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最終章:女神への願い。
第41話:女神との交信。
しおりを挟む「私に何か言う事はありませんか?」
リィルがとても冷ややかな目で僕を見てくる。
ちょっとやりすぎちゃったよね……。
「ご、ごめんだよ」
「はぁ……まぁいいでしょう。それより早くマスターして頂かないとなので今日こそは真面目にやって下さいね」
リィルは大きくため息をつきながら古文書をペラペラと捲る。
「分かってるってば」
「分かってなさそうだから言ってるんです」
むぐーっ! あまり否定は出来ないけど、けど!
「昨日のは完全にお嬢ちゃんが悪いぜ……」
もっごまで僕を責めてくる。今日から真面目に頑張るから許してよ……。
とはいえ、僕には古文書なんて読めないしリィルにそれこそ手取り足取りで教えてもらってやっと四日目でそれなりに形になった。
そして五日目。
リーナ姫、エイムさん、リィルが見守る中、
僕が交信魔法を使う時が来た。
勿論すぐ近くにクラマ、ラスカル、もっごにも居てもらう。
この魔法は自分だけでなくその場に居る人達にも会話を繋げる事が出来るらしい、との事なので居て貰った方がきっと話が早い。
「よーっし、始めるよ!」
僕は意識を集中させ、あの時の声の主を思い浮かべる。
その願い叶えてあげますと僕に言ったあの声を強くイメージする。
そして地面に膝をつき、両手を胸の前で組んで祈りを捧げた。
正直魔法の構成とかも詳しく教えてもらったけどその辺はニュアンスでしか理解出来てない。
こんな感じかな? って繰り返しているうちにできるようになった。
リィルには呆れられたけど、これも僕の才能ってやつなのだきっと。
「……我が声をかの者に届けたまえ……」
『あーお腹すいた。今日は何食べよっかな~っ♪ ……えっ、何これ。誰か見てる? なんか気持ち悪っ!』
頭に能天気な女性の声が響いた。
チラリとクラマ達の方を見ると顔をしかめていたのできっとみんなにもこの声が聞こえているんだろう。
「もしもーし、神様ですかー?」
『えっ、なになに? 誰? まさしく私は神界随一の美女神ですけどっ?』
やっぱり神様だったんだ……とにかく交信は成功した!
「以前女神様に願いを叶えてもらった者なんですが……」
『願いを……って事は、えっとあの時もうちょっとでいたそうとしてたお二人さんね?』
いたそうとしてたって言い方やめて……。
「ちょっと認識に齟齬がありそうですけどそうです。彼はこの世界に召喚されて勇者に、僕は女性になって聖女と呼ばれるようになりました」
『うんうん、君達の事はちゃんと見てたから分かってるよ♪ しかしよくやってくれたわマジで』
神様ってこんなに軽いノリなのかな……。
「実は神様に聞きたい事があって……」
『へぇ……確かにそういう魔法があるのは知ってるけれど神界にまで届くほどの魔法を使えるなんて凄いじゃない。さすが私が適当にえら……見込んだ人間ね♪』
今適当に選んだって言おうとした? 言おうとしたよね絶対。
『で、何が聞きたいのかしら?』
「はい、この世界で魔物との和解はできそうなのですが、シャドウという影のような魔物が……」
『あー、はいはいその事ね』
女神はこちらが全部言う前にいろいろ説明してくれた。
『えっとね、何から話そうかな……ちょっと長くなるわよ?』
女神が話してくれた内容はまとめると大体こんな感じ。
この世界ラディベルの管理者争いが起きていたらしい。
その候補の一人が女神で、もう一人と次の管理者を決める為にそれぞれが候補を立てた。
女神が選んだのが僕とクラマで、もう一人が選んだのが魔物、つまり魔王とその配下。
どちらが問題を解決するかにそれぞれ賭けて様子を見ていたらしい。
クラマなんてかなりご立腹だったけれどさすがに女神に文句を言い出すような事は無かった。
『この世界の前任者がね、ちょっと精神的にいろいろ病んじゃってもうどうにでもなーれ! ってなって君等の言うシャドウを放ったのね』
シャドウに意思などは無く、人や魔物を無差別に襲って取り込み、または利用したりして生命エネルギーみたいなのを集めてたらしい。
で、集めた力はシャドウの本体みたいなのに送られてるんだって。
女神は素体って言ってたけど……。
『まったく面倒な事してくれたもんよねー。だって放っておいたら素体が破壊神としてその世界を完全に滅ぼすって話らしいわよ?』
「僕らはそれを止めたいんです。ただシャドウを探してその都度退治、では全然好転する気がしなくてですね……」
『そりゃそうよ。素体倒さなきゃ無意味だからね。私もどうやって君等をそこまで誘導しようかなーって悩んでた所だったからほんと丁度良かったわ♪』
この世界の危機だっていうのに女神はあっけらかんとしていて、きっとクラマが僕に対して呆れてるのはこういう感情なんだろうなって思った。気付きたくなかったけど。
『でもさー、まさか君が魔王と接触した上に魔王をしもべにしちゃうとかほんと笑えるんだけど!』
ラスカルはこめかみに欠陥を浮かび上がらせて露骨にイライラしてた。どうどう。落ち着いてね。
『でもそのおかげで実質私の勝ちって事になって管理者権限を手に入れたので良し♪ 本当によくやったわ♪ 無事にシャドウの素体を退治したらもう一度、なんでも一つだけ望みを叶えてあげちゃう♪』
なるほど、魔王側と僕ら側が神様の駒だったなら僕がもう一人の神様の駒を奪っちゃった形になったんだ。
『本当はあまり関与しちゃいけないんだけど、私が管理者になったからにはその世界に滅びられると困っちゃうのよね』
「じゃあ力を貸してくれるんですか?」
『力は貸さない』
急に冷静な声になった事で皆に緊張が走る。
神様という高次元の存在の圧。こんなおちゃらけた女神でも、やはり神は神だった。
『でもシャドウの素体の場所を教えてあげる事は出来るわ。後は貴女達次第よ。まだ素体は完全体じゃないから倒すなら早い方がいいかも。そこの魔王が人間を隔離したのはナイスな判断よ。偉い!』
もう女神はこっちの様子が見えているみたい。
見る気になればいつでも見れるって事なんだろう。
ラスカルが人間の街を隔離した事でシャドウに力を与える確率が格段に減ったらしいけど、今もどこかで魔物が襲われてたりするらしいので早くしないと。
『他の大陸では人間と魔物とシャドウがみつどもえになってて、どんどん力を吸収されちゃってるから君等の対応は本当に素晴らしいとしか言えないわ。あっちがバカすぎ』
「えっ、他の大陸なんてあるんですか?」
『世界に大陸が一つっておかしいでしょ? そりゃあるわよ。違う文化圏の人々が生活してるし、魔物もいるわ』
「……その魔物達を統べる者も居るのか?」
初めてラスカルが会話に参加して来た。できれば敬語使っておいてほしい。
『そうね、魔王って呼び名じゃないけれど魔物の王はいるわ。ほんとそっちがバカだから素体が力つけちゃってて急がないとまずいかも。それを考えると私が選んだ二人がその大陸に召喚されたのは運が良かったかもね』
他の大陸かあ……平和になったらいつかみんなで行ってみたいな。
ラスカルは他にも魔物の王が居るって聞いて複雑そうな顔をしてたけど。
『出来ればその世界を出来る限り損傷無しで存続させていきたいからお願いね。素体の場所を今送るわ』
送るってどうやって?
っていう疑問を頭に浮かべた時には頭の中にこの世界の地図が広がっていた。
女神すっご。
僕達の現在地は地図上で赤く光っていて、素体の場所は大きな髑髏マークが描かれていた。
世界は大きく分けて僕らの居るこの大陸と、海を挟んで二つ、合計三つの大陸で構成されている。
細かい島などはいろいろあるけれど大体そんな感じ。
そして肝心の髑髏マークはそれらの中心、海のど真ん中にあった。
海の上かと心配したけどよく見たらそこに小さな島があるみたい。
これだったらラスカルの転移魔法で行けるかな?
『んじゃ後はよろしくねー? 私はこれからお食事タイムなのでこの辺で~。次は素体を倒したらね♪ お願い考えとくよーにっ! あでゅ~♪』
個人的にまだ聞きたい事もあったんだけど一方的に交信を切られてしまった。
「さすがに遠いな……」
ラスカルが顎に手を当てて唸ってる。転移が難しいのかな?
だとしたら船とかでいかなきゃならなくなるし相当時間がかかってしまいそう。
「しかしそうも言ってられんか……。ユキナ、クラマ、私があの島に二人ともっごを連れて行く事は可能だ。可能だが……おそらく私は力をかなり使ってしまうので素体とやらの討伐は二人に任せる事になってしまうだろう」
ラスカルはそれで悩んでいたみたいだ。「不甲斐ない……」と呟いている。
「ううん、僕達だけじゃとてもじゃないけどいけない距離なんだから。ラスカルが居てくれて本当に助かるよ。素体退治は任せておいて♪」
「ふん、道案内さえしてくれればお前の出番は無い。俺達に任せておけ」
クラマってばラスカルに対してだけかなり挑発的なのはなんでだろう?
それに対してラスカルも張り合うからいつも視線がバチバチ火花散ってる感じ。
でもなんでだろうね。やっぱり仲良く見えるんだよなぁ。
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