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紅ナタ日常

紅ナタ日常

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紅害嗣こうがいじは早朝から事務所の防音室にこもってギター練習を続けている。食事もとらないまま、もう夕刻だ。さすがに見かねたマネージャーの納多なたは扉を開けた。

「熱心なのはいいが、根を詰めすぎだ。少し休憩しろ」
 集中しているせいか、妙にぎらぎらした目で紅害嗣は言い放った。

「いつも真面目にやれってうるさく説教してくるくせに。好きにやらせろ」

「人間は腹が減るだろう?気ばかり焦っても身体がついてこなければ、練習の効果は薄い。ミュージシャンと言えども身体が資本だ」

 納多はトレイを差し出した。湯気の立つコーヒーとこんがり焼いたクラブサンドだ。見た瞬間、紅害嗣の腹が鳴った。
「正直な腹だな」と、納多は笑う。

 空腹を見抜かれた紅害嗣は悔しそうに唇を歪めたが、すぐにサンドイッチにかぶりついた。爽やかなトマトの酸味と溶けたチーズの風味が絡み合いながら口腔を満たしていく。シャキシャキが残ったレタスの歯ごたえも良い。

 むさぼり食う紅害嗣に、納多は落ち着いた声音で言う。
「焦らなくてもいい。お前の努力は必ず報われる」

 口をもぐもぐさせてから飲み込んだ紅害嗣はぽつりと言った。
「……焦ってなんかねえし」

「それは朗報だ。それなら今後は適度に休憩を挟んで練習するのだな」

 納多からの圧を感じながら紅害嗣は肩をすくめた。
「……へいへい。ところでこの部屋、飲食厳禁って書いてあるけど」

 急に納多の顔は青ざめた。会社の規律は絶対であり、破れば社長から雷を落とされる。
「おい、紅害嗣っ。この部屋を出ろっ。今すぐにだっ」

「あと一口で食べ終わる」

「おいっ、パンくずが零れてるじゃないか。気をつけろっ。今から二人で掃除をせねば」
「お前が勝手に持ってきたんじゃねえか。俺は知らねえよ」
 のたのたと歩く紅害嗣の背を納多はぐいぐい押しながら外に出た。
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