を満足そうに眺めた。
「市?」
昼食を食べながらメグは嬉しそうに話す。
「はい。季節ごとに、あ、冬を除いてですけど、この村の広場で出店がいっぱい出るんです。近隣の他の村からも人が来て賑やかなんですよ」
「まぁ、それでこの家まで品物を届けて下さるの?」
「えっ」
「え?」
アデレードとメグはお互いに驚いた顔を見せ合うことになった。アデレードは根本的に市のことを理解していなかったのだ。
そして市の日、村の広場に賑やかしく出店が並ぶ。呼び込みの声や買い物に来た人々の声が飛び交う。普段は静かな村に喧騒が広がる。
「まぁ、随分と賑わっているわね」
アデレードが出店の様子に目を輝かせて楽しそうに言う。
「はい。市が立つときはいつもこうなんです。普段手に入りにくい物が手に入りますから」
2人は冬支度に必要な物を揃えるべく市へとくり出した。
「うーん、冬に備えて小麦と燻製した肉と魚と、あとチーズも要りますよね。それから…」
メグがぶつぶつと呟きながら指を折る。
「そんなに2人で持って帰れるかしら?」
「大丈夫ですよ。何往復かしますし。それに何だったら弟妹(きょうだい)達に手伝ってもらいますから」
「まぁ。頼りにしてるわね」
「私は色々必要な物見繕ってくるので、お嬢さんは出店見て回ったらどうですか?」
「良いの?」
「はい! 私の方は大丈夫なんで、楽しんで来て下さい。練習した通りにやればちゃんと買えますから」
アデレードは自分で買い物をしたことがない。この日の為に、メグと市での買い物の仕方、といっても商品を見て代金を払うだけだが、を練習していたのだ。
「じゃぁ、お言葉に甘えて」
メイドと別れ、アデレードは出店を冷やかしながら歩く。パンを売る店、木で作られたおもちゃや雑貨を売る店、布や糸を売る店など、彼女の目には見たこともないものばかりが並んでいた。見ているだけでも楽しくなってくる。
そこでアデレードの目を惹くものがあった。革製品を扱っている店だ。
ディマに首輪買ってあげようかしら。
愛犬のディマは今、家で留守番している。買い物には連れていけないから仕方ないが、出かけるとき悲しそうにくーんと鳴いていた。
アデレードが興味深げに店を覗いていると、店主が愛想よく声を掛けてきた。
「おや、この辺では見ない別嬪さんだ。何をお探しで?」
「あら、お上手ね。犬の首輪になりそうなものを探しているんだけど」
「それなら良いのがあるよ」
店主が店の奥から小さな木箱を持ってきて、彼女の前で開けてくれた。中には首輪に丁度良さそうな長さの革の端切れが何本も入っていた。ディマの首を熱心に選んでいると後ろから声を掛けられた。
「フロイライン・アデレード?」
そう呼ばれて振り返ると、いつものように黒いフロックコートを着たカールが立っていた。
「伯爵!」
「買い物か?」
彼女の驚いた顔を見て、カールは少し相好を崩す。
「はい。ディマに首輪を買ってあげようと思って」
「なるほど」
カールが横に来て、同じく木箱の中を覗き込む。不意に近くに来られたのでアデレードは思わずどきっとした。
これは初めて買い物する高揚感からだわ。たぶん、きっと……そう。
「それで、どれにするのか決めたのか?」
「この黒い革のものにしようと思いますわ」
「艶があって良いな」
彼に褒められて何となくアデレードは嬉しくなった。
「えぇっと。ここでお金を払えば良いのよね。お幾らかしら?」
無事代金を支払い、アデレードはディマの首輪を手に入れた。
思えば誰かの為に何かを買ってあげたこと無かったわ。何だかくすぐったい気持ちですわ。
アデレードは買ったばかりの革の首輪を満足そうに眺めた。
1
お気に入りに追加
161
あなたにおすすめの小説
運命の歯車が壊れるとき
和泉鷹央
恋愛
戦争に行くから、君とは結婚できない。
恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。
他の投稿サイトでも掲載しております。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。
BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。
しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。
その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
旦那様は私より幼馴染みを溺愛しています。
香取鞠里
恋愛
旦那様はいつも幼馴染みばかり優遇している。
疑いの目では見ていたが、違うと思い込んでいた。
そんな時、二人きりで激しく愛し合っているところを目にしてしまった!?
妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。
だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。
しかも新たな婚約者は妹のロゼ。
誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。
だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。
それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。
主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。
婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。
この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。
これに追加して書いていきます。
新しい作品では
①主人公の感情が薄い
②視点変更で読みずらい
というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。
見比べて見るのも面白いかも知れません。
ご迷惑をお掛けいたしました
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる