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感想戦
恋路
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お風呂の中に疲労を溶かして、意識が混濁する楓華が振り返った昼間の立ち会い。
一連のテロを起こした浪人の郎党を退けて被害をゼロに抑えたのだから結果で言えば彼女の勝利である。
だが覆面を切り裂いたことで浪人が逃げたのは全てが偶然。
たまたま顔に刃を当てることが出来ただけで、必然なのは顔を見られたくなかったという相手の都合のみ。
運の実力とは言うものの運以外では劣っていたという強い敗北感が楓華の心に残っていた。
わがままな話であるが彼女が銀時や兄への甘えを求めていたのはこの気持ちを慰めるため。
一種の防衛反応に近いモノだった。
そんな彼女が入浴してしばらく。
リビングで寛いでいた斬九郎に電話が入った。
電話の相手は銀時。
昼間の戦闘で魔裂を使用したことによる身体のダメージを案じての連絡である。
「──元気そうで何よりだよ。アレの乱発で身体を壊したら元も子もないからな」
「心配しすぎだよ。オレのことを心配するくらいならウチのお姫様のことを気にかけてやれって。慰めて欲しそうにしているぜ」
「楓華が?」
楓華の話に意外そうな声を出す銀時に斬九郎は呆れ顔である。
これだけあからさまに慕う妹の態度から恋愛感情を感じ取れない親友にヤキモキしてしまっていた。
「確かに今回は楓華にも負担を強いてしまったからなあ。時間が取れたらケーキの差し入れでも──」
「そういうんじゃなくてだな。一緒に寝てやるとか……そういう形で慰めろって事だ。お互いにもう大人なんだぜ」
「つまり合宿とかか? 今日は楓華も危なかったそうだし、今後を考えればアリだな」
「大人の男女が一緒に寝ると言ったらそういう事じゃねえだろ。今から来れるんならアイツもここに居るし、オレは席を外すから好きなだけ──」
「オイオイオイ。楓華がそんなふしだらなお願いをするものか。やっぱお前、疲れていないか? 楓華も一緒に居るというのなら、気が狂って襲うんじゃないぞ」
「バカな冗談を言うなよ。疲れているのはお前の方だ」
銀時の返しに斬九郎は大きなため息をついていた。
そろそろ年頃を考えて妹と男女の一線を超えてしまえと諭す斬九郎だったが「疲れて助平なことばかり考えている」とでも言いたげな銀時に呆れても仕方がない。
「それでよく楓華に気があるだなんて言えるな。今の流れは例えオレの話が嘘だとしても夜這いにくる所だぞ」
「夜這いなんてしたら楓華が嫌がるに決まっている。あの子はお前と違って真面目で清楚なんだぞ斬九郎」
「そりゃあ、お前の前では恥ずかしがって猫かぶっているだけだって。それに夜這いは脇に退けても大きなヤマを片付けた直後なんだ。関係を進める上では丁度いい機会だぜ」
「それは一理あるな」
「わかったら仕事を片付けて今からウチに来い。楓華も待っているから」
この銀時も剣士としては隙がないのだが男性としては標準的なや奥手な男性である。
楓華に対してはそれなりに好意を持っているし、なにより楓華以上に異性としての魅力を感じている相手もいないのだから、斬九郎が思う通りに「早くくっついてしまえ」としか言えない関係。
そんな彼も二人の焦れた関係に気をもんでいる兄から背中を押されれば少しだけ仕事を忘れたくはなる。
だが彼が職場を抜けられそうなのは明日の朝。
いかに明日の昼間は楓華のほうが事後処理に駆り出されるので休みが噛み合わない。
「──すまん。今夜はどうしても抜け出せない」
「だったらせめてアイツにも電話をしてやれ。風呂から出たら教えてやるから」
「ああ」
仕事の連絡から脱線した電話を終えて二人の男は改めて気を揉む。
お互いにその内訳は異なっているのだが楓華が原因なのは変わらない。
愛されたいと願う乙女は本人が思うよりも愛されていたようだ。
一連のテロを起こした浪人の郎党を退けて被害をゼロに抑えたのだから結果で言えば彼女の勝利である。
だが覆面を切り裂いたことで浪人が逃げたのは全てが偶然。
たまたま顔に刃を当てることが出来ただけで、必然なのは顔を見られたくなかったという相手の都合のみ。
運の実力とは言うものの運以外では劣っていたという強い敗北感が楓華の心に残っていた。
わがままな話であるが彼女が銀時や兄への甘えを求めていたのはこの気持ちを慰めるため。
一種の防衛反応に近いモノだった。
そんな彼女が入浴してしばらく。
リビングで寛いでいた斬九郎に電話が入った。
電話の相手は銀時。
昼間の戦闘で魔裂を使用したことによる身体のダメージを案じての連絡である。
「──元気そうで何よりだよ。アレの乱発で身体を壊したら元も子もないからな」
「心配しすぎだよ。オレのことを心配するくらいならウチのお姫様のことを気にかけてやれって。慰めて欲しそうにしているぜ」
「楓華が?」
楓華の話に意外そうな声を出す銀時に斬九郎は呆れ顔である。
これだけあからさまに慕う妹の態度から恋愛感情を感じ取れない親友にヤキモキしてしまっていた。
「確かに今回は楓華にも負担を強いてしまったからなあ。時間が取れたらケーキの差し入れでも──」
「そういうんじゃなくてだな。一緒に寝てやるとか……そういう形で慰めろって事だ。お互いにもう大人なんだぜ」
「つまり合宿とかか? 今日は楓華も危なかったそうだし、今後を考えればアリだな」
「大人の男女が一緒に寝ると言ったらそういう事じゃねえだろ。今から来れるんならアイツもここに居るし、オレは席を外すから好きなだけ──」
「オイオイオイ。楓華がそんなふしだらなお願いをするものか。やっぱお前、疲れていないか? 楓華も一緒に居るというのなら、気が狂って襲うんじゃないぞ」
「バカな冗談を言うなよ。疲れているのはお前の方だ」
銀時の返しに斬九郎は大きなため息をついていた。
そろそろ年頃を考えて妹と男女の一線を超えてしまえと諭す斬九郎だったが「疲れて助平なことばかり考えている」とでも言いたげな銀時に呆れても仕方がない。
「それでよく楓華に気があるだなんて言えるな。今の流れは例えオレの話が嘘だとしても夜這いにくる所だぞ」
「夜這いなんてしたら楓華が嫌がるに決まっている。あの子はお前と違って真面目で清楚なんだぞ斬九郎」
「そりゃあ、お前の前では恥ずかしがって猫かぶっているだけだって。それに夜這いは脇に退けても大きなヤマを片付けた直後なんだ。関係を進める上では丁度いい機会だぜ」
「それは一理あるな」
「わかったら仕事を片付けて今からウチに来い。楓華も待っているから」
この銀時も剣士としては隙がないのだが男性としては標準的なや奥手な男性である。
楓華に対してはそれなりに好意を持っているし、なにより楓華以上に異性としての魅力を感じている相手もいないのだから、斬九郎が思う通りに「早くくっついてしまえ」としか言えない関係。
そんな彼も二人の焦れた関係に気をもんでいる兄から背中を押されれば少しだけ仕事を忘れたくはなる。
だが彼が職場を抜けられそうなのは明日の朝。
いかに明日の昼間は楓華のほうが事後処理に駆り出されるので休みが噛み合わない。
「──すまん。今夜はどうしても抜け出せない」
「だったらせめてアイツにも電話をしてやれ。風呂から出たら教えてやるから」
「ああ」
仕事の連絡から脱線した電話を終えて二人の男は改めて気を揉む。
お互いにその内訳は異なっているのだが楓華が原因なのは変わらない。
愛されたいと願う乙女は本人が思うよりも愛されていたようだ。
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