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第8章
208 違和感
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「――解析。ここも安全だ」
マコト組は、それはもうのんびりと攻略していた。結構暑くてきついはずだし、普通はもう少し急ぐもんだと思ったけどな。
魔物が隠れてそうなとこに片っ端から解析を使ってる。別に姉妹の力があれば怖いことはないだろうし、精々有翼サラマンダーに少し苦戦するくらいだろ。
ただ、リョーガ組もまだ次の階層に行くってことはなかった。流石にその辺はしっかりしてるらしく、ゴールから逆に地図を描きながらマコトの捜索を続けている。
まあ致命的にすれ違ってるってのもあって、こいつらが合流するのはしばらく先の話になりそうだ。こんなのでこの先大丈夫なのか、こっちが不安になってくる。
「マスター、いる?」
「ああ、リフェア」
ノックをして入ってきたのはリフェア。机の上のクッキーを見ているので、一枚渡す。
「ありがとう、マスター!」
「どういたしまして。んで、何か用か?」
「うん。少し前から天使さんが来ているでしょう?」
「気付いてたのか」
リフェアはクッキーを食べ終わると、満足そうにごちそうさま、と笑う。
「そういうものには敏感だもの。でもねマスター、少し変なの」
「変?」
シエルに変なとこあったかな。うーん。確かにレルアとかリフィストとかとは違うタイプだとは思ったが、それは単に性格の違いみたいなもんだろうし。
「これは私だから分かるんだと思う。昔から聖穢術について学んできたから」
「じゃ、どの辺がおかしいか教えてくれるか?」
「ええと、まず存在が薄いの。それも自分で抑えてるとか、こちらに降りてくるときの枷とか、そういうのとは違う」
存在が薄い、ねえ。俺でも雰囲気で分かったくらいだぞ。
「あと、少しだけ私たちの側の匂いがする。大罪とか旧魔貴族とか、そういう普通じゃない力を感じるの」
そういう意味ではリフィスト様も特殊だけれど、と付け足す。忘れてたが、あいつも生贄で復活したみたいな話だったな。
ただ、こっちに関してはピンと来ない。まあ勇者とはいえ割と一般人なとこあるからな。明らかヤバいやつ以外はそうそう分からん。シエルは天使っぽいとは思ったが、それ以上は何も。
「あ、でも、二人ともそうだってわけではないの。片方だけ」
「待てよ、二人? じゃあ姉妹が?」
いやいやそんなはずがない。レルアはシエルのことを中級天使だと言ってた。
となるともう片方も迷宮内にいるってことか? レルアですら感知できないと?
「姉妹? 天使さんは姉妹なの? いえ、神により造られたというのが真実なら、全員姉妹のようなもの……?」
「ああいや、実際見た目も結構似てる姉妹がいるっていうか。天使はシエルの方だって聞いてるしな……とりあえず映像見せるから、ちょっと待っててくれ」
まずマコト組、姉妹の方。暗いのもあって分かりにくいな。カメラ自体は手動で移動できるが、光源の方はどうにもならん。
「ちょっと見づらくて悪いんだが、ここの二人が俺が言ってた姉妹だ。天使だと思うか?」
「ううん、違う。この人たちは……多分、普通の人族」
それなら、既に迷宮内か……いや早合点はよくないな。
「こっちはどうだ?」
「確かにこの人は天使。でも、私が感じた違和感は別の人みたい」
やっぱりそうか。だが一行はそいつがいない前提で動いてるように見える。
「そいつがどこにいるのか分かるか?」
「ううん、迷宮内にいるってことしか分からない。さっきも言ったけれど、かなり存在が薄いの。すぐそこにいても分からないくらい。それを無理矢理代替物で補って、上手く偽装している感じ」
こいつは専門家が必要だぜ。別に分からなくても問題はないが、一応はっきりさせておきたい。
(レルア、それとリフィストも。俺の部屋まで来てくれるか)
(了解です)
リフィストの方は返事がない。緊急時じゃないしいいか……と思っていると扉が開いた。まだ数秒しか経ってないぞ。
「我を呼んだか? ん?」
「リフィスト様!」
「ああリフィスト! 来てくれたか」
「カカ、丁度暇を持て余しとったところよ。それに、娘の気配もしたんでな」
そういやリフェアと仲良かったな。なんだかんだ知識はあるし、来てもらえるに越したことはない。
「お待たせしました……おや、リフィスト殿」
「うげ、優等生」
「なんですかその渾名は。それより、先日の件でお話があります。後ほど私の部屋までお願いします」
可哀想なリフィスト。俺にはどうすることもできないぜ。まあサボりのツケが回ってきたってとこだろ。
「それでマスター、なぜ私たちを?」
「そうだそうだ、レルアの報告にあったもう一人の天使なんだが、既に迷宮内にいるっぽくてな」
「迷宮内に? 妙ですね、シエルと同等の反応はありませんが……」
「余程弱っちい天使なんであろ。最近は再生成の基準も緩くなってそうだしの」
レルアはリフィストの方をチラと見て、静かに口を開く。
「私が上級天使として足りていないと?」
「い、いやあ、そういうことではないが……我の頃はそれこそ、近くに寄るだけで押し潰されそうな力を感じたものよ」
「……精進します」
「いやいや気にするでない! そもそも、そんな力で下界にいればぬしの嫌いな歪みがあちらこちらに生まれるというもの」
だから神に枷をかけられてるんだよな。でもリフェアはそれとは違うだろうって言ってたし……
「実際、その枷のせいで感知できないってのは?」
「それは有り得ません。同じ天使の力で隠しているにせよ、この迷宮内にいて私が気付かないというのも考えらえない……少なくとも、私の知る天使の中にそのようなことができる者はいないかと」
そうなんだよな。リフィストが呼ぶように天界でも優等生だったっぽいし、そんなレルアが感知できないわけないか。
「それなら、そやつの付いている勇者を半殺しにしてはどうだ? そこまでされれば出てこないわけにもいかぬであろ」
「いやいやいや、そんな反則みたいなことができるか。つーかそれでもダメかもしれないぞ。気絶しても出てこないくらいだからな」
「ふうむ、困ったの」
絶妙にモヤモヤする。このまま放置しとくのは嫌だ。
「リフェア、本当にそいつは迷宮内にいるんだな?」
「……ちょっと自信なくなってきちゃった。近くまでいけば分かると思うんだけど、だめ?」
本来なら良くないし、その階層への直接転移はそもそもできない、が……
……次の階層で待機ならいいだろ。
「じゃあ、行ってきてもらえるか。ただ、戦闘はナシだ。つーか見つかるのもナシ。これを約束してくれ。そうだ、レルアの隠蔽で隠れていくといい」
「了解しました。リフェアさん、こちらへ」
「は、はい!」
「――隠蔽」
安定のレルア魔術、完璧な仕上がりだ。
「えーと、リフェア? いるか?」
「うん、すぐ後ろ!」
言葉通り、屈んだ耳のすぐそばに息がかかる。ゾクゾクした。
「よ、よし。じゃあ転移門まで着いてきてくれ。行き先を設定する」
「はーい!」
あいつらの次の階層だから地下37階。今この辺りを攻略中なのは他にいないから、ブロックは指定しなくていい。
「これでオーケーだ。頼んだぜリフェア。危なくなったらすぐ逃げろよ」
「任せてマスター、約束は守るから。行ってきます!」
「ああ、行ってらっしゃい」
「頑張るのだぞ、娘!」
転移門の光が一瞬強まり、そして元に戻る。リフェアの姿は見えなかったが、転移は完了したってことだろう。
「それじゃ二人ともありがとな。リフェアから連絡があったらまた呼ぶから、その辺で待機しといてくれると助かる」
「ならば丁度良いですね。さあリフィスト殿、こちらへ」
「そんな殺生な。今回は駆け付けたであろ、それで手打ちに……」
「これが当然なんです。それより、今日こそは贈り物の整理をしてもらいますからね」
……ああ、リフィスト宛の諸々で倉庫が大変なことになってたっけ。四次元ポ〇ット的空間では上下左右がめちゃくちゃになるから、下手に突っ込むこともできないってレルアがボヤいてた記憶がある。
ま、これはあいつの仕事だしな。俺が押し付けてるわけでもない。どっちかっていうとレルアに悪いが、リフェアも心配だし俺はモニタを監視させてもらうぜ。
マコト組は、それはもうのんびりと攻略していた。結構暑くてきついはずだし、普通はもう少し急ぐもんだと思ったけどな。
魔物が隠れてそうなとこに片っ端から解析を使ってる。別に姉妹の力があれば怖いことはないだろうし、精々有翼サラマンダーに少し苦戦するくらいだろ。
ただ、リョーガ組もまだ次の階層に行くってことはなかった。流石にその辺はしっかりしてるらしく、ゴールから逆に地図を描きながらマコトの捜索を続けている。
まあ致命的にすれ違ってるってのもあって、こいつらが合流するのはしばらく先の話になりそうだ。こんなのでこの先大丈夫なのか、こっちが不安になってくる。
「マスター、いる?」
「ああ、リフェア」
ノックをして入ってきたのはリフェア。机の上のクッキーを見ているので、一枚渡す。
「ありがとう、マスター!」
「どういたしまして。んで、何か用か?」
「うん。少し前から天使さんが来ているでしょう?」
「気付いてたのか」
リフェアはクッキーを食べ終わると、満足そうにごちそうさま、と笑う。
「そういうものには敏感だもの。でもねマスター、少し変なの」
「変?」
シエルに変なとこあったかな。うーん。確かにレルアとかリフィストとかとは違うタイプだとは思ったが、それは単に性格の違いみたいなもんだろうし。
「これは私だから分かるんだと思う。昔から聖穢術について学んできたから」
「じゃ、どの辺がおかしいか教えてくれるか?」
「ええと、まず存在が薄いの。それも自分で抑えてるとか、こちらに降りてくるときの枷とか、そういうのとは違う」
存在が薄い、ねえ。俺でも雰囲気で分かったくらいだぞ。
「あと、少しだけ私たちの側の匂いがする。大罪とか旧魔貴族とか、そういう普通じゃない力を感じるの」
そういう意味ではリフィスト様も特殊だけれど、と付け足す。忘れてたが、あいつも生贄で復活したみたいな話だったな。
ただ、こっちに関してはピンと来ない。まあ勇者とはいえ割と一般人なとこあるからな。明らかヤバいやつ以外はそうそう分からん。シエルは天使っぽいとは思ったが、それ以上は何も。
「あ、でも、二人ともそうだってわけではないの。片方だけ」
「待てよ、二人? じゃあ姉妹が?」
いやいやそんなはずがない。レルアはシエルのことを中級天使だと言ってた。
となるともう片方も迷宮内にいるってことか? レルアですら感知できないと?
「姉妹? 天使さんは姉妹なの? いえ、神により造られたというのが真実なら、全員姉妹のようなもの……?」
「ああいや、実際見た目も結構似てる姉妹がいるっていうか。天使はシエルの方だって聞いてるしな……とりあえず映像見せるから、ちょっと待っててくれ」
まずマコト組、姉妹の方。暗いのもあって分かりにくいな。カメラ自体は手動で移動できるが、光源の方はどうにもならん。
「ちょっと見づらくて悪いんだが、ここの二人が俺が言ってた姉妹だ。天使だと思うか?」
「ううん、違う。この人たちは……多分、普通の人族」
それなら、既に迷宮内か……いや早合点はよくないな。
「こっちはどうだ?」
「確かにこの人は天使。でも、私が感じた違和感は別の人みたい」
やっぱりそうか。だが一行はそいつがいない前提で動いてるように見える。
「そいつがどこにいるのか分かるか?」
「ううん、迷宮内にいるってことしか分からない。さっきも言ったけれど、かなり存在が薄いの。すぐそこにいても分からないくらい。それを無理矢理代替物で補って、上手く偽装している感じ」
こいつは専門家が必要だぜ。別に分からなくても問題はないが、一応はっきりさせておきたい。
(レルア、それとリフィストも。俺の部屋まで来てくれるか)
(了解です)
リフィストの方は返事がない。緊急時じゃないしいいか……と思っていると扉が開いた。まだ数秒しか経ってないぞ。
「我を呼んだか? ん?」
「リフィスト様!」
「ああリフィスト! 来てくれたか」
「カカ、丁度暇を持て余しとったところよ。それに、娘の気配もしたんでな」
そういやリフェアと仲良かったな。なんだかんだ知識はあるし、来てもらえるに越したことはない。
「お待たせしました……おや、リフィスト殿」
「うげ、優等生」
「なんですかその渾名は。それより、先日の件でお話があります。後ほど私の部屋までお願いします」
可哀想なリフィスト。俺にはどうすることもできないぜ。まあサボりのツケが回ってきたってとこだろ。
「それでマスター、なぜ私たちを?」
「そうだそうだ、レルアの報告にあったもう一人の天使なんだが、既に迷宮内にいるっぽくてな」
「迷宮内に? 妙ですね、シエルと同等の反応はありませんが……」
「余程弱っちい天使なんであろ。最近は再生成の基準も緩くなってそうだしの」
レルアはリフィストの方をチラと見て、静かに口を開く。
「私が上級天使として足りていないと?」
「い、いやあ、そういうことではないが……我の頃はそれこそ、近くに寄るだけで押し潰されそうな力を感じたものよ」
「……精進します」
「いやいや気にするでない! そもそも、そんな力で下界にいればぬしの嫌いな歪みがあちらこちらに生まれるというもの」
だから神に枷をかけられてるんだよな。でもリフェアはそれとは違うだろうって言ってたし……
「実際、その枷のせいで感知できないってのは?」
「それは有り得ません。同じ天使の力で隠しているにせよ、この迷宮内にいて私が気付かないというのも考えらえない……少なくとも、私の知る天使の中にそのようなことができる者はいないかと」
そうなんだよな。リフィストが呼ぶように天界でも優等生だったっぽいし、そんなレルアが感知できないわけないか。
「それなら、そやつの付いている勇者を半殺しにしてはどうだ? そこまでされれば出てこないわけにもいかぬであろ」
「いやいやいや、そんな反則みたいなことができるか。つーかそれでもダメかもしれないぞ。気絶しても出てこないくらいだからな」
「ふうむ、困ったの」
絶妙にモヤモヤする。このまま放置しとくのは嫌だ。
「リフェア、本当にそいつは迷宮内にいるんだな?」
「……ちょっと自信なくなってきちゃった。近くまでいけば分かると思うんだけど、だめ?」
本来なら良くないし、その階層への直接転移はそもそもできない、が……
……次の階層で待機ならいいだろ。
「じゃあ、行ってきてもらえるか。ただ、戦闘はナシだ。つーか見つかるのもナシ。これを約束してくれ。そうだ、レルアの隠蔽で隠れていくといい」
「了解しました。リフェアさん、こちらへ」
「は、はい!」
「――隠蔽」
安定のレルア魔術、完璧な仕上がりだ。
「えーと、リフェア? いるか?」
「うん、すぐ後ろ!」
言葉通り、屈んだ耳のすぐそばに息がかかる。ゾクゾクした。
「よ、よし。じゃあ転移門まで着いてきてくれ。行き先を設定する」
「はーい!」
あいつらの次の階層だから地下37階。今この辺りを攻略中なのは他にいないから、ブロックは指定しなくていい。
「これでオーケーだ。頼んだぜリフェア。危なくなったらすぐ逃げろよ」
「任せてマスター、約束は守るから。行ってきます!」
「ああ、行ってらっしゃい」
「頑張るのだぞ、娘!」
転移門の光が一瞬強まり、そして元に戻る。リフェアの姿は見えなかったが、転移は完了したってことだろう。
「それじゃ二人ともありがとな。リフェアから連絡があったらまた呼ぶから、その辺で待機しといてくれると助かる」
「ならば丁度良いですね。さあリフィスト殿、こちらへ」
「そんな殺生な。今回は駆け付けたであろ、それで手打ちに……」
「これが当然なんです。それより、今日こそは贈り物の整理をしてもらいますからね」
……ああ、リフィスト宛の諸々で倉庫が大変なことになってたっけ。四次元ポ〇ット的空間では上下左右がめちゃくちゃになるから、下手に突っ込むこともできないってレルアがボヤいてた記憶がある。
ま、これはあいつの仕事だしな。俺が押し付けてるわけでもない。どっちかっていうとレルアに悪いが、リフェアも心配だし俺はモニタを監視させてもらうぜ。
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