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ep.030 プレゼントの中身
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「うわぁ、たくさん……」
おじ様と、パパとママのと、あと数個くらいだろうか、という私の予想は見事に大はずれだった。
そこには小さなものから大きなものまで、たくさんの箱が積みあがっている。
こんなにたくさんの人がジーク様をお祝いしてるのだ、ジーク様は本当にすごい。
「ほとんどが社交辞令のようなものだろう」
「へ?」
「俺に何か贈り物をしたかったわけではなく、侯爵位を持つ相手だから一応贈り物くらいしておこう、ということだ」
「あら、それでもまだ若き侯爵のあなたに、これだけ祝いの品が届けば立派よ!」
ジーク様の言葉に少し寂しい気持ちになったけれど、ママの一言ですぐに吹き飛んだ。
やっぱりジーク様はこれだけの人にお祝いされるすごい人なんだ、そう思うとなんだか自分のことのように誇らしい気持ちにもなった。
「これは、皇家の紋章だね」
「あら、ホント。皇太子殿下からかしら?」
パパとママは、遠慮なくプレゼントを物色しているようだ。
大丈夫なんだろうか、とジーク様を見るけれど、あまり気にしていないようである。
「皇太子様からも、プレゼントが届くんですか?」
私の育った場所には、王様や王子様なんていなかったからよくわからない。
しいて言うなら、私のお父様が魔術師の中の王様みたいなものだったけれど、ただ魔力が恐ろしく強いってだけで国を治めていたわけではなかった。
でも、皇太子、なんて身分の方は、そう簡単にお会いすることも、関わることもできなさそうな気がする。
そんな方からもプレゼントが届くなんて、かなりすごいのではないのだろうか。
「リディア、皇太子に対する敬称は、"様"ではなく"殿下"だよ」
「でん、か……?」
「そう、皇太子殿下、とお呼びするんだよ」
パパに言われて、こくこくと頷いた。
呼び方にも注意が必要らしい。
お会いすることなんてなかなかなさそうだけれど、間違った呼び方を誰かに聞かれてしまうだけでも、もしかしたら怒られてしまうのかもしれない、気をつけよう……
「皇太子殿下とジークは幼馴染のようなものだからね。二人とも、幼い頃は私の元で剣術を学んでいたんだよ」
「えっ!?」
確か騎士の皆さんが、皇太子殿下はジーク様と同じくらいお強いって言ってた気がする。
そのお二人とも、おじ様の教え子ということは……
「おじ様、きっと、すごく強い騎士様だったんですね」
「どうかなぁ……、皇子様に剣術を教えるのは、中央騎士団の団長が行うのが慣例だったからにすぎないし」
「そうなんですか?」
「ああ、だから昔は私も今の皇帝陛下とともに、私の父の元で剣術を学んだものだよ」
なんというか、この国の皇族の方々と随分と近しいお家みたいだ。
でも、誰かと一緒に剣術を学ぶって楽しそう。
私は同世代の子どもと剣を交えながら剣術を学ぶような経験はできなかったら、ちょっと憧れる。
「で、その皇太子殿下は、何をくださったのかしら?」
手のひらよりちょっと大きい箱を持ち上げて、ママは興味津々だ。
「時計だと思いますよ。先日会った時にちょうど壊されまして、次に何かくれる時に新しいものをくれるよう言っておいたので」
「あら、本当だわ」
「ま、ママ?勝手に開けちゃ……」
「別に気にしなくていい」
ジーク様の言葉を聞くや否や、ママは持っていた箱を開けてしまった。
私はその行為に驚いて慌てたのだけれど、ジーク様は予想の範囲内だったようで全く気にしていないみたいだ。
「さすが皇族の贈り物ね、とても質のよい懐中時計だわ」
ママがそう言うので、気になってママの手元を覗き込んだ。
銀色の懐中時計には細かい細工が施されており、文字盤には宝石が散りばめられている。
洗練された美しいデザインだ、と私でも思う。
美しいジーク様に、きっとよくお似合いになるデザインだ。
「使えればなんでもよかったんですが……」
ジーク様はこれほどすごい贈り物をもらっても、特別驚いたり喜んだりする様子もなくいつもと変わらない。
その様子を見ていると、私のプレゼントは大丈夫だろうか、と不安になる。
物足りないと思われないだろうか、いらないと、思われてしまわないだろうか……
「お兄様は何を用意したの?」
「私のはこれだよ」
おじ様はプレゼントの中から、細長い箱を取り出した。
すると、ジーク様から、なぜかため息が聞こえてくる。
「父上、今年も、ですか……」
「ああ、騎士たるもの、いくつあっても困らないだろう?」
「使い慣れた1本しか使いませんよ、いただいたもののほとんどは美術品のように飾って終わってます」
騎士たるもの……細長い箱……
「ひょっとして、剣ですか?」
「ああ、おそらくな。去年も一昨年も剣が届いた」
「だがっ、これは軽いし、なかなか使い勝手がいいと思うぞ!」
「今使っているものも、過去にいただいたものも、そうでしたよ」
そう言いながらも、ジーク様は手に持っていた私からのプレゼントを近くの机に置き、おじ様が持っていた箱を開ける。
中から出てきたのは、実用的というよりは芸術性を重視したようにも見える一振の剣だった。
「きれい、ですね」
「だろう?リディアにもわかるかい?この剣の美しさが!」
おじ様はなぜか興奮気味である。
騎士様だけあって、剣がお好きなのかもしれない。
「確かに軽いですが、今使っているものと変わりませんよ」
「今の剣、大切にされているんですね」
「ああ。使いやすいし、使い慣れているからな。それに今の剣も成人の儀で父上に貰ったものなんだ」
おじ様、ひょっとしてジーク様に剣ばかり贈っていらっしゃるのでは……
「いやぁ、ジークの剣術は本当に素晴らしいからね、新しい剣をたくさん買ってあげたくなるんだよ」
私も剣はお父様からいただいたけれど、正直この一振で十分だ。
次から次へと新しいものを貰っても、むしろ上手く扱えなくて困ってしまいそう。
「そろそろ、剣はいいのではないでしょうか?きっと今のが使えなくなっても、代わりの剣もたくさんお持ちでしょうし……」
「そうか、では次は違うものを考えてみようか」
「なんて言いながら、来年もジークに剣を買っちゃうに一票」
「僕もかな」
「俺もそう思います」
もはや賭けにもなっていない。
ママもパパもジーク様も、おじ様はまた剣を買うと思っているようだ。
でも、それだけ、ジーク様の剣術を誇らしく思っていらっしゃるのだろう、剣術を褒めていらっしゃったおじ様はご自分のことのように嬉しそうだった。
「ねぇ、ジーク、リディアからのプレゼントも見てあげて?」
「えっ」
「そうそう、リディア、がんばったんだよ」
「パパまでっ!」
どうしよう、こんな素敵なプレゼントの流れで開けられちゃうなんて。
きっと、たいしたことない、つまらないプレゼントだって思われてしまう……
「私も気になるな」
おじ様まで興味を持ってしまった。
どうしよう、と思っているとジーク様が近くまで来る。
「後で見た方がいいなら、後にするが?」
「え……?」
ジーク様は本当にお優しい、きっとここで開けられることを恐れている私に気づいてくださったのだ。
「あら、せっかくだからここで開けてよ。ジークの反応が見たいわ」
「ですが、叔母上……」
「大丈夫よリディア、リディアが心配するようなことは、何もないわ」
ママは私と目線をあわせ、私を安心させるようにそう言ってくれた。
確かに、ジーク様はお優しいのだから、いらないと思ったところで、そんな素振りはお見せにならないだろう。
けれど、豪華なプレゼントをたて続けに見た後だということもあって、どうしても不安が消えない。
「でも本当に、たいしたことなくて……」
「俺は、おまえが俺のために準備してくれたというだけで、すごく嬉しい。だから、大丈夫だ」
ジーク様は、私の耳元にお顔を寄せて、おそらく私にしか聞こえないようにそう言った。
パパとママが、なになにナイショ話?なんて騒いでいる。
「俺も中身が気になる、開けてみてもいいか?」
私はなぜか急に顔が熱くなって、ドキドキが止まらなくて、頷くのが精一杯だった。
ジーク様が包みを手に取り、私が巻いたリボンをしゅるしゅるとはずしていく、その光景がまるでスローモーションのように見えて、心臓がただただ煩い。
「これは……」
「あ、あの……っ」
ハンカチを取り出したジーク様が、まじまじとそれを眺めている。
気になったのか、横からおじ様も覗き込んだ。
私は何か言わなければ、と思うのに、上手く言葉が出てこない。
「リディアが刺繍したのよ、それ」
私の代わりに、ママが説明してくれる。
すると、ジーク様は私の顔を見て、そこから目線がさらに下へと下がる。
「その怪我、もしかして……」
「あっ」
私は指先にたくさん貼ってある絆創膏の存在を思い出し、慌てて両手を後ろに隠す。
「そうよ、リディアの努力の結晶なんだから!」
なぜかママは誇らしげだ。
私はたったこれだけの刺繍に、こんなにいっぱい傷を作って、呆れられていないか心配だというのに。
「そして、これは私からおまけよ!」
そういうと、ママはどんっと四角い箱を置いた。
そして、ママが勢いよく箱を開けると同時にとんでもないものが見えて、私は青ざめる。
「ま、ママ!?なんで、こんなもの……っ」
私はそれが少しでもジーク様の視界に入らないよう、身体全体を使って隠そうとただ必死になった。
けれど、小さい私がどんなにがんばっても、長身のジーク様からしっかりと見えてしまっている気がする。
「ママ、これは有効活用するって……っ」
「今、有効活用しているじゃない」
これのどこが有効活用だというのか。
箱の中には、私が今まで失敗を重ねた証であるハンカチが、おそらく全部入っている。
「こんなもの、貰っても……っ」
「貰って、よいのですか?」
「え……?」
私の言葉を遮るように、ジーク様がママに聞いた。
確かにハンカチ自体はとても質のよいものだと思うけれど、こんなもの貰ってどうするのだろう……
「もちろんよ、そのために持ってきたんだもの」
「ありがとうございます」
そう言うと、ジーク様は必死に隠そうとしている私をやんわりと移動させ、私の失敗作を手に取った。
私は、ただ恥ずかしくて、恥ずかしすぎて、穴があったら入りたいような気分で、どうにかなってしまいそうなのだけれど、ジーク様はそんな私の心を知ってか知らずか、真剣に1枚1枚手に取って見ていく。
そして、数枚手に取った後、ジーク様がこちらを向いた。
「ありがとう、リディア。大切にする」
ふわりと、ジーク様が微笑んだ。
私の顔はまた熱くなって、心臓がどくどくと音をたてる。
今、絶対私の顔は赤いのだろう、私はいたたまれなくてジーク様の視線から逃げるように俯いた。
「あ、ちなみに、それは本当におまけだから、僕らのプレゼントはこっちね」
パパが別の箱を取り出して、ジーク様に差し出す。
よかった、パパとママからのちゃんとしたプレゼントもあった、そう思うと少しだけほっとする。
「礼服、ですか……」
「ええ、あなたほっとくと新しいの仕立てないでしょう?」
「ブリジットの見立てだから、きっとジーク君によく似合うよ」
ジーク様が箱をあけると、お洋服が一着出てきた。
確かに、パパの言った通り、ジーク様にとてもよく似合いそう、いつか着ていらっしゃるところを拝見したい。
「自分の服を選ぶのはあまり得意ではないので、助かります、叔母上」
ママはジーク様のそういうところを理解して、用意したんだろうな……
私はまだまだ、ジーク様のこと知らないことばかりだ。
私たちのプレゼントが一通り開封されて、さらにママが気になった箱をどんどん開けてしまって、そろそろ戻ろうかなんて話していた時だった。
パタパタと部屋を走る足音が聞こえてきて、皆の視線が自然と扉へと集まる。
この家に、普段走り回るような方は居ないから、何か急ぎの用事を伝えるためにお邸の誰かが走っているのかも、と私は身構えたのだけれど。
「兄上、お誕生日おめでとう!」
バンっと勢いよく扉を開いたのは、明るい笑顔が印象的な少年だった。
髪はジーク様やママ、おじ様と同じ銀色、だけど瞳の色はその3人の誰とも異なるきれいな琥珀色。
このきれいな琥珀色の瞳、どこかで見覚えがあるような気がするけど、思い出せない。
そして、何より気になるのが……
「あに、うえ……?」
呆然とする中でぽつんと呟いた私の言葉は、おそらく誰の耳にも届いてはいない。
「わ、本当に父上がいる!」
「そう、伝えただろう」
今度はおじ様を父上と呼んだ、それってつまり……
「ジーク様の、弟!?」
弟さんがいらっしゃるなんてお聞きしたことなかったから、私はとっても驚いていた。
おじ様と、パパとママのと、あと数個くらいだろうか、という私の予想は見事に大はずれだった。
そこには小さなものから大きなものまで、たくさんの箱が積みあがっている。
こんなにたくさんの人がジーク様をお祝いしてるのだ、ジーク様は本当にすごい。
「ほとんどが社交辞令のようなものだろう」
「へ?」
「俺に何か贈り物をしたかったわけではなく、侯爵位を持つ相手だから一応贈り物くらいしておこう、ということだ」
「あら、それでもまだ若き侯爵のあなたに、これだけ祝いの品が届けば立派よ!」
ジーク様の言葉に少し寂しい気持ちになったけれど、ママの一言ですぐに吹き飛んだ。
やっぱりジーク様はこれだけの人にお祝いされるすごい人なんだ、そう思うとなんだか自分のことのように誇らしい気持ちにもなった。
「これは、皇家の紋章だね」
「あら、ホント。皇太子殿下からかしら?」
パパとママは、遠慮なくプレゼントを物色しているようだ。
大丈夫なんだろうか、とジーク様を見るけれど、あまり気にしていないようである。
「皇太子様からも、プレゼントが届くんですか?」
私の育った場所には、王様や王子様なんていなかったからよくわからない。
しいて言うなら、私のお父様が魔術師の中の王様みたいなものだったけれど、ただ魔力が恐ろしく強いってだけで国を治めていたわけではなかった。
でも、皇太子、なんて身分の方は、そう簡単にお会いすることも、関わることもできなさそうな気がする。
そんな方からもプレゼントが届くなんて、かなりすごいのではないのだろうか。
「リディア、皇太子に対する敬称は、"様"ではなく"殿下"だよ」
「でん、か……?」
「そう、皇太子殿下、とお呼びするんだよ」
パパに言われて、こくこくと頷いた。
呼び方にも注意が必要らしい。
お会いすることなんてなかなかなさそうだけれど、間違った呼び方を誰かに聞かれてしまうだけでも、もしかしたら怒られてしまうのかもしれない、気をつけよう……
「皇太子殿下とジークは幼馴染のようなものだからね。二人とも、幼い頃は私の元で剣術を学んでいたんだよ」
「えっ!?」
確か騎士の皆さんが、皇太子殿下はジーク様と同じくらいお強いって言ってた気がする。
そのお二人とも、おじ様の教え子ということは……
「おじ様、きっと、すごく強い騎士様だったんですね」
「どうかなぁ……、皇子様に剣術を教えるのは、中央騎士団の団長が行うのが慣例だったからにすぎないし」
「そうなんですか?」
「ああ、だから昔は私も今の皇帝陛下とともに、私の父の元で剣術を学んだものだよ」
なんというか、この国の皇族の方々と随分と近しいお家みたいだ。
でも、誰かと一緒に剣術を学ぶって楽しそう。
私は同世代の子どもと剣を交えながら剣術を学ぶような経験はできなかったら、ちょっと憧れる。
「で、その皇太子殿下は、何をくださったのかしら?」
手のひらよりちょっと大きい箱を持ち上げて、ママは興味津々だ。
「時計だと思いますよ。先日会った時にちょうど壊されまして、次に何かくれる時に新しいものをくれるよう言っておいたので」
「あら、本当だわ」
「ま、ママ?勝手に開けちゃ……」
「別に気にしなくていい」
ジーク様の言葉を聞くや否や、ママは持っていた箱を開けてしまった。
私はその行為に驚いて慌てたのだけれど、ジーク様は予想の範囲内だったようで全く気にしていないみたいだ。
「さすが皇族の贈り物ね、とても質のよい懐中時計だわ」
ママがそう言うので、気になってママの手元を覗き込んだ。
銀色の懐中時計には細かい細工が施されており、文字盤には宝石が散りばめられている。
洗練された美しいデザインだ、と私でも思う。
美しいジーク様に、きっとよくお似合いになるデザインだ。
「使えればなんでもよかったんですが……」
ジーク様はこれほどすごい贈り物をもらっても、特別驚いたり喜んだりする様子もなくいつもと変わらない。
その様子を見ていると、私のプレゼントは大丈夫だろうか、と不安になる。
物足りないと思われないだろうか、いらないと、思われてしまわないだろうか……
「お兄様は何を用意したの?」
「私のはこれだよ」
おじ様はプレゼントの中から、細長い箱を取り出した。
すると、ジーク様から、なぜかため息が聞こえてくる。
「父上、今年も、ですか……」
「ああ、騎士たるもの、いくつあっても困らないだろう?」
「使い慣れた1本しか使いませんよ、いただいたもののほとんどは美術品のように飾って終わってます」
騎士たるもの……細長い箱……
「ひょっとして、剣ですか?」
「ああ、おそらくな。去年も一昨年も剣が届いた」
「だがっ、これは軽いし、なかなか使い勝手がいいと思うぞ!」
「今使っているものも、過去にいただいたものも、そうでしたよ」
そう言いながらも、ジーク様は手に持っていた私からのプレゼントを近くの机に置き、おじ様が持っていた箱を開ける。
中から出てきたのは、実用的というよりは芸術性を重視したようにも見える一振の剣だった。
「きれい、ですね」
「だろう?リディアにもわかるかい?この剣の美しさが!」
おじ様はなぜか興奮気味である。
騎士様だけあって、剣がお好きなのかもしれない。
「確かに軽いですが、今使っているものと変わりませんよ」
「今の剣、大切にされているんですね」
「ああ。使いやすいし、使い慣れているからな。それに今の剣も成人の儀で父上に貰ったものなんだ」
おじ様、ひょっとしてジーク様に剣ばかり贈っていらっしゃるのでは……
「いやぁ、ジークの剣術は本当に素晴らしいからね、新しい剣をたくさん買ってあげたくなるんだよ」
私も剣はお父様からいただいたけれど、正直この一振で十分だ。
次から次へと新しいものを貰っても、むしろ上手く扱えなくて困ってしまいそう。
「そろそろ、剣はいいのではないでしょうか?きっと今のが使えなくなっても、代わりの剣もたくさんお持ちでしょうし……」
「そうか、では次は違うものを考えてみようか」
「なんて言いながら、来年もジークに剣を買っちゃうに一票」
「僕もかな」
「俺もそう思います」
もはや賭けにもなっていない。
ママもパパもジーク様も、おじ様はまた剣を買うと思っているようだ。
でも、それだけ、ジーク様の剣術を誇らしく思っていらっしゃるのだろう、剣術を褒めていらっしゃったおじ様はご自分のことのように嬉しそうだった。
「ねぇ、ジーク、リディアからのプレゼントも見てあげて?」
「えっ」
「そうそう、リディア、がんばったんだよ」
「パパまでっ!」
どうしよう、こんな素敵なプレゼントの流れで開けられちゃうなんて。
きっと、たいしたことない、つまらないプレゼントだって思われてしまう……
「私も気になるな」
おじ様まで興味を持ってしまった。
どうしよう、と思っているとジーク様が近くまで来る。
「後で見た方がいいなら、後にするが?」
「え……?」
ジーク様は本当にお優しい、きっとここで開けられることを恐れている私に気づいてくださったのだ。
「あら、せっかくだからここで開けてよ。ジークの反応が見たいわ」
「ですが、叔母上……」
「大丈夫よリディア、リディアが心配するようなことは、何もないわ」
ママは私と目線をあわせ、私を安心させるようにそう言ってくれた。
確かに、ジーク様はお優しいのだから、いらないと思ったところで、そんな素振りはお見せにならないだろう。
けれど、豪華なプレゼントをたて続けに見た後だということもあって、どうしても不安が消えない。
「でも本当に、たいしたことなくて……」
「俺は、おまえが俺のために準備してくれたというだけで、すごく嬉しい。だから、大丈夫だ」
ジーク様は、私の耳元にお顔を寄せて、おそらく私にしか聞こえないようにそう言った。
パパとママが、なになにナイショ話?なんて騒いでいる。
「俺も中身が気になる、開けてみてもいいか?」
私はなぜか急に顔が熱くなって、ドキドキが止まらなくて、頷くのが精一杯だった。
ジーク様が包みを手に取り、私が巻いたリボンをしゅるしゅるとはずしていく、その光景がまるでスローモーションのように見えて、心臓がただただ煩い。
「これは……」
「あ、あの……っ」
ハンカチを取り出したジーク様が、まじまじとそれを眺めている。
気になったのか、横からおじ様も覗き込んだ。
私は何か言わなければ、と思うのに、上手く言葉が出てこない。
「リディアが刺繍したのよ、それ」
私の代わりに、ママが説明してくれる。
すると、ジーク様は私の顔を見て、そこから目線がさらに下へと下がる。
「その怪我、もしかして……」
「あっ」
私は指先にたくさん貼ってある絆創膏の存在を思い出し、慌てて両手を後ろに隠す。
「そうよ、リディアの努力の結晶なんだから!」
なぜかママは誇らしげだ。
私はたったこれだけの刺繍に、こんなにいっぱい傷を作って、呆れられていないか心配だというのに。
「そして、これは私からおまけよ!」
そういうと、ママはどんっと四角い箱を置いた。
そして、ママが勢いよく箱を開けると同時にとんでもないものが見えて、私は青ざめる。
「ま、ママ!?なんで、こんなもの……っ」
私はそれが少しでもジーク様の視界に入らないよう、身体全体を使って隠そうとただ必死になった。
けれど、小さい私がどんなにがんばっても、長身のジーク様からしっかりと見えてしまっている気がする。
「ママ、これは有効活用するって……っ」
「今、有効活用しているじゃない」
これのどこが有効活用だというのか。
箱の中には、私が今まで失敗を重ねた証であるハンカチが、おそらく全部入っている。
「こんなもの、貰っても……っ」
「貰って、よいのですか?」
「え……?」
私の言葉を遮るように、ジーク様がママに聞いた。
確かにハンカチ自体はとても質のよいものだと思うけれど、こんなもの貰ってどうするのだろう……
「もちろんよ、そのために持ってきたんだもの」
「ありがとうございます」
そう言うと、ジーク様は必死に隠そうとしている私をやんわりと移動させ、私の失敗作を手に取った。
私は、ただ恥ずかしくて、恥ずかしすぎて、穴があったら入りたいような気分で、どうにかなってしまいそうなのだけれど、ジーク様はそんな私の心を知ってか知らずか、真剣に1枚1枚手に取って見ていく。
そして、数枚手に取った後、ジーク様がこちらを向いた。
「ありがとう、リディア。大切にする」
ふわりと、ジーク様が微笑んだ。
私の顔はまた熱くなって、心臓がどくどくと音をたてる。
今、絶対私の顔は赤いのだろう、私はいたたまれなくてジーク様の視線から逃げるように俯いた。
「あ、ちなみに、それは本当におまけだから、僕らのプレゼントはこっちね」
パパが別の箱を取り出して、ジーク様に差し出す。
よかった、パパとママからのちゃんとしたプレゼントもあった、そう思うと少しだけほっとする。
「礼服、ですか……」
「ええ、あなたほっとくと新しいの仕立てないでしょう?」
「ブリジットの見立てだから、きっとジーク君によく似合うよ」
ジーク様が箱をあけると、お洋服が一着出てきた。
確かに、パパの言った通り、ジーク様にとてもよく似合いそう、いつか着ていらっしゃるところを拝見したい。
「自分の服を選ぶのはあまり得意ではないので、助かります、叔母上」
ママはジーク様のそういうところを理解して、用意したんだろうな……
私はまだまだ、ジーク様のこと知らないことばかりだ。
私たちのプレゼントが一通り開封されて、さらにママが気になった箱をどんどん開けてしまって、そろそろ戻ろうかなんて話していた時だった。
パタパタと部屋を走る足音が聞こえてきて、皆の視線が自然と扉へと集まる。
この家に、普段走り回るような方は居ないから、何か急ぎの用事を伝えるためにお邸の誰かが走っているのかも、と私は身構えたのだけれど。
「兄上、お誕生日おめでとう!」
バンっと勢いよく扉を開いたのは、明るい笑顔が印象的な少年だった。
髪はジーク様やママ、おじ様と同じ銀色、だけど瞳の色はその3人の誰とも異なるきれいな琥珀色。
このきれいな琥珀色の瞳、どこかで見覚えがあるような気がするけど、思い出せない。
そして、何より気になるのが……
「あに、うえ……?」
呆然とする中でぽつんと呟いた私の言葉は、おそらく誰の耳にも届いてはいない。
「わ、本当に父上がいる!」
「そう、伝えただろう」
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弟さんがいらっしゃるなんてお聞きしたことなかったから、私はとっても驚いていた。
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