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とりあえずジッと見ていると余計な警戒をされるかもしれない。
カイはすぐに誘惑の側を離れていた。
ただ、彼女の方は不思議そうにカイのことを眺めていた。
「あれっ、あの子って……?」
首を傾げてカイを見た後に側へと近付いてくる。
「すみません、少しよろしいですか?」
声をかけられたカイは一瞬驚いたもののすぐに笑みを見せて答える。
「はい、どうかされましたか?」
「いえ、少し知り合いに似ていたもので……。でも、私たちって会ったことないですもんね」
胸元がよく見えるように前屈みになりながら話しかけてくる。
それを見てカイはため息交じりに答える。
「初めて会ったと思いますけど?」
「……そうですよね。ありがとうございます」
誘惑がお辞儀をしてくる。
それを見た後、カイはそのまま歩いて去って行く。
ただ、そのとき誘惑がニヤリと微笑んでいたことに気づかずに――。
◇
(いきなり声をかけてくるなんて、まさか俺の正体に気づいたのか?)
首を傾げながらカイは他の人に紛れるように進んでいく。
目標は特にない。
ただ、さっきの美女に声をかけられるなんて、普通じゃないことを体験した後なのでなるべくいつも通りの姿になれるように行動していた。
そして、カイの予想は的中していた。
(……つけられているな)
ただ歩いているだけなんだが、周りの人の視線が後ろに向いている。
それだけの視線を集めるのはあの誘惑くらいしか考えられない。
(どこかで俺が怪しいと勘づいたんだろうな)
さすがにここだと完全に姿を隠しきれないか……。
何も気づいていないそぶりを見せながらカイは改めて町の外へ向かう門付近に向かっていく。
まだ朝早い時間。
この時間なら門の付近に人だかりができているはず。
それならばここに紛れ込むことで姿を隠せるはず。
そして、カイの予想通り門付近はたくさんの人であふれていた。
町の外へ出る許可を貰っているようだ。
この列の中を当然のように進んでいく。
ただ、誘惑はこの人混みではまともに進むことができずにすぐに流れに戻されていった。
「……見逃してしまった……か。ただ、あの身のこなし、ただ者じゃない……」
誘惑がぽつりと呟く。
そんな彼女の様子を人混みの中から確認するカイ。
目をつけられてしまったか。それならなるべく早く始末するしかないな……。
◇
夜になり、チルを家に送った後、カイは服を着替え、殺しの冒険者として誘惑の部屋へと向かっていく。
一応宿は変えていないはず……。
懐にはナイフを忍ばせて、その上で逃げるために必要な魔道具をいくつか準備しておいた。
そして、ゆっくり扉を叩く。
「はーい、どなたー?」
「……俺だ」
低い声を出して誘惑に答える。
すると彼女が肥を出してくる。
「少し待ってね。今お風呂なの」
「……あぁ、わかった」
言葉少なめに答えて彼女が出てくるのを待つ。
ただ、最悪の場合を考えてナイフに手をかけながら――。
すると扉が激しい音を鳴らしながら開かれる。
タオル一枚巻かずに誘惑が開けた瞬間に拳を握り、戦闘態勢を取っていた。
「……おい、これはどういうことだ? 返答次第ではただじゃ置かないぞ?」
「……本当にあなただったのね。いいわ、中に入ってちょうだい」
どうやら彼女もカイの偽物だと思っただけのようだ。
カイを部屋の中に招き入れる。
そして、そこで初めてタオルを体に巻き付けていた。
「それにしても私の体を見て何も反応しないなんて……、人の殺しにしか興味がない冒険者……、噂は本当だったのね」
「いや、別にそういうわけじゃないが、詳しく説明する理由もないな。それよりも正体不明のことは何か掴めたか?」
「いいえ、全くよ。知り合いの情報屋を当たったけど有益な情報は得られなかったわ」
「そうか……」
嘘はついていないようだな。
「それで貴方の方はどうなの? 普通に町の中を歩いていたみたいだけど」
「気づいていたのか……」
「当然よ。私の色香に惑わされないのは貴方くらいですもの。当たり前のように撒かれてしまったけどね」
「お前は怪しすぎるからな。そんなやつがいたら撒くに決まってるだろう」
「……そこは私の能力不足ね。それで何か情報は仕入れたの?」
「そうだな……。隣町で見かけたらしい情報は仕入れたが、まだ内容は確認していない」
「そう……。わかったわ。それじゃあまた何かわかったらここで情報交換しましょう」
「……そのときは襲ってくるのは勘弁してくれ」
「あらっ、私はか弱い女なのだから簡単に制圧できるでしょう?」
「……言ってろ」
それだけ伝えるとカイは誘惑の部屋を出て行く。
さて、偽情報を流したが、どう動いてくるか――。
カイはすぐに誘惑の側を離れていた。
ただ、彼女の方は不思議そうにカイのことを眺めていた。
「あれっ、あの子って……?」
首を傾げてカイを見た後に側へと近付いてくる。
「すみません、少しよろしいですか?」
声をかけられたカイは一瞬驚いたもののすぐに笑みを見せて答える。
「はい、どうかされましたか?」
「いえ、少し知り合いに似ていたもので……。でも、私たちって会ったことないですもんね」
胸元がよく見えるように前屈みになりながら話しかけてくる。
それを見てカイはため息交じりに答える。
「初めて会ったと思いますけど?」
「……そうですよね。ありがとうございます」
誘惑がお辞儀をしてくる。
それを見た後、カイはそのまま歩いて去って行く。
ただ、そのとき誘惑がニヤリと微笑んでいたことに気づかずに――。
◇
(いきなり声をかけてくるなんて、まさか俺の正体に気づいたのか?)
首を傾げながらカイは他の人に紛れるように進んでいく。
目標は特にない。
ただ、さっきの美女に声をかけられるなんて、普通じゃないことを体験した後なのでなるべくいつも通りの姿になれるように行動していた。
そして、カイの予想は的中していた。
(……つけられているな)
ただ歩いているだけなんだが、周りの人の視線が後ろに向いている。
それだけの視線を集めるのはあの誘惑くらいしか考えられない。
(どこかで俺が怪しいと勘づいたんだろうな)
さすがにここだと完全に姿を隠しきれないか……。
何も気づいていないそぶりを見せながらカイは改めて町の外へ向かう門付近に向かっていく。
まだ朝早い時間。
この時間なら門の付近に人だかりができているはず。
それならばここに紛れ込むことで姿を隠せるはず。
そして、カイの予想通り門付近はたくさんの人であふれていた。
町の外へ出る許可を貰っているようだ。
この列の中を当然のように進んでいく。
ただ、誘惑はこの人混みではまともに進むことができずにすぐに流れに戻されていった。
「……見逃してしまった……か。ただ、あの身のこなし、ただ者じゃない……」
誘惑がぽつりと呟く。
そんな彼女の様子を人混みの中から確認するカイ。
目をつけられてしまったか。それならなるべく早く始末するしかないな……。
◇
夜になり、チルを家に送った後、カイは服を着替え、殺しの冒険者として誘惑の部屋へと向かっていく。
一応宿は変えていないはず……。
懐にはナイフを忍ばせて、その上で逃げるために必要な魔道具をいくつか準備しておいた。
そして、ゆっくり扉を叩く。
「はーい、どなたー?」
「……俺だ」
低い声を出して誘惑に答える。
すると彼女が肥を出してくる。
「少し待ってね。今お風呂なの」
「……あぁ、わかった」
言葉少なめに答えて彼女が出てくるのを待つ。
ただ、最悪の場合を考えてナイフに手をかけながら――。
すると扉が激しい音を鳴らしながら開かれる。
タオル一枚巻かずに誘惑が開けた瞬間に拳を握り、戦闘態勢を取っていた。
「……おい、これはどういうことだ? 返答次第ではただじゃ置かないぞ?」
「……本当にあなただったのね。いいわ、中に入ってちょうだい」
どうやら彼女もカイの偽物だと思っただけのようだ。
カイを部屋の中に招き入れる。
そして、そこで初めてタオルを体に巻き付けていた。
「それにしても私の体を見て何も反応しないなんて……、人の殺しにしか興味がない冒険者……、噂は本当だったのね」
「いや、別にそういうわけじゃないが、詳しく説明する理由もないな。それよりも正体不明のことは何か掴めたか?」
「いいえ、全くよ。知り合いの情報屋を当たったけど有益な情報は得られなかったわ」
「そうか……」
嘘はついていないようだな。
「それで貴方の方はどうなの? 普通に町の中を歩いていたみたいだけど」
「気づいていたのか……」
「当然よ。私の色香に惑わされないのは貴方くらいですもの。当たり前のように撒かれてしまったけどね」
「お前は怪しすぎるからな。そんなやつがいたら撒くに決まってるだろう」
「……そこは私の能力不足ね。それで何か情報は仕入れたの?」
「そうだな……。隣町で見かけたらしい情報は仕入れたが、まだ内容は確認していない」
「そう……。わかったわ。それじゃあまた何かわかったらここで情報交換しましょう」
「……そのときは襲ってくるのは勘弁してくれ」
「あらっ、私はか弱い女なのだから簡単に制圧できるでしょう?」
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さて、偽情報を流したが、どう動いてくるか――。
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