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第8話:マスターの守護者

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 目の前には、羨望の眼差しを向けてくるAランク冒険者はるか



「ありがとうございます! 一生手を洗いません!!」

「いやいや、ここダンジョンだからね!? 汚れるからちゃんと帰ったら手を洗ってよ……」

「こ、こればっかりは奏さんの頼みでも聞けないです……。一生の思い出なんですから――」

「こ、ここに来たらいつでも握手をしてあげるから……」

「ほ、本当ですか!?」

「う、うん……、ほ、本当だよ……?」



 全力で身を乗り出してくる遥に僕は思わず身動ぎしてしまう。



「あっ、でも、できたら魔物は倒さないで欲しいな……」

「でも、魔物を倒さないと奥に来れない……」

「そ、そうだった……。ど、どうしよう……」



 何か良い方法はないだろうか?

 そうじゃないと毎回魔物を全滅されかねない。
 さすがに魔物全部を復活させるとDPの消費が激しすぎる。

 そう何度もできることではない……。

 でも、冒険者てきを認識してしまうと魔物たちは戦ってしまう。



「うーん、敵じゃなかったら良い?」

「あっ、それなら私がダンジョンマスターかなたさんを守ったら良いんじゃないですか?」

「えっ!?」



 そ、そんなことできるの?



 一応調べてみると、マスターの守護者も任命できることがわかった。



――――――――――――――――――――
守護者指名
消費DP:1×レベル(一人目)
――――――――――――――――――――



 でも、遥さんのレベルって――。



「えっと、遥さんって今、レベルはいくつだった?」

「76ですよ?」

「そっか……」



 ――DPが足りない。いや、そういえば、今朝に冒険者を倒してた。それならその装備があるはず……。



 モニターを開き、装備がどこかに転がっていないか、ダンジョン内を探してみる。



「あっ、あった……」



 行き止まりの通路に冒険者の装備が乱雑に捨てられていた。
 あれを売却して、そのお金をDPに変えれば――。


「よし、ちょっと待っててくれる? 僕は少し取りに行くものが――」

「ついて行きます」

「でも、もう魔物がいない、危険のないダンジョンだから――」

「危険は魔物だけじゃないですよ?」

「冒険者は流石に来ないと思うよ? もう魔物もいないし、罠もないし……」

「でも、ダンジョンマスターを守るのが私の新しい仕事……ですよね?」

「……わかったよ。好きにしてくれて良いから――」



 どうしても下がってくれそうになかったので、一緒にダンジョンへと向かうこととなった。



◇◇◇



「あっ、あった……」



 冒険者たちの装備はあっさりと見つかっていた。
 まぁ、危険な要素は全て遥が排除してしまったので、当然と言えば当然だが。



「鉄の剣と鉄の鎧……ですね。初心者を抜けた冒険者が買う装備です。でも、あまり質は良くなさそうなので、Eランク~Dランクの冒険者がきた……といったところですか?」

「あっ、装備だけでそんなにわかるんだ……」

「えぇ……。収入で装備が変わりますから……」



 そんなものなのかな、と遥を見てみる。
 普通の服に分厚い辞書のような本。


 ……全くわからないんだけど。


 ただ、僕は冒険者ではないのでわからないことかもしれない。



「えっと、装備を持って、モニターを操作して……」



 アイテムも全てダンジョンマスターのスキルで売却することができる。
 わざわざ町へ売りに行く必要がないのは強みだよね?



「これでよしっと。全部で……50DPか」



 使用済みの装備だったからか、あまり高値で売れなかった。
 それでも、守護者を指名するには十分すぎるほどのDPだった。



「えっと、これでDPは十分溜まったけど、本当に僕の守護者をしてもらってもいいの?」

「はいっ、もちろんです!」

「わかったよ。それじゃあ、ボタンを押すね」



 僕は守護者認定のボタンを押す。
 すると、対象者の名前が浮かび上がっていた。



――――――――――――――――――――
牧原遥まきはらはるか:消費DP76
オーク:消費DP30
スラ妖精:消費DP20
スライム:消費DP1
――――――――――――――――――――



 守護者には魔物たちも指名できるようだった。
 ただ、普通にダンジョンに配置できる魔物をわざわざ指名しないかな。

 そして、残りDPも確認する。


 残りDP177。


 あれっ? 思ったより増えてる? ……あっ、そうか。遥さんがこのダンジョンにずっといるから滞在時間の収入が入ったのか。


 十分DPがあることを確認した後、僕は守護者指名のボタンを押していた。

 しかし、特段何か変化が起きたわけではない。



「何か変わった?」

「……わからないですね? あっ……」

「ど、どうしたの?」

「ダンジョンに侵入者ですね。この気配だとEランク冒険者だと思います」

「あー……、うん。それなら魔物を召喚して――」

「ちょっと倒してきますね」

「えっと、お、同じ冒険者……なんだよね?」

「でも、今は奏さんの守護者ですから……」

「だ、大丈夫だよ。お、オークを復活させて、入り口に配置しておくから」



 オーク復活には100DP必要になる。
 いまだとぎりぎり足りるほどだった。

 それに同じ冒険者と戦わせるようなことはなるべくしたくない。
 遥さんには、どちらかといえばランクの高い、規約を守らないような冒険者の相手をして欲しい、と思っていた。



「Eランク冒険者にオークを差し向けるのですか。なかなか鬼畜な事をしますね」

「えっと、ダメかな?」

「いえ、何も問題ないと思いますよ。一瞬で片がつくでしょうから……」



 さすがにオークを一瞬で倒せるのは遥さんだけだよ……。
 そんなことを思いながら、僕はオークを復活させていた。
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