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家へ引っ越してから

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 観劇へ行く為に、馬車へと乗り込み、走り出して少しして。

「ラクシュ様」
「なんです?」
「…女性を、壊したというのは本当なんですの?」

 観劇に行く準備をしながら、レイから聞いた事をそのままラクシュ様へと問う。何も今聞かなくてもいいとは思うけれど…伸ばし伸ばしになってしまうのも嫌なので。
 ラクシュ様に聞けば、少し困ったように視線を彷徨わせたわね。

「あー…まあ、その、ヤりたい盛りでしたし。後の事はちゃんとしてますので」

 …そうは言うけれど、年齢的にもまだまだその域ではないのかしら。後の事、というのは治療とかかしら。それすらしてなかったら、軽蔑するわよ。

「お店、許した方がいいですか?」
「今はもう自制利きますし、欲求をコントロールもできますので。何より貴女を壊す、という選択肢はありませんから。お前も、何を余計な事をいうんです」
「心配なもので」

 自制、利いて、アレなのかしら。妊娠中はもっとするとか言われたから、あれ以上となるとちょっと怖いわね。
 レイは、しれっと答えているけれど…

「レイを怒らないでくださいませ。わたくしを想って言ってくれたのですから」
「ですが…嫌なのでしょう?」

 それはそうなのだけれど。何かにつけてそういう話を聞いてしまうと、なんだかわたくしだけが意地を張っているみたいで。

「心配する事はありませんよ。きちんとしましたから」

 きちんとした、と言っても…その女性達にとっては、相手が変わるだけの様な気がするのだけれど。それはそれでよかったのか悪かったのか。うぅ…もやもやする。

「状況が特殊なので、余計悩ませてしまって申し訳ないですね。こう考えればいかがでしょう。付き合っていた相手が多かっただけ、と」

 …まあ、そう言われればそうなのかしらね。日本では、付き合っていたらそういう関係になるものだし。セフレがたくさんいた、とかがぴったりくるわね。細かい背景は、ほら、世界が違うという事で…

「そう、ですわね…」

 結婚前の付き合いまでどうこう言える訳はないですし、前の彼女が出てきてトラブルにならないのなら、いいのかしらね。

「今までネルアの様に気になる女性もいませんでしたし、本当に貴女だけなんです。自分の気持ちにすら気づいてませんでしたしね」

 気づいていない、というのはどういう事なのかと聞けば、王太子様へ名前を呼ぶための許可を貰う書類を出した事で、王太子様に気づかされたのだという。

「何か、ネルアが安心出来るようなものがあればいいのですが」
「名前を呼ばれて喜んでる時点で、私共は納得していますが」

 やれやれ。と、今日は従僕に扮したあの人がため息交じりに言う。それを聞いて、レイがほんとうに。と言う。

「ネルア様の妹様に名前呼ばれた時、危なかったですよね。よく暗器に手が伸びなかったなと思いましたよ」
「そう言われればそうですね。流石にもう一度呼ばれたら…うーん」

 ちょっと。もう一度呼ばれたらどうするつもりなのかしら。怖いけれど、聞いておかないとぐるぐると悩みそうだから聞けば。

「まあ、ネルアの妹なので」

 にこり、と笑うだけだ。ちょっと、ごまかそうとしてませんか。

「聞いてどうするのです。今はスウェンがそれはもう大層可愛がっていますし、流石にそれを取り上げてどうこうする程、ひどい人に見えますか?」

 そう言われると…いえ、まあ…実際は結構ひどい人の様な気もしますけれどね。仕事、というか必要悪だと思えば仕方ないとは思うけれど、うーん。

「ああ、到着したようです。行きましょう」

 馬車が止まって、従僕に扮したあの人がドアを開く。ラクシュ様にエスコートされて、馬車を降りれば…パーティー会場かと言う程ににぎわっている。小さなお店なんかもあって、観劇を見ない人もお店を楽しめるみたい。それでにぎわっているのね。

「ネルアは、そっちの方が興味あるようですが」
「あ。その、申し訳、」
「構いませんよ。おそらくジョセフィーヌ嬢も、我が君も、そういう物がお好きでしょうし。少しだけ見て回りましょう」

 いいのかしら。開演時間とか、もっといえば警備の下調べの為に来た、という事なのだから、そちらに時間を取るべきなのに。

「まだ時間はありますし、私共は一般と違ってスムーズに入れますから」

 確かに、貴族を並ばせたりしないわね。ラクシュ様に促されて、にぎやかな商店が立ち並ぶエリアへと足を踏み出した。
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