転生ニートは迷宮王

三黒

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第5章

141 即死

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「大罪ね」
 
 ラビは映像を見るなりそう言った。
 
「マジか」
「ええ、今回のもので確信したわ。凍らせているのは動きを封じるため。そのうえで即死を強制してるってトコかしら」
 
 即死を強制ね。なんかの能力なんだろうが穏やかじゃないな。
 ただ大罪って断言できるほどなのか? それこそ……
 
「あの少女が死霊術師ネクロマンサーとかいう線は?」
「ありえなくはないけれど……大罪と考えるのが自然ね。もし死霊術師ネクロマンサーの術式なら、こうも連続で即死させるのは難しいわ。あのエルイムの術者でさえ、小規模な魔法陣をかなりの数敷いていたようだし」
 
 なるほど、同じ結果でも方法が違うってわけか。ただ凍らせてつっつくだけで殺せるってのは強すぎるな。
 
「ただの魔術で即死は不可能でしょう。当然氷界シャルジアなどの魔術そのものにそのような効果はありませんし、属性付与エンチャントの類いだとしても……なかなか難しいのではないかと」
「何か魔術に類する力がはたらいているなら、そこには必ず魔力の流れ、素因エレメントの動きがあるはず。それがないということは、ラビ殿の言う通りかもしれませんな」
 
 ゼーヴェとアルデムも概ね同意見か。となるとやっぱり大罪の線が濃いか?
 なんのために迷宮攻めに来てるかは分からんが、敵が大罪なら特別措置だ。既に地下50階近くまで来てるようだし、最大戦力で一気に叩く。
 
「大罪ってのは聖魔術とかに弱いんだったよな。今回はリフィストとレルア、サポートでゼーヴェに行ってもらおうと思うんだが……」
「強制が怖いわね。目的も分からないし、もう少し様子を見た方がいいと思うわ。敵を知ってからでも遅くはないはず」
「その強制ってのは一体なんなんだ? 天使の異常耐性も貫通するレベルのやつなのか?」 
 
 てか、異常耐性で押さえられるなら俺が行くのもアリだな。最強パッシブ天の羽衣は伊達じゃない。
 
「ええ、異常耐性はあまり関係ないわね。そして、相手が大罪であると知ってしまっているから少し不利。あれは術者を強力な存在であると思ってはいけないの。術者に有利な契約が結ばれてしまうわ」
「つまり……逆にあいつらを雑魚だと思えばいいってことか?」 
「心の底からね。マスターさんにはそれができる?」
 
 今まで会った大罪……ラビとラステラ。まあ両方バケモンだな。ラビに関してはレルアに勝ってるし。無理。
 
「仕方ないわ。元々大罪っていうのはそういう存在だもの。恐れられ、ときに崇められ。圧倒的な力を更に高めた怪物が大罪となる」
 
 大罪の名に噛み合った能力ってことか。厄介だな。
 ラステラなんかは火力に全振りしたような奴だったから多少楽だったが、今回はそうはいかない。対策……大罪を知らない奴なんているか? いない。オイオイ詰みが早すぎるぞ。
 
「過去には自動人形オートマタのようなものを使って迎撃したという話もあるわね」
 
 自動人形オートマタか……DPショップにも並んでたが、今の貯DPじゃ数体買えるかどうかってくらいの高額だった気がする。
 一体一体がAランク冒険者と同等以上の実力らしいが、逆に言えばそこ止まりだ。今回の相手は大罪。強制が効かないとしても、自動人形オートマタ数体に任せるのは危険すぎる。
 さて、どうするか……
 
「あの……マスター、いるかな」
「お? イヴェルか。どうした?」

 一瞬誰かと思った。そういや本名明かしてなかったな。まあマスター呼びでも不便はないからいいか。 
 
「術式後の昏睡だけど、本人が魔力暴走スタンピードが起こらないように抑えているからかもしれない、と思ってね。もしそうなら色々やりようがあるし、僕でも力になれそうだ」
「そうなのか。俺はその辺詳しくないからな……頼んでいいか? 人が必要なら何人かに声をかける」
「いや、一人で大丈夫だよ。気休めというか、応急処置みたいなものだしね……その映像は?」 
「ああ、実はな――」
 
 そりゃセシリアが写ってたら気になるよな。かくかくしかじか。
 
「――というわけだ。大罪だけ殺して、イヴェルの友人を助けることは一応できる」
「信じられない……あのセシリアが大罪と契約!? 絶対何か裏がある、本当にそんな奴じゃないんだ」
「操られてる可能性もあるかもな、さっき言った強制とかいうやつで」
 
 カインが何か不気味だっつってたのはそれかもしれない。単に大罪だからってだけかもしれないが。
 
「……僕が出よう。僕がセシリアを止めてみせる」
「おいおい、友人だっつっても相手は大罪の契約者だぞ。何か策はあるのか?」
「勿論だよ。レルアさんには負けたけど、僕は一応宮廷筆頭召喚士アルクコンスだからね」
 
 不安だ。ロロトスとかいう使い魔は強そうだったが、本人が気絶したらそこで終わりだったからな。
 
「それに、地下51階より下は普通に死ぬぞ。イヴェルは迷宮ここの魔物ってわけじゃない」
「だとしても、だ。道を正してやるのは友人の務めだと思う」

 そう言われると言い返せない。っていうのは言い訳だし、これは俺の甘さで弱さだ。
 だが今の俺には大罪を被害ゼロで片付ける力も、その自信もない。イヴェルに任せるしかない……そうするのが一番合理的だ。最悪イヴェルが死んだとしても、作戦を立てる時間稼ぎにはなる。とか考えてる自分が嫌になる。
 同郷だと言っても元は敵だし、完全に信頼できるかと言われればノーだ。利用するだけして、テキトーなとこで退場してもらう。それが迷宮王として正しい判断な気がしないでもないが……。
 ああ嫌だ嫌だ。こういうのは向いてない。
 
「……まあ、そうかもな。俺は策がなくて困ってたし、丁度いいってやつだ。転移門ゲートは使えるようにしておく――死ぬなよ」
「任せてほしい。アイラさんの処置を終えたらセシリアの階層に向かうよ」
 
 イヴェルは部屋を出ていった。色々と思うところはあるが、後悔はできない。
 
「イヴェルが向かったあと、出方を見て作戦を練ろう。自動人形オートマタは五体買えるが、それだけじゃ勝てないだろ?」
「無理でしょうね。大罪の正体が私の予想通りなら、彼は以前の戦いで自動人形オートマタとの戦いを経験しすぎているもの」
「セシリア本人もそこそこ強そうだしな……どうしたもんか」 
 
 ……っと、遂に地下50階に到着か。何回か罠にはハマってたようだが、誘引系は全部無効化もいいとこなのがキツかったな。
 爆発は瞬間的に凍らせて対処されたし、通用したのは各種落とし穴くらいか。原点にして頂点。

 地下50階のボスはクラーケン、大イカだ。身に纏う結界のせいで、十本ある腕の全てを破壊しないと本体に攻撃が通らないっていう面倒なボスだが――
 
「――氷界シャルジア
 
 一瞬で全部凍って、結局同じ結末だ。まあそうだよな。にしてもなんでこう極端なんだ。即死チートはbanだぞban。
 地下51階からは雪山だが、まあ砂漠も越えたらしいしあまり関係なさそうだな。氷魔術が効かなければ或いは……
 
「――氷弾シャルダ
 
 ダメそうだ。クソ。長時間かけて作った迷宮を雑に攻略しやがって。
 
「……思った以上にまずいな。強制即死が強すぎる」
「相性の問題もあるわね。元々雑魚を片付けるのに適した能力だもの」 
 
 なるほど相性最悪だな。占い師も泣いて逃げ出すレベルだ。弱ったぞ……とか言ってる間にもう地下52階に入りそうだ。RTAでもしてるのか?
 
「セシリア!」
 
 地下51階に入ってきたのはイヴェル――そして、ロロトス。やっと来たな。さっきは自信ありげだったが、この最強即死野郎とどう戦うんだろうか。
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