上 下
11 / 30

11.

しおりを挟む
 再び美咲が戻ってくる。
 今度は何を持ってきたのだろうか?


「あぁ、空いてるよ」


 ベッドに寝転がりながら返事をするとゆっくり扉が開かれる。
 そして、顔を覗かせてきたのは柏木だった。


「えっ、か、柏木!?」


 思わず俺は慌てて体を起こす。
 すると柏木が慌てて注意をしてくる。


「だ、ダメですよ! 三島くんはそのまま寝ててください!」


そのままベッドへと戻されてしまう。


「いや、でもせっかく柏木が来てくれたんだから……」
「大丈夫です。私は一人で。それよりもこれ、お見舞いの品……あっ」


買ってきた果物を渡そうとして、俺の手にある皿へと視線を向ける柏木。
少し残念そうにそばにある机の上にそれを置く。


「そ、そうですよね……。風邪の時は果物……、食べますよね」
「いや、とってもありがたいよ。ありがとう……」
「それなら良かったですけど……」

不安そうな表情を浮かべる柏木。
俺の側にちょこんと座るとそのままじっとしていた。

そして、特に何も話さずに無言のまま時間が過ぎていく……。
それに耐えきれずに俺は言葉を発する。


「そういえば今日は迎えに行かずに悪かったな……」
「い、いえ、風邪なら仕方ないですから……」


それだけいうと再び無言になる。
こうやって二人、俺の部屋にいるなんて信じられないな……。
柏木もジッとしているのは居心地が悪いようでつい部屋の中を見回していた。

柏木が来るとわかってたら掃除をしておいたのに……。


「そ、その……、今日は掃除をしてなくて……、汚い部屋で悪いな……」
「あっ、いえ、そういうわけでは……。こうして男の子の部屋に入るのは初めてで……」


顔を赤くして、慌てて顔を俯ける柏木。

そうか……、柏木はこうして部屋に入るのは初めてなのか……。

俺自身もなんだか恥ずかしくなって顔が赤くなる。


「えっと……、もしかして熱が上がって……?」


俺が顔を赤くしているのを見て柏木が少し慌て出す。


「い、いや、そんなことないぞ……」


今は恥ずかしくなって顔が赤くなっているだけなのだが、柏木は心配してゆっくり俺に近づいてくる。


「じっとしていて下さいね……」


そして、ゆっくり俺の顔に自分の顔を近づけてくる。
柏木も恥ずかしいようでその顔は真っ赤に染まり、緊張している様子だった。

も、もしかして……。

まさか俺の部屋で……?

なんで突然……という疑問は浮かぶものの目の前で起こっている現実が全てだった。

俺はギュッと目を閉じて覚悟を決める。
すると、ピタッと額に何か当たるのを感じる。


「そ、その……、柏木?」
「しっ……、じっとしていてください。今熱を見てますから……」


まぁそうだよな……。うん。いきなりキスをしてくるのかと焦ったが、柏木に限ってそんな突然してくるはずがないだろうし……。

ただ、目を開けてみるとすぐ側に柏木の顔があり、思わず顔が赤くなってしまう。


「あれっ、少し熱が上がってきて……。っ!?」


少し心配そうな声を上げる柏木と目が合う。
その瞬間に柏木の顔が一瞬で沸騰しそうなほど真っ赤に染まり上がった。


「あっ、わ、私……、そ、その……」


慌てふためく柏木。
すぐに俺から離れて、手をバタバタさせてた。

そして、再び先ほどと同じようにちょこんと座って、ギュッとスカートを握りしめて恥ずかしさをこらえているようだった。


「ご、ごめんね……。急にそんなことして……」
「い、いや、だ、大丈夫だ……」
「ただ、やっぱり少し熱があるみたいだね……。もう少し休んだ方がいいかも……」
「そ、そうだな……」
「そ、それじゃあ私はそろそろ帰るね。あまり長居しても三島くんの体調が良くならないだろうし……」


慌てて出ていこうとする柏木。

そこで俺は慌てて柏木を止める。


「そ、そうだ。柏木、ちょっといいか……」
「ど、どうしたの?」
「今日、本当は柏木に連絡しようとしたんだけど、その、まだ連絡先を聞いてなくて……」
「あっ……、そ、そうだね。さすがにそれはおかしいよね。その……こ、恋人同士なのに……」


柏木は自分のスマホを取り出して、連絡先を交換する。


「こ、これでいつでも連絡ができるね……」
「あぁ、そうだな……」
「そ、それじゃあ私は帰りますね。三島くんも早く良くなってね」


それだけいうと柏木は慌てて部屋を出て行ってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。 そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。 ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。 そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。 こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

処理中です...