転生ニートは迷宮王

三黒

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第1章

2 いざ、異世界へ

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***後半三人称視点です。*** 


 俺の部屋からより遠のいた気がする。神殿然とした場所から急に玉座のある部屋に飛ばされました。ここどこ。おうちにかえりたい。

「いや、帰るって君、どうやって帰ろうっての?」
「気合」
「気合で解決、体育会系か! 嫌いじゃないよ!」
「嫌いじゃないだろ? また遊びに来てやるから取り敢えず帰して」

 おっさんは苦笑する。
 
「いやぁ、君はさっきドアを開けたときに寿命で死んだよ。お疲れさまでした」

 こいつ頭おかしいのか。冗談に付き合ってる場合じゃないんだよ。

「こんなピンピンしてるのに死んでるっておっさん頭大丈夫?」

 半ばキレ気味に返すと、その瞬間おっさんの横に控えていた少女が掴みかかってくる。

「先程から貴様、神に向かってなんたる口の利きよう……!!」

 あらあら血気盛んな女の子ですこと。常識がなっておりませんわね。
 ま、初対面だったし俺も悪いのか? いや勝手に連れてきたあいつらが悪い。多分。

「まぁまぁハノル、落ち着いて。このニーt――この御方は仮にも勇者となる存在だからね」

 おい神のおっさん、俺の事ニートって言いかけたろ。あんたも大概じゃねーか。

「そ、そんなことないさハハハ……。それより彩人君、本題だ。急に言われても困るかもしれないが、君には異世界に行ってそこを救ってきてほしい」

 テ ン プ レ キ タ ー !!

 いや、待て。ステイ、ステイだ俺。美味い話にゃ裏がある。その異世界ってのは、モヒカンヤンキーの闊歩する世紀末的な世界かもしれない。二つ返事でOKするのは危険だな。

「安心してくれ。君の認識と大差ない、剣と魔術の異世界さ」

 おっと心でも読んだか?

「……なんで俺なんだ?」
「君を選んだ理由は、魂の転生先の世界への適性が高かったからだよ。正確には用意する器、だけど……ま、原理はそれなりに難しいし今はやめておこう。勉強は嫌いだろう?」

 嫌いです。よく知ってんな。宝くじ当たって大学行くのもやめちゃいました。
 でもなんか妙に胡散臭いな。前世も割と楽でいい人生だったのにその上異世界転生だ? 怪しさマックスじゃねーか。

「嫌だと言ったら?」
「残念ながら拒否権はない。君の身体と魂はこの通り既に離れているし、第一、君を一刻も早く楽に殺すために生命エネルギーを運として使ったのは他でもない僕……って痛い!」

 気が付くと神の頬を反射的に殴っていた。そんな乱暴な子に育った覚えはないわよ!
 いやしかし、こいつ今俺のこと殺しましたって自白したよな。殴るくらい許せ。

「許せん、この世界から出て行って貰おう」

 先程一度キレた少女が今度は何やら呟き始める。
 なんだなんだ、掌になんか集まってません? 赤く光ってません? このいかにも魔法撃っちゃいますよーみたいな雰囲気――

「愚かな勇者よ、無様に燃え尽き塵と化せ! ――炎弾ファルダ!」

 キタコレ魔法だ、とワクワクしてたのも一瞬の事、それがこっちに飛んでくるとなると話は別だ。

「逃げるんだよォォォーーーーーッ」
「逃がすか」

 なんとこのメラ〇ーマ、俺の事を追尾しやがった。何が悲しくって1メートル以上ある火球に焼き尽くされねばならんのだ。
 ヤバい冗談言ってる場合じゃないこれ。走馬灯も何もない。死ぬ、死んだのにもう一回死ぬ……もう一回遊べるドン? 宝くじ当たるルートで遊べないんだったらまっぴらごめんだぞ。
 
客人に攻撃魔術を放つのですか?」

 声がしたと思うと、俺から数メートルという距離まで迫っていた火球はじゅわぁっ! という派手な音と共に消滅した。
 どうやらこの透明な青い壁のお陰で助かったらしい。

「頭を冷やしたらいかがでしょう」
「神を侮辱した者に勇者も鼠も変わりはない。消し炭になりたくなければそこを退け、レルア――」
「いやぁ、ナイスな動きだ流石勇者! 普通あんな火の玉見たらちびってるよ」

 お、神が湧いた。確かにトイレ行きたい。ちびんなかったの奇跡。あとこの状況何とかしてください。

「おお、すまない。簡易的ではあるが、君が用を足したというように過去を書き換えておいた」

 いやすげぇな!? 驚きの連続過ぎてキャパ超えそう。てか確かに尿意消えたけど、そんなんだったらその世界も救ったことにしちまえばいいんじゃね?

「いや、天界は僕の世界だからね。この領域とそこに足を踏み入れたモノに対しては色々と自由なんだよ。本来全ての世界は創造神たる僕の思いのままなんだけれど、それではつまらないと思ってね……ま、細かいことを話すと長くなるからやめよう。それよりも――」

 なるほど、そう簡単にいくもんでもないのか。

「ハノル、この方は客人、それも勇者だ。僕を思う気持ちは嬉しいが、よく考えて行動してくれ。……あ、そうそう。痛いとか言った割には全然痛くなかったから彩人君も安心してね?」

 天を衝かんばかりの怒気と殺気が一気に収まる。今思うとヤバすぎるだろこの子。ぱっと見若いけど確実に人殺ってんな。世も末。
 あと、あんな本気で殴ったのに全く変化のない頬を見るあたりやっぱりこのおっさん神なのか。これでも週三ジム通いの健康ニートなのに。なんか悔しい。

「話を戻すけど、君は魂の異世界への適性が最も高かったから選ばれたんだよ。つまりこれはお願いというより命令に近いのかな? 命令は好きじゃないけど、君の代わりは居ないんだ」
「他の二人が居るじゃない! もうあの二人だけでいいんじゃないの!?」

 急に誰かと思えば俺を強引に連れてきた子か。あの二人ってナンデスカ?

「いや、二人だけだと色々と上手くいかない。――というかあっちの世界の伝承的に二人だと色々と問題がね。力的には二人でも十分なんだ……まぁ世界を創った僕の責任なんだけど。あぁ、あの二人っていうのは彩人君以外の勇者の事だよ」

 いやお前の責任なのかよ。
 まぁなんだ、合計三人の勇者がいるってことか。でもただのニートに過ぎない俺に勇者なんか務まらんだろ……。
 異世界に行きたいと思ったことはあるけど、そんな民の期待を背負って責任に殺されるような人生は歩みたくない。出来れば迷宮とか造って楽しく暮らしたいです。

「心配しなくても大丈夫。一般人よりも高いステータスと望んだ職業をプレゼントするし、何より私の部下の天使たちを一人付けるよ。天使は本気になれば世界の理を捻じ曲げるほどの力を持っているから、相手が魔王でもない限りなんとかなるさ」

 おお、強そう。天使って言ったらこの子たちだろうけどそんな強いのかね? さっきのメラ〇ーマ食らったりなんかしたら文字通り消し炭になってたかもしれん。背筋が寒い。
 
「目的は魔王討伐、この形なら君もよく知っているだろう? 君の世界の文化も参考にして創ったからね。だけどこの魔王は勇者の存在無しでは絶対に倒せない事になっちゃってるんだ」
「一つ質問。なんで勇者なしじゃ無理なんだ?」

 神は口ごもる。

「んー、それがその、なんというか、僕は君の世界のRPGが好きでね……」

 これもお前が設定したんかい。このやろう。

「ま、そういうことだ。ささ、時間も無いことだし職業と連れていく天使を選んでくれ」

 あ、もう行くの決定なのね。今更駄々こねても仕方ないんだろうけど。
 というかそんな事しようが、眠らされて異世界に投げ込まれるとかありそうだし。

「じゃあ、まず天使はさっき助けてくれた白っぽい金髪の子で……」
「うん、レルアだね? 丁度良かった。勇者の中では君が一番頼りないけど、レルアは天使たちの中で一番強い。しかも真面目だから安心だね」

 ナチュラルに煽ってくるなこいつ。
 気を取り直して、職業はどうするか。出来れば引きこもってダンジョンツクールやるような職業がいいな。

「この端末に入ってる職業から選んでくれ。単語で検索もできるからそこから探しても良い」

 神から渡されたのは俺が使ってたスマホにそっくりな何か……って角にこの傷。絶対俺のじゃん。

「これ俺のスマホじゃない?」
「はは、僕たちが普段情報を扱うやり方じゃ慣れないと思ったからね。君の記憶から一番合いそうなものを選んだのさ」

 なんでもありだなこの神。
 引きニート、っと。ヒット件数ゼロ。そりゃそうか。
 ダンジョン。お、そこそこ出てきた。

「迷宮攻略者、採掘者……違うな」

 ダンジョンツクール、勿論ヒット件数ゼロだ。
 ならば、迷宮王――ヒット件数、1。

 よっしゃ。迷わず選択。

「決まったんだけどタップで決定?」
「そうだよ。君が決定ボタンを押した瞬間にあちらへの移動が始まるからね」

 即タップ。こんなに楽しそうな職業が勇者の職業なんだろうか。
 なんにせよ異世界に希望が見えてきたぞ?

「じゃ、行ってらっしゃい。お気をつけて」
「楽しんでくる」

 足元に広がる魔法陣が一段と輝きを強め、俺は青い光に飲み込まれた。


***


「あ、職業の制限掛けるの忘れてた」

 神は端末を眺めて呟く。

「大丈夫ですか?」
「そういえば職業の確認もしなかったけど……きっと大丈夫だろう。みんな一般職業みたいな弱そうなのを選びそうには見えない。仮に選んだとして他の勇者の障害にならなければ構わないし。王道な魔法剣士とか選んだんじゃないかな」
「そうですね。現代の若者ならそういう目立つことをしたいと考えるのが自然でしょう。では、私達はこれで」
「うん、ご苦労様」

 天使が続々と持ち場へ戻る中、神は一抹の不安を感じていた。
 だが、そんな事が起こる筈がないと、すぐに頭を振ってその考えを打ち消す。
 今しがた勇者が居たことなど信じられないという風に、そこには普段と何も変わらない天界が広がっていた。
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