9 / 9
第9話 ランプが灯す恋
しおりを挟む「何かフクザツ……」
リーネは両手で自分の頬を包む。その表情はやや不満気味だ。ランプが全部売れたのは嬉しいが、ランプが気に入られたのか、フリッツの美貌が効果的だったのか分からないからだ。
「君のランプが良いからさ。お客さんの顔を見ただろう? 皆満足そうに君のランプを見ていたよ」
フリッツは励ますように彼女の肩を軽く叩くいた後、おどけたような表情を見せる。
「それに私も楽しかったよ。騎士止めてランプの売り子でもやろうかな?」
「また、そんなこと。その気もないのに。騎士の仕事がお好きなんでしょう?」
調子の良いことを言うフリッツに、リーネは呆れた表情で睨む。
「まぁね。でも、君の素敵なランプを売り込む仕事も悪くないと思ってね」
「はいはい」
リーネは彼の軽口を受け流し、出店の天幕を降ろす。売り物もないので開けておいてもしょうがない。
天幕の中でリーネとフリッツはほっと一息吐くと、とりとめのないことを話し出した。
「そういえば、あのご令嬢の件はどうなったんですか?」
「私よりも条件の良い相手が見つかったみたいだから、その人婚約するんじゃないかな。なかなか優秀な人らしいから。私も彼女が幸せになるのを切に願うよ」
フリッツはさしたる興味も無さそうに告げた。
「それより君は? 今までずっとランプ作ってたの?」
「えぇ。この三週間はほぼずっと工房に籠ってました。フリッツさんは?」
「私? 私はずっと騎士団長からお説教だよ」
フリッツはそれを思い出してうんざりした気分になった。
「お説教?」
「そう。まぁ、ほとんど事後承諾的に冒険しに行っちゃったからねぇ……騎士の品格とか格式とかについて毎日長々講釈されたよ」
そう宣って肩を竦めるフリッツに、リーネは唖然とした。
全然堪えてなさそうなところが凄いわ。勿論悪い意味で。
「でも、ちゃんと好きな女性を助けたかったって言ったら、最終的には納得してくれたよ」
「ちょっ……何でそう変な出まかせをっ……というか、よくそれで納得してくれましたね」
リーネが顔を赤くしながら怒る。
「何度も言うけど、私は別に嘘は吐いてないよ。君のこともっと知りたいし、もっと一緒にいたいのは事実だし」
フリッツの思わぬ告白にリーネは耳まで赤くし、口をぱくぱくさせた。
「ダメかな?」
フリッツの紫色の瞳に射貫かれて、リーネはとうとう観念することになった。
身分が違うし、フリッツさんは魅力的な人で、きっといつか彼に相応しい令嬢が現れるかもしれないし、この恋の向かう先は分からないけれど……。
「ダメじゃないです……」
消え入りそうな声でリーネはそう答えた。
「そうこなくっちゃ。嬉しいよ」
フリッツは満面の笑みを浮かべると、リーネの頬に軽く己の唇を押し当てた。
「ひゃっ!?」
思わずリーネは叫んで、キスされた頬を手で覆う。
「な、なにするんですかっ、フリッツさん!」
「いけなかった?」
悪戯っぽく尋ねてくるフリッツに、動揺が収まらないリーネは二の句が継げなくなる。
そんな二人の様子を七色の羽根を持つ乙女のランプだけがほんのり照らしていた。
そして数か月後。
「ひどいじゃないか、リーネ。私に黙って冒険に行くなんて。しかも、私以外の護衛を雇って!」
フリッツは広場のベンチでリーネの隣に座り、嫉妬混じりの不満を述べた。
「貴方は騎士なんだから、雇えるわけないでしょう? また騎士団長に絞られますよ。それに今回の護衛は女性です。大体どうしてそんなこと知ってるんです?」
「パン屋の麗しい女性から聞いたんだ」
「……最近情報漏洩が激しすぎるわ」
リーネは思い切りため息を吐いた。フリッツとリーネが忙しい合間を縫って会っているのは近所の人達には知られていて、フリッツはその持ち前の美貌と人当たりの良さで、近所のおば様方に気に入られていたのだった。
「団長に何言われても別に気にしないけど。君が何も言わずに冒険を楽しんだのが気に食わない」
「そんな楽しいものじゃなかったですよ。隣に住んでる魔女が新しい魔法を試したいって一緒についてきたけど、危うく森半分消失させかけたんだから」
「何それ。すごく聞きたい。やっぱり君は面白い人だね」
不満顔だったフリッツは、リーネの言葉に俄然興味が湧いてきたようで、紫色の目を輝かせている。
こうして昼下がり、恋人達は一時の逢瀬を楽しむのだった。
24
お気に入りに追加
33
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
はじめまして、期間限定のお飾り妻です
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【あの……お仕事の延長ってありますか?】
貧しい男爵家のイレーネ・シエラは唯一の肉親である祖父を亡くし、住む場所も失う寸前だった。そこで住み込みの仕事を探していたときに、好条件の求人広告を見つける。けれど、はイレーネは知らなかった。この求人、実はルシアンの執事が募集していた契約結婚の求人であることを。そして一方、結婚相手となるルシアンはその事実を一切知らされてはいなかった。呑気なイレーネと、気難しいルシアンとの期間限定の契約結婚が始まるのだが……?
*他サイトでも投稿中
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
ただの新米騎士なのに、竜王陛下から妃として所望されています
柳葉うら
恋愛
北の砦で新米騎士をしているウェンディの相棒は美しい雄の黒竜のオブシディアン。
領主のアデルバートから譲り受けたその竜はウェンディを主人として認めておらず、背中に乗せてくれない。
しかしある日、砦に現れた刺客からオブシディアンを守ったウェンディは、武器に使われていた毒で生死を彷徨う。
幸にも目覚めたウェンディの前に現れたのは――竜王を名乗る美丈夫だった。
「命をかけ、勇気を振り絞って助けてくれたあなたを妃として迎える」
「お、畏れ多いので結構です!」
「それではあなたの忠実なしもべとして仕えよう」
「もっと重い提案がきた?!」
果たしてウェンディは竜王の求婚を断れるだろうか(※断れません。溺愛されて押されます)。
さくっとお読みいただけますと嬉しいです。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。
待鳥園子
恋愛
グレンジャー伯爵令嬢ウェンディは父が友人に裏切られ、社交界デビューを目前にして無一文になってしまった。
父は異国へと一人出稼ぎに行ってしまい、行く宛てのない姉を心配する弟を安心させるために、以前邸で働いていた竜騎士を頼ることに。
彼が働くアレイスター竜騎士団は『恋愛禁止』という厳格な規則があり、そのため若い女性は働いていない。しかし、ウェンディは竜力を持つ貴族の血を引く女性にしかなれないという『子竜守』として特別に採用されることになり……。
子竜守として働くことになった没落貴族令嬢が、不器用だけどとても優しい団長と恋愛禁止な竜騎士団で働くために秘密の契約結婚をすることなってしまう、ほのぼの子竜育てありな可愛い恋物語。
※完結まで毎日更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
面白かったです。
ちょっとファンタジーが効いたラブコメディという感じでさらっと読めました。
隣の魔女も気になります。