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結婚式は波乱万丈?

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 式当日、花の好きなフィオナ姫のため、王宮の広間は溢れんばかりの花々で満たされました。
 更に、姫の白い花嫁衣裳にダリウス王子は一つ魔法を掛けました。姫が動く度に光を受けて、純白のドレスは七色に輝くのです。それは、あたかも姫の故郷の夜空に掛かる七色の風のようでした。

 フィオナ姫は大変喜んで、王子と2人見つめ合って微笑みを交わします。
 しかし、和やかな空気はフィオナ姫の生国、北の国の一団が入って来た時に一変しました。

 姫と同じく色素の薄い肌に、金髪や銀髪、青い目に灰色の目をしていた背の高い人々でしたが、マルテシアの人々の度肝を抜いたのは、北の国の人々は毛皮のマントを肩に掛けてはいましたが、狩りで鍛え上げらえた上半身を惜しげもなく曝していたのです。

 更にその腕や胸には奇妙な模様の刺青が入っていて大いに賓客達をビビらせました。それはまるで科学部の部室にアメフト部が乱入してきたみたいな、よく分からない緊張感と緊迫感が広間に広がっていきました。

 しかし、列席した令嬢の中には手で顔を覆いながらも、その隙間から筋骨隆々の男達をちらりと盗み見ていたのでした。マルテシアにはなかなか居ないタイプの男性達に、心がときめいていたのかもしれません。

 その北の一団の先頭に立っていたのは、北の国の王であるフィオナ姫の父で、それに続くのは姫の4人の兄達です。周りの空気をには全く気が付かず北方の王は、マルテシアの王に挨拶し、気前よく動物の毛皮や海獣の油や骨や髭などの贈り物をどっさり渡しました。

 そして愛しい娘にも、結婚祝いの贈り物を持ってきてきたのです。
 それは灰色の子犬で、歯が痒いのか抱いている王の指をガジガシ噛んでいますが、王は一向に気にして居ませんでした。姫は一目見て、顔が綻びます。その子犬は故郷でそりを曳く大型犬の子犬で姫にとっても馴染みの犬種でした。

「まぁ……」
「お前も懐かしいかろうと思ってな。気性の穏やかなやつを選んだぞ。雌だし」
「お父様ありがとう!」

 姫は子犬を受け取ってぎゅーっと抱きしめました。ダリウス王子が人の姿に戻ってしまったのを実のところ少々寂しく思っていたので、とても嬉しかったのです。

「で、隣が婿殿か、ん?」
「ひっ」
「第2王子は異形の者と聞いておったが……」

 北の王とその息子達はダリウス王子に視線を向け、しげしげと観察しました。透き通るような青い目に一斉に射すくめられた王子は、殺されると反射的に思ってしまいました。
 北の王族の圧倒的物理感に、王子の背中からダラダラと冷や汗が流れます。

「お、お陰様で元の姿に戻れまして……」
「おお。それは目出度い。娘のことをよろしく頼むぞ」

 彫の深い、貫禄を感じさせる凄みある笑みを向けられ、王子はもしフィオナ姫を泣かせるようなことがあったら、問答無用で殺されるやつだと慄きました。

 王子の戦慄を他所に、祝宴は想定していた以上に賑やかに進みます。
 それというのも、北方の民達は我が物顔で、大いに飲み、食べ、歌い、踊っていたからでした。

 その様子に穏やかな気質の多いマルテシアの人々は圧倒されています。それはまるで、アメフト部に部室を占領されて途方に暮れる科学部の面々のような感じでした。

 酒が入ってより陽気になった北方の王とその息子達はダリウス王子に絡み始めました。

「婿殿、杯を交わそうではないか」
「妹の旦那なら、我らの兄弟も同然だからな」

 屈強な男にがしっと肩を組まれ、これ断ったら殺されるパターンのやつだ、と皇子は顔が青くなりました。
 王子は助けを求めるように自分の父と兄の方を見ましたが、2人は骨は拾ってやる、と言わんばかりの諦めたような静かな目をして、王子を見送るつもりのようでした。

 誰だって怖いのは嫌ですからね。

 王子は次にフィオナ姫を眼で探しましたが、姫はマルテシアの王妃と王太子妃、そしてその子ども達と、貰ったばかりの子犬を囲んでキャッキャしていて、こちらに気付いた様子はありません。

 詰んだ……と王子は思いました。

 そして無情にも王子は北方の王達の席に連れていかれてしまいます。それはまるで課題代わりにやってくれ、とアメフト部の部室に連れ去られる科学部の生徒のように悲壮感に満ちていました。

 その結果、王子は自分の結婚式だというのに、途中から全く記憶がありませんでした。


 そんなちょっとしたハプニングはありましたが、ダリウス王子と姫は仲睦まじく過ごしています。
 貰った子犬はマーシャと名付けられ、フィオナ姫を始め王族方や使用人達にもよく懐き、可愛がられてました。が、肝心のダリウス王子には懐きませんでした。
 王子と姫が並んで座っていると必ず2人の邪魔をするように、マーシャは間に座ってきましたし、姫が王子の為に編んだ黄色のマフラーを勝手に寝床に持って行って敷いて、王子と取り合いをしたりしました。

 さらに王子が悔しいと思うのが、マーシャは毎日姫に愛おしそうに撫でられブラッシングされていることでした。
 マーシャはその幸せそうな顔をこちらに向けてニヤリと笑っているような、王子はそんな気になっていたのです。
 姫に撫でられてブラッシングされるのは自分だけだったのにっ、と若干犬目線で王子はマーシャに嫉妬しているのでした。


 そうしてダリウス王子はフィオナ姫と2人きりになると、時折異形の姿に変身しては、姫にブラッシングされたり撫でられたりするのを思う存分味わったとか。



おっしまい。
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