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家へ引っ越してから

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 少しの時間だけれど、十分にお店の雰囲気を楽しんで。そうして貴族が観覧する場所へと到着する。何といったらいいのか…こう、二階席というのかしら。一般客の上にせり出していて、ある意味強度大丈夫なのかしらと不安になるけれど、そこは安定の魔法技術というか、魔道具というか。こういう物も勉強したいのなら本があると言われたわよ。暇つぶしにでもどうぞ。と言われて、技術を集めた物でしょうに呆れて何も言えなかったわ。

「では、紹介いたしましょうか」

 部屋に入ると早々にラクシュ様へソファへエスコートされたわよ。わたくしが落ち着くのを待ってなのか…ラクシュ様がそう言う。紹介と言って示すのは、入口でまだ立ったままの、男女二人。はい、立たせたままで、冒頭の安全性がどうとか本がどうとかの会話をしてましたよ。
 この二人、わたくしたちが席、というか部屋へと案内される途中で、正面から歩いて来て遭遇、ご一緒してもいいか、という流れでしたわ。ただ、これ…案内する係の人がすっごく慌てていたわね。おそらく、こういう場所で他の貴族と合わない様に配慮されるものだと思う。ほら、敵対してる相手とか、不倫相手と来てたりしたら、ね?
 ラクシュ様が入る前にぼそぼそと何か言っていたから、命令でも飛ばしたんでしょうけれど。 

「こちらがキンバリー家のグスタフ様と、その婚約者のサラン様です」
「グスタフです。よろしく」
「初めまして、サランと申します。よろしくお願いいたします」

 起ち上って挨拶を返そうとしたけれど、そっと肩に手を置かれただけなのに、立ち上がれないとか…

「下僕なので、そのままで」
「…ですから、その様な事はしたくないと」
「そうですね。ですが、それ位でないと…こいつが醜態をさらしますので」

 え…醜態ってどういう事、とその二人を見る。グスタフ様は結構落ち着いている様に見えるけれど…言動が、軽いわね。サラン様は…なんというか、ぽやんとした、というかふんわりとした感じの印象。

「グスタフ…まあこいつですが、ワインが本当に好きでして。樽から柄杓で飲むんです。なので、流石に恰好が悪いので」
「醜態という程ではないのでは?」
「一応、貴族席なので遠慮して欲しいんですよ。私だと抑止力になりませんので、ネルアに抑止力になっていただきませんと」

 それがこの挨拶の恰好とどう関係するのか。あ、はい。わたくしが女王様の様な振る舞いをすればいい、と。いやいや無理よ無理。

「なんなら傅かせる位したほうがよさそうですが、流石に見えますのでね」

 座ったまま挨拶を受けるのも、見えていると思うのですが。

「それ位でしたら、挨拶と見るか、何か話をした流れと見るかといった所ですね。さて。私共は少々…出てきます。開演時間までには戻りますので」
「え?」

 ラクシュ様も?と、驚いてしまった。そうして漏れ出た声に、ラクシュ様は笑う。

「大丈夫ですよ。身の安全でしたらこれらがいますし、寂しいのは…致し方ありません。我慢してください」

 そう言って、ちゅ、と派手なリップ音を響かせて、唇にキスされたわよ!誰に向けてのアピールなのよ!
 恥ずかしくて、唇を手で覆ってぷるぷると震えている間にも、ラクシュ様も、あのグスタフ様も、出て行った。残ったのは、女性陣のみ。

「…ご愁傷様です」

 と、レイに声を掛けられて、もっと恥ずかしくなってしまったわ。
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