あやかしの生贄

新条 カイ

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序章

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 この村には、代々生贄を差し出すという風習がある。生贄といっても、水に沈められるとか、生きたまま埋められるとか、そういう事ではない。ただ…毎日そのお社を掃き清めるだけの、女。食事は村から毎日運ばれるもののみ口にする事が出来る。声を出してはいけない。その目にも写してはいけない。ただ一人、粛々とすごすだけ。
 村から運ばれる食事がなくならなかったら、死んだものとして村人が社をおとずれ死体を片付けられ、また新たな女が用意される。その繰り返し。
 その女に、私が選ばれた。時期的なモノもあって、生まれた時からそうして育てられていた私。わがままは許されず、贅沢も許されず、人がいても、話すことは極力避けられた。”そう”なったときに、耐えられない事がない様にと。
 これらの話は、5歳になった時に、世話をしてくれていた人に聞かされた。その時は、余り理解できなかったけれど。
 それから…聞こえる声や、世話をしてくれる人と、話はしないけれど対していれば、おかしな状況だと子供ながらに気が付く。同年代の子供が毬や縄とびで遊ぶ声。成長を祝う声。子供が生まれた、結婚した、などなど。私の事も聞こえてきた。この家にいる娘が生贄なのだと。あらかじめ定められた娘なのだと。可愛そうに、ありがたい、など様々な言葉が聞こえ、だんだんと理解した。怖くはなかったけれど、寂しいなと思っただけだ。
 押し込められている家は広くない。だから、窓を木で塞がれているものの、明り取り用の小窓から村を見ることが出来る。だから、何もすることがない私は、見つからないように、時々村を見ていた。
 ある日、村の外に働きに出ていた男が、嫁を連れて村に戻ってきた。そう聞こえて、そっと見れば、まっしろくて、綺麗な人…めったに見ないその衣装を、いいな。綺麗だなと、のんきに眺めていたそれが、花嫁衣裳だと分かったのは、私がその生贄として社へ出される日だった。

 朝から風呂に入れられ、何やら粉を叩かれて。その衣装を、着る。
 綺麗な…花嫁衣裳で、一人向かう。すごく、滑稽な絵だろう。花嫁衣裳など、女の夢であるというのに。これも聞こえた話で、だけれど。…けれど、この私には…

 ---死装束だ---

 生きていても、誰ともかかわれない。何を成すこともできない。そんなものは、死んでいるも同然。生まれた時から、ずっと似たようなものだったけれど。

 目の前に、朱色の門。神社にある、鳥居。けれど、これは、現世と現世を切り離すモノ。私が、死ぬ事を意味する物。

 その鳥居をくぐる。ぽろり…と、涙ひとつ零して。


◆◇◆

 鳥居をくぐり、完全に門を超えれば、ジジ…と、背後で音がする。振り返ってはいけない。振り返れば、きっと村人がいるから。そして、このまま社の中まで入る事が義務付けられているから。
 一歩、一歩と社へと向かう。一歩足を出すたびに、ぽろりと涙がこぼれる。泣きたい訳じゃない。けれど…勝手に涙がこぼれる。悲しいのか、寂しいのか、わからないけれど。
 そうして、社の障子戸を開けば、綺麗な土間がある。そうして、正面には板張りの空間。私が住んでいた場所とは違う…つるりとした床。
 入っていいのかしら、と思ったけれど、このまま土間で立ち尽くしている訳にはいかない。だから、履物を脱いで上がる。奥にあるふすまと、右に伸びる通路があるけれど…まずはこのお社の中に、何があるのか見ないと駄目よね。これから…ここで、一人で生きていくのだもの。
 それに…この花嫁衣裳、着てみると分かるけれど、重いし動き難いから着替えてしまいたい。着替えはあるという話だったけれど…そういえば、そういう物は、どうしていたのかしら。

 と、いざ生活するとなると、気持ちが切り替わったのか…涙は、止まっていた。
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