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ep.006 騎士団との出会い
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「朝食はどうだった?」
「はい、パンが本当にふわふわで、とってもおいしかったです!」
侯爵様がきっと気に入ると言った焼きたてのパンは、ほんのりあたたかくてふわふわで、朝からとても幸せな気分にさせてくれた。
今日もあたたかいスープもあって、昨日の野菜ジュースもあった。
昨日よりも見た目はよくなったけれど、侯爵様はもう少し改善するように言っていた。
とてもおいしかったから、私は気にしないのだけれど。
「それで、どこに向かっているのでしょう?」
朝食を食べて、ミアさんに動きやすいお洋服に着替えさせてもらった。
ついでに、いつもおろしたままの髪も、邪魔にならないように結い上げてもらった。
剣術の練習をしてくる、と伝えたらこの世界では女の子はなかなかやらないそうなのでびっくりしていたけれど。
それでも私は久々なので、楽しみで楽しみで仕方がない。
今はついてくるように、と言われて侯爵様とお邸を出て広い敷地を歩いているところだ。
久々のお日様の下は、ちょっと眩しい。
「この先に、騎士団の宿舎と訓練場がある」
「騎士団?」
「ああ、この国には魔法騎士団が5つあるんだ、東部を守る東方騎士団、西部を守る西方騎士団、北部を守る北方騎士団、南部を守る南方騎士団、そしてこの首都を守る中央騎士団」
侯爵様の説明で、ここは首都だと知った。
5つも騎士団が存在するということは、この国は大きな国なのだろうか。
「騎士団自体は他にもいくつかあるが、魔法騎士が所属する騎士団はこの5つだけだ」
「そんなにたくさんあるんですか、騎士団」
「ああ、で、この先にあるのは中央騎士団の宿舎と訓練場だ」
「ということは、侯爵様のおうちに、中央騎士団のおうちがあるんですか?」
「ああ、俺が中央騎士団の団長だからな」
「すごい!!」
正直、騎士団というものをあまりよく知らないけれど。
団長になるのってきっとすごく大変なはずだ、そう思ったのだけど。
侯爵様は、そうでもない、と首を振る。
「中央騎士団の団長は代々シュヴァルツ家の当主が務めている。俺は父親から爵位とともに引き継いだだけにすぎない」
首都を守るなんて、一番大事そうな気がするから試験とかで決めるような想像をしていたけれど、ちょっと違ったみたいだ。
「うちは代々魔力の強い人間が多い家だからな」
だから決して自分が凄かったわけではないのだ、と侯爵様は言う。
でも、やっぱりそれなりにすごい力を持っていないと、人はついて来ないし続かないのではないだろうか。
「本当にすごいのは副団長だろうな。副団長は完全に実力で選ばれるから」
「でも、私はやっぱり団長を務めている侯爵様もすごいと思います!!」
「そうか」
ありがとう、と侯爵様は笑った。
そうしてたわいもない会話をしながら歩いているうちに、たくさんの騎士様たちが訓練しているのが見えてきた。
「うわぁ、すごい」
みんな真剣に剣をふっている。
1人で素振りをしていたり、剣を交えて手合わせしていたり。
時には剣を手放し、身体を鍛えることに専念している人も。
父としか訓練したことがない私からすれば、壮観だった。
団長である侯爵様が現れたからだろうか、皆ちらちらとこちらを見ている。
けれど、侯爵様は特に気にしていないようだ。
「先に騎士たちの訓練を少し見てくる、ここで少し待っていてくれ」
「はい!あ、あれ、借りてもいいですか?」
目の前には木剣がたくさんたてかけてあるのが見えて。
待っている間、勘を取り戻すために素振りでもしていようと思った。
「ああ、かまわない」
侯爵様の言葉を聞くや否や、私は駆け出した。
たてかけてあった中から1本取って、素振りをはじめようとしたのだけれど。
後ろから伸びてきた手に、さっと奪われる。
「え?」
「このままだと少しでかいだろう」
振り向くと侯爵様がすぐそばまで来ていて。
木剣を魔法で小さくしてから手渡してくれる。
「さっきより軽くなってる……」
「それくらいがちょうどいいはずだ」
「あ、ありがとうございます」
確かに久々に振るにも、振りやすそうな重さかもしれない。
長さも長すぎず、ちょうどいい。
私がそれで素振りをはじめたのを見て、侯爵様はすぐ戻ると言い残して他の騎士様たちの方へ行ってしまった。
どれくらい時間が経ったのだろう。
素振りに夢中になっていたところ、2人の騎士様が私の近くに来た。
「あの、団長とはどのようなご関係で?」
「なぜこちらにいらしたのです?」
そうか騎士様たちは何も知らないのだ。
大事な訓練中に見知らぬ人間、しかも女の子が現れたらびっくりするだろう。
そうでなくとも、この国では女性はあまり剣を握らないのだし。
「侯爵様に、剣術の訓練をしていただくようにお願いしたのです。でも先に皆さんの訓練を見ないといけないようだったので、待っている間木剣をお借りして素振りしていました」
「剣術を習われたことがあるのですか?」
「はい、少しだけですが」
騎士を名乗る人たちほど使えるわけではもちろんない。
所詮、何もやったことない人よりちょっと使えるかな、くらいのものである。
でも、小さい頃から剣の練習は、魔法を使うより楽しかった。
魔法の練習よりも、父が厳しくなく、自由にやらせてくれたからかもしれないが。
「でしたら、軽く我々と手合わせしてみませんか?」
「是非!」
ちょうど素振りにちょっと飽きてきたところだった。
だから、すごく嬉しくて。
相手が手練れの騎士様だということも忘れて頷いてしまった。
「わあっ、いたた……」
「何があった!?」
私は騎士様に何度も何度も向かっていき、時に受け流され、時にかわされ、そして最後には勢いよく吹っ飛ばされた。
そして、どすんという大きな音を立て、盛大に尻もちをついて座り込んでしまったところで、侯爵様が戻ってきたようだ。
嫌なところを見られてしまった。
「これは、いったいどういう状況だ?」
いつもより数段低いような気がする侯爵様の声。
騎士様たちがひぃっと声をあげて、縮み上がっている。
「勝手なことしてごめんなさい」
「怪我は?」
私はぶんぶんと首を振った。
すると、侯爵様がすごい力で引っ張り上げて、立ち上がらせてくれる。
さすが騎士、やっぱり力が違うようだ。
「で、何があってこうなった?」
「あ、その、騎士様に手合わせのお誘いをしてもらって」
「ほう……」
侯爵様は、なぜか騎士様たちを睨んでいるようだ。
勝手に受けてしまったのは私なのに。
「それで、つい受けてしまって。その、待ってる約束だったのに、ごめんなさい……」
「いや、それはいい」
侯爵様はそう言って私の頭を撫でてくれた。
その手はとても優しいのに、侯爵様のお顔は厳しい表情のままだ。
「それで?騎士団に所属する騎士ともあろうものが、まさかこんな小さい、しかも女相手に手加減もできなかったというわけか」
また、騎士様たちの悲鳴があがる。
「ち、違います!ちゃんと手加減していただいてました!」
でなければ、私なんて一撃で吹っ飛ばされて終わりだっただろう。
手加減をしてくれたから、この程度で済んでいるのだ。
そう訴えたのに、侯爵様はそもそもこっちを見てくれていない。
「あ、あの、その、お、お嬢様が思いのほかお強く、つい、力が入ってしまいまして……」
「つまり、リディアのせいだと?」
「い、いえ、決してそのような……!」
騎士様たちはぶるぶると震えていて、顔色も悪い。
元はといえば安易のお受けしてしまった、私のせいなのに。
「おまえたちには後ほど罰を……」
「だ、ダメです!!」
勢いあまって、侯爵様に飛びついてしまった。
でも、引くに引けない。
「ダメです、侯爵様、悪いの私です!お二人は何も!だから……!」
「本当にそう思うか?」
「いえ、決してそのような……!」
「我々の考えが至りませんでした……」
「ほら、この二人は罪を認めている。だからおまえは何も気にしなくていい」
「で、でもっ」
はぁっと侯爵様が深い深いため息をついた。
「こいつらは騎士だ。おまえに怪我をさせない力加減くらい、ちゃんと見極めて相手をすべきだ。それができなかったのだから、罰を受けて当然だろう。だいたい、安易におまえを誘ったのもそいつらが悪い」
そうだろう、と侯爵様が騎士様たちに視線を向ける。
騎士様たちは顔面蒼白の状態で、こくこくと頷いている。
「じゃあ、今回だけ、今回だけ許してください!今後は私も気をつけますから!」
「だから、おまえが悪かったわけではない、と」
「それでも、私も気をつければ、もうこんなこと起きないですし!」
「なぜそこまでこいつらの罰をおまえが気にするんだ?」
「だって、私はすごく嬉しかったですし」
また、侯爵様が盛大にため息をつく。
やっぱりダメだろうか、許して、もらえないのだろうか……
「今回は不問にする。だが、次はないと思え、いいな」
「侯爵様!!ありがとうございます!」
「礼を言うべきなのは、おまえではないと思うがな」
「お嬢様、ありがとうございます!」
「本当に本当にありがとうございます!」
団長の罰って本当に本当に厳しくて。
と2人はなぜか私の手をとって、侯爵様ではなく私にしきりのお礼を言っている。
どうしよう、と困って侯爵様も見ると、騎士様たちの手が離れ、同時うわぁっと声があがった。
あわてて騎士様たちの方を見れば、2人ともなぜか地面に転がっている。
「え?あ、わ…っ」
大丈夫ですか、と声をかける前に、今度は侯爵様が私の手を掴んでいて。
私はそのまますごい勢いで侯爵様に引っ張って行かれた。
「あの、なんですか、これ?」
侯爵様に引っ張られ、騎士様があまりいない訓練場の端の方に連れて来られた。
そして、侯爵様が魔法で出したのは、私と同じくらいの大きさの……なんだろう、これ……
そーっと触れてみると、弾力があってぷよぷよしている。
「それに向かって、剣を打ち込んでみろ」
「これに、ですか……?」
お父様と訓練しているときは、こういうぷにぷにしたようなやつではなく、木の棒とかでやっていたけれど。
大丈夫かな、と若干不安を覚えつつ、私は木剣を構えて踏み込んだ。
「え?……わぁっ!」
弾力のあるそれは、私の打ち込んだ木剣をしっかりと受け止めて、そのまま跳ね返すように押し返してくる。
私はバランスを崩して倒れそうになるのを、勢いに押されて後ずさりながらも必死に両足に力を入れて耐える。
「よく耐えたな」
「これは、いったい……」
「どうだ、自分の力をそのまま返された気分は」
「私の、力……?」
「そいつは打ち込みを行うたび、同じ力で剣をはね返してくる。頑張って耐えないと、吹っ飛ばされるぞ」
なるほど、動かない木にひたすら打ち込むより、ずっとずっと大変そうだし、鍛えられそうな気がする。
「並の力だと跳ね返されて終わる。せいぜいそいつが跳ね返せないくらい、強く打ち込めるようになることだな」
なるほど、力が強くなればこのぷるぷるしたやつも跳ね返せない。
それくらい強く打ち込めるようになるための訓練、ということか。
「よし、もう1回!!」
私は剣を構え直し、勢いよく地面を蹴った。
「つっかれたぁ……」
あれから何度繰り返しただろう。
打ち込んで、跳ね返されて、倒れないように踏ん張って、また構えなおして打ち込んで。
すっかり疲れ切った私は、地面に座り込んでしまった。
「フォームも悪くなかったし、なかなか筋はいいようだ」
「本当ですか?」
「ああ」
侯爵様に褒められた、それだけですごく嬉しくなる。
それに、疲れきっているけど、久々におもいっきり身体を動かせてとても気分がいい。
「そういえば、侯爵様はやらないんですか、訓練」
「ん?たまに団員と手合わせしたりしているし、素振りもしている。さすがに何もしないと腕が落ちるからな」
そりゃあそうか。
騎士団の団長なのだ、鍛錬を怠ったりはしないだろう。
きっと、剣を持つ姿も美しいだろうな、と思う。
ティーカップを持ってお茶を飲むだけで、あんなに美しかったのだから。
「見てみたいな、侯爵様が剣を持つところ……」
「ほう……」
「あっ、ごめんなさい!」
心の声は、気づかぬうちにしっかりと声に出してしまっていて。
本人にしっかりと届いてしまって、非常にいたたまれない。
「違うんです、あの、ちょっと気になったというか、じゃなくて、その、えっと……」
ダメだ、ごまかそうと思ったけど、喋れば喋るほど、変なことを言ってしまいそう。
侯爵様の方をちゃんと見れない。
そう思って俯いていると、ふっと笑い声が頭上からふってくる。
「少しだけだぞ」
そう言うと、侯爵様はくしゃくしゃっと私の頭を撫でて、それから手を引いて立ち上がらせてくれた。
「いいんですか?」
「ああ、ついてこい」
やった!と飛び上がりそうな気持ちを必死に抑えて、私は侯爵様の後を追いかけた。
「はい、パンが本当にふわふわで、とってもおいしかったです!」
侯爵様がきっと気に入ると言った焼きたてのパンは、ほんのりあたたかくてふわふわで、朝からとても幸せな気分にさせてくれた。
今日もあたたかいスープもあって、昨日の野菜ジュースもあった。
昨日よりも見た目はよくなったけれど、侯爵様はもう少し改善するように言っていた。
とてもおいしかったから、私は気にしないのだけれど。
「それで、どこに向かっているのでしょう?」
朝食を食べて、ミアさんに動きやすいお洋服に着替えさせてもらった。
ついでに、いつもおろしたままの髪も、邪魔にならないように結い上げてもらった。
剣術の練習をしてくる、と伝えたらこの世界では女の子はなかなかやらないそうなのでびっくりしていたけれど。
それでも私は久々なので、楽しみで楽しみで仕方がない。
今はついてくるように、と言われて侯爵様とお邸を出て広い敷地を歩いているところだ。
久々のお日様の下は、ちょっと眩しい。
「この先に、騎士団の宿舎と訓練場がある」
「騎士団?」
「ああ、この国には魔法騎士団が5つあるんだ、東部を守る東方騎士団、西部を守る西方騎士団、北部を守る北方騎士団、南部を守る南方騎士団、そしてこの首都を守る中央騎士団」
侯爵様の説明で、ここは首都だと知った。
5つも騎士団が存在するということは、この国は大きな国なのだろうか。
「騎士団自体は他にもいくつかあるが、魔法騎士が所属する騎士団はこの5つだけだ」
「そんなにたくさんあるんですか、騎士団」
「ああ、で、この先にあるのは中央騎士団の宿舎と訓練場だ」
「ということは、侯爵様のおうちに、中央騎士団のおうちがあるんですか?」
「ああ、俺が中央騎士団の団長だからな」
「すごい!!」
正直、騎士団というものをあまりよく知らないけれど。
団長になるのってきっとすごく大変なはずだ、そう思ったのだけど。
侯爵様は、そうでもない、と首を振る。
「中央騎士団の団長は代々シュヴァルツ家の当主が務めている。俺は父親から爵位とともに引き継いだだけにすぎない」
首都を守るなんて、一番大事そうな気がするから試験とかで決めるような想像をしていたけれど、ちょっと違ったみたいだ。
「うちは代々魔力の強い人間が多い家だからな」
だから決して自分が凄かったわけではないのだ、と侯爵様は言う。
でも、やっぱりそれなりにすごい力を持っていないと、人はついて来ないし続かないのではないだろうか。
「本当にすごいのは副団長だろうな。副団長は完全に実力で選ばれるから」
「でも、私はやっぱり団長を務めている侯爵様もすごいと思います!!」
「そうか」
ありがとう、と侯爵様は笑った。
そうしてたわいもない会話をしながら歩いているうちに、たくさんの騎士様たちが訓練しているのが見えてきた。
「うわぁ、すごい」
みんな真剣に剣をふっている。
1人で素振りをしていたり、剣を交えて手合わせしていたり。
時には剣を手放し、身体を鍛えることに専念している人も。
父としか訓練したことがない私からすれば、壮観だった。
団長である侯爵様が現れたからだろうか、皆ちらちらとこちらを見ている。
けれど、侯爵様は特に気にしていないようだ。
「先に騎士たちの訓練を少し見てくる、ここで少し待っていてくれ」
「はい!あ、あれ、借りてもいいですか?」
目の前には木剣がたくさんたてかけてあるのが見えて。
待っている間、勘を取り戻すために素振りでもしていようと思った。
「ああ、かまわない」
侯爵様の言葉を聞くや否や、私は駆け出した。
たてかけてあった中から1本取って、素振りをはじめようとしたのだけれど。
後ろから伸びてきた手に、さっと奪われる。
「え?」
「このままだと少しでかいだろう」
振り向くと侯爵様がすぐそばまで来ていて。
木剣を魔法で小さくしてから手渡してくれる。
「さっきより軽くなってる……」
「それくらいがちょうどいいはずだ」
「あ、ありがとうございます」
確かに久々に振るにも、振りやすそうな重さかもしれない。
長さも長すぎず、ちょうどいい。
私がそれで素振りをはじめたのを見て、侯爵様はすぐ戻ると言い残して他の騎士様たちの方へ行ってしまった。
どれくらい時間が経ったのだろう。
素振りに夢中になっていたところ、2人の騎士様が私の近くに来た。
「あの、団長とはどのようなご関係で?」
「なぜこちらにいらしたのです?」
そうか騎士様たちは何も知らないのだ。
大事な訓練中に見知らぬ人間、しかも女の子が現れたらびっくりするだろう。
そうでなくとも、この国では女性はあまり剣を握らないのだし。
「侯爵様に、剣術の訓練をしていただくようにお願いしたのです。でも先に皆さんの訓練を見ないといけないようだったので、待っている間木剣をお借りして素振りしていました」
「剣術を習われたことがあるのですか?」
「はい、少しだけですが」
騎士を名乗る人たちほど使えるわけではもちろんない。
所詮、何もやったことない人よりちょっと使えるかな、くらいのものである。
でも、小さい頃から剣の練習は、魔法を使うより楽しかった。
魔法の練習よりも、父が厳しくなく、自由にやらせてくれたからかもしれないが。
「でしたら、軽く我々と手合わせしてみませんか?」
「是非!」
ちょうど素振りにちょっと飽きてきたところだった。
だから、すごく嬉しくて。
相手が手練れの騎士様だということも忘れて頷いてしまった。
「わあっ、いたた……」
「何があった!?」
私は騎士様に何度も何度も向かっていき、時に受け流され、時にかわされ、そして最後には勢いよく吹っ飛ばされた。
そして、どすんという大きな音を立て、盛大に尻もちをついて座り込んでしまったところで、侯爵様が戻ってきたようだ。
嫌なところを見られてしまった。
「これは、いったいどういう状況だ?」
いつもより数段低いような気がする侯爵様の声。
騎士様たちがひぃっと声をあげて、縮み上がっている。
「勝手なことしてごめんなさい」
「怪我は?」
私はぶんぶんと首を振った。
すると、侯爵様がすごい力で引っ張り上げて、立ち上がらせてくれる。
さすが騎士、やっぱり力が違うようだ。
「で、何があってこうなった?」
「あ、その、騎士様に手合わせのお誘いをしてもらって」
「ほう……」
侯爵様は、なぜか騎士様たちを睨んでいるようだ。
勝手に受けてしまったのは私なのに。
「それで、つい受けてしまって。その、待ってる約束だったのに、ごめんなさい……」
「いや、それはいい」
侯爵様はそう言って私の頭を撫でてくれた。
その手はとても優しいのに、侯爵様のお顔は厳しい表情のままだ。
「それで?騎士団に所属する騎士ともあろうものが、まさかこんな小さい、しかも女相手に手加減もできなかったというわけか」
また、騎士様たちの悲鳴があがる。
「ち、違います!ちゃんと手加減していただいてました!」
でなければ、私なんて一撃で吹っ飛ばされて終わりだっただろう。
手加減をしてくれたから、この程度で済んでいるのだ。
そう訴えたのに、侯爵様はそもそもこっちを見てくれていない。
「あ、あの、その、お、お嬢様が思いのほかお強く、つい、力が入ってしまいまして……」
「つまり、リディアのせいだと?」
「い、いえ、決してそのような……!」
騎士様たちはぶるぶると震えていて、顔色も悪い。
元はといえば安易のお受けしてしまった、私のせいなのに。
「おまえたちには後ほど罰を……」
「だ、ダメです!!」
勢いあまって、侯爵様に飛びついてしまった。
でも、引くに引けない。
「ダメです、侯爵様、悪いの私です!お二人は何も!だから……!」
「本当にそう思うか?」
「いえ、決してそのような……!」
「我々の考えが至りませんでした……」
「ほら、この二人は罪を認めている。だからおまえは何も気にしなくていい」
「で、でもっ」
はぁっと侯爵様が深い深いため息をついた。
「こいつらは騎士だ。おまえに怪我をさせない力加減くらい、ちゃんと見極めて相手をすべきだ。それができなかったのだから、罰を受けて当然だろう。だいたい、安易におまえを誘ったのもそいつらが悪い」
そうだろう、と侯爵様が騎士様たちに視線を向ける。
騎士様たちは顔面蒼白の状態で、こくこくと頷いている。
「じゃあ、今回だけ、今回だけ許してください!今後は私も気をつけますから!」
「だから、おまえが悪かったわけではない、と」
「それでも、私も気をつければ、もうこんなこと起きないですし!」
「なぜそこまでこいつらの罰をおまえが気にするんだ?」
「だって、私はすごく嬉しかったですし」
また、侯爵様が盛大にため息をつく。
やっぱりダメだろうか、許して、もらえないのだろうか……
「今回は不問にする。だが、次はないと思え、いいな」
「侯爵様!!ありがとうございます!」
「礼を言うべきなのは、おまえではないと思うがな」
「お嬢様、ありがとうございます!」
「本当に本当にありがとうございます!」
団長の罰って本当に本当に厳しくて。
と2人はなぜか私の手をとって、侯爵様ではなく私にしきりのお礼を言っている。
どうしよう、と困って侯爵様も見ると、騎士様たちの手が離れ、同時うわぁっと声があがった。
あわてて騎士様たちの方を見れば、2人ともなぜか地面に転がっている。
「え?あ、わ…っ」
大丈夫ですか、と声をかける前に、今度は侯爵様が私の手を掴んでいて。
私はそのまますごい勢いで侯爵様に引っ張って行かれた。
「あの、なんですか、これ?」
侯爵様に引っ張られ、騎士様があまりいない訓練場の端の方に連れて来られた。
そして、侯爵様が魔法で出したのは、私と同じくらいの大きさの……なんだろう、これ……
そーっと触れてみると、弾力があってぷよぷよしている。
「それに向かって、剣を打ち込んでみろ」
「これに、ですか……?」
お父様と訓練しているときは、こういうぷにぷにしたようなやつではなく、木の棒とかでやっていたけれど。
大丈夫かな、と若干不安を覚えつつ、私は木剣を構えて踏み込んだ。
「え?……わぁっ!」
弾力のあるそれは、私の打ち込んだ木剣をしっかりと受け止めて、そのまま跳ね返すように押し返してくる。
私はバランスを崩して倒れそうになるのを、勢いに押されて後ずさりながらも必死に両足に力を入れて耐える。
「よく耐えたな」
「これは、いったい……」
「どうだ、自分の力をそのまま返された気分は」
「私の、力……?」
「そいつは打ち込みを行うたび、同じ力で剣をはね返してくる。頑張って耐えないと、吹っ飛ばされるぞ」
なるほど、動かない木にひたすら打ち込むより、ずっとずっと大変そうだし、鍛えられそうな気がする。
「並の力だと跳ね返されて終わる。せいぜいそいつが跳ね返せないくらい、強く打ち込めるようになることだな」
なるほど、力が強くなればこのぷるぷるしたやつも跳ね返せない。
それくらい強く打ち込めるようになるための訓練、ということか。
「よし、もう1回!!」
私は剣を構え直し、勢いよく地面を蹴った。
「つっかれたぁ……」
あれから何度繰り返しただろう。
打ち込んで、跳ね返されて、倒れないように踏ん張って、また構えなおして打ち込んで。
すっかり疲れ切った私は、地面に座り込んでしまった。
「フォームも悪くなかったし、なかなか筋はいいようだ」
「本当ですか?」
「ああ」
侯爵様に褒められた、それだけですごく嬉しくなる。
それに、疲れきっているけど、久々におもいっきり身体を動かせてとても気分がいい。
「そういえば、侯爵様はやらないんですか、訓練」
「ん?たまに団員と手合わせしたりしているし、素振りもしている。さすがに何もしないと腕が落ちるからな」
そりゃあそうか。
騎士団の団長なのだ、鍛錬を怠ったりはしないだろう。
きっと、剣を持つ姿も美しいだろうな、と思う。
ティーカップを持ってお茶を飲むだけで、あんなに美しかったのだから。
「見てみたいな、侯爵様が剣を持つところ……」
「ほう……」
「あっ、ごめんなさい!」
心の声は、気づかぬうちにしっかりと声に出してしまっていて。
本人にしっかりと届いてしまって、非常にいたたまれない。
「違うんです、あの、ちょっと気になったというか、じゃなくて、その、えっと……」
ダメだ、ごまかそうと思ったけど、喋れば喋るほど、変なことを言ってしまいそう。
侯爵様の方をちゃんと見れない。
そう思って俯いていると、ふっと笑い声が頭上からふってくる。
「少しだけだぞ」
そう言うと、侯爵様はくしゃくしゃっと私の頭を撫でて、それから手を引いて立ち上がらせてくれた。
「いいんですか?」
「ああ、ついてこい」
やった!と飛び上がりそうな気持ちを必死に抑えて、私は侯爵様の後を追いかけた。
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相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。
不治の誤字脱字病患者の作品です。
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