東京妖刀奇剣伝

どるき

文字の大きさ
上 下
31 / 40
感想戦

ハプニング

しおりを挟む
 喫茶店で気を失った甫はそのまましばらく目を覚ますことなく、半端に帰宅させるのは危険という判断からそのまま寝室に運ばれていた。

「初めての大仕事で余程疲れたのね」

 そう律子が心配するのも無理はない。
 今回、兎小屋の浪人と戦った剣士たちの中には負傷者も散見している。
 外傷のない甫は他者からすれば元気が有り余っていると言われかねない。
 そうは言っても甫はまだ15歳。
 戦いによる肉体的疲労よりも事後作業による精神的疲労がキツいお年頃である。

「もうこんな時間だし先にお風呂に入っちゃおうかな」

 抱き抱えられての移動中にも起きない少年を寝かせたまま先に就寝準備を始める律子。
 鼻歌交じりで衣服を脱いでいる頃、少年は残り香に誘われていた。

「──律子さん──」

 本人的には嬉し恥ずかしいスキンシップな訳だが全て夢。
 キスは当然として思春期の男子が夢見るアレコレに寝ながらにして腰を抜かしてしまうほどだった。
 しばらくして夢から目覚めた甫は状況に困惑するも寝ぼけた頭で風呂場に向かう。
 早く身体を綺麗にしなければと感じる要因が彼にはあったのだが彼は知らない。
 風呂場には律子が居ることを。

「ひーと♪のー♪♪♪」

 律子は泡立てたボディソープを纏わせて鼻歌交じりで身体を洗っている。
 中の電気も点いていたし歌声も漏れていたのだから気づかないほうが不注意極まりない。
 だが脱衣所で衣服を脱いだ甫は下着の処理をしてから風呂場の戸を開けてしまう。
 そして湯気と泡で朧げなうえ背中だけだが律子の裸を覗いてしまった。
 物理的にはモヤがかかっているハズなのに夢よりも鮮明な姿。
 その刺激に目が冷めた甫は慌てて戸を閉じた。

「ご、ごめんなさい」

 一方の律子は戸を開けられた時点で背後に誰かが居ることに気付き、更にこの家にいるのは自分と甫だけという理由から、今のは寝起きの甫がうっかり戸を開けたのだと察していた。
 流石に中に入られたのなら別だが、すぐに出ていくのは悪気のない証拠。
 そのため叱る気もなし。

「別に良いわよ、今日はお疲れのようだし。だけどしばらく居間で待っていてね。なるべく早く出るから」
「僕のことは気にせず、ゆっくり入ってください。律子さんだってお疲れでしょうし」

 律子は既に洗髪は済ませてあり、あとは泡を流せば洗い終わる段階。
 湯船に浸かるのは後回しにして二度風呂でも構わないため「早く出る」と答えた。
 それに対して目が覚めるような刺激に悶々とした甫としては少し一人の時間が欲しい。
 そこでゆっくりしていてくれと押し切って、そのまま脱衣所を後にした。
 元より汚れを落とせればよかったので風呂である必要性はなし。
 台所の水場でもやりようがあるし、なにより気持ちを落ち着かせることが甫の新しい優先事項となっていた。

「遠慮しなくてもいいのに」

 泡を流した律子はお言葉に甘えて湯船に浸かる。
 一方で甫は一心地をつけてようやくもう夜遅いことに気がづいた。
 端末を確認すると既に根回し済ということだろう。
 明日の朝に駅まで迎えに行くと母からのメッセージが入っていた。
 思いがけずに追加されたもう一泊とハプニング。
 あの光景を甫が忘れる日が来るのは、だいぶ先の話になるだろう。
 しばらくは忘れる暇もないほどに脳内再生するであろうから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

幽子さんの謎解きレポート~しんいち君と霊感少女幽子さんの実話を元にした本格心霊ミステリー~

しんいち
キャラ文芸
オカルト好きの少年、「しんいち」は、小学生の時、彼が通う合気道の道場でお婆さんにつれられてきた不思議な少女と出会う。 のちに「幽子」と呼ばれる事になる少女との始めての出会いだった。 彼女には「霊感」と言われる、人の目には見えない物を感じ取る能力を秘めていた。しんいちはそんな彼女と友達になることを決意する。 そして高校生になった二人は、様々な怪奇でミステリアスな事件に関わっていくことになる。 事件を通じて出会う人々や経験は、彼らの成長を促し、友情を深めていく。 しかし、幽子にはしんいちにも秘密にしている一つの「想い」があった。 その想いとは一体何なのか?物語が進むにつれて、彼女の心の奥に秘められた真実が明らかになっていく。 友情と成長、そして幽子の隠された想いが交錯するミステリアスな物語。あなたも、しんいちと幽子の冒険に心を躍らせてみませんか?

CODE:HEXA

青出 風太
キャラ文芸
舞台は近未来の日本。 AI技術の発展によってAIを搭載したロボットの社会進出が進む中、発展の陰に隠された事故は多くの孤児を生んでいた。 孤児である主人公の吹雪六花はAIの暴走を阻止する組織の一員として暗躍する。 ※「小説家になろう」「カクヨム」の方にも投稿しています。 ※毎週金曜日の投稿を予定しています。変更の可能性があります。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

その男、凶暴により

キャラ文芸
映像化100%不可能。 『龍』と呼ばれる男が巻き起こすバイオレンスアクション

処理中です...