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最終章:女神への願い。

第32話:サラっとした告白。

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「とんだ寄り道をしてしまったがもうすぐ出口だ」

 シュラの案内で今度こそトンネルの正規ルートへ戻ると、思ったよりあっさりと出口にたどり着くことが出来た。

 トンネルを抜けると目に入ってきたのはかなり栄えている大きな街だった。

「ここはリナリルという街だ。水の都、とも呼ばれている」

 シュラは魔王の癖に人間の街にやたらと詳しい。なんでか後で問い詰めてやろう。

 リナリルは大きな湖に囲まれていて、陸地から幾つも長い橋が伸びている。
 湖のど真ん中に街がある、というような不思議な作りだった。

「すっごいねー! あぁ、でもシュラともっごは入れないんだっけ……ちょっと残念」

「まぁいいさ。私達は湖のほとりにある小屋で勝手に休ませてもらう事にするよ。今は無人だろうからな」

 湖の真ん中、街だけが障壁で隔離されているような状態らしい。
 隔離した本人がそう言ってるんだから間違いないだろう。

「じゃあお嬢ちゃん、楽しんできな」

「もっご、一応僕らは遊びに来てる訳じゃないんだよー?」

 まったく、勘違いしてもらっちゃ困るのだ。

「その割には顔がニヤケているが?」

「クラマ、余計な事言わないの。楽しみなのは隠したってしょうがないでしょ?」

 そう、楽しむのはついでなのだついで。
 用があっていく場所が賑やかで栄えているというならついでに遊んでくるくらいはいいと思うんだよね。うん、いいに決まってる。

 僕とクラマがシュラともっごを残し、橋を渡ろうとした所で頭の中に直接シュラの声が響く。

 こんな距離で通信魔法なんか使わなくたっていいのに……。

『どしたの??』

『後で話がある。聞きたければ夜に一人でこの小屋へ来い』

『わかったー』

『……はぁ』

 来いって言うから分かったと返事したのになんかため息つかれた。

『なにさ』

『あんな事があった後に一人で来いって言われて普通ほいほい来る約束するか? ユキナは馬鹿なのか?』

「誰がばかじゃいっ!」

 つい口に出てしまい、クラマがビクっとして振り返る。

「ユキナ……? どうかしたのか?」

「頼むからそんな可哀想な物を見る目はやめてよ……別に頭おかしくなったわけじゃないから」

「そうか……ならいいが」

 クラマは首を傾げながら再び橋を進む。

『くっくっく……』

『笑い事じゃねーんだわ!』

『まぁいい。私はユキナのそういう人とズレているところや少々阿呆な所が好きだよ』

『気安く人に好きとか言うな!』

 勘違いしたらどーすんのさ。

『気安く、ではないぞ。私はユキナ、お前が好きだ。だから丁重に扱うので安心して一人で来るといい』

 うわ……なんか逆に不安になる言い方されたよ……しかもサラッと告白されてんじゃんどーすんのこれ……。

『気にする事はない。別に取って食ったりはしないさ。ただ私の気持ちは固まったので伝えておいただけだ。ではまた……その気があるのなら夜にな』

 そう言って通信は切れたけれど、最後の【その気があるなら夜に】ってのがどういう意味で言ってるかによっては行くのはまずい気がするんだけど……。

 うーん……。

「どうした? 何か悩んでるような顔をしているが」

「うーん、別になんでもないよー」

 そう答えるとクラマがぐっと僕に顔を近付けてきた。

「うわわ、急に何? どうしたの?」

「あまり俺を見くびるなよ? お前の事は大体分かってるつもりだ。何か悩んでる顔をしてる」

 ……こういう時長い付き合いっていうのは便利なんだか不便なんだか……。

「へぇ、大好きな僕の事だからちょっとした変化も気付いちゃうって事かな?」

「まぁ、そうとも言えるな」

「ぐはっ……!」

 まずい。今のは僕に効く。

 最近クラマは少しは女の僕にも慣れてきたのか、触れたりしなければ昔みたいに気楽に言い合えるような感じになってきた。

 そのせいかこういう冗談を言ったつもりがドストレートにやり返されてしまう。

 言われて嬉しいしそう言ってほしいから言ってるんだけどさ、あんまりストレートに返事されると照れるんだよなぁ。

 出来れば顔赤くして困ってほしい所なんだけど……。

 そんなもやもやを抱えつつ橋を渡っていくと、このリナリルの街にもちゃんと入り口には見張りが居て、僕らを見るなり大騒ぎ。

 障壁を超えて移動できる人が誰も居ないんだからそりゃ騒ぎにもなるよね。

「どもどもー勇者と聖女でっす♪」

 そう挨拶しただけでなにやら大事になっちゃって、街総出でお祭り騒ぎになっちゃった。

 確かリィルの話だと自給自足だけじゃ厳しそうって話だったのに、今の所は大丈夫そうだった。

 街の偉い人とも顔合わせして話をしたんだけど、その人がしきりに「早く魔王を倒して下さい」なんて言うもんだから僕としてはかなり複雑だよね。


 きっと今この人に魔王は言うほど悪い奴じゃないとか、魔物と共存できるよとか言っても絶対に信じてもらえないし、逆に僕らが勇者と聖女を語る魔王の手先とか言われそうだ。

 そういう展開は腐るほど見て来たからね。僕はそんな危険な事はしない。

 でもムカつくもんはムカつくんだよね。何も『知らない癖に、って。

 でもそれは相手からしたら僕にも同じ事を言えるんだろう。

 今まで人間と魔物の間でどれだけの命のやりとりがあったのか、なんて話を出されたら僕は何も言えない。

 だって僕はまだ魔物に殺された人を知らないから。
 クラマが死にかけた事はあるから怖いのはちゃんと理解してるけど、それでもシュラが協力してくれるのなら双方の関係を改善していけると信じてる。

 もう僕の目的は魔王討伐じゃなくなった。
 あとは魔王から街を隔離した理由を聞き出して、落としどころを見つけるだけ。

 ……それにしてもなんでこんな回りくどい事やってるんだろね。

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