22 / 40
21.
しおりを挟む
その日の晩、カイは再び暗殺者ギルドへと足を運んでいた。
目的は兵士の鎧等を受け取るため……。
するとギルドにはなぜか誘惑の姿があった。
「ここに正体不明はいるかしら?」
「いえ、さすがに見たことありませんが?」
「そう……」
残念そうに顔を伏せる誘惑。
「あの兵士の殺され方……、絶対にこの町にアンノウンがいるはず……。どこにいるのかしら」
しかし、誰も言葉を発しない。
それはこの誘惑に怯えているからだろうか?
それともこの場に暗殺王がいるからだろうか?
「あれっ、貴方は見ない顔ね……。もしかしてここのギルド員?」
「……」
何も話さずに誘惑の動向を探る。
「まぁ自分のことを話したくないやつもいるわね。ごめんなさいね。あと、もしアンノウンについてわかったら教えてもらえるかしら」
カイが一度頷くと誘惑は満足そうにギルドを出ていった。
◇
「お待たせいたしました。なにやら少し騒ぎがあったみたいですけど大丈夫でしょうか?」
「問題ない。トラブルにはなれている」
「それならいいですけど……」
「それよりも例の品は?」
「もちろん準備できていますよ」
支部長は奥の部屋から兵士の装備一式を持ってきてくれる。
「これで何をなさるおつもりなのですか?」
「それを言わないといけないのか?」
「いいえ、とんでもない。すこしだけ気になっただけですよ」
必死に支部長は首を横に振って否定していた。
「そうか……、それは命拾いしたな」
カイは懐に手を入れていた。
既にナイフに手をかけていた。
それに気づいていたのか、青い表情を浮かべていた。
しかし、カイが手を離したとわかったら安心したようにソファーにもたれ掛かって人心地付いていた。
「ま、全く……、暗殺王様はお戯れが過ぎますよ。われわれギルド員が貴方様に絶対服従なことを知っておられるのに……」
「いや、どんなやつも信用していない。いざという時は寝首を掻いてくると思っておかないと不意を突かれるからな」
「その警戒心……、だからこそ貴方様が最高の暗殺者と言われるんですよ……。ナンバーズの何人かが同一人物の可能性がある……とは思ってもまさか全員が同じ人物だとは――」
余計なことを言おうとした支部長を睨みつけて黙らせる。
「す、すみません。これは暗殺ギルド内でもトップシークレットにございましたね」
「次言ってみろ。そのときはお前の寝首を掻かせて貰うぞ」
「は、はい……」
青ざめたギルド長を他所にカイは装備を持って部屋を出て行った。
そして、装備の具合を確かめながらここの支部長について考えていた。
(やつは口が軽すぎるな。今後を考えると消しておいた方が良いかもしれないな。下手に名前を知られるとまた一から今のシステムを作る必要が出てくるからな)
ナンバーズ全員がカイ。
その状況を作り出せたのには暗殺ギルドの長という立場があったからに他ならない。
ただ、カイ自身がギルドを作り出した……というよりはいつの間にかカイを祭り上げる組織ができていて、それが暗殺者ギルドになっていた……というだけで、いざという時は切り捨てるつもりでいたが――。
「意外と便利なんだよな……。この暗殺者ランク……と言う制度は」
暗殺者ランク一、正体不明。
彼に頼めばほぼ確実に依頼を成功させる。
当然ながら依頼は正体不明に集まってくる。
ただ、彼を恨む人間はそれと同等の力を持っているであろう人間に暗殺を依頼する。
この暗殺者ランクで考えるなら二位や三位といった人間だ。
カイを殺すためにカイに依頼する……という状況を作り出せるので、あとは恨みを持った依頼人を殺せば安心できる状況に戻せる。
一桁全てを占領しておけばまず他の人物に依頼は回らない。
「今回は予想外だったけどな……」
まさか十位の誘惑にまで声がかかるとは……。
いや、単に金がなかっただけかもしれないが。
それでも彼女だけに声をかけるのではなく、冒険者ギルド長は予定通りカイにも声をかけている。
その上で今は問題ないと判断して放置しているのだが――。
「まぁ、他所の町まで付いてくるのならそろそろ退場して貰うか……」
目的は兵士の鎧等を受け取るため……。
するとギルドにはなぜか誘惑の姿があった。
「ここに正体不明はいるかしら?」
「いえ、さすがに見たことありませんが?」
「そう……」
残念そうに顔を伏せる誘惑。
「あの兵士の殺され方……、絶対にこの町にアンノウンがいるはず……。どこにいるのかしら」
しかし、誰も言葉を発しない。
それはこの誘惑に怯えているからだろうか?
それともこの場に暗殺王がいるからだろうか?
「あれっ、貴方は見ない顔ね……。もしかしてここのギルド員?」
「……」
何も話さずに誘惑の動向を探る。
「まぁ自分のことを話したくないやつもいるわね。ごめんなさいね。あと、もしアンノウンについてわかったら教えてもらえるかしら」
カイが一度頷くと誘惑は満足そうにギルドを出ていった。
◇
「お待たせいたしました。なにやら少し騒ぎがあったみたいですけど大丈夫でしょうか?」
「問題ない。トラブルにはなれている」
「それならいいですけど……」
「それよりも例の品は?」
「もちろん準備できていますよ」
支部長は奥の部屋から兵士の装備一式を持ってきてくれる。
「これで何をなさるおつもりなのですか?」
「それを言わないといけないのか?」
「いいえ、とんでもない。すこしだけ気になっただけですよ」
必死に支部長は首を横に振って否定していた。
「そうか……、それは命拾いしたな」
カイは懐に手を入れていた。
既にナイフに手をかけていた。
それに気づいていたのか、青い表情を浮かべていた。
しかし、カイが手を離したとわかったら安心したようにソファーにもたれ掛かって人心地付いていた。
「ま、全く……、暗殺王様はお戯れが過ぎますよ。われわれギルド員が貴方様に絶対服従なことを知っておられるのに……」
「いや、どんなやつも信用していない。いざという時は寝首を掻いてくると思っておかないと不意を突かれるからな」
「その警戒心……、だからこそ貴方様が最高の暗殺者と言われるんですよ……。ナンバーズの何人かが同一人物の可能性がある……とは思ってもまさか全員が同じ人物だとは――」
余計なことを言おうとした支部長を睨みつけて黙らせる。
「す、すみません。これは暗殺ギルド内でもトップシークレットにございましたね」
「次言ってみろ。そのときはお前の寝首を掻かせて貰うぞ」
「は、はい……」
青ざめたギルド長を他所にカイは装備を持って部屋を出て行った。
そして、装備の具合を確かめながらここの支部長について考えていた。
(やつは口が軽すぎるな。今後を考えると消しておいた方が良いかもしれないな。下手に名前を知られるとまた一から今のシステムを作る必要が出てくるからな)
ナンバーズ全員がカイ。
その状況を作り出せたのには暗殺ギルドの長という立場があったからに他ならない。
ただ、カイ自身がギルドを作り出した……というよりはいつの間にかカイを祭り上げる組織ができていて、それが暗殺者ギルドになっていた……というだけで、いざという時は切り捨てるつもりでいたが――。
「意外と便利なんだよな……。この暗殺者ランク……と言う制度は」
暗殺者ランク一、正体不明。
彼に頼めばほぼ確実に依頼を成功させる。
当然ながら依頼は正体不明に集まってくる。
ただ、彼を恨む人間はそれと同等の力を持っているであろう人間に暗殺を依頼する。
この暗殺者ランクで考えるなら二位や三位といった人間だ。
カイを殺すためにカイに依頼する……という状況を作り出せるので、あとは恨みを持った依頼人を殺せば安心できる状況に戻せる。
一桁全てを占領しておけばまず他の人物に依頼は回らない。
「今回は予想外だったけどな……」
まさか十位の誘惑にまで声がかかるとは……。
いや、単に金がなかっただけかもしれないが。
それでも彼女だけに声をかけるのではなく、冒険者ギルド長は予定通りカイにも声をかけている。
その上で今は問題ないと判断して放置しているのだが――。
「まぁ、他所の町まで付いてくるのならそろそろ退場して貰うか……」
0
お気に入りに追加
838
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】
王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。
しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。
「君は俺と結婚したんだ」
「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」
目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。
どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。
人喰い狼と、世界で最も美しい姫君
十五夜草
ファンタジー
森の奥深くには、かつて魔法使いと共に国を救ったが今は人喰い狼と恐れられる魔狼が住んでいた。
あるとき、魔狼は森の入口で赤ん坊を拾う。
周囲の人の気配はない。どうやら捨て子のようだ。
自分も昔は親から捨てられた身であった魔狼は悩んだ末、引き取り手のない赤ん坊を育てる事にした。
これは、親に捨てられた魔狼が、同じく親に捨てられた人間の少女を美しく育て上げるまでのお話。
※MAGNET MACROLINKとノベルアップで掲載していました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる