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家へ引っ越してから

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 クッキーを焼いている間に、そのキッチンでお茶してます。焼き上がる香りを嗅ぐのもいいしね。

「先日いただいた画材、ありがとうございます。ただ…」

 そう、街に出た時にかった画材をジョセフィーヌ様にお渡しして貰ったのよね。そうお礼を言われるけれど、言葉を濁すからどうしたのかしらと聞き返せば。

「描く景色がないもので」
「まあ…そうでしたわね。どうしましょう」

 今は実質監禁…軟禁?状態だものね。

「下の子たちの面倒を見るようになってからは出来ませんでしたけれど…領地が結構な…自然あふれる所だったものですから、良く家を飛び出していろんな所の風景を描いたりしていたのですが」
「風景を描くのがお好きなのですか?」
「そう、ですね。どちらかというと」

 花、とか…人、とかは余り描かないらしい。挑戦してみるのもいいけれど、まずは感覚を取り戻したいと言う。確かにそうよね。どれ位筆を置いていたのかにもよるけれど、久しぶりだものね。でも…

「宮殿の庭園では駄目なのでしょうか」
「実際描いては見たのですが…心に響かないと言いますか」

 ラクシュ様が聞くけれど、心…こればっかりはその人の好みとかもあるものね。人を描くのが得意とする人、とか。

「いくつか簡単なものでも描いてみてはどうでしょう。どなたか人がいればまた違った風景になりますし」

 庭園でのお茶風景とか。その庭園に行ける人、といえば、お后様かわたくし、になってしまうけれど。

「流石にお后様にお願いするのは申し訳ないです
「そうですわよね。では、わたくしが…すこし恥ずかしいですけれど」

 そうよね。どのような構図にするかにもよるけれど、お后様にモデルになっていただくのはちょっと。まあ…お願いしたらしたで、喜んでモデルになっていただけそう…はっ!

「お願いですから、お后様に言わないでくださいますか」

 ラクシュ様にそうお願いすると、困ったように笑う。言おうとしていたのか、何か目論んでいたのか、それは分からないけれど…ラクシュ様からしたら、きっと王様やお后様についている護衛騎士に言葉を伝えるのはすぐでしょうから、止めておかないと。

「…言いませんよ」
「ルーヴェリア様にも言わないでくださいます?」
「聞かれなければ言いませんよ」

 言ったら言ったで面白い事になりそうですが。とか、そういう事を言われるとちょっと嫌なのだけれど。ほら、ね。先日の王様とお后様の雰囲気だと、こう、ラクシュ様から聞いたらすぐに飛んできそうなので。娘のように接してくださるのは、ありがたいのですが…ジョセフィーヌ様はどうなのかは分からないけれど、こうね、一般市民の感覚があるので。

「ですが、宮殿の庭園で何かしらしていたら、そのうち嫌でもお后様の目に留まりますよ」

 ああ、確かにそうよね。ご公務で宮殿にいらっしゃらない時であれば別だけれど、ある意味この宮殿の主ですものね。思わずジョセフィーヌ様と眼を合わせて、肩を落としてしまったわ。
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