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(冒険者ギルド)
「なに、あのマーグがもう殺されただと!?」
冒険者ギルドの奥の部屋、ギルド長のバルテルが報告を受けて驚いていた。
その報告を持ってきたギルド職員の女性も動揺を隠しきれない様子だが、それでも淡々と報告を行っていた。
「はい、今朝早くに大通りで倒れているところを発見されました」
「う……そ……だろ? 確かに最近のやつの言動は許容範囲を超えていた。ただ、それでもこのギルドの最高戦力だぞ。それがこうも簡単にやられるなんて……」
「えぇ、ただ昨日はかなりお酒を飲まれていたようで……」
「それでもやつなら最低限の警戒は行っていたはずだ。以前も別の暗殺者に狙われたときは返り討ちにしていたからな。殺気には人一倍警戒心が高い。そうでなくてはSランク冒険者になんてなれない。それがこうもあっさりと……。さすがに放っておく訳にはいかないな」
「どうされるのですか?」
「もちろん、もう一人のSランクを使う」
バルテルが告げると女性が驚きの表情を見せる。
「あの一度もギルドに顔を見せたことのない方を使うのですか? 実在されていたのですね――」
「あぁ、表の仕事をマーグに、裏の仕事を彼に任せていたからな。裏の仕事故にその存在を気取らせる訳にもいかなかった。だからギルドでも私だけが唯一連絡を取り合える……」
「そのことを私に話していただいてもよろしいのですか?」
「もちろんだ、暗殺者ランク十位の誘惑くん」
バルテルがニヤリと微笑むと今まで話を聞いていた女性も同じように笑みで返していた。
そして、今まできっちりと着こなしていたギルドの服の胸元をはだけさせて、甘美な息をつく。
あらわになる豊満な胸。
女性特有の色香が漂ってくる。
また、それと同時に今まで結わいていた紫色の髪をほどくと腰くらいまで届くほど長く艶やかだった。
思わずバルテルですら息をのんでしまうほどの美人がそこにいた。
「やっぱり気づいていたのですね」
「あぁ、これでもギルドの長だからな。君ほどの実力者となると見ただけで力のある人間だとわかるよ」
「そんな相手と対面してもよろしいのですか?」
「変な動きを見せれば殺すつもりだったが、今回は利害が一致しているようだからな」
「えぇ、私もそろそろ暗殺者ランク一桁……、人外の領域に行きたいと思っていたのですよ。今回の件は殺しの手口から見て、おそらく第一位、正体不明の仕業と考えるべきでしょうから。そんなやつを殺ることができれば私が彼の代わりに一位になる……ということも考えられますから」
唇を舐める女性。
その一つ一つの仕草が男を手玉に取るためにわざとしている行動なのだろう。
「アンノウンか……。確かに彼の仕業ならその痕跡の一切を残していないだろうな。でも、今回の依頼は一体誰が――?」
「Sランク冒険者に恨みを持つ相手ならたくさん考えられますね。態度も横暴な方でしたし……」
「そうだな。どちらにしても今のままではダメだからな。俺もSランクの彼に話しておく」
「わかりました。私は暗殺者ランクにも顔を乗せるSランク冒険者の方のお手並みを拝見させていただきますね」
◇
マーグの暗殺を終えたカイは自宅に戻り、そのままベッドに倒れ込む。
「さすがに一晩起きているのは疲れるな……。報酬の額も高いから受けたが、今後は考え物かもな」
そのまま眠りにつこうとすると窓をコンコンと叩く音が聞こえる。
「今度はそっちか……」
窓を開けると小さな鳥が中へと入ってくる。
その足には一枚の紙が括り付けられていた。
その紙を取ると小鳥はそのまま羽ばたいていった。
ため息交じりに寝る前にその紙を開いてみる。
そこには新しい依頼が書かれていた。
それをみてカイは苦笑を浮かべる。
「やっぱり、こんな依頼がくるよな。予防線をはっておいて良かったな」
カイが見ていた紙には『ランク十、誘惑と協力して正体不明の暗殺を頼みたい』と書かれていた。
これはカイの別名で暗殺者ランク四位、殺しの冒険者と呼ばれるSランク冒険者に当てられた依頼書だった。
(そうか……、今度はランク十位が狙ってくるのか……。誘惑という名前を考えるとおそらく女性……か)
紙を燃やし捨ててしまうと何も気にした様子はなく、そのままカイはそのままベッドの上に寝転がった。
そして、呟いていた。
「いくら強者を殺ったところで、一般人が奪われる存在なことには変わらないんだよな……。何かを奪われるくらいならその前に奪うしかない……」
カイは自身の両親が殺された時のことを思い出して苦笑いする。
殺された理由は特にない。
ただ、そこにいて邪魔だったから……。
強者同士の戦いに一般人は路傍の石程度でしかない。
強者には一般人の姿は見えない。
しかも、そいつは一般人を殺したとしてもお咎めなし。
理由は彼らの方が強く、使い道があるから……。
(それならば俺はその隙をついて、奴らに一矢報いてやる)
そう決意して、カイは初めての暗殺を行い、両親の仇をとったのだった。
奴らはカイの姿を見ても一切警戒することはなかった。
ただ、酒場の中で高笑いして、存在にすら気づいていない様子だった。
だからカイは彼が酔いつぶれたタイミングを見計らって、彼の心臓にナイフを突き立てる。
すると、あれほど近寄りがたいと思っていた強者はあっさり命を落としていた。
このままだと捕まってしまうと思い、カイはその場を離れ、人混みの中に紛れてしまう。
これでもうカイが殺したということはわからなくなっていた。
木を隠すなら森の中。つまり、カイみたいな一般人を隠すなら同じような一般人の中……というわけだ。
カイ自身に特別な力は何もない。
ただし、そもそも強者から認知すらされないのなら彼らに一矢報いて平穏な生活を迎えられるかもしれない。
「なに、あのマーグがもう殺されただと!?」
冒険者ギルドの奥の部屋、ギルド長のバルテルが報告を受けて驚いていた。
その報告を持ってきたギルド職員の女性も動揺を隠しきれない様子だが、それでも淡々と報告を行っていた。
「はい、今朝早くに大通りで倒れているところを発見されました」
「う……そ……だろ? 確かに最近のやつの言動は許容範囲を超えていた。ただ、それでもこのギルドの最高戦力だぞ。それがこうも簡単にやられるなんて……」
「えぇ、ただ昨日はかなりお酒を飲まれていたようで……」
「それでもやつなら最低限の警戒は行っていたはずだ。以前も別の暗殺者に狙われたときは返り討ちにしていたからな。殺気には人一倍警戒心が高い。そうでなくてはSランク冒険者になんてなれない。それがこうもあっさりと……。さすがに放っておく訳にはいかないな」
「どうされるのですか?」
「もちろん、もう一人のSランクを使う」
バルテルが告げると女性が驚きの表情を見せる。
「あの一度もギルドに顔を見せたことのない方を使うのですか? 実在されていたのですね――」
「あぁ、表の仕事をマーグに、裏の仕事を彼に任せていたからな。裏の仕事故にその存在を気取らせる訳にもいかなかった。だからギルドでも私だけが唯一連絡を取り合える……」
「そのことを私に話していただいてもよろしいのですか?」
「もちろんだ、暗殺者ランク十位の誘惑くん」
バルテルがニヤリと微笑むと今まで話を聞いていた女性も同じように笑みで返していた。
そして、今まできっちりと着こなしていたギルドの服の胸元をはだけさせて、甘美な息をつく。
あらわになる豊満な胸。
女性特有の色香が漂ってくる。
また、それと同時に今まで結わいていた紫色の髪をほどくと腰くらいまで届くほど長く艶やかだった。
思わずバルテルですら息をのんでしまうほどの美人がそこにいた。
「やっぱり気づいていたのですね」
「あぁ、これでもギルドの長だからな。君ほどの実力者となると見ただけで力のある人間だとわかるよ」
「そんな相手と対面してもよろしいのですか?」
「変な動きを見せれば殺すつもりだったが、今回は利害が一致しているようだからな」
「えぇ、私もそろそろ暗殺者ランク一桁……、人外の領域に行きたいと思っていたのですよ。今回の件は殺しの手口から見て、おそらく第一位、正体不明の仕業と考えるべきでしょうから。そんなやつを殺ることができれば私が彼の代わりに一位になる……ということも考えられますから」
唇を舐める女性。
その一つ一つの仕草が男を手玉に取るためにわざとしている行動なのだろう。
「アンノウンか……。確かに彼の仕業ならその痕跡の一切を残していないだろうな。でも、今回の依頼は一体誰が――?」
「Sランク冒険者に恨みを持つ相手ならたくさん考えられますね。態度も横暴な方でしたし……」
「そうだな。どちらにしても今のままではダメだからな。俺もSランクの彼に話しておく」
「わかりました。私は暗殺者ランクにも顔を乗せるSランク冒険者の方のお手並みを拝見させていただきますね」
◇
マーグの暗殺を終えたカイは自宅に戻り、そのままベッドに倒れ込む。
「さすがに一晩起きているのは疲れるな……。報酬の額も高いから受けたが、今後は考え物かもな」
そのまま眠りにつこうとすると窓をコンコンと叩く音が聞こえる。
「今度はそっちか……」
窓を開けると小さな鳥が中へと入ってくる。
その足には一枚の紙が括り付けられていた。
その紙を取ると小鳥はそのまま羽ばたいていった。
ため息交じりに寝る前にその紙を開いてみる。
そこには新しい依頼が書かれていた。
それをみてカイは苦笑を浮かべる。
「やっぱり、こんな依頼がくるよな。予防線をはっておいて良かったな」
カイが見ていた紙には『ランク十、誘惑と協力して正体不明の暗殺を頼みたい』と書かれていた。
これはカイの別名で暗殺者ランク四位、殺しの冒険者と呼ばれるSランク冒険者に当てられた依頼書だった。
(そうか……、今度はランク十位が狙ってくるのか……。誘惑という名前を考えるとおそらく女性……か)
紙を燃やし捨ててしまうと何も気にした様子はなく、そのままカイはそのままベッドの上に寝転がった。
そして、呟いていた。
「いくら強者を殺ったところで、一般人が奪われる存在なことには変わらないんだよな……。何かを奪われるくらいならその前に奪うしかない……」
カイは自身の両親が殺された時のことを思い出して苦笑いする。
殺された理由は特にない。
ただ、そこにいて邪魔だったから……。
強者同士の戦いに一般人は路傍の石程度でしかない。
強者には一般人の姿は見えない。
しかも、そいつは一般人を殺したとしてもお咎めなし。
理由は彼らの方が強く、使い道があるから……。
(それならば俺はその隙をついて、奴らに一矢報いてやる)
そう決意して、カイは初めての暗殺を行い、両親の仇をとったのだった。
奴らはカイの姿を見ても一切警戒することはなかった。
ただ、酒場の中で高笑いして、存在にすら気づいていない様子だった。
だからカイは彼が酔いつぶれたタイミングを見計らって、彼の心臓にナイフを突き立てる。
すると、あれほど近寄りがたいと思っていた強者はあっさり命を落としていた。
このままだと捕まってしまうと思い、カイはその場を離れ、人混みの中に紛れてしまう。
これでもうカイが殺したということはわからなくなっていた。
木を隠すなら森の中。つまり、カイみたいな一般人を隠すなら同じような一般人の中……というわけだ。
カイ自身に特別な力は何もない。
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