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3章:異世界と日本との二重生活の始まり

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 この世界の果物は甘くておいしいし、香りも良い物が多いということはわかりました。
 酸味がある物はこのお店では余り扱わないそうで、他のお店を紹介された。甘味と酸味のコラボレーションもいいと思うんだけどなぁ。

 甘味で少しは気分を浮上させて、機関へ来ました。スーザンさんに思い切り喜ばれたし、拝み倒されました。いや、ね。キルギスさんの闇落ち、仕事に支障はないと言ってたけど、ピリピリしてて怖かったのだとか。スーザンさんはキルギスさんへ、今はそんな雰囲気がないから言えたとじっとりとした目で言う。キルギスさんがちょっと焦った顔してたのはかわいかったけど。

「しっかしキルギスさんがこんなに過保護だとは思わなかったわよ」
「いや、その…私も何故かユカに関しては心配で仕方なかったんだ」
「ほんとにもう、帰してから気が付くとかやめてほしいわ」

 ぐちぐちとさっきからスーザンさんからの口撃が止まらない。仲がいいのは良い事だと思う。うん。

「あの二人はほっといて、この部屋に飛ぶ魔法教えておくね。これは通常の魔法陣。で、こっちは俺が改良した術式。どっちでも使いやすい方でいいよ」

 松田さんが話始めたことで、二人の会話が止まりましたけどね。仕事わすれてた。と、スーザンさんがこぼしてて少し笑ってしまった。
 渡された紙に書かれているのは、この世界から戻るときに教えられた魔法陣に似たもの。そして松田さんに渡された物は、やっぱりxとyで数字が書かれたもの。

「そっちは燃やすから返してもらっていい?」
「あ、はい。でもまだ覚えてない…」
「あっちに戻ってからまた連絡するよ」

 この術式は簡単すぎて困るんだ。と言って笑う。まあ、確かにね。この世界の術式、一応文言があるけど、円の中にこの世界の文字なのか、象形文字なのか…一文字入ってるのよ。一文字だから覚えられるけど、何文字もあったら覚えられるわけがない。
 その点、松田さんの術式は、数字だけだしね。両方見比べてただけだから、数字まで覚えられなかったのよ。

「後は…一応、この世界とあっちの時間はリンクしてるから安心していいよ。最初の一回だけは元の時間に戻すっていう特殊な魔法入れてるんだけど、結構複雑な魔法陣なんだよね。魔力も結構使うし」

 再召喚も似たような物だから、魔力確保の為に呼ばれたのだと言って、笑う。そんな理由もあったのか。

「この世界に来た時は、このベルを鳴らしてください。すぐに参ります」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 このベル、と言って示されたのは、テーブルの上にあるベル。金色のベルだけど、持ち手がきれいな緑色してる。どうやら魔道具らしく、指定した腕輪が光るのだとか。試してみれば、スーザンさんとキルギスさんの腕が淡い緑色に光った。すごいな、魔道具。

「最初は俺も同席するけどね~だからあっちであらかじめ予定知らせてね」
「あ、はい。でも、松田さんこっちでも活動してると言ってましたよね。連絡付かない時間とかありますか?」

 そう、松田さんはこっちでも活動してるし、なんなら家庭も持ってるのだ。なるべく急な連絡はしない様にするけど、念の為。

「そうだねぇ。一応朝の5時にはあっちに戻って確認するよ。いつもそれ位に起きてるし、ハンターギルドに行く時は6時以降に行ってるから。泊まりこみの依頼でも、ちょーっと位なら問題ないしね」

 転移でしょっちゅう抜け出してるような事、言ってたような?それに、昨日も今日も、すっごくわかりやすい転移方法だもんね。しかもタイムラグがある訳でもないし、ホントに楽よね。

「授業はキルギスさんに準備しておいてもらうとして、ひとまずはこんな所かな。さっきも言ったけど、注意事項だけはちゃんと守ってね」

 子供の誘拐事件の事案そっくりなやつよね。まあ、何かあったら領主様を頼るから大丈夫よ。
 再び約束して、今日はもうお開きとなった。日本に戻ってきて、ベッドに倒れこんだのは…仕方ないと思う。
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