転生ニートは迷宮王

三黒

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第4章

104 置換

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 さて、迷宮内じゃ転移ラムルトは使えないし俺は脱出テレプトを使えるわけでもない。
 一応限定的に解除もできるが、解除申請からシステムが動くまで少しラグがある。
 転移禁止ってのは一応結界扱いだから、レルアとかに頼んで無理やりかち割ってもらってもいいんだが……修復に数ヶ月はかかるらしい。そりゃ流石に危険すぎる。
 っつーか別に自室まで戻らなくてもいいんだ。入口横に管理者用の転移門ゲートを設置してある。
 フックが付いたロープでもあれば何とかなりそうなんだけどな。今度雑貨屋に追加しとこう。
 
「よっ……いや……無理!」
 
 紅蓮刀突き立ててよじ登ろうとしたが、足場がツルッツルすぎてどうしようもない。まぁなんとかなられても困るんだが。
 
 転移系魔術で、さっき挙げたの以外に俺が使えるのがもう一つある。置換レプリアスだ。どういう仕組みなのかわからんが、迷宮内で使えるのは確認済み。
 問題は、置換レプリアスは目に見える範囲までしか飛べない――上まで行くのは到底無理ってことだ。
 ……いや、何回も使えば上まで行けるか? そう魔力消費が多い魔術でもないし、絶望的に深い落とし穴ってわけでもない。
 まあ物は試しだ。迷ってる時間が勿体ない。
 
「――置換レプリアス――っ!?」
 
 ってえ! 急いで腕を引き抜こうとするも、時すでにお寿司。痛みで思い出したが、置換レプリアスはどこでもお手軽転移魔術ってわけじゃなかった。
 置換する対象がなければクッソ小さい穴が開くだけなんだよ。しかもすぐ閉じるやつ。
 てかマジで痛い。肘から先が戻ってこれなくなってる。動かそうとする度に激痛が走る。
 腕吹っ飛ぶレベルの怪我は治すのに時間がかかるし、そうなったら多分痛すぎて気絶するぞ。それは非常に困る。
 とりま腕を元に戻そう。このままだといつねじ切れるかわからん。
 
「――置換レプリアス!」 
 
 ……っふー……成功。腕には五ミリくらいの切れ込みが入っていた。そりゃ痛いわけだ。
 まあ空間が閉じきる前で良かった。この程度なら時遡ヒールは部屋でやればいい。痛えけど。
 それでもとにかく上に登ることを優先したい。今の置換レプリアスの方法も悪くなかったはずだ。時間を開けずに連続でやれば、なんとかなるはず。
 
「――置換レプリアス――」 
 
 魔力を流し込みまくって無理やり空間をこじ開ける。血管切れそう。あと思った以上に魔力消費がデカい。迷宮内じゃなければ二、三回が限界かもしれん。
 やっと全身が抜けた。足場がないので渾身の力で紅蓮刀を壁に突き立てて一瞬時間稼ぎ――おっ?
 紅蓮刀が明るく輝いた。丁度レイが詠唱したときと同じような輝き方だ。
 どうやらかなり高温になってるらしく、その切っ先がどんどん壁に沈んでいく。
 
「待て待て待てストップ! もういいぞ! それ以上溶かすとまずい!」
 
 俺の声に呼応するかのように、数秒で輝きは消えた――刀と体の落下も止まった。一体どうなってんだ? 炎よイレミアってのには反応しなかったのに。まさか紅蓮刀お前……ツンデレなのか? もしかして……人型になったりしちゃうのか?
 冗談はさておき、余裕ができたのは確かだ。毎回この要領で紅蓮刀に助けてもらえば上まで行ける。落とし穴の構造的に、あと二回ってとこか。
 
「――置換レプリアス!」
 
 再び本気モード。さっきので少し魔力調整のコツが掴めたから、今度は血管切れそうなほど力むこともない。
 全身が抜けた、ここで紅蓮刀頼んだ! ……だが安定のツンデレ属性。圧倒的沈黙。ってヤバい落ちる落ちる落ちる!
 
「――レプ――!!」
 
 っと、ギリギリのところで紅蓮刀が壁に沈んでいった――今度は驚いてるうちに止まった。俺のこと振り回して遊んでんのか……と思ったがこれ多分違うな。単純に、魔力を流したら高温になる仕組みってだけだ。それなら色々と納得がいく。
 まあそれはそれとしてツンデレ紅蓮刀ちゃんは歓迎だが。べっ別にあんたの為なんかじゃないんだからねって幻聴がバッチリ聞こえたぜ。
 さて、地上まで残り一回。
 
「――置換レプリアス!」 
 
 空間から体を乗り出すと、ちゃんと地面が存在してて少し感動する。シャバの空気はうめえな。
 ただ自分で仕掛けた落とし穴から戻ってきただけなのに、謎の達成感がすごい。腕の痛みと疲れもすごい。
 力んだせいで腕の傷から結構出血してることに今気が付いた。早く部屋に戻って時遡ヒールしながらまったりレイ一行を眺めたい。
 
「っし」 
 
 立ち上がって重い体を引きずりつつ、階層の入口まで歩く。
 階段の壁に手をかざすんだったよな。
 
『認証完了。転移先を選択してください』
「俺の部屋……あー……最下層で」 
『転移先を設定しました。転移完了時に転移門ゲートを再度無効化します』 
 
 これで良し。多少面倒だが、あるのとないのじゃ大違いだ。
 いつもの青い光に包まれれば、もう目の前は見慣れた水晶のリビング。ただいま我が家。広すぎる庭から戻ったぜ。
 
「どうした童! 酷い怪我ではないか!」
「ああ、リフィストか。出血は派手だが少し時遡ヒールすれば治……っとと」 
「童!?」
 
 おっと貧血気味か? ちょっとフラつく。
 思わずへたり込んだが今度は立ち上がれなくなったぞ。おいおい自室はすぐそこだってのに。
 
「いや、気にするな。ちょっとした貧血だ、大したことない」
「青白い顔でよく言うわ。ほれ、傷を見せよ」

 そう言うが早いか、リフィストは俺の腕に触れると一撫でで治してみせた。痛みもない。
 流石は天使様ってとこか。レベルが違う。
 
「立てるか? それとも、我の助けが必要かえ?」 
「あー……今すぐには無理だが、まあ少し休めば立てるようになる」
「全く仕方のない童であるのう、自分の部屋まで歩くことすらかなわぬとは!」 
 
 そら、と俺の体を軽々持ち上げる銀髪少女。からのお姫様抱っこだ。絵面が完全に事案。
 
「お、おい待て。下ろしてくれ。マジで少し休むだけで……」
「はっ、何を言うか。これはぬしの甘さに対する罰よ」 
  
 まさかリフィスト、俺がなんで怪我したのか知ってるのか……? いや、自分の罠にかかったのなんて思考を読んでもわからなかったはずだ……俺もそんなのをイメージした記憶はない……
 
「ほう、思った以上に阿呆な怪我だったようだの」

 リフィストがニヤと笑う。あっクソこいつやりやがった。カマかけたんだろ今の。お姫様抱っこで既に恥ずかしいところにこれだ。恥ずかしすぎて死にそうだよ俺は。 
 
「やれやれ、童は仮にもこの迷宮のマスターなのであろ? これでは威厳も何もあったものではないのう?」

 ……返す言葉もございません。
 
「ま、あの上級天使エイフリッドには黙っておいてやらんでもない。ポテチを二……いや三袋で手を打とうぞ」
「わかったわかった。すぐに出す」
 
 たったの30DPで済むなら安いもんだ。リフィストがポテチ好きで助かった。
 教会建てたから菓子類には困ってないだろうが、実はポテチとかコーラとかは街には流してない。ゴミをポイ捨てされても困るし。そのうち街中にゴミ箱設置する予定ではあるんだが、ゴミ箱っていう文化がこっちにあるのかもわからん。そもそも炭酸とかは麻痺パライズ系の毒と間違われて売れなそうだ。
 上機嫌なリフィストが早速一袋目を開け始めた。俺もなんかつまみつつあいつらの攻略を眺めるとするか。……ギガント、まだやられてないよな?
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