転生ニートは迷宮王

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第4章

116 サラマンダー

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(あー、カイン? 起きてるか? てか生きてるよな?)
(っったりめェだろマスター!? やっとオレの出番か? そうだよな? な? 早く戦わせろ、暇で暇で仕方ねえンだよ!)
 
 念声がデカい。一応アイラに斬りかからないように言っといたが、それはちゃんと守ってくれてるみたいだな。じゃなきゃこうやって喋れてるはずがない。
 にしても元気だ。元気すぎる。なんつーか、念話越しでもやる気みたいなのが伝わってくるくらいには。これは期待できそうだ。
 
(じゃあ、地下40階に向かってくれ。もう少ししたら探索者がそこに行くはずだ)
(了解了解ィ!)
 
 ……っと。そういや地下40階には既に焔の巨人サルディエルがいるんだった。言語を解すタイプではなかった気がするが、一応撤退命令を出しとくか。
 
(へいサルディ?)
(ヴ――ヴォ――ギ――)
 
 おお、何言ってるかわかんねえ! ――のに、意味は大体理解できる。これは迷宮王の特権か?
 とにかく意思疎通ができるのは嬉しい。今度喋れないゴーストとかにも試してみるか。
 で、なんだって? 敵――なんかニュアンスが違うな――脅威――仲間――上司? 上手いこと言語化できない。案外ムズいぞ。頭の中にそれっぽいイメージが伝わってくるだけだから、完全に理解するまでには少し時間がかかる。
 そいつが襲ってきてるって? 困惑――抵抗――――敗北――謝罪――念話が途切れた。もしもーし? 返事はない。
 
 …………まさか、カインのやつサルディ殺っちゃったのか。
 
(カイン――) 
(悪ィマスター! まァまァいいだろ? 準備運動は必要だと思うぜ? な? な?)
 
 準備運動で殺されるサルディの気持ちにもなってやれ。まあカインにとっては意思疎通できないタダの魔物か。っつっても一応ほら、仲間なんだし……。
 
(んー……まあ……今回は目を瞑るが、それで魔物がへそを曲げても困る。仲間に対しては、できるだけ平和に穏便に接してくれよ) 
(ああわかったわかった、次からは気ィ付けるぜェ!)
  
 いかにもわかってなさそうなセリフだが。
 前はここまで戦闘狂じゃなかったはずなんだけどな。確かに話が通じない自分勝手な部分もあったが、それとは別ベクトルに妙な進化を遂げた感じがある。
 まぁアイラにずっと負け続けてるし、どう変わっててもおかしくはないか。
 
 ひとまず、カインの方はこれで良し。レイは――地下39階、ソロだ。
 結局アレンは諦めたんだな。正解だと思う。ソロはキツいとは思うが、あそこで生死もわからんアレンを探すのは無謀が過ぎた。
 会敵さえしなければ、ソロの方が効率がいい場面も多い。囲まれれば別だが逃げるのだって楽だ。一回踏んだら壊れるような足場も、ソロなら遠慮なく使えるし。
 
 まあ残念ながら、地下39階で会敵しないのは無理だ。多分探知サーチがあっても無理。なんたってサラマンダーしかいないからな。
 この迷宮には今んとこアクティブモブしかいないが、サラマンダーはその中でも索敵能力がずば抜けて高い。その階層に入った時点で六、七割はどれかの個体の索敵範囲に入ってると思っていい。
 基本単独から数体での行動、誰かの獲物に手は出さないってスタンスの魔物だから、大勢に襲われて即死するってことはないだろう。空を飛ばない通常個体なら、数体来てもソロで捌ききれないほどじゃない。だが、ここで怖いのは有翼個体エルダーの方だ。
 ……って、早速通常個体の方に出遭ったみたいだな。地下40階に向けて消耗は抑えていきたいし、時間はかけてられないぞ。
 
「――ふっ!」
「キュルルィ……」 
 
 おっ、と……一太刀で片付けられるのは想定外だ。通常個体とて外皮はそこそこ硬いし、熱――炎に対して耐性もある。凄い集中力だな。鬼気迫るものを感じる。
 ああ、次が来たぞ。三体、全員正面からだが一体は炎ブレスの準備完了だ。そいつを最初に処理するにしても、その片手剣だけじゃ他の個体からの攻撃を防ぎきれないだろ。盾を持っておくんだったな!
 
「何体来ようとっ! 同じことだっ!」
「キュ……ル……」 
 
 恐ろしく速い斬撃、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。……って待て待て、ソロになってから強くなりすぎじゃねーか? ソロだと強力なバフがかかるタイプのキャラだったの?
 
「――邪魔だ!」
 
 角にいた個体が、出てきた瞬間に首を切られて死んだ。ダメだこれ。エルダー早く来てくれ。
 と、広めの場所に出た途端にレイが足を止める。どうした腹でも痛いか?
 レイは宙を睨んで刀を構えた。なるほど。何が来るかわかってたってことか。俺より先に。
 
「ギュルルルルララララ!!」
「ぜぁっ!」 
 
 炎を吐きながら高度を落として突進してくるエルダーに、縦一直線の斬撃。
 が、流石は進化形なだけあって一撃では落ちない。旋回して再び突進の姿勢に入る。
 
「くっ……そ!」
 
 やっぱり空中の敵相手はやりにくそうだな。今の一撃が微妙に浅かったのも、距離が遠くて全力で踏み込めなかったのが原因かもしれん。
 エルダーは、群れにくい代わりに個体ごとの能力がかなり高い。見た目こそ通常個体を大きくして羽を生やしただけだが、速度もパワーも段違いだ。
 
「こっちだ!」
 
 レイはり出した岩によじ登って刀を構える。
 飛び上がる必要がない分、さっきよりは重い斬撃が出せるだろうが……お世辞にも安定した足場とは言えない。それに、エルダーはただのトカゲじゃないぞ。どちらかっていうと竜種とかその辺に近い賢さだ。
 
「ギュルルィルルルィ!」
「なっ……!」 
 
 案の定、エルダーは正直から飛び込むことはなかった。つまり、一連の動作は全部フェイク。流れるように下の隙間をくぐって横に回り、後ろ足で軸の細くなってる部分を叩き壊す。
 
「まずい……っ」 
 
 レイは、10メートルは優に超えてそうな高さから地面に向かって真っ逆さまだ。ほらな言わんこっちゃない。言ってねーけど。
 
「――炎よイレミア!」 
 
 落下中に結晶化した左腕で魔術を使った。地面を溶かさない程度の熱線を出し、上手いこと落下の速度を緩めたらしい。
 左腕で使うのは珍しいなと思ったが、この方法を生身の右でやると骨とか折れかねない。そこまで考えてたんだとしたら中々やりよる。
 が、着地に成功したくらいでは喜んでられないぞ。相手は構えるのを待ってはくれないし、わざわざ正面に回ってきてもくれない。
 
「くそっ!」 

 お、ここでマナポーション使っちゃうか。まあジリ貧で死ぬよりはいいが、もう二、三本しか残ってないんじゃないか?
 
「――其の切っ先コルフ・パス・は天を焦がしイルズ・アルカ其の刃先コルフ・ゼト・は地を灼くラクア・トア――」
 
 岩の足場が崩れたときの土煙で、エルダーは上手く狙いを定められないらしい。さっさと突っ込まないと詠唱が終わるぞ。強制ゲームオーバーだ。
 エルダーもそれはなんとなく理解しているのか、大体レイが落下した辺りに向けて加速を始める。
 
「――我が身体ノ・ロナ・は業火となりてポルタ・イレミア一切を無に還さんツァウ・ラ・アーフダ!」
 
 が、遅かった。勢いよく極太熱線に突っ込んでトカゲの丸焼き一丁上がりだ。……丸焼きってのは嘘で、システムが消すより先にその全身は塵と化していた。
 やっぱオーバーキルだろそれ。カインに気を付けるように言っといた方がいいかね。
 ……いや、あいつなら何とかするだろ。てか言ったとこで変わらない気がする。
 
「まだ、いるのか……」
 
 っと次のエルダーが後ろから来てる。前からは通常個体が数体。いや数体の群れが四……いや五。そこから道なりほぼ直線300メートルくらいで次の階層への階段だが、暗すぎて見えないか。
 だがここで右折するとかなり遠回りだし、溶岩落とし穴とかの即死系罠もそこそこある。まあまず後ろのエルダーには追い付かれるな。
 
「――突破する!」 
 
 レイは刀に魔力を流し、舞うようなステップで次々に前方の通常個体をなで斬りにしていく。大正解だ。やっぱりお前は持ってる。主人公だよ。
 そこの階段を下ったらいよいよ地下40階、レイの中では最終階層ってわけだ。感動のボス戦だな。
 
「やっと来たかァ! 遅っせェんだよ探索者! 何をのんびりしてやがンだ? え?」
「……誰だ、お前は」 
 
 ああ、出てったタイミング的に互いのこと知らないのか。
 
「オレが誰かなんてどうでもいいだろ? オレはてめェの敵、で――」 
 
 カインが腰の片手剣を抜く。
 
「――てめェを殺す男ってェわけだ!」 
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