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37 決意

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みんな黙っていた。重苦しく、息苦しい…そんな時間が過ぎて行った。ぼくはたまらず、声を出していた。

「ねえジェノス」
「なんだ?」
「ここでお別れしたい」
「どういうことだ?」
「だって君は魔族軍、いや魔王軍なんだろ?」
「まあ確かにな」
「だったら…」

ジェノスは大きくかぶりを振った。そしてぼくに剣をつかんで見せた。

「俺は魔族を裏切らん。だがお前も裏切らん。命の恩人だし、仲間だし、それに…」
「友だちだから?」
「そうだ、友だちだ。だから裏切らん」
「でもそうしたら」
「まあ聞け。…俺は戦士だ。戦うことがすべてだ。それは俺の信念でもある。俺はなぜ戦う?そう命じられたからだ。それは俺の信念とは無縁だ。魔族ゆえに戦うだけだった。だがいまは違う。お前だ。お前のため、お前とともに俺は戦うと決めた。それがいまの俺の戦士としての信念だ。だからお前の敵は魔族だろうと獣人族だろうと人間族だろうと俺の敵だ。わかるか?」
「いやわかんないっす」
「はー」

ジェノスは頭をかいてかぶりを振った。

「いいか小僧」
「マティム」
「そうだ、マティムよ、よく聞け。俺はおまえが好きだ。守りたい。そこのどこが悪い」

ううん、それはいい話だ。まあそれが普通の人間だったら、だ。

「ごめん、ジェノス、そしてリエガ。ぼくはきみたちに隠していたことがある」
「隠しごと?その暗黒魔法のことか?だったら…」
「そうじゃなくて…そうじゃないんだ。ぼくはさ、ぼくは臆病で弱虫で、貧乏で気が利かなくって、小さいころから誰にも相手にされない、親も見離して鉱山に売り飛ばされるような人間で…」
「そんなのは!」
「ちがうんだ!」
「なに?何が違うんだ?おまえはマティム。正真正銘のマティムだろう?」
「そうだけど…そしてぼくは…勇者なんだ」
「なっ?」

勇者は人と違う。強大な力を持ち、人々を救うために存在する。それは魔族、そして魔王を一掃するための力。それをことごとく滅ぼす。そのためだけに存在するのだ。

「マティムは俺を…魔族の俺を滅ぼしたいか?」
「まさか!そんなことはしないし、絶対いやだ」
「ああ、俺もだ」
「そんな…」
「ねえマティム。あたしの仲間もみんな人間族の敵になったって。だから決めたわ!あたしは、あたしだけはあんたの味方だって!」
「リエガ…馬鹿…」

ぼくは二人の肩を抱いて泣いた。ふたりも泣いていた。こうしてぼくらは、強いきずなで結ばれた。もう怖いものはないのだ!



そうと決まったらやることはひとつだ。ぼくらは冒険者組合に向かった。あの領主も呼んだ。

「魔族軍が迫っている。やつら足が遅い。何か確かめながら来やがるようだ。まったくいけ好かねえやつらだぜ」

冒険者組合支配人のマーサーさんがブリブリ怒りながら武器をそろえている。やっぱり戦うつもりなんだ。あれから色々情報を集めた。まあ大した情報は得られなかったけど、冒険者や旅行者からの話を総合して見ると、なるほど魔王軍は確実に人間をせん滅しながら進んでいる。

「ローラー作戦っていうヤツですよ、これ」

ぼくは組合の壁に掲げられた地図を見てそう言った。

「わかんのかい?あんちゃん」
「起点がここ、きっと魔王軍の本陣ってとこですか。ここに魔王がいますよ。舐めてますね、こんなわかりやすい陣立てなんて」
「わかるのか?」
「まあそこそこ。なるほど、魔王軍は各地に散っているように見せかけていますが、こいつは陽動ですね。人間をひとまとめにしようとしています」
「どういうことだよ」
「戦闘員と非戦闘員を効率よく分けています。例えば、この町はいま女子供や年寄りを脱出させようとしていますが、行き先はここ、グラーフ王国ですよね」
「ああ、そこがいま一番安全だ」
「なに言ってんですか。ここが一番危ないんです。ここは大規模な戦場になります。おそらくこのルーデリア山脈に沿って…きっとルーデリアラインとかいう名にした防衛線ですよ。ここに追い込むつもりです」

まあそうすれば残った城や町は各個撃破され、大規模な戦闘なしでラインまで進める。そこで一気にケリをつけるつもりだ。

「じゃあどうしろっていうんだ。逃げりゃ殺される、逃げなくても殺される。どっちみち殺されるしかないのか!」
「だから、そうならないようしたいんですよ」
「どうやって!魔王軍は百万の軍勢だぞ!こっちゃあ五百人といねえんだ」
「そりゃあひとかたまりになってたらでしょ?こんなローラー作戦やってんですから、地域ごとに見てけば数はそれほどじゃないです。そこをうまくつけば」
「どうなんだよ?」
「ゲリラ戦、です。アメリカはこいつで負けましたからね」
「アメリカって、そんな国あったっけ?」


とにかくぼくらは残ることになった。落ちこぼれのぼくが何ができるかわからないけど、とにかくなにかしなくちゃね。


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