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救済決意(2)

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 まず手始めに執務室へとやってきた。
 ここにはたくさんの難しい書物や公務の書類が置かれている。国の事情を調べるにはここ以上の場所はない。
 とにかく今の俺には情報が足りない。
 生き残るためには徹底的に調べ上げないと!

 そして、数日間執務室にこもって書物を調べ上げていくと目を疑うような事実が見えてきた。

 国民から徴収された税はその大半が横領されており、そのせいで軍備が整えられずに王国が抱えている騎士団はかなり弱体化している。
 鎧や剣といった装備はもちろんのこと、碌に給金を貰えずに有能な人材は騎士団を辞めていったようだ。


 すっかり弱体化している国を頼る案は没だな。


 それならばギルドを頼り、高ランク冒険者を雇うのも考える。
 ヴァンダイムは公爵家だ。それなりに金はある。
 でも、それも問題がある。
 あくまでも冒険者は金で雇われている。つまり、相手がそれ以上の金を出してきたら簡単に寝返るわけだ。
 貧困に喘いでいる国民たちに出せる額ではないだろうが、この王国の不正具合を見る限り、他の貴族から妨害が入ることは十分に考えられる。
 国民のことは考えずに他人を陥れることしか考えないような連中だ。
 その可能性が拭いきれない。


 失敗が俺の死につながる以上、この選択肢も選ぶわけにもいかない。


 そうなると国民たちの手助けをして、命だけは見逃してもらう……という方法か。
 積極的に反乱に加担していく……。


 そもそも俺自身、まともに戦ったことがないぞ?


 それに俺が貴族というだけで襲ってきそうだ。味方から殺される以上に怖いことはないな。


 ……ちょっと待て。すでに八方塞がりじゃないか??


 状況を調べれば調べるほど、俺に不利な情報が浮かび上がってくる。
 このまま反乱が起こったらどう考えても殺される未来しかない。
 反乱が起こったら――。

「っ!? そうか!! 反乱が起こったら殺されるなら、起きるのを防げば良いんだ! 未然に防ぐために動く。それしか今の俺に生き延びる道はない。反乱の理由が国民達の不満なら、それを取り除けばいいだけだ」


 唯一見えてきた解決方法に俺は安堵の息を漏らす。
 しかし、それはそれで問題が残っている。

 もし、堂々と国民たちを助けてしまうと、俺が国に反乱していると思われないか?
 弱体化しているとはいえ、俺一人で相手にできるほど国も弱くない。
 反乱者だと思われたら、あっさり殺されてしまう。

 それならば、俺の正体は隠して行動するしかないな。

 何もしていないのに殺されてたまるか! 俺は絶対に生き延びてやるんだ!



◇◇◇



 活動すると決めてから数日間、準備に努めていた。
 館の兵たちには国民の様子を逐一確認させ、反乱の兆候を逃さないように努めあげ、その間に俺は正体を隠す仮面とマントを準備した。
 闇夜に紛れる黒のマントと白銀に光る顔を隠す仮面。

 こんな姿をしたまま昼間に歩いていたら怪しい人物だと思われるだろうが、貴族だと知られるよりはマシだ。
 どこまで俺の顔が知られているかわからないが、万が一をなくしておきたい。

 ただでさえややこしい状況なのだ。無用なトラブルは減らしていくしかないだろう。
 そのためにもあまり目立つ行動は避けないとな。

 国に目をつけられるといつ襲われるとも限らない。行動は隠密に――。

 あとは行動を共にしてくれる奴も探さないといけない。
 俺自身が戦えない以上、それは必須だ。
 それに一人だとできることに限りがある。


 まずは仲間を探すことが大事だろう。
 でも、仲間が裏切ってくることなんて定番だ。
 本当に信頼できる相手じゃないかぎり、俺の正体は教えるわけにはいかない。


 ただ、こんな仮面姿のやつと一緒に行動を共にしてくれる奴がいるのだろうか?
 ……怪しげな見た目である以上、それ以上の能力を見せつけるしかない。


 あとは金か……。
 命には代えられない。使うべきところで使っていくしかないな。


 更にどのように動いていくかも問題だ。
 一人、二人の不満を解消したところで大なり小なり不満を持つ人間がいたら反乱が起きてしまう。でも、すぐに止められなくても最悪、反乱を制御できれば俺自身は殺されることを防げる。


 とにかく、今は行動あるのみだ。


 この館に置かれていた書物はあらかた読みあさった。
 ぼんやりとこの世界についてはわかったが、俺には外の情報がほとんどない。まずは状況を確認するところから始めないと。

 さすがに数日前に暴動が起こったばかりなので、使用人達が反対してきそうだが今は時間がない。隠れて出て行くしかないな。

 仮面を付け、マントを羽織った上で剣を携える。
 あとはいざというときのために、魔法が込められた巻物を手に取る。

 これは魔力を込めただけで魔法が使えるという代物だった。
 魔法の教育も受けてきたので簡単なものなら使うことができるのだが、魔法には詠唱が必要になってくる。
 それも高威力の魔法を使おうとすればするほど、長い詠唱時間が必要になる。

 しかし、この巻物は魔力を込めるだけで一瞬で発動してくれるのでいざというときには役に立つ。
 かなり高価なものになるのだが、貴族たちはもちろん、高位の冒険者達も何本か隠し持っているという話は聞く。


 命を守るためだ。それに勝るものはない。


 それを数本、マントの下に隠し持っておく。
 いざ襲われたときにはこれを使って逃げる時間を確保すれば良いだろう。

 万全の対策をしたあと、俺は使用人達に気づかれないように館を出て行く――。
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