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第2話 騎士からの提案

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 フリッツはそう言って、リーネに向かって軽くウィンクした。任せるって何を、と疑問符を浮かべるリーネの肩をフリッツが抱く。

「えぇっ?」

 リーネは顔を赤くし、増々混乱した。そうこうしている間に、ブルネットの愛らしい少女は二人の前にやってきて、リーネの方をキッと睨んだ。

「やぁ、ジェナ。誕生日おめでとう」
「フリッツ。誰ですの、この人?」
「あぁ。君に言い忘れていたことがあって。私はこれから用があるんだよ」
「何ですってっ? 私の誕生日会に出て下さるのでしょう?」
「少しだけでも顔を出そうと思ってね。プレゼントは執事に預けてあるから受け取ってくれたまえ」

 ははは、とわざとらしい笑みを浮かべ、リーネを連れて去ろうとする。

「その人に一体何の用があるっていうの? 私より大事なの、そんな女が?」

 そんな女……、と一瞬引っ掛かるものを覚えたが、リーネは直ぐに考え直す。

 まぁ、屋敷に見ず知らずの人間が居たら、そう思うよね。しかも、どう見ても招待客でもない、不審者だし。彼女にはそう思う権利があるわ。

「ジェナ。そんな怖い顔するもんじゃないよ。可愛い顔が台無しだ。それはそうとして、この人は大変に苦労されてる方でね」

 苦労って何の話?
 リーネはフリッツの言い草に内心首を捻る。

「彼女のご両親は重篤な病に掛かられていてね。それを治すのに貴重な薬草を森まで採りに行かなければならないんだ。でも、森は魔物も居て危険だから、私が同行することにしたんだよ。護衛を雇うお金も無いそうだから」

 ちょっ、護衛を雇うお金くらいはあるし、大体両親は田舎でピンピンしてますけど、と抗議しようとしたリーネをフリッツが横目で制す。

「どうしてフリッツでなければいけませんの? 他の騎士でもよろしいでしょう!」

 ジトっとした目でジェナは、リーネの肩を抱くフリッツの手を睨む。

「そりゃぁ、困ってる女性を放っておけないだろう、騎士として。じゃ、そういうことで。改めて、誕生日おめでとう。素敵な女性になってくれ」

 フリッツは白々しい笑顔を浮かべ、リーネの肩を抱いたまま歩き始める。待って、というジェナの声を聞こえない振りしてどんどん彼女から遠ざかっていった。
 無事屋敷から出られたリーネは後ろを振り返る。誰も追ってきていない。もう大丈夫そう、と思ったリーネはフリッツに声を掛けた。

「あのぉ……そろそろ、手を離して頂けませんか?」
「おぉっと。すまないね」

 フリッツは大袈裟な仕草で、リーネの肩から手を退ける。

「いいえ。助けて頂いて有難うございました」

 リーネは頭を下げてその場を去ろうとしたが、フリッツに止められた。

「ちょっと待って」
「はい?」
「約束したじゃないか。護衛をするって」

 フリッツの言葉にリーネは目を瞬かせる。

「あれは……あの場を切り抜ける為の嘘ですよね?」
「いやいや。騎士は約束を反故にはしないよ」

 彼はそう言って、またリーネに向かって軽くウィンクした。
 さっきから思っていたけれど、この人軽薄そうだわ。口も上手いし。
  
「でも騎士様に払える程の報酬は用意出来ませんけど……」

 冒険者ならいざ知らず、国に帰属している騎士など、そうそう簡単に雇えるものではない。王族や大貴族、高級官僚なら兎も角、街の一介のランプ屋の護衛に騎士を雇うなんて、前代未聞のとんでもない話だ。

「心配しなくて良いよ。費用は勿論タダだから」
「ですが……」

 リーネが躊躇う素振りを見せると、フリッツは頭を掻いた。

「実のところ、このままだとジェナがきっと納まらないと思ってね。騎士団や家に迷惑が掛かると困るから、少し私自身行方をくらましたいところなんだ」
「はぁ……あの女性と何か揉めてるんですか?」
「いや、まぁ……ちょっとね」

 侯爵家の一人娘であるジェナは我儘いっぱいに育った所為か、何でも思い通りにしたがるところがあった。
 
 子供っぽい我儘なら可愛らしくもあるが、勝手に婚約発表するような真似は頂けない。ま、2、3日したら今日のこと、実行しなくて良かったと思うだろうな、とフリッツは楽観的に考えている。

「だから、頼むよ」

 フリッツに念を押されて、リーネは増々困ってしまった。

「でも、騎士の仕事は大丈夫なんですか? えっと……」
「あぁ。紹介がまだだったね。私は騎士のフリッツ」
 
 そう言って、彼は優雅な仕草でお辞儀をする。芝居がかったことが好きなようだ。

「仕事については問題ない。先だって、大規模な魔物の討伐を行ったばかりだから、少しばかりなら自由が効くよ」
「それなら……」
 
 良く考えれば、護衛に支払う報酬もバカにならないし、その分が浮くならそれに越したことはないかもしれない。それに、助けてもらった身だ。次はこちらが助ける番だろう。

「決まりだね。よろしく、リーネさん」

 フリッツが白い歯をきらりと光らせ笑い、握手を求めてくる。リーネは躊躇いつつ彼の手に自分の手を重ねる。思いの外強い力で手を握られ、リーネは何故だかどきっとした。
 
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