3 / 476
第1話:不運てんこ盛り男。
しおりを挟むごめんなさい。他の子に取られるくらいなら湊《みなと》君を殺して私も死ぬわ。
痛いよね? ごめんなさい……。でも私もすぐに逝くから心配しないで。
来世ではずっと一緒に居ましょう? いてくれるよね? 約束だからね? 裏切ったら……分かってるよね?
大好きだよ。愛してるの。だから……。
「来世で幸せになろうね」
ふとそんな記憶が頭をよぎる。
あれはクラスでも特に人気の高かった結衣ちゃんに告白されて舞い上がっていた日の帰り道だった。
いつも教室の隅で本を読んでいた地味で存在感の薄い少女……喜季《よしき》愛心《らら》。キキララなんてあだ名をつけられていた彼女に、俺は拉致られた。
学校からの帰り道、キキララの家の前を通過しようとした時に硬い物で頭を殴られたんだと思う。
目を覚ました時には椅子に座らされ、ガムテープで雁字搦めに固定されていた。
キキララは恐怖で涙目になった俺の身体を舐めまわし、無理矢理キスをして、殺した。
お腹にダマスカス包丁を突き立てられてぐちゃぐちゃかき回されたところまでは覚えているが、死んでしまったらしくその先は分からない。
どうして今まさに死のうとしている時にこんな恐ろしい記憶を思い出してしまったのだろう。
走馬燈代わりに前世の記憶を思い出すなんて妙な事もあるものだ。
……そうだ、そう言えば……。
キキララに殺された後の事も少し思い出した。
確かただっぴろい真っ白な空間に俺が素っ裸で立ってて、「私が神だ」とか言いだす怪しい白フードの男が現れたんだ。
人は死んだら、その魂がすり減って消滅するまで転生を繰り返すらしい。俺も既に転生を経験済みなんだそうだ。
幸運にも俺は魂強度が強いらしく、記憶を消した上ですぐに転生させてくれるとの事だった。
転生。なんて心が躍るワードだろう。
きっと事件前日までの俺なら新しい人生に夢も希望も持てたのかもしれない。
でも、その時の俺は転生が怖かった。
何せ、俺の後を追ってキキララがやって来る。
次こそずっと一緒だと無理矢理約束し、その約束が成立していると思い込んだあいつが俺を追いかけてやってくるのだ。
だから俺は神様に一か八かお願いしてみた。
「頼むから別の世界に転生させてくれ!」
結果、俺は記憶を消されて何の疑問も持たずに、俗に言う剣と魔法が当たり前の世界、イシュタリアで過ごし、しがない冒険者になり……パーティを組んで、仲間と恋に落ち、そして崖に落ちた。
いや、落とされた。
俺を落としたのは恋人のエリアル。そして、将来有望と言われていた赤髪の剣士アドルフ。
魔法使いのシルヴァは今回パスと言ってついてこなかったので奴は無関係かもしれない。
崖から落ちていく時微かに聞こえたエリアルの「ごめんなさい」という言葉が耳から離れない。
あいつはずっとアドルフの事が好きだった。そんな事は最初から分かってた。
俺に告白してきたのだってアドルフの代わりだろうと気付いていた。それでも、俺は彼女を幸せにしてやりたくて頑張ってきたつもりだ。
いつの間にアドルフの奴とうまく行ってたんだ?
アドルフは女と見れば手を出さずにいられない下半身に脳みそがついてるような奴だから迫られてコロっといっちまったのか?
……俺がアドルフの批判なんかした所で弱者の遠吠え。持たざる者が選ばれた人間を貶してるだけだ。情けなくて涙が出るね。
だとしても、それならそうと言ってくれれば、俺は涙を呑んで二人を祝福してやれたのに。はらわた煮え繰り返りながら表面だけでも笑顔で応援してやれたのに。
どうしてわざわざ事故に見せかけて殺そうなんてするんだよ。
ダンジョン探索中に崖から落とされた俺は運よく……いや、運悪くかな? 足から落ちたせいで即死を免れてしまった。
内臓へのダメージが酷く、立ち上がる事も出来ずに自分の身体から体温が消えていくのを待つ事しかできない。
最初のうちは広がっていく自分の血が生ぬるく、気持ち悪かったのに今はもうそれもよく分からなくなっていた。
未練がましく生にしがみ付くように、自分のステータスを呼び出した。
今までなんの疑問も持たずに当たり前のように受け入れていたが、このステータスというのはどういう仕組みなんだろう?
まるで前世で遊んでたRPGみたいだ。
ゲーム中のキャラクター達はこんな物が見えていたのかな。
それとも世界を観測している立場、プレイヤーにだけ見えていたのか。
……意識が朦朧として変な事ばかり考えてしまう。ゲームは所詮ゲームだし、死んだってやり直しがきくってのに……。
いっそこの命もゲーム内の物なら良かった。
目が覚めたら教会とか城の中でさ、「死んでしまうとはなさけない」とか言われてやり直し。
……よく考えたらゲームによっては仲間が死んでいく物もあったなぁ。
だとしたらこんなモブキャラの俺なんてどっちみちこのまま死ぬ運命なんだろう。
でもゲームの勇者ならアドルフみたいなクソ野郎じゃないはずなんだがなぁ。
この世界ではステータスは常識だけれど、こんな設定を作った神様はよほどゲーム好きだったのかもな。
ステータスは意思一つで誰でも表示する事が出来る。小さなウィンドウのような物に表示され、自分以外には見えない。
俺のステータスにはこう書いてある。
ミナト・ブルーフェイズ
レベル:19
種族:人族
職業:剣士
通常スキル:剣技レベル4
上位スキル:特に無し
特殊スキル:特に無し
……戦闘をこなせばレベルが上がり、腕力、体力、俊敏さなどに補正がかかっていく仕組みだが、その細かい数値は表示されないのでどの程度成長しているのかはよく分からない。
もしかしたら人によって成長度が違うのかも。
レベル20になれば初級冒険者から中級冒険者に昇格出来たっていうのにほんとについてない。
モブキャラの俺はこの光も無い真っ暗な場所で死んでいくんだろう。
前世ではストーカーのヤンデレ女に殺され、逃げてきたこの世界では恋人に裏切られて殺される。
確かに俺は人に褒められるような人徳者じゃないし、素行は悪かっただろう。だがこんな目にあって死ぬほどじゃないんじゃないか?
少なくともエリアルに対しては誠実にしてきたつもりだ。
あまりに惨め。悔しい。ここから生きて帰れるならばあいつらに復讐してやりたい。
残りの人生を牢屋で過ごす事になってもいい。それでもいいから、俺はあいつらを殺してやりたかった。
エリアルにそんな感情を抱くなんて最低だ。それでも、俺は彼女が俺を見ていなくても愛していたし、アドルフを選ぶというのならそれでも良かった。彼女が幸せになれるならばそれで。
だけど、エリアルの声は……。
「ごめんなさい」
あの声は、言葉とは裏腹に……。
とても、嬉しそうだった。
悔しい……こんな所で死ぬなんて……畜生。あっ、もう……意識が……畜生、畜生、畜生、ちくしょう、ちく……しょ……。
「おや、また君かね」
自称神様は素っ裸の俺を見下ろし、呆れたような声で言った。
「まぁこちらとしては好都合なんだけどね」
「頼む、あんたが神様だって言うなら俺を生き返らせてくれ!」
「……転生じゃなくて?」
「転生じゃダメだ! イシュタリアに俺を、生き返らせてくれ!」
「無茶言わないでよ。無理無理。死んだ人を生き返らせるってこっちからしたらいろいろ規則違反なんだよ?」
知った事か!
「転生じゃダメなんだ。もう一度、もう一度あの世界で……奴等に復讐さえ出来るのならばなんだってする! だから頼む!」
「……今なんでもするって言った? 言ったよね? だったらこっちの条件を呑んでくれるなら……生き返らせてあげてもいいよ?」
0
お気に入りに追加
111
あなたにおすすめの小説
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る
神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】
元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。
ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、
理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。
今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。
様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。
カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。
ハーレム要素多め。
※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。
よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz
他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。
たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。
物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz
今後とも応援よろしくお願い致します。
(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる