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第182話:最年少記録。

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「お前みたいな奴は正直嫌いじゃないが……」

「だ、だったらこのまま俺を見逃せ!」
「無理だね」

 既にこの帝都の人間に手を出した後だった事が分かったし、よりによってあの子供とは俺を怒らせる方法を心得てやがる。
 確かジェスタ……だったよな。

「このガキか? こいつを返せば……」
「もう返してもらったよ」

「……えっ」

 こいつの中に取り込まれているジェスタの姿が見えていたのはありがたかった。
 俺はただこいつの身体に手を突っ込んでジェスタを引きずり出すだけでいい。

「なんだよ早すぎて見えなかったのか?」
「えっ、えっ、なんで。俺の腹が……」

「お前さ、そんな外見だから移動が襲いのは分かるけどよ……遅いのはそれだけじゃねぇんだな」

 よくもこんな魔物が知性を得た物だ。
 大抵喋る魔物は幹部か、それに匹敵するほどの力を持つ連中の筈だが……。

「に、にぃちゃぁぁん! 俺死んじまうよぉぉ!」

 ……にいちゃん?

「馬鹿め。黙っていれば奇襲も出来たものを……貴様のような愚か者は弟などではないわ!」

「そ、そんな……にいちゃん! にぃちゃ……」

 ジャガルとかいうカタツムリ野郎からもう一人分の声が聞こえてきたので何が起きたのかと思っていたら、突然殻の部分が身体をぎゅるりと吸い込み、ジャガルの悲鳴……というより断末魔が響く。

「……待たせたな」

 殻が一度バラバラになり、人型に変わる。

「まぱまぱ、あっち終わったよ! ……こいつはなぁに? ぶっころ?」

 イリスが周りの魔物をあらかた肉片に変え終わったと報告に来た。

「いや、こいつは俺がやるよ。イリスは……そうだな、他の奴等の所に行ってくれ。気になるのは帝都の外だな。入り口方面見に行ってもらえるか?」

「わかったー。じゃあぶっころってくるね♪」

 イリスは意気揚々と飛び跳ねながら次の目的地へ向かった。
 これで地上部隊も殲滅したようなものだろう。

「こっちこそ待たせたな。さっさとやろうぜ」

「貴様、子供を抱えたまま戦う気か?」

 俺はどうしようかと少し考えたが、特に問題があるとは思えなかったのでこのまま続行する事にした。

「問題無い。それよりさっきのジャガルって奴はお前が食ったのか? 弟だったんだろう?」

「笑止。ただの協力関係というやつだ。血のつながりなど有る筈も無し」

 どうやらパワーバランス的にはこっちが主導権を握っていたようだ。
 外敵からこいつが身を守り……ジャガルはなに担当だったんだ? 移動?

 確かに普段殻の姿では移動できないだろうし……というよりあの姿で油断させてこの殻野郎が止めを刺すというのがこいつの戦い方なのかもしれない。
 だとしたらジャガルは相手を油断させるためだけのデコイか。哀れな野郎だ。
 そうなるとジェスタに手を出したのも殻野郎の命令だったんだろうな。時間をかけて体内で溶かすつもりだったようなので他に被害者は居ないと思うが……。

「なんか俺お前にめちゃくちゃ腹立ってきたわ」
「俺の外殻は名刀すらはじき返す。ジャガルのように簡単に行くとは思うなよ」

「つべこべうるせぇ。かかってこいや」

 俺の言葉が終わる前に殻野郎が突進してくる。
 ちょっと驚いたのは、突進しながら形状を変えた事。
 一本の長い槍のような形になって一直線に俺を貫こうとしてきた。

「おいおい器用な奴だな……」

 俺はその攻撃を最小限の動きでかわすが、俺の横を通り過ぎようというその瞬間に、槍の側面からもう一本棘が俺に向かって伸びた。

「これを受け止めるか……!」

 この速度で縦横無尽に飛び回り臨機応変に形を変えての攻撃。なかなか面白い戦い方をする。

「めんどくせぇ野郎だなとは思うけど別に見えない速さじゃねぇし」

 俺は顔の前で摘まみ取っていた奴の棘の先端をポキリとへし折る。

「ちっ、ここまで細くすると耐久面が落ちるか……それならこれでどうだ!」

 くるくると殻野郎が上空に舞い、空中で形を変え、大きなハンマーのような形状になる。

「この硬さに打ち震え、地に打ち込まれるがいい!」

「微妙に韻を踏もうとすんじゃねぇよ!」

 空から俺を打ち付けようと振ってくるハンマーだが、逆に言えばそれだけ面積が広くなっているので迎撃は容易い。

 左腕でジェスタを抱えたまま、右腕を竜化させその平面な奴の身体を思い切りぶち抜く。

 一瞬で殻がバラバラに砕け散り、その欠片の中の一枚から小さな手足が生え、地面を這いまわる。

「ひ、ひぃぃ……化け物め……!」

「最近こういうタイプの魔物が流行ってんのかねぇ?」

 こいつも核があるようなタイプだろうか?
 ……少しの間這い回る欠片を眺めていたが、多分核とかとは少し違う気がする。この欠片が本体で、それ以外の沢山の欠片で身を守っていただけだろう。本体はあまり硬そうではないので簡単に始末できそうだが……。

 しかし口だけの馬鹿野郎だったな。
 どう始末してやろうか考えていると、腕の中で小さな声があがる。

「うぅ……ん」
「お、起きたか? ジェスタ、身体はどこも痛くないか?」

 目が覚めたジェスタに声をかけてやると、面白いくらいに狼狽して面白かった。

「お、おおおおねーちゃん!? 英傑王のおねーちゃんがなんで!? えっ!? ……も、もしかして助けてくれたの?」

「おうよ。なんせ英傑王だからな」

 かっこつけてニカっと笑ってやると、何故か顔を真っ赤にしたジェスタが暴れ出す。

「お、おねーちゃん離してっ、恥ずかしいよっ!」

「おい馬鹿急に暴れるなって……あっ」

 下手に力を入れると潰しかねないので加減が分からず、ジェスタが俺の腕から離れて飛び降りてしまう。

「おい馬鹿、まだ敵が居るんだぞ!」

「えっ!?」
「えっ?」

 俺の声に驚くジェスタ。
 ……と殻野郎。

「敵!? 魔物!? ど、どこにいるの!?」

 慌てて辺りを見渡すジェスタ。

「……あぁ、たった今死んだよ」

 言葉を話すクラスの魔物を倒した最年少記録なんじゃねぇかな……。

「お前、きっと大物になるよ」

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