1 / 1
抱きしめた
しおりを挟む「君の家の食事はいつもあんなに賑やかなのか。」
家まで送る帰り道、玄奘は思い出し笑いをするように言った。冬の空は冴えていて、コンビニの隣を通っても小さな星の光がいくつか見える。
「まあ、いつもあんなもんかもな。下の弟妹はまだ小せえし。」
俺が料理をしている間も玄奘は、風呂から上がったまま牛魔王ごっこと称してフルチンのまま暴れ出すチビ共の身体を拭いて着替えさせてくれた。
食事中も卓袱台の周りを走りながら戯けるチビ共を優しく隣に座らせてくれていた。そんなに面倒見のいい奴だとは思ってなかったので、正直俺は驚いた。
「君は大変だな。学校から帰った後も弟妹の世話も家事もあるのでは、勉学などしてる暇などないだろう。」
「まあな。でもこの聖天大威勢威悟空様に不可能なことはねえよ。」
眉を寄せる玄奘の顔を見て、俺はからからと笑いとばす。笑い声と共に白い息が上がる。
「いつまでもそんなことを言っているから他校の不良に絡まれるのだぞ。」
「よく言うぜっ。観音学園生徒会長のお前がいつも頼りないから、他校にナメられんじゃねえか。玄奘のケツに挿れたら極楽が見られるとかくだらねえ噂流されやがって。俺は自分から喧嘩売ったりしてないんだぞ。喧嘩になるのはオメーが攫われるのをいつも助けるためじゃねえか。」
「喧嘩の理由を私になすりつける気か。」
「バカ言えっ。オメーが襲われるの、ほっとけねえだけだ」
思わず大気な声を出してしまった。その瞬間俺の袖が急に強く引かれた。
「えっ……、な、なんだよ。」
思わず動揺して声が揺れた。
「信号。」
「ん?」
「赤信号だ、アホ猿。」
前を見れば赤信号だった。夜だといっても国道沿いの脇道はまだ車が頻繁に通っている。
「……んだ。サンキュ。」
「前をよく見て歩きなさい。私だって君のことを心配していないわけじゃない。」
頬と鼻頭を赤く染めた玄奘が言った。
ぴっぽおぴっぽおと横断歩道の信号機からマヌケな音がする。玄奘が歩き出すのを確認してから俺も脚を出す。
あっという間に玄奘の家に着いた。何度見ても豪勢な家だ。もう少し一緒に歩いていたかった気もする。
「……炒飯、美味しかった。ありがとう」
立派な門に手を掛けて、玄奘が振り向いた。正面にから見る玄奘の顔は整っていて、マフラーで口元が覆われているところがさらに神秘的な魅力を讃えている。俺はなぜかドギマギしてくる。
「お、おう。」
「私の家の食事はもうずっと味がしないのだ。父も母も私も、誰も何も喋らない。食器の立てる音だけがする冷えきった食卓で……。」
三蔵はぐっと拳を握り込んで続けた。
「夜中に父と母が言い争う声が聞こえてくる。お互いに罵り合い、憎み合う怒鳴り声が。それを聞いている時、私は思うのだ。」
三蔵は唇の間からやっとのことで言葉を零した。
「生まれてこなければ良かったと……。」
俯いた三蔵の首にぎゅっと腕を回して、俺の胸に押し付ける。そんな顔すんな。俺が、俺が、ずっと守ってやる。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
西遊記 程(チェン)老人宅でのひととき
Atokobuta
BL
西遊記 二次創作
迷子になっていた老人を助けた一行はその屋敷に招かれる。そのときの夜と翌朝の話。
悟空×三蔵です。
第一章は酔っ払って悟空に甘える三蔵。R12くらい。
第二章は悟空に惚れられたと勘違いしている面白孫娘の一人語り
三人の三蔵
Atokobuta
BL
悟空、悟浄、八戒が三蔵の姿になってしまうカオスな話。当然のように悟空→三蔵。八戒チート。悟浄根暗。
こちらでも公開しています。三人の三蔵 | atこぶた #pixiv https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16087401
春節の助っ人
Atokobuta
BL
旧正月の出店を出した主人公に思わぬ助っ人が現れて大助かりする、モブ一人語り。ほのぼの系。ほんのり空三匂わせあります。
こちらでも公開しています。https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16697721 春節の助っ人 | atこぶた #pixiv
おれの大事なお師匠様と阿呆の八戒とが、入れ替わっただと⁉︎
Atokobuta
BL
西遊記二次創作。三蔵と八戒の入れ替わり。悟空→三蔵のBLです。
こちらでも公開しています。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16069875
悟浄に叱られたい人向けSS
Atokobuta
BL
西遊記原典の二次創作。
あなたは空三の関係を信じるモブ。
悟浄があなたを逐一叱ってくれます。
こちらでも公開しています。https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16181893 悟浄に叱られたい人向けSS | atこぶた #pixiv
空は空、猿は猿
Atokobuta
BL
悟空→三蔵の叶わぬ恋前提の、八戒×悟空の愛のない性行為
こちらでも公開しています。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16123553
深夜の常連客がまさかの推しだった
Atokobuta
BL
誰もが知るあの西遊記の現代パロディBLで悟空×玄奘です。もだもだ、無自覚いちゃいちゃ、両片思い、敬語攻、仲間に見守られ系の成分を含んでいて、ハッピーエンドが約束されています。
コンビニ店員悟空の前に現れたのは、推しである読経系Vtuberの玄奘だった。前世の師は今世の推し。一生ついていきますと玄奘に誓った悟空は、仲間の八戒、悟浄も巻き込んで、四人でアカペラボーカルグループJourney to the Westとしてデビューすることに。
しかし、玄奘に横恋慕したヤクザから逃れるために、まずは悟空に求められたのは恋人のふりをしてキスを見せつけること…⁉︎
オタクは推しとつきあってはならないと動揺しながらも、毎日推しの笑顔を至近距離で見せられればドキドキしないはずがなく、もだもだ無自覚いちゃいちゃ同棲生活が今、始まる。
よかったらお気に入り登録していただけると嬉しいです。
表紙は大鷲さんhttps://twitter.com/owsup1 に描いていただきました。
こちらでも公開始めました。https://kakuyomu.jp/works/16817330667285886701
https://story.nola-novel.com/novel/N-74ae54ad-34d6-4e7c-873c-db2e91ce40f0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる