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第3.5章
93 荒野を往く
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***3.5章は誠視点です。***
「だー……うー……疲れたー……エリ姉おんぶ!」
「こらこら、ちゃんと歩かなきゃ駄目でしょう? 今のうちに慣らしておかないと、ね?」
「うう、そうだけどさあ……」
最後に村に立ち寄ってから、早くも四日が経った。……あれ、五日だったかな。そろそろ野宿にも慣れてきた。
「魔界、いつ着くんだろうねえ。ルインちゃん?」
「……すぐだろう。それに、まだそう騒ぐほどは歩いていない」
「ええ、ボクもう限界だよ。毎日同じような景色ばっかだし!」
確かに、ここ数日ずっと荒野を歩き続けている。魔界に近付くにつれて、どんどん殺風景になってきた感じ。
「お城の庭でのんびりしたい! お昼寝したい! もっと出発遅れても大丈夫だったよ絶対!」
シエルは、そう言いながら龍牙の頭上を飛び回る。案外元気そうだ。
「まぁまぁシエル。もうすぐ昼食休憩だから、それまでは頑張ろうぜ?」
「でもでも、またあの微妙な保存食でしょ?」
「しょうがないだろ。俺もそんな好きじゃないけど、他にないんだからさ」
まあ、微妙っていうか正直不味い。質がとにかく低いクッキーみたいなものと、噛み切れなくてちょっと臭い干し肉。エリッツさんが出してくれる水は美味しいけど。
「あーあ、なんか食べれるものないかなあ。って言っても、こんな場所のなんてみんな毒持ってそうだよね……」
「うーん。一応サソリ型の魔物とかはいるみたいだけど、食べたらお腹を壊しちゃうみたい」
エリッツさんが魔物一覧の冊子を開いて言う。こんな場所で腹を壊したら事だ。なんたってトイレないし。岩の影で体を丸めて延々唸り続けることになる。……最悪だ。
「ま、こうもずっと同じ風景だと飽きるよな。誠は足とか平気か?」
「ああ、うん。僕も一応勇者だからね」
「はは、それもそうか! ほらシエル、誠も平気だって言ってるぜ?」
「うー……頑張るよー」
シエルは、再び龍牙の隣を歩き始めた。サソリ食べたいとか言い始めなくて良かった。
まあ、そのサソリすら滅多に見ない。しばらく前から何もない。眼前の赤茶けた大地は、どこまでも広がっていくように見える。
「あれ?」
「りょーくん、どうしたの?」
「いや、なんか人影が見えたような。でもこんな場所にいるはずないしな」
僕にも見えなかった。蜃気楼みたいなものかな。
「ご機嫌よう、旅の御方々」
「!」
数メートル先に、突然老人、と焚き火が現れた。見た目は普通だ。白髪も綺麗に整えられていて、品のいい印象を受ける。けど。
(ねえねえリョーガ、今急に出てきたよね)
(ああ、少し怪しいな。誠、頼めるか?)
(う、うん。やってみるよ――解析)
こんな場所に一般人がいるはずがない。意識を集中させる――
数秒経っても、名前すら見えてこなかった。ここに来るまでの道中に、名前も分からないような魔物はいない。つまり、別格。例え人間だとしても、レベルが違いすぎる。
(何も見えなかった。気をつけておいて損はなさそうだね)
「そう警戒なさるな。それよりこの先は魔界。こちらとの境には宝が埋まってるなんて噂もありましたが、所詮は噂。命をかけるほどじゃありませんて」
老人はどこからともなく木製のコップを取り出し、僕らに飲み物を配った。不思議と飲みたくなってきたけど、きっと飲んじゃ駄目だ。シエルが早くも口をつけそうで危ない。ちょっと待って。
(――解析)
並ぶ各種の状態異常付与。やっぱり。
「――毒だ!」
「ヒ、ヒ、ヒ、素直に飲んでおけば苦しまずに済むものを! ――暗堕!」
焚き火が青黒く光って、僕らの周りが……いや、空が暗くなった。夜は星が綺麗なはずだけど、それすらもない一面の闇。
「――聖陽! 下がって、みんな!」
「俺が援護する! ――創造・具現化!」
戦闘に入ると僕はもうやることがない。ナイフに魔力を流して陣を刻むやり方も少し教えてもらったけど、まだ実戦……それも格上相手なんかで使えるほどじゃないし。
「――創造・属性付与、光」
龍牙が剣を作り出す。聖剣があったらこんな感じなんだろうなっていう、いかにも勇者っぽい剣だ。
「次の一撃で幻影を裂くよ! りょーくんお願い!」
「任せてくれ! ――創造・鼓舞!」
「ありがと! いくよ――」
「おう――」
「「――白輝斬!」」
白い輝きを帯びた斬撃が、暗く染まった世界をX字に裂いた。空を覆っていた闇が、剥がれ落ちるように消えていく。
「シエルちゃん、足止め!」
「はいはーい――土鎖!」
「次、ルインちゃ――」
「――聖雷」
僕の横から数本の光る槍が飛び出す。足を縛られて動けなくなった老人は、その槍を全身に受けて絶命……いや。
槍を受けた瞬間に老人の体が破裂した。その細かな欠片が、黒い靄となってこちらに高速で移動してくる。
狙いは、僕だ。
「まーくん、危ない! ――風衝!」
「っ!」
横からの衝撃で身体が宙に浮く。大丈夫、あの靄に何かされるのに比べれば100倍マシだ。
「絶対に許さない……! 聖なる光よ、此より広がり魔を祓え――大聖浄!」
エリッツさんを中心に、巨大な光の爆発が起こった。眩い輝きが、辺り一面に広がっていく。流石は元聖騎士、光属性の魔術のレベルが高すぎる。
少し経って光も落ち着くと、老人の姿はなかった。多分魔界の存在とかだったんだろうけど、エリッツさんがいなかったら危なかったと思う。
……ああ、エリッツさんといえば。
「まーくん大丈夫!? 怪我してない? 痛いとこあったらお姉さんに見せて?」
「いや、大丈夫ですよ――大丈夫ですって。勇者はあのくらいで怪我しませんよ」
「でも、咄嗟のことで加減できなかったから……本当に大丈夫? 痛かったら無理しないで言ってね?」
城を出てからずっとこんな感じだ。本人曰く''弟ができたみたい''だそうだけど、普通はこんなに甘やかさないと思う。
っていうか、僕はこれでも一応勇者だ。エリッツさんはどうも僕を非力な村人Aとでも思ってるような節がある。いや、非力なのは実際そうなんだけど。
「やれやれ、また勇者でもない者に護られたのか」
ルインは、僕がエリッツさんに助けられる度にこうして嫌味を言ってくる。僕は戦闘系の職じゃないから仕方ないといっても聞く耳を持たない。
気にしなければいいんだろうけど、妙に納得してる自分もいる。勇者っていうのは護られる存在じゃない。本当は逆で、仲間を、皆を護るべき存在のはずだ。
「りょーくん、ナイスアシスト! お姉さん助かっちゃった!」
「いやいや、姉さんのタイミングが完璧すぎただけだって。俺結構魔力ぐらついてたし」
目指すのは、あの場所だ。今龍牙が立っている、エリッツさんの隣。
そのためにもやっぱり、戦うための力を身につけないと。
「だー……うー……疲れたー……エリ姉おんぶ!」
「こらこら、ちゃんと歩かなきゃ駄目でしょう? 今のうちに慣らしておかないと、ね?」
「うう、そうだけどさあ……」
最後に村に立ち寄ってから、早くも四日が経った。……あれ、五日だったかな。そろそろ野宿にも慣れてきた。
「魔界、いつ着くんだろうねえ。ルインちゃん?」
「……すぐだろう。それに、まだそう騒ぐほどは歩いていない」
「ええ、ボクもう限界だよ。毎日同じような景色ばっかだし!」
確かに、ここ数日ずっと荒野を歩き続けている。魔界に近付くにつれて、どんどん殺風景になってきた感じ。
「お城の庭でのんびりしたい! お昼寝したい! もっと出発遅れても大丈夫だったよ絶対!」
シエルは、そう言いながら龍牙の頭上を飛び回る。案外元気そうだ。
「まぁまぁシエル。もうすぐ昼食休憩だから、それまでは頑張ろうぜ?」
「でもでも、またあの微妙な保存食でしょ?」
「しょうがないだろ。俺もそんな好きじゃないけど、他にないんだからさ」
まあ、微妙っていうか正直不味い。質がとにかく低いクッキーみたいなものと、噛み切れなくてちょっと臭い干し肉。エリッツさんが出してくれる水は美味しいけど。
「あーあ、なんか食べれるものないかなあ。って言っても、こんな場所のなんてみんな毒持ってそうだよね……」
「うーん。一応サソリ型の魔物とかはいるみたいだけど、食べたらお腹を壊しちゃうみたい」
エリッツさんが魔物一覧の冊子を開いて言う。こんな場所で腹を壊したら事だ。なんたってトイレないし。岩の影で体を丸めて延々唸り続けることになる。……最悪だ。
「ま、こうもずっと同じ風景だと飽きるよな。誠は足とか平気か?」
「ああ、うん。僕も一応勇者だからね」
「はは、それもそうか! ほらシエル、誠も平気だって言ってるぜ?」
「うー……頑張るよー」
シエルは、再び龍牙の隣を歩き始めた。サソリ食べたいとか言い始めなくて良かった。
まあ、そのサソリすら滅多に見ない。しばらく前から何もない。眼前の赤茶けた大地は、どこまでも広がっていくように見える。
「あれ?」
「りょーくん、どうしたの?」
「いや、なんか人影が見えたような。でもこんな場所にいるはずないしな」
僕にも見えなかった。蜃気楼みたいなものかな。
「ご機嫌よう、旅の御方々」
「!」
数メートル先に、突然老人、と焚き火が現れた。見た目は普通だ。白髪も綺麗に整えられていて、品のいい印象を受ける。けど。
(ねえねえリョーガ、今急に出てきたよね)
(ああ、少し怪しいな。誠、頼めるか?)
(う、うん。やってみるよ――解析)
こんな場所に一般人がいるはずがない。意識を集中させる――
数秒経っても、名前すら見えてこなかった。ここに来るまでの道中に、名前も分からないような魔物はいない。つまり、別格。例え人間だとしても、レベルが違いすぎる。
(何も見えなかった。気をつけておいて損はなさそうだね)
「そう警戒なさるな。それよりこの先は魔界。こちらとの境には宝が埋まってるなんて噂もありましたが、所詮は噂。命をかけるほどじゃありませんて」
老人はどこからともなく木製のコップを取り出し、僕らに飲み物を配った。不思議と飲みたくなってきたけど、きっと飲んじゃ駄目だ。シエルが早くも口をつけそうで危ない。ちょっと待って。
(――解析)
並ぶ各種の状態異常付与。やっぱり。
「――毒だ!」
「ヒ、ヒ、ヒ、素直に飲んでおけば苦しまずに済むものを! ――暗堕!」
焚き火が青黒く光って、僕らの周りが……いや、空が暗くなった。夜は星が綺麗なはずだけど、それすらもない一面の闇。
「――聖陽! 下がって、みんな!」
「俺が援護する! ――創造・具現化!」
戦闘に入ると僕はもうやることがない。ナイフに魔力を流して陣を刻むやり方も少し教えてもらったけど、まだ実戦……それも格上相手なんかで使えるほどじゃないし。
「――創造・属性付与、光」
龍牙が剣を作り出す。聖剣があったらこんな感じなんだろうなっていう、いかにも勇者っぽい剣だ。
「次の一撃で幻影を裂くよ! りょーくんお願い!」
「任せてくれ! ――創造・鼓舞!」
「ありがと! いくよ――」
「おう――」
「「――白輝斬!」」
白い輝きを帯びた斬撃が、暗く染まった世界をX字に裂いた。空を覆っていた闇が、剥がれ落ちるように消えていく。
「シエルちゃん、足止め!」
「はいはーい――土鎖!」
「次、ルインちゃ――」
「――聖雷」
僕の横から数本の光る槍が飛び出す。足を縛られて動けなくなった老人は、その槍を全身に受けて絶命……いや。
槍を受けた瞬間に老人の体が破裂した。その細かな欠片が、黒い靄となってこちらに高速で移動してくる。
狙いは、僕だ。
「まーくん、危ない! ――風衝!」
「っ!」
横からの衝撃で身体が宙に浮く。大丈夫、あの靄に何かされるのに比べれば100倍マシだ。
「絶対に許さない……! 聖なる光よ、此より広がり魔を祓え――大聖浄!」
エリッツさんを中心に、巨大な光の爆発が起こった。眩い輝きが、辺り一面に広がっていく。流石は元聖騎士、光属性の魔術のレベルが高すぎる。
少し経って光も落ち着くと、老人の姿はなかった。多分魔界の存在とかだったんだろうけど、エリッツさんがいなかったら危なかったと思う。
……ああ、エリッツさんといえば。
「まーくん大丈夫!? 怪我してない? 痛いとこあったらお姉さんに見せて?」
「いや、大丈夫ですよ――大丈夫ですって。勇者はあのくらいで怪我しませんよ」
「でも、咄嗟のことで加減できなかったから……本当に大丈夫? 痛かったら無理しないで言ってね?」
城を出てからずっとこんな感じだ。本人曰く''弟ができたみたい''だそうだけど、普通はこんなに甘やかさないと思う。
っていうか、僕はこれでも一応勇者だ。エリッツさんはどうも僕を非力な村人Aとでも思ってるような節がある。いや、非力なのは実際そうなんだけど。
「やれやれ、また勇者でもない者に護られたのか」
ルインは、僕がエリッツさんに助けられる度にこうして嫌味を言ってくる。僕は戦闘系の職じゃないから仕方ないといっても聞く耳を持たない。
気にしなければいいんだろうけど、妙に納得してる自分もいる。勇者っていうのは護られる存在じゃない。本当は逆で、仲間を、皆を護るべき存在のはずだ。
「りょーくん、ナイスアシスト! お姉さん助かっちゃった!」
「いやいや、姉さんのタイミングが完璧すぎただけだって。俺結構魔力ぐらついてたし」
目指すのは、あの場所だ。今龍牙が立っている、エリッツさんの隣。
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