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25 冒険者の仕事

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なるほど冒険者というのはかなり自由で面白かった。要するに魔物を退治してお金を稼ぐ。単純にして明快。まあ魔物を倒す仕事ばかりではなかったが、贅沢を言わねばいいだけで、弱い魔物を倒して日銭を稼ぐ、あとは橋を修繕したり用心棒になったりで、そこそこ生きていける。

「なかなか剣の腕が上がったな、マティム」
「先生がいいからだよ」
「あたしの風魔法も褒めてよ」
「ああ、リエガもすごいな。風魔法だけでゴブリンの群れを一瞬で消し飛ばしちゃうんだからな」
「えへへへ、まあね」

ジェノスはその魔族特有の薄緑色の皮膚の色を変えていた。それも魔法だという。カメレオンのように、皮膚の色を変えられるのだ。

「それにしても暑苦しいわね、この服…」

リエガが不満そうにそう言った。獣人は毛でおおわれているから普通、服は着ない。人間に見せるため、帽子と服を着せているのだ。

「仕方ないだろ?服着てないと獣人ってわかってしまうからね。獣人は奴隷綱リードをつけていないと村や町に入れないんだから」
「あたしはべつにかまわないけど」
「ぼくがいやなんです!」
「変なの。この世界じゃみんなそうやっている、それが常識ってやつよ?」

それでもそういう常識になじむ気はぼくにはないからね。

「ふむ…毛皮が暑いんだろう?ならこうしよう…」

ジェノスが手のひらからなにやら怪しい光をリエガに向けた。

「きゃっ!」

リエガが小さく叫んだ。おいおい、顔の毛がなくなってるぞ?人間の顔だ。へえ、毛皮の下ってこんな顔してんだ、獣人って。

「な、なんか人間…だね」
「ギャー、毛皮じゃない!ツルツルだ!」

う、そういうことを言うもんじゃありません!見えないけど。

「体毛を少し残しみな消した。まあ二か月くらいすればまた生える。安心しろ、獣人」
「うー、なんだか寒いわー」
「服をもう少し買うか」

そう言ってジェノスは笑った。魔族って笑うのか…。

「でも耳はそのままだね」
「そこはいじれない。獣人の聴覚は非常に鋭い。魔族を凌ぐほどだ」
「まあ帽子でかくせるしね」
「尻尾は無事だ。よかったー」

どうやら服の下のしっぽは無事なようだ。よっぽどだいじなんだな。

「これなくなったらどうしようかと思ったわ。マティムに枕、してあげられなくなるところだった」
「そ、その体でしっぽ枕?ヤ、ヤバいんじゃないか?」
「なんでよ。あんたしっぽ枕気に入ってたんじゃないの?」

そうだけど、もうそういうわけにはいかない。それに種族の壁が…。

「とにかくこれで村や町に堂々と出入りできる。冒険者としての依頼も受けられるだろう」

ジェノスはそう言って剣を取って立ち上がった。

「出発しよう、もうすぐ町だ。そこで何か依頼を。マティム、火を消してくれ」
「はいはい」

ぼくは手をかざした。火はすぐに消えた。要領がつかめたのと、なんとなく原理がわかってきたのだ。暗黒魔法は、ふつうの魔法の魔素を操るようなものではなく、あらゆる物質、つまり原子や素粒子に作用する力のようだ。ぼくのこの火を消す能力は、じつはまわりの酸素を奪うということなのだ。酸素がなければ物は燃えない。

「つくづく恐ろしいものだと思う、その術は」
「どうして?消火にしか役に立たないよ」
「そのうちわかる。偉大な魔王と同じ力なのを」
「魔王って…ほんとにいるんだ」

ジェノスは一瞬、暗い目になった。荷物をかつぐとまっすぐに歩き出す。ぼくらも急いで荷物をかつぎ続いた。

「魔王は…恐ろしいお方だ。万物に死をもたらそうとしている。なぜだかわからない。だがその意志の固さは比類なきものだ。やがてすべてのものが滅び尽くされるだろう。それは人間族、亜人族に関わらず…いやわれわれ魔族もその範疇に入るのだ」

それは恐ろしいことを言っている、とぼくには思えたが、ぼくのどこかで、なにか切ない思いにもなった。なんでだろう?ジェノスはまっすぐ前を見つめながらぼくたちに話す。

「それは滅ぼすために滅ぼすということではない。新しい芽吹きを待っておられる、そういう気がするのだ」
「でもジェノス、みんな滅ぼしちゃったら芽吹くものも芽吹かないんじゃないか?」
「生まれるのを待つんじゃない。生まれたのを見つけるためだ。俺はそう感じる。そのとき魔王がどうするのかは、俺には、いや誰にもわからないがな」

なんとももどかしい話だ。何かを見つけるために滅ぼす。意味が分からない。きっと魔王は狂っているんだ。

「よっぽど魔王は恐ろしい姿をしているんだね」
「そいつは違う。魔王は、いや魔王さまはおまえの少し下、そう、リエガと同じくらいの年かっこうだ」
「え?女の子なの?魔王って」
「人間でいえばな」
「マジか」
「姿ではない。心だ。どれだけあのお方の心が凍っているか、お前にはわかるまい」

わかる、と言いたかった。わかりすぎる、とね。最愛の妹を失ったぼくの虚無感。きっとそれに似たものがあるんだ。そう感じてしまう。きっとぼくだってそういうものに生まれていれば、きっと魔王と同じようにしたかもしれない。ぼくの心は本当に氷のような虚無感でいっぱいなんだ。でも、リエガやジェノスと知り合ってから、なんだか少しそれが溶けたような気がする。魔王もあるいは…いや、考えるだけ無駄だよね。


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