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最終章:女神への願い。
第38話:帰還とトラウマスイッチ。
しおりを挟む「おお、本当にジャバルだ……しかし転移ってのは毎回こんな気持ち悪いのか……? ユキナは大丈夫……ではなさそうだな」
ラスカルに頼んで転移魔法を使ってもらい、ジャバルのすぐ手前までやってきたんだけどこれはきつい。
「うえぇぇぇ……」
「大丈夫かお嬢ちゃん」
「もっごぉぉぉ……うえっ」
「ぎゃっ、おいらに吐かないでくれっ!」
うぅ……転移魔法って頭がぐわんぐわん揺さぶられる感じで気持ち悪すぎる。
むしろなんでクラマはちょっと気持ち悪いくらいで済んでるの?
元々の身体能力のせい?
僕はなんでこんな事になってんの……?
我慢できなくなって吐いたらみんな僕から離れてくしもっごまで逃げてっちゃった。
誰も助けてくれないじゃん……みんな僕の事好きとか言ってほんとはどうでもいいんだな?
少し楽になってきたのでふらりと立ち上がると、みんな遠巻きに僕を見てる。
「僕は怒りました」
「ユキナ、落ち着け」
「クラマの言う通りだ、今回は誰も悪くない。事故みたいなものだろう?」
クラマならまだしもラスカルの方から事故って言葉が出てくる事に驚きながらもフラフラ近寄る。
「お、お嬢ちゃん、座るかい?」
「皆さん、誰も助けてくれませんでしたね。それどころか距離をとって見てるだけってひどくありませんか?」
「俺はそうでもなかったのになんでユキナだけそんなに症状がきつかったんだろうな?」
「おそらく三半規管が弱いのではないか?」
だからなんでラスカルの方から三半規管とかいう言葉が出て来るのさ。
「お嬢ちゃん、とりあえず座ろう、な?」
「……そうだね、みんな座ろうか」
そこで出来る限りの圧を込めて皆を座らせた。
「おすわりっ!!」
ずどん!
三人とも見えない圧に押されてその場に崩れ落ちる。
「君達は少しの間そこで反省してなさい! 僕は先にジャバルに行っていろいろ説明しとくからね!」
ふんだ。聖女で大魔王を怒らせると怖いんだぞ!
僕がジャバルに近付くと、城門前が騒がしくなってきた。
「おひさ~♪」
手を振りながら歩いて行くと、門の前に到着する頃には既にリィルとエイムも出迎えに来てくれていた。
久しぶりに二人の顔を見た気がするけど、実際はせいぜい一か月たたないくらいなんだよねぇ。
思えばその短い間にいろいろあったなぁ。
「お帰りなさいませユキナ様」
そう言ってぺこりと頭を下げたのは……。
「あ、姫様だ! 元気になったみたいでよかったよ~♪」
姫は僕のせいで引きこもりになっちゃったからその後どうなったのかなってずっと気になってて、元気な姿を見れて嬉しい。
「はい、お恥ずかしいです」
そう言って顔を赤くするお姫様はとってもチャーミングだった。
「リィルとエイムも久しぶり♪」
「えぇ……お帰りなさい」
「無事の帰還、お待ちしておりましたよ」
二人は正反対の態度で迎えてくれた。
リィルはなんだかとっても嫌そうな顔してる。
エイムさんはいつも通り紳士的だった。さすがナイスミドル♪
「あの、クラマ様はどうされたのですか?」
「あの馬鹿は僕に酷い事をしたのであっちでお仕置き中。もうすぐ来ると思うよ。……ほら、あっちからフラフラやってくるのが見えるでしょ」
一瞬出迎えの人々がざわついた。
リィルとエイムさん以外の人々が「魔物がいるぞ!?」って感じで。
エイムさんも全く動じてないのはもしかしたらリィルから話を聞いているのかもしれない。
「あー、クラマと一緒に居る二人は僕が契約で仲間にしたしもべだから気にしなくていいよ。出来るだけ失礼の無いようにね? しもべって言っても大切な仲間だからさ、魔物だからって酷い扱いすると僕キレちゃうよ?」
そう言ってにっこりと笑いかけるとみんな苦笑いでサーッとどこかへ引いていった。
「でさ、姫とリィル、あとエイムさんには話があるんだよね」
そんなやり取りをしてるうちにクラマとラスカルが隔離障壁内に入ってくる。
「あれ、もっごは? って入れないんだっけ……」
「一応入れてもいいのであれば私の力で中に入れる事は可能だ。だが混乱を招くのではないか?」
おぉ、ラスカルってやっぱり結構人間の事も考えてくれてるんだなぁ。
「気を使わせちゃってごめんね。でも大丈夫。僕の仲間だから失礼があったらキレるよって言っておいたし♪」
「ほ、本当に入ってもいいのか……?」
ちょっと離れた場所でもっごがこちらに大きな瞳を向けてくる。やっぱり可愛いなぁ。仲間にした魔物がもっごで良かったよ。
「大丈夫、おいで。君が居ないと僕が歩かなきゃいけないでしょーが。ほらラスカル、もっごを入れてあげて」
「ふふ、お前は大したものだ。ではもっごの周りに一時的に障壁を張る。……よし、そのまま入ってこい」
もっごの周りをシャボン玉のような泡が包んで、その状態のままだと隔離障壁をすり抜ける事が出来た。
「ほら早くこっち来て僕を乗せなさい」
「お、おうよ♪」
なんだかもっごもご機嫌みたい。喜んでもらえるのは嬉しいけど、もしかして人の街に興味あったのかな?
今までずっと外で待ってもらう感じだったし。
「……はぁ、魔物を仲間にしたというのは本当だったんですねぇ」
リィルがため息。
もう少しエイムさんを見習って下さい。
「という事はそちらの方が、魔王さんですかな?」
そう言って不敵に笑うエイムさん。
ほら大人の余裕って奴があるよね。
「うむ、私は魔王ラシュカルだ。訳あって聖女と行動を共にしている。人間に害をなすつもりはないので安心せよ」
「おー、かっこつけてる♪」
「う、うるさいぞユキナ!」
顔真っ赤にしちゃってかーわいーっ♪
クラマもラスカルもイケメンが顔を赤くして照れる様ってのはどうしてこう楽しいかねぇ♪
「あ、あのユキナ様……今、魔王と聞こえたのですが……」
あ、またこの流れ?
「あぁお前は人間の姫だな。いつぞやは失礼した。謝罪しよう」
「えっと……あっ、あの時の!? 魔王だったのですか!?」
ラスカルは不思議そうに眉間に皺を寄せた。
「私は間違いなく魔王ラシュカルだと名乗ったはずなのだが……そうか、お前は確か水を見て気を失ってしまったのだったな」
「み、みず……」
そう言えば前にラスカルがこの城に来た時は最初姫をさらおうとしてたんだっけ。
その時に一度会ってるはずだもんね。
「い、いかん! リィル!」
「はいっ!」
突然エイムさんとリィルが姫を取り囲み、なにやら魔法をかけたり「大丈夫ですから落ち着いて!」とか言ってる。
そして、こんなに近くにいるのにリィルから通信が入った。
『姫様は一時的にカウンセリングとヒーリングの魔法で精神を落ち着かせているだけなんです。ちょっとした事でトラウマが再発するので気を付けて下さいっ!』
あー、そう、なんだ?
ほんとごめんだよ……。
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