ミーシャのアトリエ

空野進

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マークフォード・フォン・レーテルバッハ

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「あははっ、なんだその格好。ミーシャには全然似合ってない……」


 お風呂から上がってきたちびどらと鉢合わせすると、すごく笑われてしまった。

 そんなこと言われなくてもわかってるよ。だって、胸元はゆるゆるだし、服の丈は長いし気をぬくと裾を踏んで転びそう……。


「おや、結構似合ってるな」


 案内された先にいたルクスフォード様に褒められたけど、お世辞だってわかるから複雑な気持ちだった。


「どうして私はこんな服を着てるのですか?」

「これから知り合いに紹介するからな。流石にあの格好で紹介するわけにはいかないから」


 理由はわかったけど、そんな紹介なんてしなくていいのに……。


「君が言いたいこともわかるけど、お店をしていくなら人脈は必要になってくるよ」


 それもそうか。緊張するけど、そういう事情なら仕方ないね。


「ただ、ちびどら。君は何も話すなよ! いや、別の部屋で待っていてもらおうか。下手をすると余計な誤解を生みかねない」


 私の後ろをパタパタと飛んでいたちびどらは女の人に掴まれ、そのまま部屋を退出させられる。


 私一人……。うぅぅぅ。心細いよ……。


 体がガチガチになりながらも、ルクスフォード様が勧めてくれた席に座る。
 心臓の鼓動が早くなる。足が地面についてない、なんとも言えない浮遊感に襲われる。次第に意識がこことは違う別の場所に誘われる。


「親父、こいつが例のガキか?」


 緊張のあまり、別の世界に飛び出しそうだった私の意識を呼び戻したのは一人の少年の声だった。
 生意気そうな口調。
 ただ、その声色はルクスフォード様のそれを少し高くしたような感じだった。


 どんな人だろうと顔を上げる。


 すると、目の前から手が伸びてきて……。


「本当にこいつなのか? こんなにちっこい少女ガキだぞ」

「ふぁひぃふぉふふほぉへぇふふぁー!(何をするのですかー)」


 いきなり目の前にやってきたかと思うと両頬を引っ張られた私はそのままではまともに喋ることが出来なかった。
 変な言葉を喋っている私を見て少年は面白そうに笑い出す。


「はははっ、なんだこいつ?」


 それに怒った私は少年の手を払いのけ、頬を膨らませて怒る。


「もう、何をするの!!」


 ただ、少年は私が怒っているように見えなかったのか、更に笑い続ける。

 針金のようにツンツンに立たせた金髪が少年が笑うたびにユラユラと揺れていた。


 背は私より少し大きいくらいかな? 年上……には見えないよね。


 そう思うと怒っていた感情が収まっていく。


「おい、ここで錬金をしてみろよ!」

「ここでは出来ませんよ」


 少年が私を指差しながら無茶な注文をしてくる。


「おい、マーク。いい加減にしなさい!」


 ルクスフォード様が少年を叱る。どうやらこの生意気な少年はマーク様というらしい。
 私は席を立ち、優雅に(思える格好で)スカートを広げ挨拶をする。


「私はミーシャです。よろしくお願いします」


 すると、マーク様はフンと鼻を鳴らし、鼻持ちならない態度で、でも自己紹介はしてくれる。


「マークフォード・フォン・レーテルバッハ。精々敬いな」


 相変わらず生意気な態度だが、年下の男の子が必死に偉ぶってると思えば可愛く思えるのが不思議だった。
 私の口は自然と小さく微笑んでいた。

 どうやらマーク様も同席するようだ。彼もいると思うと気持ちが穏やかになる。


「ははっ、いつの間にか自然な状態になってるな。これだと安心だな」


 ルクスフォード様は笑いながら言う。


 そういえばさっきまでガチガチに緊張していたのに、今は全然感じない。
 もしかして、マーク様はこれを見込んで……。


 私はマーク様を見ると相変わらず踏ん反り返っている。


 ……たまたまかな。


 私はそう考えを改めた。







 会談はルクスフォード様が何かを説明して、マーク様が邪魔をしていた。
 そして、あまりに邪魔をし過ぎたマーク様は途中で追い出されていた。

 私は自分の名前を言ったあと、目の前に置かれた茶色のお菓子をリスのように必死に齧っていた。


 うん、やっぱりおいしいね。


 お菓子を食べて幸せを感じていると何故か微笑ましい笑顔で見られていた。

 少し恥ずかしくなった私は体を縮こめて、それでも齧る手は止めなかった。


 会談の話は……難しくてわからなかった。


 け、決してこのお菓子を食べていて聞いてなかったわけじゃないからね。ほんとだよ!


 自分の頭の中で必死に言い訳する。


「ミーシャはフェアリスみたいな子だね」


 フェアリスって確か木の実を食べる黄色い小動物だよね。
 両頬に頬袋を持っていてそこに食べ物を蓄えておくっていう……他にもなんでも食べる意地汚い動物だ。


「わ、私はそんなに意地汚くないですよ」

「はははっ」


 むすっと怒ると大きな声で笑うルクスフォード様。その姿は安らぎすら感じられる。

 そんな姿を見て私は苦笑いを浮かべていた。






 話し合いも終わったのでルクスフォード様に案内されて客間にやってくると扉を開けたとたんに何か小さなものが私の胸に飛び込んでくる。


「ミーシャー、あいたかっだよーーー」


 体の毛が乱れていたちびどらが泣きながら顔を埋めていた。


「ど、どうしたの?」


 私はちびどらの頭を撫でながら聞いてみる。
 すると、ちびどらは部屋の奥を指差す。

 そこには会談を追い出されたマーク様がいた。


「変わったトカゲだからちょっと可愛がってやっただけじゃねーか」

「あいつが、あいつがおいらをもみくちゃにしてきたんだ」


 あまり要領を得ないけど、おそらくちびどらはマーク様に絡まれていたのだろう。


「マーク様。ちびどらはおもちゃじゃないですよ」

「いいじゃん。アイツで遊ぼうぜ」


 マーク様がちびどらをとろうとするので必死にその手を躱す。

 でもその時スカートの裾を踏んでしまい、そのまま転んでしまう。


 べちっ。


 顔から思いっきりぶつけてしまった。


「い、痛っ」


 私は涙目になりながら鼻頭を撫でる。
 すると、一瞬心配そうな顔をしたマーク様だけどすぐにいつもの不遜な態度に戻る。


「ふん、どんくさい奴だ」


 顔を背けるマーク様。
 しかし手を差し伸べてくれて、私を起き上がらせてくれる。


「あ、ありがとうございます」


 私はペコリと頭を下げる。そして、以外と優しいところもあるんだとマーク様に向けて笑みを向ける。

 するとマーク様は顔を真っ赤にして背を向けてしまった……。
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