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まずは武器屋を覗いてみる。
王都ということもあってその品揃えはかなり良い方だと思うが、物自体は以前カイがいた町の方が良いものだった。
「どうですか? 何か買われますか?」
「……そうだな」
じっくり商品を見ていると店員が声をかけてくる。
「何かご入り用でございますか?」
「あぁ、お城の兵士がつけていたような剣がないかな……と思ってな」
「……それはちょうど良かったです。我が店は王国より直接依頼を受けている武器屋でございますのでそれと同じものもご準備できますよ。ただ、王国が使っている武器でございますので、やはり値段の方がそれなりにかかってしまいまして――」
「いくらくらいするのですか?」
「金貨十枚……でいかがでしょうか?」
ニヤリと微笑む店員。
かなり足元を見られているようだ。
これを買うことは容易にできるが、それをしてはおそらく兵士達にも話がいってしまうだろう。
そこまで口の硬い店員にはとても見えない。
だからこそカイは首を横に振る。
「さ、さすがにそれだけのお金はありません。兵士の人が持っているのを見て格好いいなぁと思っただけですので別のものを探そうと思います……」
「そうですか。では仕方ないですね。また何かいるものがあったら声をかけてください」
「わかりました。ありがとうございます」
カイは店員にお礼を言うと店を出てくる。
◇
「何も買わなくても良かったのですか?」
チルが心配そうに聞いてくる。
「あぁ、買いたいと思うものがなかったからな」
「あの剣も……高かったですもんね。でもカイさんなら――」
「いや、そこまで欲しいものでもないからな。無理に買う必要はないだろうから」
「そうですか……。それなら次はどこに行きますか?」
「うーん、表の通りだと少し高いからな。ちょっと裏路地の方も見て回るか?」
「あ、危なくないですか?」
「俺が付いてるから大丈夫だ。それに逆に裏通りの方が……な」
カイはチラッと未だに付いてきている兵士の姿を確認していた。
さすがに武器屋から出てきた後も付いてきてるとあってはほぼ確定だろうな。
(さて、どうするか……)
今後の行動を考えながら歩いているとちょうどいい、あまり人通りもなく薄暗い裏路地を発見する。
「よし、チル、ちょっといいか?」
「どうかしましたか?」
「俺は少し隠れているからな。何かあったら呼んでくれ」
「えっ、えっ、ちょ、ちょっと、カイさん!?」
慌てふためくチルを他所に俺は近くに隠れる。
するとチルは突然訳がわからなくなってその場で慌てふためいていた。
「ど、どうしよう……、こんなところで……」
顔色を青くして周囲をキョロキョロと見ていくチル。
するとそのタイミングで兵士が姿を見せていた。
「どうかしましたか?」
「そ、その……、カイさんがどこかに行ってしまって……」
「それは大変ですね……。私も一緒に探してあげましょうか?」
言葉は至って普通な兵士の対応だった。
ただその表情はすごくにやけており、見ただけで何か企んでいることがすぐにわかる。
でも、それはカイだからわかることであって、チルは全く気づいた様子がなかった。
「ありがとうございます。でもよろしいのですか?」
「もちろんだとも。その分のお礼はしっかりしてもらうからな」
兵士の手がゆっくりとチルの方へと伸びていく。
おそらく兵士が完全に油断してしまったタイミング。
その瞬間にカイは飛び出して兵士の首元にナイフを添える。
体の部分は鎧で守られているので急所になり得るところはそこくらいしかなかった。
「動くな……」
低い声で告げるとようやく事態を読み込めた兵士がゆっくり両手を上げる。
「お、お前は一体……?」
「いいから教えろ。どうして俺たちを狙った?」
「……金を持っていそうだったからに決まってるだろう?」
何を当たり前なことをと言いたげに答えてくる。
「俺たち市民より兵士の方が金は持ってるはずだが?」
「そんなことないだろう。俺たちの給料なんて安いものだ。だからこうして金の持ってそうな旅人を見たら襲って金目のものを奪うんだよ」
「……そうか。救いようがないな。この国は……」
それだけ聞くとカイはそのままナイフを突き立てる。もちろん血の飛ぶ方向は計算に入れて、なるべくつかないようにしながら……。
王都ということもあってその品揃えはかなり良い方だと思うが、物自体は以前カイがいた町の方が良いものだった。
「どうですか? 何か買われますか?」
「……そうだな」
じっくり商品を見ていると店員が声をかけてくる。
「何かご入り用でございますか?」
「あぁ、お城の兵士がつけていたような剣がないかな……と思ってな」
「……それはちょうど良かったです。我が店は王国より直接依頼を受けている武器屋でございますのでそれと同じものもご準備できますよ。ただ、王国が使っている武器でございますので、やはり値段の方がそれなりにかかってしまいまして――」
「いくらくらいするのですか?」
「金貨十枚……でいかがでしょうか?」
ニヤリと微笑む店員。
かなり足元を見られているようだ。
これを買うことは容易にできるが、それをしてはおそらく兵士達にも話がいってしまうだろう。
そこまで口の硬い店員にはとても見えない。
だからこそカイは首を横に振る。
「さ、さすがにそれだけのお金はありません。兵士の人が持っているのを見て格好いいなぁと思っただけですので別のものを探そうと思います……」
「そうですか。では仕方ないですね。また何かいるものがあったら声をかけてください」
「わかりました。ありがとうございます」
カイは店員にお礼を言うと店を出てくる。
◇
「何も買わなくても良かったのですか?」
チルが心配そうに聞いてくる。
「あぁ、買いたいと思うものがなかったからな」
「あの剣も……高かったですもんね。でもカイさんなら――」
「いや、そこまで欲しいものでもないからな。無理に買う必要はないだろうから」
「そうですか……。それなら次はどこに行きますか?」
「うーん、表の通りだと少し高いからな。ちょっと裏路地の方も見て回るか?」
「あ、危なくないですか?」
「俺が付いてるから大丈夫だ。それに逆に裏通りの方が……な」
カイはチラッと未だに付いてきている兵士の姿を確認していた。
さすがに武器屋から出てきた後も付いてきてるとあってはほぼ確定だろうな。
(さて、どうするか……)
今後の行動を考えながら歩いているとちょうどいい、あまり人通りもなく薄暗い裏路地を発見する。
「よし、チル、ちょっといいか?」
「どうかしましたか?」
「俺は少し隠れているからな。何かあったら呼んでくれ」
「えっ、えっ、ちょ、ちょっと、カイさん!?」
慌てふためくチルを他所に俺は近くに隠れる。
するとチルは突然訳がわからなくなってその場で慌てふためいていた。
「ど、どうしよう……、こんなところで……」
顔色を青くして周囲をキョロキョロと見ていくチル。
するとそのタイミングで兵士が姿を見せていた。
「どうかしましたか?」
「そ、その……、カイさんがどこかに行ってしまって……」
「それは大変ですね……。私も一緒に探してあげましょうか?」
言葉は至って普通な兵士の対応だった。
ただその表情はすごくにやけており、見ただけで何か企んでいることがすぐにわかる。
でも、それはカイだからわかることであって、チルは全く気づいた様子がなかった。
「ありがとうございます。でもよろしいのですか?」
「もちろんだとも。その分のお礼はしっかりしてもらうからな」
兵士の手がゆっくりとチルの方へと伸びていく。
おそらく兵士が完全に油断してしまったタイミング。
その瞬間にカイは飛び出して兵士の首元にナイフを添える。
体の部分は鎧で守られているので急所になり得るところはそこくらいしかなかった。
「動くな……」
低い声で告げるとようやく事態を読み込めた兵士がゆっくり両手を上げる。
「お、お前は一体……?」
「いいから教えろ。どうして俺たちを狙った?」
「……金を持っていそうだったからに決まってるだろう?」
何を当たり前なことをと言いたげに答えてくる。
「俺たち市民より兵士の方が金は持ってるはずだが?」
「そんなことないだろう。俺たちの給料なんて安いものだ。だからこうして金の持ってそうな旅人を見たら襲って金目のものを奪うんだよ」
「……そうか。救いようがないな。この国は……」
それだけ聞くとカイはそのままナイフを突き立てる。もちろん血の飛ぶ方向は計算に入れて、なるべくつかないようにしながら……。
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