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嘉応2年(1170年)

異国の品々大陸の武器と火薬

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 さて、義経一行が屋敷に逗留することになってから、しばらくの後の日のことです。

 例の商人が荷物を沢山積んで屋敷へとやってきたのです。

「こんにちは奥方様。本日は異国の珍しい品物をいくつかお持ちいたしました。」

「ありがとうございます、では、中へどうぞ」

 私は彼を屋敷にいれ品物を寝殿の床に広げさせました。

 その間に下人に使いを出させ逗留している義経一行や義仲様をお呼びしたのです。

 屋敷の床に広げられたのはまず武器類。
 短刀である連還刀、護手狼牙刀。
 双剣である胡蝶刀、鴛鴦刀。
 長柄の刀であるである朴刀、三尖両刃刀、青龍偃月刀、眉尖刀、乾坤日月刀、九環刀。
 槍である槍、十字鎌槍、双鈎鎌槍、拐刃槍、虎牙槍、標槍。
 黒色火薬と呼ばれるものを用いる特射な槍である火槍、梨花槍、神火飛鴉。
 火炎放射するである猛火油。
 棒術でつかわれる棍、梢子棍。
 長柄の月牙铲、単戟、方天戟、三叉。
 斧である大斧、斧、。
 鈍器である狼牙棒、金瓜錘、双鈎、硬鞭、锏、拐。
 軟兵器である皮鞭、九節鞭、短梢子棍、三節棍、縄镖、流星錘、飛爪。
 暗器である匕首、峨嵋刺、镖、筆架叉、乾坤圏、腰帯剣、鐵笛、鉄扇など。「

 そして弩と短弓です。

 短弓の素材は竹ではなく木と動物の腱をほぐしたものと角や骨を膠で貼り付けてあるようですね。

 義仲様と義経一行の男性陣が目を輝かせてズラッと並んだ武器を眺めています。

「うわぁ、いくつかって数じゃないですよ……」

 私も正直びっくりしました。

「手にとって見てもいいのか?」

 義仲様は商人にそう聞きました。

「ええ、どうぞ」

 その言葉を聞くと男性陣は我先にと刀や槍に手を伸ばしたのです。

 まあ、弁慶だけはその様子を少し後ろで眺めているようですが。

 ”ビュオウ”

「なんじゃこりゃ?」

 連還刀を振り回した伊勢義盛が刀を見て不思議そうにしています。

「それは、馬を驚かせるために円環を取り付けた刀ですな。
 ふれば大きな音が出るようになっています。」

 主な馬の産地である北方を抑えられた宋の国は金の国の重装騎兵に歩兵で対抗しなくれはならない関係から武器がいろいろ発展しましたが連還刀などは騎兵対策として作られたものの一つです。

 武器を持っては振り回しはしゃいでいる男性陣を尻目にその他のものを私は見ました。

 馬具である頭絡と蹄鉄や鎮痛剤になる芥子の実、『太平聖恵方』・『聖済総録』・『和剤局方』などの医書も持ち込まれています。

原文そのままなので私には読めませんが……また『欧希範五臓図』や『存真図』と呼ばれる身体を解剖した様子を記した解剖図もありますね。

 また人体のツボを示した『銅人腧穴鍼灸図経』とそれを基に銅で作られた人形である鍼灸銅人も持ち込まれています。

これが有れば効率的に施術を行い身体の修復も早くできるようになりそうです。

「ところで火槍って槍の穂先に中をくりぬいた竹筒をつけて黒色火薬に
 金属片を詰めて相手に向けて放つものだったはずですよね。
 結構暴発事故も多かったはずですが」

 そう言いながら私は火槍を手にしたのです。

「おお、よくご存知ですな、それは宋の国でも最新の武器でして火薬というものを用いるものなのですよ。」

「それをお買い上げいただけるのでしたら、火薬の作成法と火薬を作るのに必要な”中国の雪”こと 硝石の作り方もお教えいたしますよ。
 無論少々値はありますが、いかがでしょう?。」

「分かりました。
 槍、猛火油、火箭、震天雷、大銅砲、飛雲落雷、方天戟と梨花槍それと狼牙棒、弩、小弓、飛爪を頂きましょう。
 道具は全部ください。」

 そして私は男性陣に聞きます

「皆さんはどれがいいですか?」

「俺はこれがいい」

 十字槍を手にして義仲様が言います。

「私はこれを」

 双剣である鴛鴦刀を手にして義経が言いました。

「では我々はこれを」

 鎌田兄弟が手にしたのは朴刀です。

「俺は断然これだな」

 伊勢三郎は連還刀でした。

 使う場所には気をつけないといけませんが、これはこれでありでしょう。

「弁慶殿はいらないのですか?」

 腕組みをして武器を眺める弁慶に私は一つの武器を手にとって渡します。

「これなどは天下無双の豪傑にふさわしいかと思いますが」

 そう言って私が渡したのは青龍偃月刀、三国志に出てくる関羽が使っていたとされる武器です。

「かたじけない、ならば有りがたく使わせていただくとしよう」

 弁慶は受け取って嬉しそうにしていました。

「おお、さすが奥様なんともお目が高いですな。」

 大量に売れたことが嬉しいのでしょう、商人はニコニコしています。

「ちなみに猛火油には草生水(くそうず)が必要ですよね?。」

 草生水とは臭水、いわゆる石油のことです。

「ええ、そうですな、よくご存知で。
 確か信濃の国では浅川や黒川の方で湧き出ていたはずですな。」

「信濃の北の越後都の県境。
 善光寺や長野の方ですね。」

 確かに越後や出羽には結構な数の油田があったはずですが長野にもあったのですね。

 そして私は硝石の作り方が印刷された紙片を手に入れたのです。

 それと引き換えにごっそり銭を持って行かれたのは言うまでもありません。

 彼はほくほく顔で屋敷から去って行きました。

 男性陣がそれぞれ各々の部屋に戻ると私は紙に目を落とします。

 土間や家畜小屋、の土を掘り返して硝石が含まれた土を水に浸して抽出し釜で灰汁(あく)とともに煮詰め、綿布で上澄みをろ過したあと液体を自然乾燥させる。

「では、早速硝石の抽出にかかりましょうか、別に試しに使うくらいだからそんなに要は必要ないけど」

 私は下人に命じ土間や厩舎などの表面土を掘り起こさせて書いてあった手順にしたがって、硝石を作成するよう命じました。

 また地炉や囲炉裏の周辺に穴を掘り稗ガラを埋め組むことも始めました。

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