転生ニートは迷宮王

三黒

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第3章

77 vsゴブリン

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 「圧空フルシア――おっ? まさかクリアか?」
 
 3階はモンスターハウスもかくや、ってレベルのゴーストラッシュだった。が、どうやらそもそも部屋自体が一つしかなさそうだ。
 本来なら――というかここがルセペ城なら、奥の部屋が玉座の間だったはず。迷宮にするにあたって少し変えたってとこか。
 
「っつーか……」
 
 次の階に続く階段がない。隠し階段とかになってんのか? あの明らかに怪しい玉座に座ってみるか。
 
「よっこら……うぉっ!?」
 
 案の定、玉座に何か仕掛けがあったみたいだ。青い光が見えた次の瞬間、俺は薄暗い洞窟の中にいた。
 遠くの音が反響して聞こえてくるような気がするが、人の気配はない。
 
「戻るのは……無理か」
 
 一応確認したが、玉座の仕掛けは一方通行だったらしい。多分、一回入ったらキリいいとこまで行かないと出られないタイプの迷宮だな。
 見た感じは向こうの俺の迷宮に似てるし、戻れないからってビビる必要はなさそうだ。俺勇者だし。なんか死なないらしいし。
 
「ん?」
 
 角を曲がった先に気配を感じた。俺に気付いていることはなさそうだが、念のため注意して曲がるとしよう。
 
「こいつは…………スライム、か?」
 
 どこかで見たような水色でゼリー状のアレ。大きさは大体俺の股下くらいか。前どっかで見た巨大プリンの企画を思い出すな。ゼリーだけど。
 それはさておき先手必勝、後ろからズバッといかせてもらうぜ。多分めちゃくちゃ切れるであろうこの剣で。参る。
 
「ぜええええええい!」
 
 軽くジャンプしながら全体重を乗せて叩き切る。これは会心の一撃。勇者アヤトはスライムを倒した。某国民的RPGなら、雀の涙経験値と薬草の四分の一くらいの金額がドロップしてるとこだ。
 っと、あそこに見えるのはゴブリンってやつか。まさに醜悪な顔の小鬼。くすんだ緑色の肌に不衛生そうな皮の腰巻、黒曜石みたいなのを巻き付けた木の棒――槍、か? まぁ刺されたら結構痛そうだな。
 あんな大声出したのに気付かれてなさそうなのはラッキー。こいつはわざわざ切らなくても圧空フルシアで良さそうだ。
 
「――圧空フルシア
「――! ゲッ、ゲッ、ゲッ!」
 
 ! マズい外した。肩から下の右半身だけが潰れて、グロさがちょっとえげつないことになってる。
 どうせすぐ死ぬだろうが、早めにトドメを刺してあげよう。苦しんで叫びまくってるし。
 
フル――」
「ゲッグァッグァッ!」
 
 新たな鳴き声が聞こえた瞬間、矢が頬を掠める。間一髪。危ね。毒は塗られて……ないか。こんな上層だし。
 いや塗られててもまだわからんが。まあ異常耐性スキルがなんとかしてくれるだろ。それより弓兵はどこにいるんだ。
 時遡ヒールはあるが、眼球とか貫かれたら流石に即死する。勇者と言えども人は人。早めに見つけないと面倒なことに――
 
「グァーッグァッ! ゲッゲッ!」
「ゲッグァッ!」 
「くそっ……」
  
 ゴブリンC、Dが現れた!
 この新たに出てきた剣ゴブ二体がやたら距離を詰めてくるせいで、弓ゴブを探す暇がない。俺も剣に関しては素人も素人、二体同時に相手するのもちょっとキツい。
 そして、こいつら地味に力が強い。力の入れ方とかもあるにしろ、勇者の俺でも鍔迫つばぜり合いしたら負けかねない。
 んで矢は毎秒のように俺の顔あたりを狙って飛んでくる。それもかなり正確に。エイム力半端ねえ、本当にゴブリンか? もしやこの世界のゴブリン強い?
 
「ゲェギャッ! グェーグァッ!」 
  
 遅延ディロウのために手のひらを向ける、その一瞬の隙すら作れない。魔術の発動準備に入った瞬間狂ったように斬りかかってくる。
 いや、仮に隙を作れたとして遅延ディロウを使うのが正しいかは微妙なところだ。この二体を遅延ディロウで遅くしたところで、弓ゴブがすぐ見つからなければ状況は悪化するだけだ。状態異常なんて慣れが発生するのが基本だしな。
 かくなる上は新魔術。置換レプリアス、恐らく場所を交換するタイプの魔術だとは思うが、どういう感じで発動するのかがわからない。
 が、これを上手く使えば一気に状況を打開できる可能性もある。なんとなく空間を繋いで交換する気がするし、ここは俺の勘を信じよう。
 まずは隙だ。相手が飛びかかってくるタイミング、そこを突く。
 挑発のためにわざと左手のひらを相手に向けて――
 
「ぅおらぁ!」
「グァッギャッ!?」
「ゲェグァー!?」 
 
 成功! 剣同士がぶつかり合った衝撃は思った以上に重かったが、隙は作れた。
 痺れた右腕はひとまず放置、吹っ飛んだ剣ゴブ共に向かって――
 
「――置換レプリアス!」
 
 ゴブリン二体の身体は、開いた空間に吸い込まれるようにして消えた。壁の中に繋ぐようにイメージはしたが……
 
「ゲッゲッギャーグァッ!」
「グァッグェッ!」
 
 二体とも見事なまでに壁にハマっていた。大成功。早速圧空フルシアでトドメを刺そうと思ったがそれは後だ。
 
「っと!」
 
 矢は相変わらず嫌になるほどの正確さで俺を狙う。どこだ? 一体どこにいる? ここからは暗くてよく見えない。少し先に広がる天井付近の足場から撃ってるのは確かだろうが、圧空フルシアじゃあの岩は壊せない気がする。
 ――いや、いいことを思いついた。反応が一瞬遅れれば恐ろしい痛みが待ってるだろうが、今の俺には時遡ヒールがある。傷を塞ぐのは簡単だろう。ちょっと過激な刹那の見〇りみたいなもんだ。
 
「よし」 
 
 覚悟を決めて深呼吸。まずは手のひらを大体さっき矢が飛んできた方向に向ける。そしてひたすらに矢が飛んでくるのを待つ。向こうも俺を警戒して撃ってこなくなったが待つ。待つ――見えた!
 
「――置換レプリアス!」
 
 空間に吸い込まれた矢は、そのままの速度で今飛んできたルートを逆戻りしていく。直後、遠くに断末魔の叫び。勝った。見たかゴブリン、これが勇者だ。
 
 放置してあった壁ゴブリンにトドメを刺し、順調に階を進めていく。途中で色が緑のスライムやら、やたらしぶといゴブリンやらと当たったが特にこれといって大変な場面はなかった。
 ああ、罠は最悪だ。確実に神は性格が悪い。死んでも生き返るからって落とし穴の底に色々仕掛けとくのはNG。
 何回か引っかかったが、一番マシで毒沼ってどいうことだよ。槍が生えてたときには死を覚悟したぞ。てか俺じゃなきゃ死んでた。置換レプリアスで回避したから良かったものの、一般人なら串刺しだ。串刺しの冒険者見てニヤニヤしてんのか? 毒で苦しむ姿とか見て酒でも飲んでるのか? 気持ち悪いやつだ。
 ま、それはさておきこの階段を降りれば地下9階。区切りの10階まではもうすぐだな。まぁ10階ごときで帰る気もさらさらないが、多分ボスっぽいの出るだろうしワクワクしてる。
 
「   !」
「うえっ!?」 
 
 あの黒板を爪で引っ掻くような……いやちょっと違う、歯医者で歯を削るときの音……それも違うな、とにかく嫌な超高音が辺りに響き渡った。
 咄嗟に閉じていた目を開けると、そこには紫色のスライム。こいつか? あのはた迷惑な音を出しやがったのは。
 
「「「「「   !」」」」」
 
 紫スライムB、C、D、Eが現れた! 勇者アヤトは囲まれてしまった! オーケーわかった、だがどんなに集まろうとスライムはスライム。神より賜りし我が最強の†聖剣†であの世に送ってやるぜ。
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