転生ニートは迷宮王

三黒

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第8章

224 不調

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 次は天界階層だが、その前に。ゼーヴェと三騎将にもそろそろ準備しといてもらうか。
 地下90階ボスに全員ぶっ込む豪華仕様だ。とは言えアルデムはいないからゼーヴェ含めて三人。 実質最終ボスみたいな感じだし丁度いい難易度だよな。
 
(あー、ゼーヴェとアイラとラティス。そろそろボスの準備しといてくれるか) 
(ええ、承知しました)
(少し用事。また後で)
解析アナライズの弱体化はまだ完了していない。少し前にやっとシルヴァの件が片付いたところだ)   
 
 ……やっぱり早めに言っといて正解だった。ゼーヴェ一人に地下90階任せるのは流石にな。十分強い方だが、それでも勇者を相手取るのは分が悪い。
 と、ここでノック。
 
「入っていいぞ」 
「マスター」
「おおアイラ。用事ってのは?」
「今から行く。これ、貰うね」 
 
 そう言って手に取ったのは、最近作った魔術結晶。ラティスに無理言って協力してもらったんだが、結局使う機会がなくて放置してたやつだ。 
 
「いいけど何に使うんだ?」
「…………秘密」
 
 何か言いかけてから口を閉じ、秘密とだけ言い直すアイラ。超気になるやつじゃんそれ。
 てかこういう場面。大事なことに気付いてそれを伝えないみたいなのって、なんか死亡フラグ感あるぞ。
 
「心配?」 
「そりゃそうだ。最近どいつもこいつも俺に内緒で色々やりたがりすぎだぜ」
「でも、今回の場合は敵に読まれるかもしれない。マスターは知らない方が都合がいい」  
  
 ああ、解析アナライズとかあるもんな。なら仕方ないか……。……本当に仕方ないのか? アイラ、こう見えて実はサプライズ好きだったりする?
 
「そういやそれ、まだ試作品だぜ。そもそも何の魔術結晶なのか知ってるのか?」 
「簡易転移門ゲートの設置。前の貴方が作ったものを覚えてる。仮に上手く起動できなくても、展開段階になってから多少の修正が可能」 
「お、おお……じゃあ……行ってらっしゃい?」
「うん。行ってきます」 
  
 上手く言いくるめられた気がしなくもないが、まあアイラのことだ。俺は信じて待ってればいいだろ。あ、地下90階到達に間に合うように、早めに帰るようには言うべきだったかね。……いやいや、母親か俺は。
 もし間に合わなかったとしても、そのときまた考えりゃいい。地下95階くらいにボス階追加するとかでもいいしな。いくらでもやりようはある。
 さて、あいつらの様子でも見るか。
 
「うわっわわわわ!」
「危ない――っわ!? 創造クリエイト吹風ウィレスカ!!」 
 
 お、早速罠にかかってくれてるようだな。マコトが解析アナライズをサボったのか、それとも遠すぎる罠は範囲外なのか。地下60台階層での様子を見ると後者はないか。だがあのマコトがサボるっていうのも考えづらいし、シエルが突っ走って引っかかったか?
 
「誠、他に罠は?」
「ない……はずだ。今の道にもなかったはず。僕の解析アナライズが間違ってるっていうのか!?」
「お、落ち着けって。別に攻めてるわけじゃない。調子悪いならゆっくり行こう。な?」 
  
 リョーガはそう言って歩き出し、雲の壁から生えてきた巨大な拳に吹っ飛ばされた。ハハハこりゃいい。今までいかに解析アナライズ頼りだったか分かる。 
  
「リョーガ!!」  
「あ……りがと、シエル。助かった」 
 
 落下寸前のところで、シエルが手を掴んで引っ張りあげた。このまま落ちてゲームオーバーとかそれはそれで面白いが、もう普通に死ぬ階層だからな。探索側からしたらたまったもんじゃないだろう。変えるつもりはないが。
 
「ここは落ちられないな」
「そうだねぇ……天界だったら、いずれは地上に着くんだけどね?」 
 
 いやいや、どの道空飛べなければ死ぬだろ。それともあいつらは空飛べるのか?
 さっきは吹風ウィレスカで擬似的に飛んでたが、創造クリエイトで直接翼を作ったら? でも翼の動かし方、飛び方を知らないから無理か? ああ気になる。俺もそっちにすりゃ良かった。一覧ざっと眺めたくらいで時空魔術に決めちまったからな。創造魔術でも、創造クリエイト転移ラムルトとかで似たようなことできそうだし。完全上位互換じゃねーか。 
 
「――創造クリエイト探知サーチ」 
 
 ああおい! おーい! 薄々嫌な予感はしてたが! ダメだろそれは!
 
「よし、これなら問題なさそうだ。マコトの解析アナライズに比べれば質は落ちるけど、一応罠も魔物も確認できる」
「やった! じゃあ先頭はボクたちで歩こ!」 
 
 はあ、やりやがった……。解析アナライズにしなかったのはマコトのことを考えてか、そもそも再現不可能なのか。
 ただの解析アナライズ探知サーチの効果はないらしいし、マコトがアレンジしてるなら創造クリエイトで再現できないのも頷ける。つーかこの場合は普通の探知サーチで足りるんだよな。
 
「マコトはさ、ちょっと休んでてよ! 今まで頑張ってもらってたし!」  
「そうそう。調子が悪くなったのも、解析アナライズの使いすぎが原因かもしれない。まずは少し休んでくれ。俺の探知サーチでも最低限の情報は入ってくるし、階を進める分には問題ない」 
 
 ……いや。ただの探知サーチはある程度対策済みだ。罠の場所と魔物の場所は仕方ないが、試練はスキップできない。正解の道を導くことまではできないからな。
 
「少し先、右側に気を付けて。移動系の罠がある」
「だってさみんな! 注意だよ!」 
  
 自信満々に進んでるその道も間違いだ。久々だぞこの感覚。本来こうあるべきなんだよ。迷宮ってのは。
 
「あ、あれ? 行き止まりだ」
「ええ!? 分かれ道見逃しちゃったかな。マコト、覚えてる?」
「いや……僕は着いて行っただけだから」 
 
 ちゃんと見とけよイジけてんのか? ちなみに普通に見てるだけじゃ気付きようがない。罠を起動して初めて繋がる道だからな。
  
「おかしいねぇ。行き止まりに見えるけど実は違うのかな?」
「そうかもな。ちょっと調べてみようぜ――おわっ!?」
「わわっ!」 
「!」 
  
 見た目通り綿菓子のようになった地面に沈みこむ一行。不思議な感覚だろ。そのまま揺蕩たゆたってるだけなら楽なんだが、そうはいかない。  
 
「ね、ねえリョーガ」 
 
 最初に気付いたのはシエル。
 
「ボクたち、だんだん沈んでいってるような気がしない?」
「……っまさか!」 
 
 焦ったように雲の中に潜っていったリョーガは、すぐに焦った様子で戻ってくる。
 そのまさかだ。じゃないと緊張感がないだろ。……まあ、大した仕掛けでもないんだが。シンプルイズベストってね。
 
「このままだと全員墜落死だ! 急いでここを出ないと!」  
 
 さあ、一つ目の試練開始だ。
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