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第395話:ミナトの命日。
しおりを挟む「ごしゅじんごしゅじん!」
「な、なんだよ……」
ネコの能天気で無邪気な視線が、なんというかこう子供の視線と被る。
まっすぐすぎて直視できない。
「ダリル方面の街を回ってきたんですよねぇ?」
「ああ、それがどうかしたか?」
「レイラさんにはちゃんと会ってきましたかぁ?」
うっ、ネコの方からレイラの話を出してくるとは思ってなかった。
「あ、あぁそりゃシャンティアに寄ってきたからな。さすがに挨拶くらいはしてくるさ」
「ダメですよ挨拶だけじゃレイラさんかわいそうですぅ」
分らん。ネコが分らん……!
「レイラさんはごしゅじんの事大好きですし本気なんですからあまり悲しませちゃダメですよぅ。ちゃんとぎゅー! とかちゅーっ! とかして来ましたかぁ?」
「ば、ばばば馬鹿かお前何言ってんの!?」
「そ、そうじゃ! 一体そのレイラという女とはどういう関係なんじゃーっ!?」
いきなり爆弾発言ぶっこんできたネコのせいでラムまでおかしな事になった。
「違うんだラムちゃん、これにはいろいろと深い事情が……!」
「深い関係なんじゃな!? そんな相手が居たとは……てっきりユイシスが本妻じゃと思っとったのにこれはとんだ伏兵じゃぞ!」
「何の話!? ねぇ! ちょっと何の話してるの!? とりあえず落ち着いて俺の話聞いて!」
どんどん話がおかしな方へ向かっていく。急いで軌道修正しなければ。
「うるさいのじゃこのすけこましめっ!」
すけこまし……!?
『やーいやーいミナト君のすけこましーっ!』
誰だラムにこんな言葉を教えたやつは……!
そんな古めかしい言い回しを教える奴なんてどこかのアホ女くらいしかいねぇだろうけどな!
近いうちにレイラを連れてきてみんなに紹介しようと思ってたけれど、こんな動物園みたいな所に放り込んで無事でいられるんだろうか……。
レイラは普通の人間だからなぁ。
「まぱまぱーおかえりーっ!」
二階から、だぼっとした寝間着のイリスが顔を出し俺に飛びついてきた。
「お、おいイリス! 階段の上からダイブするんじゃない危ないだろ」
「えー? あたしこのくらいじゃ怪我しないよー?」
いや、そんなピラピラした寝間着一枚で高い所から飛び降りたらいろいろ見えちゃいそうで危ないって意味だったんだけど……説明できねぇ……。
『ヘンタイ。我が子に何を催してんのよ』
ちがっ、あのなぁ。俺の子だからこそそういうのを他の連中に見られないようにって心配してんの!
『へぇ、心拍数上がってる癖に。説得力皆無じゃないの』
しょうがないでしょ!? イリス可愛いんだからさーっ!
『開き直った……最低。イリスに変な気起こしたらさすがに私怒るわよ? もしもの場合は君が寝た頃に身体借りて片っ端から既成事実作って回ってやるわ』
最低の脅し文句だなぁオイ。
「すんすん」
イリスが俺の首筋に顔を近付けてなにやら匂いを嗅ぎだした。
「お、おいやめろよ……何か臭うか?」
汗はかいてないと思うんだけど……。
「まぱまぱからレイラの匂いがする! レイラと会って来たの?」
どんだけ嗅覚鋭いのこの子!
『さすが我が娘ね……!』
「ああ、ちょっとシャンティアに用があったから軽く挨拶して……」
「んー? なんだかとっても強くレイラの匂いが残ってるよ? まるで一晩一緒に寝た後みたい」
ざわっ。
ラムの眼光が鋭くなるのを感じた瞬間には既に俺は魔力の鎖で拘束されていた。縄じゃなくて鎖ってあたりにガチ感を感じる。
「ちょっ、ラムちゃん何すんだっ!?」
「何をする? むしろ儂はお主が何をしてきたのかが気になって仕方ないんじゃがのう?」
「か、勘違いするなっ! 何もしてない何もしてないからっ!」
ラムは車椅子をゆっくり俺の目の前まで進め、
俺のすねを思い切り蹴った。
「いっでっ!」
車椅子に座っている状態から繰り出されたとは思えない衝撃が俺のすねを襲う。
絶対魔力で強化して蹴ってきたに違いない。
「ちょ、ラムちゃん……落ち着こう? おいエクスも眺めてねぇで助けろ……!」
「なぜ余が痴話喧嘩に割って入らねばならんのだ? ラムとやら、気にするな続けろ」
「この人でなしっ!」
ダメだエクスに期待した俺が馬鹿だった。
「レナ、お前は俺の味方だよな?」
ちょっと距離を取って様子を眺めていたレナに助けを求めるが、どうにも彼女の視線も冷たかった。
「私達に内緒で他所の女といちゃいちゃしてきたの? さすがにそれはダメだよ……」
レナまでそんな事を……!
「い、イリス! なんとかしてくれ。そもそもお前が妙な事を言いだすから……!」
「妙な事って? まぱまぱからレイラの匂いがするのは本当だし……服からは匂いしないから多分裸で一緒に寝たんだよね?」
「ばっ、余計な事を言うなっ!! ……あっ」
時すでに遅し。
「その反応は……どうやら本当のようじゃのう?」
「ミナト……それはダメだよ……」
「くっくっく、なかなかいい見世物じゃないか」
三者三様。
ラムは更に殺意を増し、レナは更にドン引きし、エクスはただひたすらに面白がっている。
「もうこの際ネコでいいから助けろ……!」
「ごしゅじん……まさかそこまで進んでたとは思ってなかったですぅ……さすがに悔しいので今夜は覚悟してくださいねぇ?」
だ、ダメだ……誰も俺の話を聞こうとしない。
みんな狂ってやがる……!
『言っておくけど皆が言ってる事は事実よね?』
世の中には不可抗力ってもんがあるんだよ!
『事情があれば何しても許されるなんて都合のいい言い訳がこの子らに通用すると思う?』
……俺は魔王との決戦の前に死ぬかもしれん。
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