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家へ引っ越してから

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「…起きられます?」

 朝。目が覚めて、レイにそんな風に声を掛けられた。

「…むり」

 なんとかそう声を出したけれど、すっごい声ね…がらっがらに掠れていたわよ。

「水です。まずは少しだけ。今、喉に良い物を用意させます」

 口に差し込まれたのは、吸い口で。流れて来た水は、常温…いえ、わずかに温かいから、白湯かしらね。ほんの一口だけ口にしたけれど、もっと欲しい。目で訴えるけれど、レイは待てという。

「それにしても…ああ言ったその日の夜に抱きつぶすとは」

 本当よね。自制が効くとか言ってなかったかしら。

「ちなみに、痛みとかありますか」

 …なんてことを聞いてくるのかしら。痛みは、ないけれど。今回は、ラクシュ様の物で、というよりいろんな所を指とか舌で責め立てられて…て、何を思い出しているのかしら。
 吸い口を差し出されて、口にした物は、甘みがあって美味しい。何度か繰り返し口にして、喉の渇きを潤してほっと溜息をつく。

「最中に水を飲ませた、とは当主が言ってましたが…」

 確かに…口移しで何か飲まされたわよ。水だったのね、あれ。効果は…余りなかったみたいだけれど。
 それからは、レイにしっかりとお世話されたわよ。スープを用意されて、それすら吸い口で飲まされた。野菜をミキサーにかけたものらしく、ポタージュの様な感じだったわね。疲れを取る為に、お風呂でオイルマッサージもされたわよ。甘みがある飲み物を時々口にしながらね。
 顔のエステをする頃になって、良くなってきた感じがしたわね。

「…もう夕方なのね」

 お風呂から上がって、日が暮れ始めている事に気が付いた。エステをしたからか、調子が戻って来たからか、立てるようになったけれど、レイにしっかりと付き添われて、ベッドへと戻ったわよ。

「消化の良い物で、作らせますが…何かご希望、ございますか?」
「どちらかというと、お肉が食べたいわ」

 もう丸一日近く固形物を食べていないのだもの。それに、調子が戻って来たからなのか、お腹も空いて来た。だからそう言うと、様子をみてから、と言われてしまったわ。

「お夜食もご用意しますので」
「分かったわ」

 不満なのが分かったのか、レイにそう言われて大人しく返事を返す。ちょっと夜食が楽しみかもしれないわね。




 流動食な夕食を終えて、ベッドでうとうととしていると、するりと頬を撫でられる。その手の感触が…ラクシュ様のものだと分かってしまう。感じる体温とか、その圧の強さとかね…
 そっと目を開ければ、心配そうな顔。

「すみません、ネルア。堪えたつもりだったのですが」

 そう、言われても…大丈夫とも、構わないとも言えない所が困ったわね。

「…喉は、良くなったと聞いてますが」
「良くなりましたわ」
「それならよかった。どうやら、私、貴女の事が好きすぎて…声を聴いただけで、たまらな、」
「兄ぃ、蹴り倒しますよ」
「出来るものならやってみなさい」

 れ、レイ、助けてくれてありがとう!ただ…うん、蹴り倒すとか、言ったら駄目なのでは。というか…ラクシュ様の顔がどんどん崩れていくから、慌てて掛け布団を引き上げたわよ。

「ネルア。どうして顔を隠すのです」
「だって、ラクシュ様…お顔が」
「ん、ああ…崩れてます?」
「は、はい」
「あー…うん、困りましたね…顔が見えないのも、少々…」
「ルーヴェリア様をお連れしましょうか」
「いいですよ。私にとってはご褒美なので、甘いですよっと」

 どすんとか、聞こえたわよ…そろりと顔を出せば…えぇと?ラクシュ様の姿が見えなくて、探せば…床…え、

「ラクシュ様、何をなさっているのですか!?」
「足を出して来たので」

 レイが床にうつ伏せに倒されて、ラクシュ様の膝に押さえつけられてるとか、ちょっと待って…!
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