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第8章
205 黒騎士
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***前半マコト視点、後半アヤト視点です。***
「……人が多いな。下手すればシレンシアよりも活気がある」
「そうだよね。それに、歩いてる人もみんな人族みたい」
街は活気に溢れていた。魔界の魔王城とは大違いだ。
それにシエルも言ってたけど、歩いてるのが人族だってことには驚いた。レイレスは一人でここに来たのか、そもそも元々ここに街はなかったって聞いてる。魔物とかならともかく、無から人族を生やす魔術なんてあるはずがない。
でも奴隷を集めて冒険者ごっこをさせているというわけでもなさそうだし、これだけの人が集まる理由があるってことなのかな。
「なあ誠、迷宮は向こうから入れるみたいだぜ。また前回みたいに裏口を探すか?」
「いいや、迷宮として運営されている以上そう簡単には見つからないはずだ。少し面倒だけど正面から突入しよう」
迷宮の魔物だってどうせ僕らの敵じゃない。少なくとも、僕の敵ではない。
「二人とも、準備はいい?」
「ええ、私は万端整っています」
「私も、お姉様と同じく」
……そう、僕には二人がいるから。もう魔力のパスは繋いであるし、道中で試し撃ちしたときも上手くいった。
龍牙とシエルには二人が魔術を使えないって言ってある。その代わりに消費魔力を肩代わりできて、しかもその威力を高められるって。
「じゃあ、行こう」
巨大な城に向けて歩き出す。今度こそ魔王討伐を成功させる。僕自身の手で。
* * *
「おお?」
もしかしてもしなくても、あれが天使じゃないか?
レルアやリフィストが元々着てた白ローブじゃないが、纏う雰囲気が天使のそれだ。ってことは一緒にいるのは勇者か?
妙だな、天使っぽい子の他にもお嬢様っぽい双子の少女がいるが、そっちからはなんというか、天使のオーラみたいなものを感じない。勇者は二人組って聞いてたが片方は違ったのか? 天使もパッと見、アヤトが警戒しろつってた方じゃないやつ……明らか勇者って感じのやつとペアに見える。
じゃあ天使が一人死んだってのか? まさかな。
(レルア、天使っぽいやつが来た。映像を送るから確認してくれるか)
(了解しました)
レルア用の端末に映像を共有と。ちなみにサブ端末はレルアと三騎将に配ってある。何かと便利だからな。
(これは確かに中級天使、天使です。個体名はシエル。彼女もまた勇者の補佐としてこちらへ来ていたはずです)
(つーことは、隣のは勇者ってことか?)
(いえ、そこまでの判断はできかねますが……彼女がいるということはその可能性は高いかと)
あいつらどっからどう見ても日本人顔だし、こっちじゃ黒髪も少ないって聞いた。ついに、ついに勇者が迷宮攻略にやってきたってことか。
(しかし、彼らが勇者なのだとしたらもう一体の天使が気になります。姿を消しているだけというわけではないようですが、天使が消失したほどの素因の揺らぎも確認できていません)
(そう、それなんだよ。俺もそれが気になってた)
(単独で別行動をとっているのかもしれません。迷宮街の巡回を続けます)
(ああ、よろしく頼む)
双子の少女と天使――シエルはゲストアカウントで攻略を始めた。どうやら冒険者証明書がなかったらしい。
ちなみにゲストアカウントでも、特に追加で制限がかかるとかはない。出場時に迷宮用の探索者証明書ってのも発行される。「(上層じゃ)死なない迷宮」ってのもあって、割とそういう冒険者以外の探索者も増えたんだよな。村一番の力自慢とか、自警団で魔物との戦いには慣れてるとか、そんな感じの。
「これで中に入れる……のか?」
「凄いねえ、ボクこんなの見たことないよ!」
一行も、こっちの冒険者と同じように近未来的な入場口に驚いてた。ここの通貨が電子化(っていうのが正しいのかは知らないが)されてるのを知ったら、どんな顔をするのか楽しみだ。
「わ、わ」
「創造・雷裂。落ち着けよ誠、ただのゴーストだ」
「あ、ああごめん。最初に解析をかけるべきだった」
このマコトとかいうやつ、やっぱ大したことなさそうだな。動きも素人くさいし、これといって目立った能力もなさそうだ。
どっちかっていうとあのいかにも勇者っぽい方、リョーガの方が怖いな。何もないとこから色々出して攻撃してるし、腰の杖を使うまでもなくゴーストを一掃してる。あれはかなりの魔力だぞ。調子が良ければ、ソロでも地下4-50階までいけそうだ。
「ふぁ、炎界!」
「ナイスだ誠! よっし次の階行こうぜ!」
ああ、一応マコトの方も魔術は使えるらしい。威力はそこそこだが使い慣れてない感じがあるな。後ろの双子は戦闘中はマコトに力を送ってるだけみたいだが、リョーガの方を強化した方が効率いいんじゃないか?
まあいいや、パーティにはパーティごとのやり方がある。俺も探索側はプロじゃないからな。
「順調順調……ん? 気をつけろ、あいつちょっと強い!」
お、黒騎士だな。確か定期的にゼーヴェの訓練に参加してた気がするし、今じゃ中層のボスくらいの強さだぞ。
「シエル!」
「うん、防御結界!」
「――解析!」
マコトが使った術で黒騎士が起動した、直後衝撃波を伴った斬撃。
「創造――っ!」
それを真正面から受けたリョーガはすっ飛んでいったが、ギリギリで何かの術を発動していたらしく、思いのほか軽傷だった。流石は勇者だな。
「龍牙! そいつは剣術の他にも闇魔術を使うみたいだ!」
「ああ分かった――創造・雷刺!」
雷の弾丸が、レールガンみたいな速度で撃ち出された。俺でも目で追えなかったし、黒騎士が反応できるはずもなく、それは甲冑を貫通して轟音を響かせる。
《闇鎖》
だが、黒騎士の強みは甲冑の中が空っぽってとこだ。今のがコアを貫通してたら終わりだったが、逆にコアを破壊されない限りは戦い続けられる。
「あっ――」
うねる鎖が双子の片方を縛り上げ、首の部分を持ち上げるようにして宙に浮かせた。少女は首の鎖に手をやって足をばたつかせる。ありゃ相当キツく縛ってるな。後ろの弱そうなお嬢様を狙うなんて卑怯な! それでも騎士か! だがその勝利への執念は高く評価したい!
そもそもここはね、迷宮ですよ。上層じゃ死なないっつったって、遊戯場ってわけじゃない。
「マローナ! ――炎弾!」
マコトが炎の球を放ったが、絡み合った鎖はビクともしなかった。弱。率直に言うと弱いぞ君。いや黒騎士が強いのもあるけど。
つーかさっきよりも更に弱く見えるな。もしかして双子が両方近くにいて初めて最低ラインなのか?
「待ってろ今助ける! 創造――」
詠唱を待ってたかのように、黒騎士が思いっきり前に跳んだ。当然リョーガは反応しきれない、が、
「やあああ!」
飛び込んできたシエルがその剣を弾き飛ばす。一転黒騎士の胴体はガラ空き。そこを逃すリョーガではない。
「――天刃雷!」
青白い爆発。煙が晴れるとそこには黒騎士の姿はなく、宝箱一つと魔法陣が出現していた。
「……人が多いな。下手すればシレンシアよりも活気がある」
「そうだよね。それに、歩いてる人もみんな人族みたい」
街は活気に溢れていた。魔界の魔王城とは大違いだ。
それにシエルも言ってたけど、歩いてるのが人族だってことには驚いた。レイレスは一人でここに来たのか、そもそも元々ここに街はなかったって聞いてる。魔物とかならともかく、無から人族を生やす魔術なんてあるはずがない。
でも奴隷を集めて冒険者ごっこをさせているというわけでもなさそうだし、これだけの人が集まる理由があるってことなのかな。
「なあ誠、迷宮は向こうから入れるみたいだぜ。また前回みたいに裏口を探すか?」
「いいや、迷宮として運営されている以上そう簡単には見つからないはずだ。少し面倒だけど正面から突入しよう」
迷宮の魔物だってどうせ僕らの敵じゃない。少なくとも、僕の敵ではない。
「二人とも、準備はいい?」
「ええ、私は万端整っています」
「私も、お姉様と同じく」
……そう、僕には二人がいるから。もう魔力のパスは繋いであるし、道中で試し撃ちしたときも上手くいった。
龍牙とシエルには二人が魔術を使えないって言ってある。その代わりに消費魔力を肩代わりできて、しかもその威力を高められるって。
「じゃあ、行こう」
巨大な城に向けて歩き出す。今度こそ魔王討伐を成功させる。僕自身の手で。
* * *
「おお?」
もしかしてもしなくても、あれが天使じゃないか?
レルアやリフィストが元々着てた白ローブじゃないが、纏う雰囲気が天使のそれだ。ってことは一緒にいるのは勇者か?
妙だな、天使っぽい子の他にもお嬢様っぽい双子の少女がいるが、そっちからはなんというか、天使のオーラみたいなものを感じない。勇者は二人組って聞いてたが片方は違ったのか? 天使もパッと見、アヤトが警戒しろつってた方じゃないやつ……明らか勇者って感じのやつとペアに見える。
じゃあ天使が一人死んだってのか? まさかな。
(レルア、天使っぽいやつが来た。映像を送るから確認してくれるか)
(了解しました)
レルア用の端末に映像を共有と。ちなみにサブ端末はレルアと三騎将に配ってある。何かと便利だからな。
(これは確かに中級天使、天使です。個体名はシエル。彼女もまた勇者の補佐としてこちらへ来ていたはずです)
(つーことは、隣のは勇者ってことか?)
(いえ、そこまでの判断はできかねますが……彼女がいるということはその可能性は高いかと)
あいつらどっからどう見ても日本人顔だし、こっちじゃ黒髪も少ないって聞いた。ついに、ついに勇者が迷宮攻略にやってきたってことか。
(しかし、彼らが勇者なのだとしたらもう一体の天使が気になります。姿を消しているだけというわけではないようですが、天使が消失したほどの素因の揺らぎも確認できていません)
(そう、それなんだよ。俺もそれが気になってた)
(単独で別行動をとっているのかもしれません。迷宮街の巡回を続けます)
(ああ、よろしく頼む)
双子の少女と天使――シエルはゲストアカウントで攻略を始めた。どうやら冒険者証明書がなかったらしい。
ちなみにゲストアカウントでも、特に追加で制限がかかるとかはない。出場時に迷宮用の探索者証明書ってのも発行される。「(上層じゃ)死なない迷宮」ってのもあって、割とそういう冒険者以外の探索者も増えたんだよな。村一番の力自慢とか、自警団で魔物との戦いには慣れてるとか、そんな感じの。
「これで中に入れる……のか?」
「凄いねえ、ボクこんなの見たことないよ!」
一行も、こっちの冒険者と同じように近未来的な入場口に驚いてた。ここの通貨が電子化(っていうのが正しいのかは知らないが)されてるのを知ったら、どんな顔をするのか楽しみだ。
「わ、わ」
「創造・雷裂。落ち着けよ誠、ただのゴーストだ」
「あ、ああごめん。最初に解析をかけるべきだった」
このマコトとかいうやつ、やっぱ大したことなさそうだな。動きも素人くさいし、これといって目立った能力もなさそうだ。
どっちかっていうとあのいかにも勇者っぽい方、リョーガの方が怖いな。何もないとこから色々出して攻撃してるし、腰の杖を使うまでもなくゴーストを一掃してる。あれはかなりの魔力だぞ。調子が良ければ、ソロでも地下4-50階までいけそうだ。
「ふぁ、炎界!」
「ナイスだ誠! よっし次の階行こうぜ!」
ああ、一応マコトの方も魔術は使えるらしい。威力はそこそこだが使い慣れてない感じがあるな。後ろの双子は戦闘中はマコトに力を送ってるだけみたいだが、リョーガの方を強化した方が効率いいんじゃないか?
まあいいや、パーティにはパーティごとのやり方がある。俺も探索側はプロじゃないからな。
「順調順調……ん? 気をつけろ、あいつちょっと強い!」
お、黒騎士だな。確か定期的にゼーヴェの訓練に参加してた気がするし、今じゃ中層のボスくらいの強さだぞ。
「シエル!」
「うん、防御結界!」
「――解析!」
マコトが使った術で黒騎士が起動した、直後衝撃波を伴った斬撃。
「創造――っ!」
それを真正面から受けたリョーガはすっ飛んでいったが、ギリギリで何かの術を発動していたらしく、思いのほか軽傷だった。流石は勇者だな。
「龍牙! そいつは剣術の他にも闇魔術を使うみたいだ!」
「ああ分かった――創造・雷刺!」
雷の弾丸が、レールガンみたいな速度で撃ち出された。俺でも目で追えなかったし、黒騎士が反応できるはずもなく、それは甲冑を貫通して轟音を響かせる。
《闇鎖》
だが、黒騎士の強みは甲冑の中が空っぽってとこだ。今のがコアを貫通してたら終わりだったが、逆にコアを破壊されない限りは戦い続けられる。
「あっ――」
うねる鎖が双子の片方を縛り上げ、首の部分を持ち上げるようにして宙に浮かせた。少女は首の鎖に手をやって足をばたつかせる。ありゃ相当キツく縛ってるな。後ろの弱そうなお嬢様を狙うなんて卑怯な! それでも騎士か! だがその勝利への執念は高く評価したい!
そもそもここはね、迷宮ですよ。上層じゃ死なないっつったって、遊戯場ってわけじゃない。
「マローナ! ――炎弾!」
マコトが炎の球を放ったが、絡み合った鎖はビクともしなかった。弱。率直に言うと弱いぞ君。いや黒騎士が強いのもあるけど。
つーかさっきよりも更に弱く見えるな。もしかして双子が両方近くにいて初めて最低ラインなのか?
「待ってろ今助ける! 創造――」
詠唱を待ってたかのように、黒騎士が思いっきり前に跳んだ。当然リョーガは反応しきれない、が、
「やあああ!」
飛び込んできたシエルがその剣を弾き飛ばす。一転黒騎士の胴体はガラ空き。そこを逃すリョーガではない。
「――天刃雷!」
青白い爆発。煙が晴れるとそこには黒騎士の姿はなく、宝箱一つと魔法陣が出現していた。
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